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試されるときのアップルパイ
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『黒い薔薇!!』
魔王様とサシャとルドルフ。3人の声が重なった。
「無意識なのかあたしの力だったのか……何が起きたかわからないの。でも人食い鬼を動けなくしちゃって……気になるから見てきたいの!」
まさかの鬼殺ししちゃったのかな?大丈夫だったかな!?と心配になる。
魔王様が呆れたように言う。
「おまえ、自分が喰われそうになったことわかってんのか!?よくもその相手の身を心配できるな!?」
「ええええ!?なんか悪い気がして……」
額に手を当てる魔王様。呆れるサシャ。ルドルフすら助け舟を出さない。
「放っておけ!それより片付けねばならない問題がある。クーザイン家は来たか?」
仕事モードになる魔王様。
サシャは待たせてありますと返事をした。
お仕事中の魔王様はとても格好いい!ビシッと言葉を発する姿とかキリッとした黒曜石の目にウットリしてしまう。
「なに、ボケーっとしてる?おまえも役目があるんたぞ?」
「へっ?あたし?」
「そうだ。今から6家門の1つクーザイン家の者達と会う。なにか茶菓子を作ってこい」
かしこまりました!とあたしは快諾したが……何にしよう?
かごにはリンゴ。品種は紅玉。作ろうと思っていたものがあったんだった。魔王様に食べてもらうためであったが、お客様と一緒に食べてもらえればいい。
リンゴとグラニュー糖を鍋に入れて甘く煮詰めていく。フワンと甘いリンゴの匂いがする。シナモンを少し効かせても美味しいかな。トロリとさせて、型にいれたパイ生地のところへ入れる。
「アミアミになるようにっと……」
冷凍パイシートは時間無いときに強い味方!手間をなにげに省いてすいません。時間があまりない。オーブンに入れて焼く。アップルパイの香りが部屋中にする。
「いい匂いだねー」
「もう一つ作るから、一緒に食べましょ。アイスクリームを添えても美味しいのよ」
「それ最高!!」
ルドルフがピョンピョン跳ねる。魔王様の使い魔と忘れるほどの可愛さ。
サシャが顔を出して持っていくかと思いきや……。
「マナが持っていってください」
そう言われて、お茶とアップルパイをワゴンで運ぶ。
偉い人なんじゃないのー!?少し緊張しながら扉をノックする。入れと魔王様の声がした。
「失礼します。お茶菓子をお持ちしました」
視線があたしに集まる。思っていたよりも人が多い!座っているのは一人だけ。立っている人の中にはアナベルもいた。
代表者っぽい座っている人物があたしを震える指でさした。
「この娘が……?」
魔王様は頬杖をついて、傲岸不遜な笑みを浮かべた。
「マナが作ったお菓子だ。お前たちは食えるか?事前にクーザイン家が来ることを話しておいた。そして作らせた」
ざわりとその場がざわめく。
何のざわめき?あたしはわけがわからないままアップルパイを切り分ける。
「えーと、何等分ですか?」
「クーザイン家の当主とアナベルの分を皿にくれ」
あたしは内心ムッとした……魔王様のために作ったものでもあるのに。しかし逆らうことはせず、かしこまりましたと切り分けていく。トロッとしたりんごが見える。
「食え」
一言だけ発する魔王様。
フォークをあたしはどうぞーと渡す。あたしの目をジッとみるお客様とアナベル。
……えーと、なんでこんな緊張感あるお茶会なのかな?
フォークと皿を持つ手が震えている。
アップルパイをそんなふうに食べる人はいないんだけど……まさか?
面白そうに魔王様は二人を眺めている。その後ろのサシャが酷薄な笑みを浮かべている。
カシャン!とテーブルに置かれるアップルパイのお皿。
「お、お許しください!!アナベル!おまえも頭を下げよ!」
「も、申し訳ございませんでした!」
土下座!?バッと二人が顔色を変えて床に這うように頭を下げた。
「許すわけがないだろう?その命を持って償え。オレに刃を向けたということだぞ」
立ち上がる魔王様。サシャが帯剣していた剣に手をかける。
きゃああああ!と悲鳴をあげる。助けてください!と叫ぶ声。その声を気分良さげに聞く魔王様。ニヤリと笑って力を伸ばした手に込める。
「ま、待って!魔王様っ!!」
ガシッと腕に飛びつく。目を見開く魔王様。
「何を……する!?」
状況が読めないが止めた!とは言えず……。
「とりあえずアップルパイ食べましょうっ!なんですか!?この雰囲気は!?」
「見たままだが?おまえを攫って森に放置した奴らに制裁を加えてやろうとしてるんだ」
いやいやいやいや……やりすぎでしょ!?今、全員葬ろうとしてたよね!?
