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分からない気持ち
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しおりを挟む「今日、遥ちゃんを送った事は、彰に内緒にしてくれないかな?」
そう言われて思い出した。
昔、よく言われた、あの言葉を。
『彰には内緒だからね』
「……なんで、いつもアキラには内緒なんですか?」
「ん?知りたい?」
「はい。知りたいです」
知りたいに決まっている。
時々昔の事を思い出しては、なんで内緒だったんだろうって、ずっと不思議に思っていたから。
あのファーストキス事件だって、タカシお兄ちゃんと会っているのを内緒にしていなかったら無かった事なのかも知れないし。
私の立場だと内緒にしたいのは当然だけど、なんでタカシお兄ちゃんも内緒にしたかったのか、これっぽっちも分からない。
「じゃあ今夜会ってくれない?そしたら教えるよ」
タカシお兄ちゃんから飛んでくる熱を帯びたその視線にドキリとさせられると、付け加えるように言った。
「あ、もちろん2人でね」
そう言われて瞬時に浮かんで来たのはアキラの顔と、何故か罪悪感。
大昔にアキラに言われた言いつけが、まだ身に染みているんだろうか?
そしてなんだか分からないけど、頭の中で邪魔をしてくるアキラが鬱陶しくて頭を振って落とす。
どちらにしても今日は無理。
「ごめんなさい。今日は夜からバイトが入ってるので」
「そっか、残念だな。じゃあ明日……は俺が駄目だった。
とりあえず連絡先を交換しようか。
他に行ける日が分かったら連絡してくれるかな?」
その言葉に一瞬だけ迷って返事をする。
「……はい。でも……これもアキラに内緒なんですか?」
少し上目遣いで言う私をじっと見るタカシお兄ちゃんは、困ったように零す。
「ああ、そうだね。そうしてくれると助かるよ」
どうして秘密にするの?
あと、大昔の話だけど一応私はタカシお兄ちゃんにフラれた立場なんだけど。
タカシお兄ちゃんはその辺、どう思って私に接しているんだろう。
それとも沢山の女の子に告白されていたし、私を振った事なんて覚えていないんだろうか?
こんなのが続いたら、勘違いしないように頑張ってもまた勘違いしちゃういそうだよ。
そういうしている間に着いた大学前。
お礼を言って車を降りて、大学の門をくぐると背中から視線を感じて振り返る。
すると、まだそこにはタカシお兄ちゃんがいて、振り返った私に運転席から笑顔で手を振って来た。
目立ち過ぎる車のせいで雨の中なのに人だかりが出来始めているのに。
照れたように小さく手を振り返して、つい心の声が漏れる。
「そんな所にずっといてたら、絶対アキラにバレるじゃん」
でも、なんかそんなタカシお兄ちゃんがおかしくて笑えた。
そんな私を見て、遠くなったタカシお兄ちゃんは目を細めて笑った。
完璧だと思っていたタカシお兄ちゃんの、少し人間味な部分を見た気がしたから。
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