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仕事帰りは居酒屋へ
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「断らなかったのかいっ!?」
麦酒を飲もうとしていた手が止まる。婚約者の事件について、誰かに相談したいと思い暇な人間を探したらエリックしかいなかった。よりにもよってエリックだった。本当は真面目なトラスが良かったんだが。
「俺は彼女に対して気持ちがないから、断るつもりでいるが、どうしたらいいか……俺が拒絶したら彼女は好きでもない男に嫁ぐことになる」
エリックがハハッと笑う。そしてグイッとよく冷えた麦酒を飲んだ。
「いやぁ!セオドアがそんなセリフを言うようになるなんてねぇ!以前なら容赦なく『断る』で終わっていただろう?相手の気持ちを考えるなんて、どういう風の吹き回しだい?」
「わからない。自分でもわからない」
ふーんと言って、愉快そうな顔をするエリック。
「恋愛は人をダメにもするし、成長もさせるっていうのはこのことだな。決断力が弱くなって人の気持ちを慮れるようになるなんてな」
「エリックならばどうする?」
プスッと揚げたての肉を突き刺し、一口頬張ると、エリックは噛んで、思考を働かせるように間をおいてから話しだした。
「んー?好きな娘がいるなら、その娘だけだ!……と、陛下のようなのもアリだろうけど、ボクはそういうのは性分に合わないみたいなんだよなぁ。うーん……いいんじゃないのかな?貴族の男っていうのは、正妻と愛人がいるもんだろ?アナベルさんは平民だから、そっちは本命としても、形ばかりの妻がいようがいいんじゃないのか?ウィルバート様は選び放題なのに、ああいうのは特殊だ」
ウィルバート様は幼い頃、後宮でお母様を亡くすという事件にあわれている。そのトラウマ的なこともあるからリアン様しか愛せないんだろうと思った。一人だけの後宮なら争うこともない。俺にとっての愛すべき一人……とは……。
「……アナベルはそんなんじゃない。俺のことを好きかどうかもわからない」
「そうかなぁ?けっこうアナベルさんはおまえのこと好きそうな気がするけどなぁ。まあ、一番はリアン様のことが好きなんだろうけどね!一生おまえは一番になれないさっ!ハハッ!」
やっぱりこいつはやめておけばよかった。からかわれているだけに思えてきた。なんの参考にもならない。相談にのってくれるなら奢るとか言わなきゃよかった。そう思った時だった。
「好きなら好きってアナベルさんに言ってみたらどうかな?」
「そんな簡単に言えるかっ!」
「いやいや、気持ちを伝えることから始めなきゃなーんにも始まらないよ?レストア子爵令嬢の方は保留でいいんじゃないか?しばらくおまえの名前を貸してやって、放っておけば、求婚してるという、その領主もあきらめるだろ」
「なるほど。時間かせぎか」
そういうことだ!とエリックは慣れた感じで俺に策を授けて得意顔だった。
「エリック様に相談してよかっただろぉ?僕は恋愛の天才だからね!なんでも聞いてくれてかまわないよ」
ああ、ありがとうと礼を言うと、真面目すぎるとエリックはしかめっ面をしたのだった。明日も朝早くから仕事だ。支障があっては困る。テーブルにお金をおいて、じゃあなと手を振った。
「えー!もう帰るのかよー!!おまえ、ほんっとに仕事好きだなぁ」
そう後ろから声がした。嫌いじゃない。陛下のお傍にいるということは自分の存在が唯一許されたことだった。生きていていいのだと……そのウィルバート様のために命を捨てる時まで。
ああ……そうだ命を賭けている。レストア子爵令嬢にしろ、こんな自分が普通の家庭を持てるだろうか?いつ死ぬかもわからない。アナベルに好きだという権利など俺にはないのではないか?そう思った。
