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隣の国はどんな国?

6 安否確認

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 クスノキの根元に倒れた人の脚が見えた。一人じゃない、何人かの脚だ。

 近づくと薄い結界の光が見える。

 一番下に魔法使いのシルル。シルルを抱き込むロビン。その上に覆いかぶさるように弓使いのヤナがいた。三人共、顔色は真っ白で、意識がない。
 もしかしてって、最悪の想像がおれたちの背中に冷たい汗を流す。

「ロビン…。」

 ダンが鼻をすすりながら、小さな声で呼ぶ。

『じかん。うごく。いそいで。』

 精霊たちのぽそぽそとしゃべる声が聞こえた。
 えっ?と驚いている間に目の前の結界が解かれ、たくさんの精霊がブワーッと飛び出てきた。

 精霊の光で前が見えないくらいだ。数秒で前が開けて急いで三人に近づく。

 シルルはお腹から出血してて、ロビンは背中を斜めに切られてる。

 そして一気にそれぞれの傷口から、ドクドクと血が流れだした。
 特にシルルの背中に大きな血だまりが出来る。

『じかん。うごく。』

 その意味が理解できた。きっと精霊たちが結界内の時間を止めてくれてたのだろう。

「ダン。これを。」

 エリクサーを渡そうとすると、止められて、苦しそうな顔をして、ダンは回復薬を出した。

「二人には悪いけど、治しちまうと怪我の状況が分からない、誰かに見てもらわないと。」

 そう言いながら、初級の回復薬をかけていく。

「……ひどい。」

 シルルはお腹からだけではなくて、よく見れば背中から刺されて貫通してた。初級では間に合わないからと中級の回復薬を使った。
 これでとりあえず出血は止まったけど、まだ傷は残ったままだ。顔色も悪いし、意識も戻らない。

 特に切られたんじゃなく、刺されたシルルの状態が心配だ。

 誰かに来てもらおう。って思った時には体が動いてた。

「ダン。ちょっと待ってて。」

 そう言って、転移でギルマスの部屋に飛んだ。

「!!!」

 部屋には副ギルマスのディネルースさんだけがいた。突然に現れたおれに、一瞬固まるが、すぐに警戒を解く。

「ディネさん。ギルマスは?」

「ウルスなら下で解体手伝ってるわ。前線からかなりの人数が帰ってきたから。一気に買取が上がってきて、間に合わないのよ。」

「じゃあディネさんでいいや。お願い、ちょっと一緒に来て。」

「え?ちょっと、あっ。」

 返事を聞く前に、ディネさんの手を取り、すぐに飛ぶ。

 パッと森の中に戻ってきた。

 少し離れたところにクスノキが見える。流石にディネさんも驚いてるみたい。

「!!!っマコト。ここは…まさか、国境?はっ。」

 そう言いながら、三人を見つけたディネさんは、すぐ近くまで駆け寄ると、いつものポーカーフェイスが少しだけきゅっと苦しそうな顔になって、ほんの少しだけ微笑んだ。

「…よく、生きて…。」

 きっと心配してたんだと思う。ギルマスも副ギルマスも優しいの知ってる。

 ディネさんは素早く三人の様子を確認しながら、次々と指示を出す。

「ダン。魔力回復薬はある?ヤナは魔力枯渇だわ。
マコト、とりあえずギルマスとジュードも連れてきて。
あと、ダンたちを案内した部屋に空間魔法でもう一部屋広げられる?ベッドを三床、お願い。」

