上 下
92 / 337
分からない気持ち

18

しおりを挟む
物心つく頃から、アキラが私をいじめて来ていたせいで、いつの間にか『男の子は怖い』という概念が植え付けられていた。

正確にはアキラだけじゃない。
けど、アキラがいなかったら多分ここまで酷くはなっていないと思う。

なのに、そんな私の人生を台無しにした張本人を好きになってしまったかもしれないなんて……


どうせ好きになるなら、自分勝手ですぐに機嫌が悪くなって酷いことばかりしてくるアキラじゃなく、タカシお兄ちゃんみたいな優しくて大人な人が良かった。


いやいや!でもまだ確定するのは早い!

好きだと決まった訳じゃないんだし。
まだまだ気のせいだったって事はありえるはず!


「おはよ」
胸元にうずくまっていた私は、その声に驚いて少し目線を上げると、目覚めたばかりのアキラと至近距離でバッチリと目が合った。




もっとアキラの腕枕時間を噛み締めたかったのに。
そんな残念な気持ちが、自分の胸の中をどんよりと曇らせた。

「お、はよ……」
「……どうだ?体は」
「あ……体?」
その時、腕枕をしてもらっている状態と言う事が急に恥ずかしくなって慌てて起き上がる。
そして背中越しに伝える。

「もう、大丈夫。ありがとう」

アキラには感謝している。
だから本当はもっと心を込めてお礼を言いたかったのに。

恥ずかしさが、邪魔をする。


本当はもっと腕枕をされていたかった。
もっと甘えていたかった。

もっと……可愛く言いたかった。


相手は彰なのに。
もう……自分が分からない。




私に続くように起き上がったアキラは、少し伸びてあくびをした後、私の頭頂部に手を乗せて髪をクシャッとして来た。

「ほんと、手のかかる馬鹿犬」
「ちょっと、止めてよ。ボサボサになるじゃん」
嫌がる私に、寝ぼけた様子のアキラはさらにグシャグシャにして来る。

「いいじゃん、プードルみたいで可愛い」
不意打ちを食らう。

アキラがいつもの馬鹿にしたような笑みではなく、目を細めてキラキラした顔で笑うから、思わず胸あたりがキュンとしてしまった。

別に、アキラの事なんてのに。

『可愛い』なんて単語を使った後に、そんな自然体の笑顔を持ってくるなんて……ズルイ。

まあ。
『可愛い』と言う言葉は、私に対してじゃなくてプードルに対してなんだろうけど。

「その馬鹿犬っての、止めてくれない?」
全然怒ってないのに怒った風に言った台詞セリフは、まるで照れ隠しの為だけに用意された言葉みたい。




「馬鹿犬は馬鹿犬だろ?
実際、警戒心のなさで薬まで盛られたわけだし」
そう言うアキラの目は少し怒っていた。

その失態を出された私は口をつぐむしかない。
「うっ……」


反省して項垂うなだれている私の様子を見て、アキラから呆れたようなため息が降ってくる。

「次からは、チャント警戒心を持つこと!」
「うん」

何か思いついたようにポケットに手を突っ込み、スマホを一瞬確認するアキラ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

年下の彼氏には同い年の女性の方がお似合いなので、別れ話をしようと思います!

ほったげな
恋愛
私には年下の彼氏がいる。その彼氏が同い年くらいの女性と街を歩いていた。同じくらいの年の女性の方が彼には似合う。だから、私は彼に別れ話をしようと思う。

こじらせ女子の恋愛事情

あさの紅茶
恋愛
過去の恋愛の失敗を未だに引きずるこじらせアラサー女子の私、仁科真知(26) そんな私のことをずっと好きだったと言う同期の宗田優くん(26) いやいや、宗田くんには私なんかより、若くて可愛い可憐ちゃん(女子力高め)の方がお似合いだよ。 なんて自らまたこじらせる残念な私。 「俺はずっと好きだけど?」 「仁科の返事を待ってるんだよね」 宗田くんのまっすぐな瞳に耐えきれなくて逃げ出してしまった。 これ以上こじらせたくないから、神様どうか私に勇気をください。 ******************* この作品は、他のサイトにも掲載しています。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

【R18】十六歳の誕生日、許嫁のハイスペお兄さんを私から解放します。

どん丸
恋愛
菖蒲(あやめ)にはイケメンで優しくて、将来を確約されている年上のかっこいい許嫁がいる。一方菖蒲は特別なことは何もないごく普通の高校生。許嫁に恋をしてしまった菖蒲は、許嫁の為に、十六歳の誕生日に彼を自分から解放することを決める。 婚約破棄ならぬ許嫁解消。 外面爽やか内面激重お兄さんのヤンデレっぷりを知らないヒロインが地雷原の上をタップダンスする話です。 ※成人男性が未成年女性を無理矢理手込めにします。 R18はマーク付きのみ。

隣人はクールな同期でした。

氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。 30歳を前にして 未婚で恋人もいないけれど。 マンションの隣に住む同期の男と 酒を酌み交わす日々。 心許すアイツとは ”同期以上、恋人未満―――” 1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され 恋敵の幼馴染には刃を向けられる。 広報部所属 ●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳) 編集部所属 副編集長 ●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳) 本当に好きな人は…誰? 己の気持ちに向き合う最後の恋。 “ただの恋愛物語”ってだけじゃない 命と、人との 向き合うという事。 現実に、なさそうな だけどちょっとあり得るかもしれない 複雑に絡み合う人間模様を描いた 等身大のラブストーリー。

【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜

湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」 30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。 一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。 「ねぇ。酔っちゃったの……… ………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」 一夜のアバンチュールの筈だった。 運命とは時に残酷で甘い……… 羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。 覗いて行きませんか? ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ・R18の話には※をつけます。 ・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。 ・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。

私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~

景華
恋愛
顔いっぱいの眼鏡をかけ、地味で自身のない水無瀬海月(みなせみつき)は、部署内でも浮いた存在だった。 そんな中初めてできた彼氏──村上優悟(むらかみゆうご)に、海月は束の間の幸せを感じるも、それは罰ゲームで告白したという残酷なもの。 真実を知り絶望する海月を叱咤激励し支えたのは、部署の鬼主任、和泉雪兎(いずみゆきと)だった。 彼に支えられながら、海月は自分の人生を大切に、自分を変えていこうと決意する。 自己肯定感が低いけれど芯の強い海月と、わかりづらい溺愛で彼女をずっと支えてきた雪兎。 じれながらも二人の恋が動き出す──。

処理中です...