僕は金色に恋をする

いちこ

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実家訪問

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 眠りガス事件から二週間以上たっても、犯人は捕まっていなかった。進展もない。
 生徒たちは不安が無いわけではないだろうが、それでも段々と普段生活に戻りつつあった。

 ギーグの事が心配なダニエルだけは寮に戻った。トーマスも寮に戻りたかったが、オーレンがナタリーの護衛としてとタウンハウスに残るため、警護の面からトーマスもタウンハウスから通う事にした。

 トーマスもまたメラーニ商会の後継として、様々なところから狙われやすいのだ。

***********

 校外学習も終わって数日、ダニエルは最近ギーグがかばんを持ってない事に気付いた。

 いや、カバンは

 隠してる。なんで?

 ギーグに問い詰めると、申し訳なさそうにカバンから本とノートを出した。

 半分が破られてボロボロになった教科書。ノートには「チビ」「デブ」「学院やめろ」とか「出て行け」とか、ひどい言葉が書かれている。

「これ…。やられたの?」

 ダニエルが聞くと、少しうつむいてギーグが言った。

「貰ったの破ってごめん。」

 珍しくちゃんと長い文で喋った。

「何言ってんだよ。破ったのはギーグじゃないだろ?誰にやられた?」

「知らない。分からない。」

 ダニエルの質問に、そう答えるギーグは本当に犯人を知らないのか、頭をブンブン振った。

 最近ギーグの周りで、ひそひそと陰口をたたいてる奴らがいるのは気付いてた。でも、ギーグは全然気にしてなさそうだったから、ならいいかと思ってた。
 なんかギーグが上手く話せないからか、下に見て、バカにしてる奴らが多い。
 ギーグの身長は確かに高くない。ダロンの街はドワーフがルーツらしいから、その種の影響が出てるんだと思う。大体ギーグの身体はデブのぽちゃぽちゃじゃなくて、筋肉のガッチガチだぞ。
 ちょっと羨ましいとか思ったのは秘密だ。
 ダニエルはギーグのことがとても気に入っている。人の事を悪く言わない。言われたことを素直に聞ける。今までどうやって生活してきたのか、全く分からないが、みんなの普通に近づこうと努力している。今は弟みたいに世話をしているが、ダニエルにとって大事な友達だ。

「うん。わかった。明日は学院が休みだから、一緒に俺の家に行こう。外泊届出しに行くぞ。」

 ちょうど兄にも呼ばれていたので、ちょうどいい。みんなにこの事を相談しよう。
 ギーグはびっくりして固まっている。

「?」

 しきりに首をかしげるけど、もう絶対に連れて行くつもりだから。

「いいから。これは決定事項。分かった?」

 ちょっと強めにギーグに言うと、慌てて返事した。

「う、うん。」

 こうしてマサにある、メラーニ商会の本店で実家に、ギーグを連れて行くことにした。

 寮で外泊届を出して、部屋で荷造りして、まずは首都のタウンハウスに向かう。
 ついでに市場で揚げたお菓子と飴の瓶を買う。リオンにお土産だ。ギーグはあんまり街に出た事ないのか、しきりにキョロキョロしている。ぱちぱちとしきりに瞬きしていた。

 ギーグと自分にも棒付きアメを買って、食べながら歩いてタウンハウスに向かう。
 ギーグはアメもあまり食べた事ないみたいで、にこにこしながら食べていた。

 タウンハウスはメラーニ商会シント店に隣接している。首都で一番大きな八階建て百貨店の隣、高い塀にぐるりと囲われている大豪邸だ。


 ダニエルも初めて孤児院から連れて来られた時は、顎が外れそうなくらい大口を開けて見上げたが、今は隣でギーグが同じ顔をしている。予想通りの反応にダニエルは笑いながらギーグの手を引いて、百貨店に入った。

 ちなみに正門前に行くのは面倒なダニエルたちは、お店に地下通路が繋がっているので、いつもそこから屋敷に入っている。

 お店には大きめの転移陣が設置されてて、色んな店舗から商品を取り寄せたり、配送したりしている。
 大体の物は馬車などで運ぶが、希少なアイテムや機密書類なんかは転移陣でやり取りするのだ。

