21 / 21
第21話 対面する男たち
しおりを挟む
「むっ……お茶変えた?」
朝食のパンをサクッと食べ、一口、お茶を口に含んだ時だった。いつものお茶ではないことに気付いた。上品な香り、渋みがちょうどいい。
「わかりました?イグニスさんが生活費をポーンと出してくれたので、高級なものを買ってみました。お師匠様はお茶が好きでしょう?」
スーパー家政夫カイはどこまでも完璧ね。私の嗜好をしっかり把握している。
「あれ?そのイグニスは?今朝はみないけど……」
「畑の方で野菜の世話をしてくれてますよ」
「あのイグニスが!?そんなことするはずがないわ!嘘でしょ!?」
屋敷にいたら、使用人たちにさせていることをイグニスが!?
「草むしりを頼んだら、快く引き受けてくれました」
慌てて、飛び出して、畑へ行くと、ちまちまと背中を丸めて草むしりをしているイグニスがいた!
「ちょっ、ちょっと!!イグニス!!」
ん?と顔をあげた。その顔が幼い頃の無邪気なイグニスの顔に一瞬戻っていて、懐かしさを感じた。鼻に泥をつけている。
「なんでこんなことしてるの?」
「いや、家にぼーっとしてても退屈だろ?体力も持て余してるし、何かすることないかと思って」
「次期公爵で火の愛し子がこんなことさせてることがわかったら、私が怒られちゃうわ……鼻に泥、ついてるわよ」
私が自分の服の袖で、イグニスの鼻の泥を背伸びしてぬぐおうとしたが、届かない。少しかがんでくれて、やっと届いた。
「……アウラ、ありがとう」
パッと笑顔になるイグニス。ああ……なんて懐かしい笑顔だろう。そうだ。彼はもともと笑顔が可愛かったのだ。思い出したわ。しばらく赤い瞳にうつる自分を見る。穏やかな風がふわりと吹いた。なんて心地良い時間だろう。この瞬間がいつまでも続いてくれないかなと思った時だった。
「おーい!アウラ、甘い物ないか?」
この声は!!ナハト!?
「なんだ?この男は?」
そういえばイグニスとは初対面だったかもしれない。イグニスと会ったことがなかったはずだ。笑顔は消えて不機嫌になる。
「それはこっちのセリフ……へぇ。けっこう強い力を持つ男だな」
紫色の目が煌めく。ペロリと口の端を舐める。この魔族、イグニスが火の愛し子とは気づいていないようだった。だけど、おいしそうに見えるらしい。よだれをたらさんばかりの顔をしている。
そんなナハトに焼き尽くしてやろうか?そんな顔をするイグニス。
朝食のパンをサクッと食べ、一口、お茶を口に含んだ時だった。いつものお茶ではないことに気付いた。上品な香り、渋みがちょうどいい。
「わかりました?イグニスさんが生活費をポーンと出してくれたので、高級なものを買ってみました。お師匠様はお茶が好きでしょう?」
スーパー家政夫カイはどこまでも完璧ね。私の嗜好をしっかり把握している。
「あれ?そのイグニスは?今朝はみないけど……」
「畑の方で野菜の世話をしてくれてますよ」
「あのイグニスが!?そんなことするはずがないわ!嘘でしょ!?」
屋敷にいたら、使用人たちにさせていることをイグニスが!?
「草むしりを頼んだら、快く引き受けてくれました」
慌てて、飛び出して、畑へ行くと、ちまちまと背中を丸めて草むしりをしているイグニスがいた!
「ちょっ、ちょっと!!イグニス!!」
ん?と顔をあげた。その顔が幼い頃の無邪気なイグニスの顔に一瞬戻っていて、懐かしさを感じた。鼻に泥をつけている。
「なんでこんなことしてるの?」
「いや、家にぼーっとしてても退屈だろ?体力も持て余してるし、何かすることないかと思って」
「次期公爵で火の愛し子がこんなことさせてることがわかったら、私が怒られちゃうわ……鼻に泥、ついてるわよ」
私が自分の服の袖で、イグニスの鼻の泥を背伸びしてぬぐおうとしたが、届かない。少しかがんでくれて、やっと届いた。
「……アウラ、ありがとう」
パッと笑顔になるイグニス。ああ……なんて懐かしい笑顔だろう。そうだ。彼はもともと笑顔が可愛かったのだ。思い出したわ。しばらく赤い瞳にうつる自分を見る。穏やかな風がふわりと吹いた。なんて心地良い時間だろう。この瞬間がいつまでも続いてくれないかなと思った時だった。
「おーい!アウラ、甘い物ないか?」
この声は!!ナハト!?
「なんだ?この男は?」
そういえばイグニスとは初対面だったかもしれない。イグニスと会ったことがなかったはずだ。笑顔は消えて不機嫌になる。
「それはこっちのセリフ……へぇ。けっこう強い力を持つ男だな」
紫色の目が煌めく。ペロリと口の端を舐める。この魔族、イグニスが火の愛し子とは気づいていないようだった。だけど、おいしそうに見えるらしい。よだれをたらさんばかりの顔をしている。
そんなナハトに焼き尽くしてやろうか?そんな顔をするイグニス。
2
お気に入りに追加
18
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
【完結】やさしい嘘のその先に
鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。
妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。
※30,000字程度で完結します。
(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
---------------------
○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
---------------------
女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
夫に離縁が切り出せません
えんどう
恋愛
初めて会った時から無口で無愛想な上に、夫婦となってからもまともな会話は無く身体を重ねてもそれは変わらない。挙げ句の果てに外に女までいるらしい。
妊娠した日にお腹の子供が産まれたら離縁して好きなことをしようと思っていたのだが──。
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
甘すぎ旦那様の溺愛の理由(※ただし旦那様は、冷酷陛下です!?)
夕立悠理
恋愛
伯爵令嬢ミレシアは、恐れ多すぎる婚約に震えていた。
父が結んできた婚約の相手は、なんと冷酷と謳われている隣国の皇帝陛下だったのだ。
何かやらかして、殺されてしまう未来しか見えない……。
不安に思いながらも、隣国へ嫁ぐミレシア。
そこで待っていたのは、麗しの冷酷皇帝陛下。
ぞっとするほど美しい顔で、彼はミレシアに言った。
「あなたをずっと待っていました」
「……え?」
「だって、下僕が主を待つのは当然でしょう?」
下僕。誰が、誰の。
「過去も未来も。永久に俺の主はあなただけ」
「!?!?!?!?!?!?」
そういって、本当にミレシアの前では冷酷どころか、甘すぎるふるまいをする皇帝ルクシナード。
果たして、ルクシナードがミレシアを溺愛する理由は――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる