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第1話(プロローグ)

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「その子どもは俺の子だろう!返せ!」

 私はぎゅっと抱きしめる。絶対に離さない。

「私もこの子も必要ない!いらない!といって追い出し、捨てたのはあなたでしょう!?」

 庶民には絶対手が届かない立派な服を着ている身なりの良い金髪の青年はハッと小ばかにしたように笑った。

「あの時はあの時だ。今は子どもが必要なんだ」

 この国の騎士達に取り囲まれている私は体が震える。剣や槍で体を貫かれるかもしれない。そうだ。騎士達を従えているということは、目の前の男はこの国の王子であり、私の元旦那様だった。

「まだですの?オースティン殿下に歯向かうのは愚かなことですわ」

 待ちきれず、豪奢なピカピカに塗られた馬車から降りてきたのは、王子の寵愛を受けているイザベラだった。私を追い出した原因を作ったのも彼女だった。

「ほら!こっちへこい。おまえの大事なお母様が、このままでは串刺しになるぞ!」

「そうなったとしても渡しません!」

 母様だめです!と私の腕の中で叫ぶ子を私は絶対に離さず、抱きしめる。騎士達の剣が抜かれて、切っ先を当てられる。私の体は震える。目を閉じる。

 もうダメ。だけど、神様、お願いします。この子だけは助けたいんです。こんなクズ王子やバカな女のところにだけはやりたくありません!考えるだけで、不幸しか待っていないもの!

 子どもができないという理由から、捨てた子を私から取り上げにきたのだ。王宮で育てると言っている。だけどそこで、この子が幸せになれるわけがなかった。冷たいイザベラの視線は、人ではなく、物として品定めしている。

「わたくしはオースティン殿下だけでいいのに、しかたありませんわ。毎日、毎日、後継者ができないのかと言われては、わたくし、もう憂鬱になっちゃいますの。しかたないから引き取って、育ててあげますわ」
 
「そんな理由であげたくはなっ……!!」

 私の喉元に剣が当てられた。何も話せなくなった。母様!と腕の中の子が叫ぶ。

「30秒やる。子どもをこちらへ寄こせ」

 30秒だったらどうなるか私はわかった。ぎゅっと目をつぶる。強情だなとあきれた声と騎士が剣を高く振り上げた音がした。終わった……。

 そう思った時だった。

「人の領地を血を流すつもりですか?このバカオーステ………じゃなかった。オースティン殿下?」

 唐突に間に割り込んできた声で、場の空気が変った。公爵という位を持つ彼は王子の前でも余裕の表情をしていた。私は安心すればいいのか、それとも……。

「現れたな!この嘘つき公爵が!」

 オースティン殿下にそう言われると、何が嘘つきなんだ?と首を傾げる彼。

「女嫌いだとういうことは知っているぞ!この結婚は偽装結婚だろう!おまえは手も握れないだろう!!」

 そんなことはないと言って、白い手袋をとって、私に触れようと手を伸ばす彼。

「やめて!そんなことをしたら……」

 無理をしようとしている!必死で私は止めた、それなのに、余裕の笑みで、私に触れようとした。

 だめ!倒れちゃう!!

 女嫌いで女アレルギーの公爵様じゃ無理なのよーー!やめてー!

 そう私は心の中で叫んだのだった。
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