 かなりの魔力を注がないと、使えないので、簡単に使えるものではない。

 転移陣のある部屋に行くと、ナタリーとオーレンが先に着てた。
 ギーグが慌てて頭を下げてる。

「あっ、やっと来た。まとめて送るからって、待たされたのよ。待ちくたびれたわ。早く帰りましょ。」

「遅かった?ごめん。リオンにお土産買ってたから。」

「じゃあ、しゃーないな。」

 商会の人が他にも荷物をいくつか台車に載せて、陣の中に置く。  
 ナタリーとオーレンとダニエルはいつもの事なので、気にせず転移陣に入っていく。
 ダニエルは固まっているギーグの手を引いた。

「ほら、ギーグ。ここ乗って。一緒に行くよ。」

 あっという間に足元が光って、次に目を開けると、もうマサの転移陣だ。
 扉を開くと、シントとは違う雰囲気だ。マサの屋敷の方が木目を基調にした落ち着いた雰囲気がある。 

「おかえりなさい。姉様、ダニエル兄様。オーレンも。」

 やってきたのはリオンだ。

「ただいま。リオン。あっ、お土産買ってきたぞ。ほら、これ。」

 と、飴がたくさん入った瓶を渡す。

「うわあ。すごい。いつもありがとうございます。あ、お客様ですか?」

 リオンはすごく喜んで、ぴょんぴょん跳ねる。と、そこでもう一人いる事に気付いたらしい。

 ダニエルはギーグの裾を軽く引く。ビクッと小さく跳び上がってから、

「こんにちは。ギーグです。」

 と頑張って挨拶した。

「こんにちは。リオンです。」

 と手を出して握手する。

 なんか仲良くなれそうな気がする。と、ダニエル達は微笑ましく見ていた。

 夕食時には全員そろっていて、ギーグがカッチカチに固まっていた。

 ジェレミアとベリタに挨拶をして、席につく。歩くとき、右手と右足が一緒に出てた。
 
 練習したおかげで、ギーグもみんなと一緒に食事をすることが出来た。ナイフはまだ上手く使えないけど、フォークとスプーンはだいぶ上達した。コース料理とかじゃないから、気兼ねなく食べれる。

 そして、何もかもが大きくて広くてちょっと豪華なあれこれに、ギーグはずっと目を白黒させてた。

 翌日ギーグを連れて家の中を案内していると、義父ジェレミアの執務室に呼ばれた。

 ギーグとダニエルがそこに行くと、うちの仕事着を着たあまり特徴のない男性が立っていた。

「あっ。」

 と、ギーグが驚く。知り合い?と思って見ると、その男は目元にシワを集めた笑顔で言った。

「やあ。ギーグ。久しぶり。元気そうでよかった。」


 部屋には男の人以外に、全員揃っていた。

「ギーグくん。君のこと調べさせてもらったよ。」

 ジェレミアが言う。

「彼を知ってるね?」

と聞かれ、うん。と頷いている。

「彼はうちの諜報部に所属しているサイモンだ。君を首都シントに案内したのは彼かい?」

 聞かれたギーグは、うん。とうなずいてから、ハッとした様子で、慌てて頭を左右に振った。

「ギーグ。君のことを、私がお仕えする主人に話してもいいかい?きっと、大丈夫だから。ね。」

 サイモンはギーグに近づくとそう言った。ギーグはサイモンを見上げ、ダニエルを見て、それから部屋にいる、トーマス、ナタリー、オーレン、ベリタ、そして当主ジェレミアを見る。
 みんな目を合わすとニコッと笑って頷くから、きつく手を握りこんでいたギーグの緊張も少し落ち着いてきたみたいだ。

 サイモンをみて、ギーグはうん。と頷いた。

「ありがとう。ギーグ。」

 そう言うと、サイモンは一歩前に出た。

「改めまして、はじめましての方もこんにちは。私はメラーニ商会ダロン支店のサイモンと申します。
私が彼、ギーグ君に初めて会ったのは今から十年以上前です
ダロンにある一番古く、深い坑道の奥で偶然お会いしました。あっ、まあ最初に会ったのは、私の部下ですが。
そこから彼との交流が始まりました。」

と、ギーグとの過去を語り出した。



 
 



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