「やめてくださいっ!」
「魔族の掟だ。逆らう者に容赦はしない!それにクーザイン家は……」
当主らしい者が頭を下げたまま震えながら言う。
「我らが行ったのは今回だけですっ!魔王様へ近づきたく、アナベルが婚約者になり、マナ様の存在が気になりしてしまったことでありますっ!誓って他になにかしたことはございませんっ!」
魔王様が冷たい目で見下ろして、当主に言う。
「そうか。偽りの言葉でなければ机の上の菓子を食ってみろ。今の言葉が嘘でなければ害はない」
「魔王様への忠誠を誓います!」
悲鳴を上げるように言葉を発し、まるで毒でも食べるかのように当主は意を決して、震えながらアップルパイを口にした。
「……ああ」
安堵の声。そりゃそうだろう。普通の冷凍パイシート使ったアップルパイです。
「大丈夫だったか……今後、オレに逆らうことがあれば容赦しない。一族が滅ぶと思え」
はいっ!!と何度もその場にいる者たちが礼をして出ていく。アナベルの顔は蒼白で抱えられるようにして出ていった。
「本当の黒幕はクーザイン家ではないか……」
魔王様が顎に手をやり、考えている。そのようですとサシャも肩をすくめた。
「あ、うまいな。これリンゴか?」
何事も無かったかのようにアップルパイを食べる魔王様。
「今のなんだったんです!?」
説明がほしい。一人だけ食べてる場合じゃない。
「マナに害を加えたことがなければ、今から食う菓子は毒にならず、あれば即死だと言っておいた」
「そ、そんなことにアップルパイを使わないでよっ!」
パクパク食べてる魔王様はおかわりと言ってもう一切れ食べている。
「それに……あたしは平気だったんだし……」
「だめだ。オレのそばに置いている者に手を出すことが軽んじられている証拠だろ。思い知らせる必要があった」
「魔王様の威厳にかかわりますから。今回はマナのおかけで当主の首が繋がってしまいましたね」
魔王様とサシャにそう言われる。
あたしには魔族の掟は厳しすぎるが、身を案じ、守ってくれてるのはわかった。
とりあえず感謝の気持ちを込めて、アップルパイにアイスクリーム添えてあげよう。
魔王様とサシャとルドルフ。3人の声が重なった。
「無意識なのかあたしの力だったのか……何が起きたかわからないの。でも人食い鬼を動けなくしちゃって……気になるから見てきたいの!」
まさかの鬼殺ししちゃったのかな?大丈夫だったかな!?と心配になる。
魔王様が呆れたように言う。
「おまえ、自分が喰われそうになったことわかってんのか!?よくもその相手の身を心配できるな!?」
「ええええ!?なんか悪い気がして……」
額に手を当てる魔王様。呆れるサシャ。ルドルフすら助け舟を出さない。
「放っておけ!それより片付けねばならない問題がある。クーザイン家は来たか?」
仕事モードになる魔王様。
サシャは待たせてありますと返事をした。
お仕事中の魔王様はとても格好いい!ビシッと言葉を発する姿とかキリッとした黒曜石の目にウットリしてしまう。
「なに、ボケーっとしてる?おまえも役目があるんたぞ?」
「へっ?あたし?」
「そうだ。今から6家門の1つクーザイン家の者達と会う。なにか茶菓子を作ってこい」
かしこまりました!とあたしは快諾したが……何にしよう?
