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隣の国はどんな国?

13 ジュード視点

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「はいはいはーい。お邪魔しまーす。」

 なんて、場違いな明るい声に、その場にいた全員の動きが止まった。

 フロアの高い天井に幾つも吊るされたシャンデリアの前に浮かぶ、三人の姿。

 認識阻害の魔法がしっかりとかけられていて、顔は分からないが、俺には分かる。

 何故?ここにヒノトとミコトがいる?しかも後ろにいるのは慎翔か?

 ミコトは真っ黒いドレスを着ているが、よく見れば、黒一色ながら、フリルやリボンなど、生地に様々な装飾が施され、かなり手の込んだデザインのようだ。
 このフロアで着飾った令嬢たちのロングドレスとは違って、膝丈で趣向を凝らした黒いハーフブーツがよく見える。

 ヒノトもいつもの服とは違って、派手な白いフリフリの燕尾服の様なのを着ている。

「何あれ?ヤバイ。あの二人の服。素晴らしいわ。
ギーグ!絵に残して。あの二人の服のデザインをしっかり、細かく描いて。
護衛?そんなの良いから、絵を描きなさい!」

 ナタリーが護衛に付いていた一人に、小さな声で指示を出している。彼のスキルは瞬間記憶で、見たものを忘れないし、それを絵におこせるらしい。

 空気を読んでコソコソと小声で言っているが、彼女の中では、どうもビジネスチャンスのようだ。

 そして後ろにもう一人、真っ赤なローブを目深にかぶり、口元も隠した人物。
 これまた認識阻害の魔法をしこたまかけられている。

 たぶん、今この場にいる者達には、赤いローブにスカートをはいた女の子、赤ずきんちゃんが見えているはずだ。

 まあ俺には、赤いローブを着た慎翔が見えるが。

 ただ、慎翔はこんな背が低かっただろうか?
 俺にも顔を隠し、目しか見えないから、表情はうかがい知れない。

 三人は大神ウラノスの遣いを名乗り、俺達がやろうとしていたことを、スムーズにやってのけた。

 敵対視している者の拘束。
 盗品の回収。確認。
 被害者からの訴え。

 ミコトが腕を振れば、あいつらは金縛りにあったように動けなくなったみたいだ。こちらに変化は無い。
 ここぞとばかりに商会の奴らが、証拠を突きつけていく。

 否定するマクリク国側に、決定的な証拠を突きつけたのは慎翔だった。

 トーマスとガロが、マクリク国の物だと主張する品々が、それぞれの商会の品であると言ったが、国民からの献品であると言い張った。

 すると慎翔が降りてきて、ロビンに渡したエリクサーにちょっとした仕掛けがあることを言った。

「ほら瓶の模様に小さくMのマークが入ってる。これはこれをプレゼントした人が、こっそり色んなところに入れてるんだよ。その人は内緒にしときたかったんだけどね。」

 ちらりと俺を見た、赤ずきんの瞳は、やはり慎翔だ。あまり言いたくなかったらしい。ふいっと、顔を逸らした。

 俺は知ってたけどな。

 ところが慎翔がその話をした途端に、メラーニ兄弟は服のボタンやアクセサリー、ロビンたちはネックレス、ウルスにディネも腕輪にイヤリングと、それぞれ身につけた物や、アイテムを確認している。
 
 みんな色んな物を慎翔にもらってたんだな。

 なんだ、いつの間に。

 ダンも俺のすぐそばに寄ってくる。

「あれ。もしかしてナカセなの?」

 さすがにマサの街の人間には、赤ずきんが慎翔かもしれないと、気づいたらしい。

「さあ。どうだろうな。」

 一応否定も肯定もせずに流しておく。

「ナカセの変身魔法スゲー。」

 そう小さい声で呟くダンは、慎翔の規格外の魔力等をこの間目の当たりにしたようなので、驚くよりも感心しているようだ。

 敵意のない感想に安心する。

 続けて、国境での魔物召喚についても、慎翔が決定的な証拠を出した。
 ロビンたちを助けた時に、マクリク国の兵士も助けていたらしい。

「あの時ロビンたちを連れて行ってもらった後に、ナカセがあの兵士を助けたんだよ。証言してもらう代わりに、治療して、森の中にテント立てて、結界張って、待機してもらってた。
やっぱりあの赤ずきんちゃんはナカセなんだね。」

 ダンが俺にコソッと教えてくれた。

 なるほど。この状況も織り込み済みなんだな。
 まあ、これで言い逃れも出来ないだろうと、みんな思っていたのだが、マクリク国の連中は全く反省する様子もない。

 太陽神の事を崇めるばかりだ。

 その疑問もミコト達が綺麗に祓ってしまった。

 そもそも太陽神とは?と、マクリク国以外の人間が、思っていたことをミコトが聞いた。
 マクリク国の王族が叫んだ太陽神の名は

 【イノセント】

 その名を聞いて、皆、呼吸を忘れたように、息を詰めた。

 子供の時から聞かされた【邪神イノセント】の悪行の数々。

 滅ぼされた国は数知れず、しかし、ここ数十年は、表立った話は伝わってこない。
 それでも話がきてないだけで、色々な事をしているようだ。

 そもそも俺もその邪神に作りかえられたらしいしな。

 今のところ魔王にならずに済んでいるのは、間違いなく今、目の前にいる三人のおかげなのだろう。

 ヒノトとミコトがパンッと手を打つと、今まで重苦しかった空気が、一気に吹き飛んだ。

「この国にかかった魔法は、今解ける。太陽神なんていない。
イノセントとは、この世界では邪神。邪神イノセントの洗脳にかかったマクリク国の面々よ、目を覚ましなさい。」

 二人を中心にサアッと光が円形に広がって、国中を覆う。
 今までイノセントを太陽神として疑わなかった人々は、突然の心境の変化に、鳩が豆鉄砲くらったように、目を見開いて固まっている。

 きっと目が覚めたのだろう。

 俺達も暗く重苦しい空気が晴れて、息がしやすくなった。

 周りの着飾った貴族たちが顔色悪く、オロオロしている。

 呆然とした国王と王太子、そして第五王子のオズモンドだが、慎翔は許していなかった。
 慎翔の気持ちを代弁するように、ヒノトが罰を与えた。

 確かに召喚具を使って魔物を呼び出し、冒険者の命を奪い、貴重なアイテムも奪った。
 ロビンたちの話しから、しっかりと準備したうえで、略奪しているのだから、言い訳も出来まい。
 これはマクリク国の王族が欲望のままに欲しがったからだろう。

 ヒノトと二人であいつらの本質を見極めて、そして納得して罰を与えていた。

 慎翔は優しいだけかと思っていたが、やはりしっかりとしている。

 罰の内容は全然優しかったが。

 慎翔の頑張りにニヤニヤとしてしまいそうになる。しかし、真顔をはりつける。

 再び、空に浮かぶ三人を見上げようとした時だった。

 クスクスッと小さな笑い声がすぐ耳元で聞こえたと思った瞬間、全てが真っ暗になった。

 
 











 

 



 

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