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隣の国はどんな国?
8 あの日の話2 ヤナ視点
しおりを挟む「我がマクリク国の第五王子であらせられる、オズモンド殿下の御身の為にエリクサーを分けていただけないだろうか?」
どうしても来てほしいと頼まれてついて行った先で、従者らしき人と騎士の二人にこう言われた。聞けば、今回の討伐で怪我をしたとか。
三人で顔を見合わせる。
さっき、私にエリクサーを使ったのを見られていたらしい。
「申し訳ありませんが、ギルドの規定によりお分けすることは出来ません。」
一ヶ月以上辺境にいて、荷物を奪われる事件がいくつか起きていた。
オオトカゲに殺された冒険者の多くがマジックバッグを奪われて、それらのカバンは、後にその近くでボロボロの状態で発見されていた。
オオトカゲが魔力に反応したのか、はたまた別の誰かか?犯人は分からなかったけど、注意喚起がギルドからされていた。
ロビンが私達を庇うように前に立ってはっきりと拒否の意を伝える。
「!!!」
すると突然足元が光った。土や落ち葉で巧妙に隠されていた魔封じの魔法陣だ。
「っ何すんのよ。」
そこに突然現れた騎士達。
羽交い締めにされる。
魔封じの陣のせいで、防御結界の魔石が反応しない。罠だ。
「いやあああっ。」
シルルの苦しそうな声に顔を向ければ、変な首輪を付けられている。
首輪が鈍い光を放つと、シルルの目が光を失い、ガクリとうなだれた。
「シルルー!」
「おお、この娘は魔力が多いな。」
押さえつけた騎士が楽しそうに笑う。
あの首輪に魔封じは関係ないらしい。魔力を吸い取られてるんだ。顔色が真っ青になって枯渇に近い状態になったところで、首輪が外された。
ロビンは後ろ手を捕まれ、同じように首輪を付けられる。
「ぐうううっ。」
急激に魔力を吸われるのは、かなりの負担がかかるらしい。ロビンも唸り声をあげて、ぐったりとしてしまう。
「こいつは吸い上げる魔力はない。捨ておけ。」
ロビンを捕まえた騎士が、私に向かってそう言うと、今度はシルル達の荷物を奪いはじめた。
ロビンとシルルの腰から、三人でお揃いにしたウエストポーチが奪われる。
かばんに手を入れるが中の物は取り出せない。
「取り出せません。」
違う騎士が何か棒状の魔道具を私達の身体の表面を滑らせると、魔石を付与したアクセサリーには光って反応する。それを確認しては、シルルやロビン、私の装備を剥ぎ取っていった。
私は震えながらさり気なく垂れ耳を押さえた。指輪の上で魔道具が光って、左手の薬指の指輪を奪われる。
そのおかげで、耳の裏に隠したピアスは見つからずにすんだ。
なんとかしないと、と逃げるための方法を必死の考えてた。
騎士たちの略奪行為も落ち着いた頃、身なりの良い、くすんだ金髪の男が現れた。
背は高く、クルリとカールした髪が貴族然としているのに、どこか気持ち悪い。ギトギトと化粧を施した顔か、魔物もびっくりするような香水の香りか、なんともいえない嫌な感じがする。服装も森にいるとは思えない程に派手で、ジャラジャラと指輪をはじめ、様々なアクセサリーをつけている。一応金髪に青い目という隣国の王族の色をまとったその男は、私にこう聞いた。
「マクリク国の王族である私にエリクサーを渡さないか?」
どう答えたらいいのか、視線を彷徨わせると、
「…だ、ダメだ。ヤナ。」
「うるさい。黙れ。」
自分の意識も朦朧としているはずなのに、私に向かって首を横に振るロビンが見えた。
ロビンの髪を鷲掴みにした騎士は、後ろ髪の縛った後ろ髪をナイフで切り、見せつけるようにその髪をこちらに向ける。
お前もタダでは済まないぞという、騎士からの脅しだ。
だけど、その姿を見て、私は震えながらもはっきりと言った。
「お断りします。」
「そうか残念だ。」
その時トンッと衝撃が腹部に当たって、焼けるような痛みがきた。
下を見ると、自分の腹部に持ち手がゴテゴテと装飾されたナイフが深々と刺さっている。
ヒュッと悲鳴も上げられずに、固まる。ズルリとナイフが抜かれるのを見つめるしかない。
「…ヤナっ。」
突然、動けないはずのシルルが羽交い締めにしていた騎士を振り払い、私を抱き寄せた。
ブワッと広がる魔力。
元々回復魔法は使えず、魔力も吸われほとんど残ってないはずのシルルから、暖かい力が流れてきて、私の腹部を癒していった。
それに比例するように濃い目の金髪がどんどんと色を無くして白くなっていく。頬にもシワが刻まれていく。
私のために生命力まで魔力に回してるのだ。
「…シルル。やめて、やめてよ。シルル死んじゃうよ。ヤダよ。」
震えながら身体を押すと、ゆっくり離れる。
そこで私は更に驚愕の光景を目の当たりにする。
「ゴフッ。」
シルルの顔色は真っ青どころか、真っ白だ。唇も紫色になっていく。
その唇の端から真っ赤な血が滴り落ちる。
ゆっくりと離れるシルルのお腹から剣先が見える。
後ろに立つ騎士がシルルを後ろから刺したのだ。
「うそ。やだ。」
私はシルルを失う恐怖にガタガタと震えながら、自分のウエストポーチからエリクサーを出そうとする。
その手を私の後ろにいた騎士が掴む。そばの従者が私のウエストポーチを外して取り上げた。
「この娘を助けたければ、このエリクサーを渡してもらおうか?」
王子と呼ばれる男がニヤニヤと薄笑いを顔に貼り付けて言う。
何を言っているのか理解できずに、一瞬頭が真っ白になる。
それでもすぐに、もがきながら叫んだ。
「そんな、かばんを返して!エリクサーはあと二つしかありません。早くしないとシルルが死んじゃう。」
その間にもシルルの開いていた目が段々と閉じられて、力なくうなだれた。
「早くしないと、この娘は死ぬなあ。助けたいなら、かばんの制限を解け。どうせ三人で共用してるんだろう?解けば助けてやろう。」
そう言いながら、私達のウエストポーチが差し出される。
このマジックバッグは魔力を流すことで、持ち主を登録できる。また取り出せる人も指定できる。
私達の荷物は私達しか取り出せないようにしている。
「グフッ。」
シルルに刺さった剣が引きぬかれていく。私は前のめりに倒れるシルルを抱きとめた。
血が流れていく。
「死んでもいいのか?」
金髪が覗き込んでくる。
どうしよう。どうしたらいい?