かごにはリンゴ。品種は紅玉。作ろうと思っていたものがあったんだった。魔王様に食べてもらうためであったが、お客様と一緒に食べてもらえればいい。
リンゴとグラニュー糖を鍋に入れて甘く煮詰めていく。フワンと甘いリンゴの匂いがする。シナモンを少し効かせても美味しいかな。トロリとさせて、型にいれたパイ生地のところへ入れる。
「アミアミになるようにっと……」
冷凍パイシートは時間無いときに強い味方!手間をなにげに省いてすいません。時間があまりない。オーブンに入れて焼く。アップルパイの香りが部屋中にする。
「いい匂いだねー」
「もう一つ作るから、一緒に食べましょ。アイスクリームを添えても美味しいのよ」
「それ最高!!」
ルドルフがピョンピョン跳ねる。魔王様の使い魔と忘れるほどの可愛さ。
サシャが顔を出して持っていくかと思いきや……。
「マナが持っていってください」
そう言われて、お茶とアップルパイをワゴンで運ぶ。
偉い人なんじゃないのー!?少し緊張しながら扉をノックする。入れと魔王様の声がした。
「失礼します。お茶菓子をお持ちしました」
視線があたしに集まる。思っていたよりも人が多い!座っているのは一人だけ。立っている人の中にはアナベルもいた。
代表者っぽい座っている人物があたしを震える指でさした。
「この娘が……?」
魔王様は頬杖をついて、傲岸不遜な笑みを浮かべた。
「マナが作ったお菓子だ。お前たちは食えるか?事前にクーザイン家が来ることを話しておいた。そして作らせた」
ざわりとその場がざわめく。
何のざわめき?あたしはわけがわからないままアップルパイを切り分ける。
「えーと、何等分ですか?」
「クーザイン家の当主とアナベルの分を皿にくれ」
あたしは内心ムッとした……魔王様のために作ったものでもあるのに。しかし逆らうことはせず、かしこまりましたと切り分けていく。トロッとしたりんごが見える。
「食え」
一言だけ発する魔王様。
フォークをあたしはどうぞーと渡す。あたしの目をジッとみるお客様とアナベル。
……えーと、なんでこんな緊張感あるお茶会なのかな?
フォークと皿を持つ手が震えている。
アップルパイをそんなふうに食べる人はいないんだけど……まさか?
面白そうに魔王様は二人を眺めている。その後ろのサシャが酷薄な笑みを浮かべている。
カシャン!とテーブルに置かれるアップルパイのお皿。
「お、お許しください!!アナベル!おまえも頭を下げよ!」
「も、申し訳ございませんでした!」
土下座!?バッと二人が顔色を変えて床に這うように頭を下げた。
「許すわけがないだろう?その命を持って償え。オレに刃を向けたということだぞ」
立ち上がる魔王様。サシャが帯剣していた剣に手をかける。
きゃああああ!と悲鳴をあげる。助けてください!と叫ぶ声。その声を気分良さげに聞く魔王様。ニヤリと笑って力を伸ばした手に込める。
「ま、待って!魔王様っ!!」
ガシッと腕に飛びつく。目を見開く魔王様。
「何を……する!?」
状況が読めないが止めた!とは言えず……。
「とりあえずアップルパイ食べましょうっ!なんですか!?この雰囲気は!?」
「見たままだが?おまえを攫って森に放置した奴らに制裁を加えてやろうとしてるんだ」
いやいやいやいや……やりすぎでしょ!?今、全員葬ろうとしてたよね!?
「やめてくださいっ!」
「魔族の掟だ。逆らう者に容赦はしない!それにクーザイン家は……」
当主らしい者が頭を下げたまま震えながら言う。
「我らが行ったのは今回だけですっ!魔王様へ近づきたく、アナベルが婚約者になり、マナ様の存在が気になりしてしまったことでありますっ!誓って他になにかしたことはございませんっ!」
魔王様が冷たい目で見下ろして、当主に言う。
「そうか。偽りの言葉でなければ机の上の菓子を食ってみろ。今の言葉が嘘でなければ害はない」
「魔王様への忠誠を誓います!」
悲鳴を上げるように言葉を発し、まるで毒でも食べるかのように当主は意を決して、震えながらアップルパイを口にした。
「……ああ」
安堵の声。そりゃそうだろう。普通の冷凍パイシート使ったアップルパイです。
「大丈夫だったか……今後、オレに逆らうことがあれば容赦しない。一族が滅ぶと思え」
はいっ!!と何度もその場にいる者たちが礼をして出ていく。アナベルの顔は蒼白で抱えられるようにして出ていった。
「本当の黒幕はクーザイン家ではないか……」
魔王様が顎に手をやり、考えている。そのようですとサシャも肩をすくめた。
「あ、うまいな。これリンゴか?」
何事も無かったかのようにアップルパイを食べる魔王様。
「今のなんだったんです!?」
説明がほしい。一人だけ食べてる場合じゃない。
「マナに害を加えたことがなければ、今から食う菓子は毒にならず、あれば即死だと言っておいた」
「そ、そんなことにアップルパイを使わないでよっ!」
パクパク食べてる魔王様はおかわりと言ってもう一切れ食べている。
「それに……あたしは平気だったんだし……」
「だめだ。オレのそばに置いている者に手を出すことが軽んじられている証拠だろ。思い知らせる必要があった」
「魔王様の威厳にかかわりますから。今回はマナのおかけで当主の首が繋がってしまいましたね」
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