アナベルを見ると心の奥が温かくなるような彼女を大切にしたいような、そんな感情はしまっておくべきなのかもしれない。
麦酒を飲もうとしていた手が止まる。婚約者の事件について、誰かに相談したいと思い暇な人間を探したらエリックしかいなかった。よりにもよってエリックだった。本当は真面目なトラスが良かったんだが。
「俺は彼女に対して気持ちがないから、断るつもりでいるが、どうしたらいいか……俺が拒絶したら彼女は好きでもない男に嫁ぐことになる」
エリックがハハッと笑う。そしてグイッとよく冷えた麦酒を飲んだ。
「いやぁ!セオドアがそんなセリフを言うようになるなんてねぇ!以前なら容赦なく『断る』で終わっていただろう?相手の気持ちを考えるなんて、どういう風の吹き回しだい?」
「わからない。自分でもわからない」
ふーんと言って、愉快そうな顔をするエリック。
「恋愛は人をダメにもするし、成長もさせるっていうのはこのことだな。決断力が弱くなって人の気持ちを慮れるようになるなんてな」
「エリックならばどうする?」
プスッと揚げたての肉を突き刺し、一口頬張ると、エリックは噛んで、思考を働かせるように間をおいてから話しだした。
「んー?好きな娘がいるなら、その娘だけだ!……と、陛下のようなのもアリだろうけど、ボクはそういうのは性分に合わないみたいなんだよなぁ。うーん……いいんじゃないのかな?貴族の男っていうのは、正妻と愛人がいるもんだろ?アナベルさんは平民だから、そっちは本命としても、形ばかりの妻がいようがいいんじゃないのか?ウィルバート様は選び放題なのに、ああいうのは特殊だ」
ウィルバート様は幼い頃、後宮でお母様を亡くすという事件にあわれている。そのトラウマ的なこともあるからリアン様しか愛せないんだろうと思った。一人だけの後宮なら争うこともない。俺にとっての愛すべき一人……とは……。
「……アナベルはそんなんじゃない。俺のことを好きかどうかもわからない」
「そうかなぁ?けっこうアナベルさんはおまえのこと好きそうな気がするけどなぁ。まあ、一番はリアン様のことが好きなんだろうけどね!一生おまえは一番になれないさっ!ハハッ!」
やっぱりこいつはやめておけばよかった。からかわれているだけに思えてきた。なんの参考にもならない。相談にのってくれるなら奢るとか言わなきゃよかった。そう思った時だった。
「好きなら好きってアナベルさんに言ってみたらどうかな?」
「そんな簡単に言えるかっ!」
「いやいや、気持ちを伝えることから始めなきゃなーんにも始まらないよ?レストア子爵令嬢の方は保留でいいんじゃないか?しばらくおまえの名前を貸してやって、放っておけば、求婚してるという、その領主もあきらめるだろ」
「なるほど。時間かせぎか」
そういうことだ!とエリックは慣れた感じで俺に策を授けて得意顔だった。
「エリック様に相談してよかっただろぉ?僕は恋愛の天才だからね!なんでも聞いてくれてかまわないよ」
ああ、ありがとうと礼を言うと、真面目すぎるとエリックはしかめっ面をしたのだった。明日も朝早くから仕事だ。支障があっては困る。テーブルにお金をおいて、じゃあなと手を振った。
「えー!もう帰るのかよー!!おまえ、ほんっとに仕事好きだなぁ」
そう後ろから声がした。嫌いじゃない。陛下のお傍にいるということは自分の存在が唯一許されたことだった。生きていていいのだと……そのウィルバート様のために命を捨てる時まで。
ああ……そうだ命を賭けている。レストア子爵令嬢にしろ、こんな自分が普通の家庭を持てるだろうか?いつ死ぬかもわからない。アナベルに好きだという権利など俺にはないのではないか?そう思った。
アナベルを見ると心の奥が温かくなるような彼女を大切にしたいような、そんな感情はしまっておくべきなのかもしれない。
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