ロビンも捕まってるし、シルルは重症だし、私ではこの人たちを倒すことは出来ない。
「ならこの男も殺すか?」
ロビンも魔力を吸い取られて、顔色が悪い。髪を切られ、今は首輪を外されているところだった。
ロビンにシルルの命を人質に取られた私に選択権は無かった。
震える手でかばんに触れる。
「本当に助けてくれるの?」
焦げ茶の垂れ耳がプルプル震える。
「もちろんだ。さあ、早くしないと。」
ニコニコと口元に笑みを貼り付けて言うが、目は笑ってないし、何より嫌すぎて鳥肌が立った。
それでも設定を解除する。
すぐに私のかばんからエリクサーが取り出される。
「取れました。」
騎士がそう言うと、王子は更に醜い笑顔になった。
「なら彼らの役目は終わった。始末しろ。」
「!!!そんなっ。」
まわりの騎士の殺気が膨れ上がる寸前に、ロビンが騎士を振り払って私に体当たりしてきた。
その瞬間、魔封じの陣から三人まとめて転がり出る。
「っヤナ。走れ。」
ロビンの掠れた声が聞こえた。
その瞬間に私は、左手にシルルを右手でロビンをしっかり抱えて、腕と脚にありったけの身体強化を使った。
元々のウサギの脚力に強化魔法を使えば、まずあいつらには追いつけない。
森の中をスイスイと進むのも、ヤナには朝飯前だ。
自分の持ちうる最大限の力で逃げる。
後ろから「待てっ。」と叫ぶ騎士の声と
「構わん。あの魔法使いから取った魔力で呼べ。」
落ち着いた王子の声が聞こえた。
右手に抱えた腕にヌルリとしたものが触れた。ロビンは、背中を斜めに切られ、出血している。
私達を突き飛ばす時に後ろから騎士に切られたのだ。
怖くて、泣きそうで震えそうになるけど、絶対に二人を死なせたくなかった。
帰ってみんなにこの事実を伝えないと。
「…ヤナ。そこ左。」
小さい声だけど、ロビンが道案内してくれる。
「あいつらに…何か魔法を、はあ、かけられてたっぽい。…国境を超えてる。急いで…戻らないと。」
息も絶え絶えに、そう伝えてくるロビン。
その時後方から何かが飛んできて、地面に大きな穴が開く。
飛び退いて、逃げようとすると穴からオオトカゲの前足が出てきた。
ドスン。ドスン。と今までのよりも大きなオオトカゲに追われて、絶望の汗が流れる。
呼ぶってそういうこと?今までのもあいつらが?
だけど今は逃げることだけを考えて、必死に二人を抱えて走った。
必死に走っていると大きなクスノキが見えた、国境だ。
木に近づいてタメリア国側に回りこんだ。木の根元に、大きめの木の洞を見つける。
ここなら国境を超えたはず。
うろの中にシルルを横たえ、辛うじて意識のあったロビンは彼女を庇うように覆いかぶさった。
私の身体強化ももう切れる。これ以上は逃げられない。
でも、死ぬつもりは無い。絶対に三人で生き残りたい。
私は二人を庇うように上に向くとオオトカゲが追ってきた。
魔力に反応するはずなのに、魔力枯渇した三人のところに迷わず向かってくる。
そういう司令をうけたのかもしれない。
前足を大きく振りかぶって叩き落とされる。
視線を外さずに、見つめる。
ガキンッ。
ヤナの耳に隠した魔石の防御結界が発動した。
それを確認したヤナは、ゆっくりと二人の上に倒れこみ、優しく頬に触れる。
助けが来るかは分からない。
それでも最後まで諦めない。
耳の魔石には回復魔法も付与していたので、今は二人の血は止まってる。
防御結界に多くの魔力を割いたので、回復は最低限だけど、まだ二人は生きてる。
激しいオオトカゲの攻撃に防御結界の魔石の消耗が激しい。
それになけなしの魔力を注いで耐えた。
あれから、どれほど時間が経ったのか分からない。
まだオオトカゲがいる。
シルルもロビンも意識がない。頬の温もりとかすかな鼓動が私の心の拠り所だ。
何度目か魔力を注いだら、ヤナにも限界がきた。周りがキラキラと輝いている気がする。とうとう幻覚が見えてきたのか。
もうダメかもしれない。それでも大好きな二人にしがみついた。
「…シルル…。…ロビン…。大好き…。…ずっといっしょに…。」
ヤナの意識はそこで途絶えた。
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