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11年越しの告白

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でも、ものの数秒でタカシお兄ちゃんはパッと表向きの顔になったのが遠目でも分かった。

「ああ、申し遅れました。
僕が東十条崇です。お忙しい中、ここまでお迎えありがとうございます。
そしてこんな格好での挨拶になってしまって、申し訳ないです」

あれ?
タカシお兄ちゃん、電話なんかしてたかな。

スッキリしない疑問を浮かべている間に、お母さんの頬は染まっていた。

「いえいえ。こちらこそ、娘がご迷惑をお掛けしました」


「それにしても早かったですね」
「やだわ、お電話でお伝えしたじゃありませんか。ちょうど銀座にいたのですぐでしたよ」

「あぁ、そうでしたね。とりあえずもう遅い時間なのですぐ車を出させて頂きますね」

そう言ってサッと着替えて来たタカシお兄ちゃんは、私にホテルのガウンの上から男物の黒いコートをかけてきた。

「ガウン返さないと」
「いいよ。ここの経営はうちがやってる所だから。また返しとくよ」
「え?」
東十条家って、どんだけ大きいの!?

立ってみると足首が隠れるくらいの長いもので、タカシお兄ちゃんの匂いがした。

「それよりコート重くない?」
「大丈夫です」
「そう。歩けそう?」
「は……」
はい、と言おうとした時、耳元で「それとも抱っこしてあげようか?」と囁かれて振り返るとニコッとした王子様フェイスが映る。

自分の事が分からなくなりそうで、思いっきり首を振って言った。
「歩けます!」

の様子を見ていたお母さんは口角を横に引くような感じで口だけ笑っていた。


…………

……


「看病から送迎まで、何から何まで……本当にありがとうございました」
車から降りた後にそう言うと、開いている窓から腕を掴まれた。


その状況には、小さな既視感きしかんを感じた。

掴まれた手を辿ってタカシお兄ちゃんを見ると、上目遣いが覗く。
「ちょっと耳貸して」
小声で言われて、お母さんに聞こえたら駄目な話かと思い、少しかがむ。

「なんですか?」
「今日言った事、ちゃんと考えといてね。体調が落ち着いてからでもいいから」
と運転手さんに挨拶をしているお母さんには聞こえない位の声でささやかれ、ドキッとしてしまう。

なんとなく囁かれた方の耳を押さえて、返事に困ってると
「俺、本気だから」と、真剣な眼差しで追い打ちをかけられ断れない予感を感じる。


「…………はい」
私はつい、そう返事してしまった。

するとタカシお兄ちゃんは王子様のような顔でニッコリと微笑んだ。
その顔を見て、すごく複雑な気持ちになったけど、どう複雑なのかは自分でも分からない。
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