 ディネさんは創造に空間魔法も使えるのは知ってるから、どんどんと指示をくれる。おれは頷くと、イヤーカフに触れてジュードを呼ぶ。

『ジュード、ちょっとおれのところ、来れる?』

「呼んだか?」

 次の瞬間には隣に居た。

 うわっ。めっちゃ早い。

 つい抱きつきたくなっちゃうけど、今はそれどころじゃないから、我慢する。

「うわっ。早すぎ。」

 ダンも呟く。余りの展開の速さについて行けてないみたい。目を白黒させながら、なんとかいるって感じだ。

「ジュード。詳しいことはダンに聞いて。」

「は?」

 そういうと返事も聞かずにギルドに戻る。

 自分の借りた部屋に飛んだおれは、その部屋から、隣の部屋に行ってトントントンとノックする。

「すいません。急いでるので開けます。」

 返事も聞かずに扉を開ける。鍵が掛かってるけど、精霊がチョチョイと開けてくれた。

「え?え?ナカセ?」

 部屋にいたダンのパーティメンバーが驚いている。

「すいません。急ぎなので、詳しいことはまた後で。ちょっと部屋の隅に避けててもらってもいいですか。」

 みんなが部屋の隅に集まるのを横目に、自分の部屋側の壁に、なんかブローチみたいなのを当てた。

 えいっ。っと気合を入れるジェスチャーと同時に、隣に部屋ができる。隣にはトイレももちろん完備だ。

 ダンの仲間たちはぽかーんと口を開けてこっちを見てる。

「この魔道具便利ですね。」

 そう言いながら、部屋に入りベッドを準備する。部屋の中にシンクも作って、水回りを充実させる。
 マジックバックから出すふりしながら、創造で包帯とか消毒液とかガーゼとか次々と出していく。
 こんなの無詠唱でポンポン使ってるのが周りに知られると良くないので、魔道具でやったことにしとく。

「あっ、今から怪我人が転移してくるんで、ベッドの上にいてもらえます?ここに来るから。」

 おれの作った部屋は異空間になるから、転移で直接は行けない。ダンたちに与えられた部屋から扉で入るのだ。
 手でこれくらいと円を描いた。
 転移してきた時に人がいると、ぶつかったり、最悪の場合混ざるらしいので立入禁止の範囲を明確にしとく。
 混ざったらどうなるのか知らないけど。あんまり想像したくない。
 ダンの仲間に了承をもらって、部屋を出たら、急いで地下に向かう。

 急いで向かったのはギルマスのところだ、地下にある解体室に入って、ギルマスを呼ぶ。

「すいませーん。ギルマスいますかー?」

「なんだ?マコト。どうかしたか?」

 エプロンをつけた大男が出てきた。おれはその手を掴んでグイグイと引っ張って物陰に連れて行く。

「おい、おい。どうしたんだよ。」

「はい。いきます。」

 ウルススの声を無視して飛んだ。




 森に戻ると、応急処置の終わったうつ伏せのロビンと横向きのシルルが寝かされている。隣にヤナが座っていた。意識が戻ったんだ。よく見たら、ヤナのお腹にも血の跡がある。

「大丈夫?」

 心配したけど、ヤナのはもう治ってるって。

 ウルススはちょっと怒った声で聞く。

「一体どういうことだ?」

「まあまあ、とりあえず状況を確認して、戻ってから話を聞きましょう。
ヤナ、いいかしら。戻ったらすぐに二人の治療をするから。今の怪我の状態を記録させて。よく頑張ったわね。もう大丈夫よ。」

 ディネさんがウルススにサラッと言うと、ゆっくりとヤナの腕を擦りながら、声音は優しく声をかける。
 するとヤナの目からボロボロと涙が流れだす。フルフルと震えている。流れる涙を隠すように両手で顔を覆いながら、何度もヤナは頷いた。
 よっぽど大変だったんだと思う。

 その間に、ダンがさっき見た空からの景色と、兵士の投げた魔道具から召喚された魔物の話をウルススにしていた。

 おれはウルススとディネさんにこの状況を見てもらわないといけないと思ったから連れてきた。ジュードにも。

 ジュードの風魔法で宙に浮いたウルススとディネさんは、それぞれの国の様子を空から確認して降りてきた。

 今は両国共戦闘状態だ。マクリク国側にはダンがオオトカゲを投げたから。

「詳しいことは、戻ってから。誰かに見られるのもまずいし、とりあえずギルドに戻りましょう。」

 おれはギルドのあの部屋に場所指定した転移魔石を、ジュード、ウルスス、ディネさんに渡した。

 ウルススがロビンを、ジュードがシルルを、ディネさんがヤナを連れて、順番に転移した。

 最後におれがダンと戻る。

 本当は全員一回で転移できるけど、魔道具とか魔石でしてるようにした。

 ジュードと相談して、あんまり派手に魔法を使わないようにしようって。
 まあ今日は結構使っちゃったけど。

 それに転移場所が部屋の真ん中だから、そんなに広くないしね。

 二人だけになったら、ダンがボソリと言う。

「ナカセがいてくれて、本当に助かった。ロビンたちを助けてくれて、本当にありがとう。」

 きっとダンの本心だろう。ダンの目から涙がこぼれてきて、ダンは慌てて腕で目を擦った。
 おれも思ったままに答える。

「うん。おれも見つけられて良かった。」

 本当に良かった。

「このことは絶対に言わない。それに何かあったら助けるから。」

 そう力強く言いながら、おれの両手を強く握って、ブンブンと振った。

「うん。その時はよろしく。とりあえず帰ろうか。」

 こうして、ロビンたちを助けることができた。



 

 




 
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