86 / 106
隣の国はどんな国?
3 不穏な隣国
しおりを挟む「ジュード!」
ギルマスの部屋に現れたジュードに、おれは駆け寄った。
「慎翔。ちゃんと来てたんだな。」
両手を広げてくれたジュードの胸に、ぽふっと飛び込む。
さも当たり前のように、軽く受け止めてくれる。
怪我も無いみたいだし、良かった。
やっぱりジュードの安心感は半端ない。
おれはぐりぐりとひっついていた。
「んで、どうした?お前、前線だったろう?」
ウルススさんがジュードに聞いた。
ジュードはダンを見て、
「ああ、ちょっとな。色々あって。ところで、ダン。お前何かやったのか?」
「は?俺がっすか?」
ダンはさっき帰ってきて、おれと一緒にこの部屋に来たんだよね。と、ダンとジュードをキョロキョロ見る。ダンもびっくりした顔してる。
「お前とロビンは、マクリクから窃盗罪でお尋ね者になっている。駐屯地に来た騎士が逮捕状を持ってきた。」
「はあ?なんで?俺、今帰ってきたとこで、向こうの国のヤツから、ロビンの遺髪だってこれ渡されて…。って、ええ、どういうこと?」
ジュードも驚いた顔をしている。
「ロビンの遺髪だと?
ロビンとダンが共謀してマクリクの王族から、色々と盗んだと大騒ぎになっている。どういうことか確認しようと帰ってきたんだ。」
ええ?ロビンもダンもそんなことするわけ無いじゃん。っと大きな声で言いそうになるのを、ぐっとこらえる。
ダンは慌てたように言う。
「俺はそんなことしてない。そもそもロビンたちとは別行動だったし、死んだ…かもって、今日聞いたところで…。なんで急に…?」
目に見えて動揺したダンの顔色はとても悪い。
腕組みしたジュードは少し考えると
「…ダン。お前マサのギルドの所属だと言ったか?」
ダンはしばらく考えて、口元に手を当てて、ハッとする。
「…あっ…、言った。言ったわ。そしたら急にあいつら慌て出して…。それを無視して、隠れて帰ってきたんだけど、それが何か関係ある?」
「そうだな。多分よそのギルドなら、ロビン死亡で話が終わるんだろうが、うちのギルドは規模も大きいし、きっちりやってるからな。色々と突かれると都合が悪いんだろう。だから罪をお前たちになすりつけることにしたんだろうな。」
なんでこの街のギルドだと都合が悪いのか、おれはキョロキョロと二人の会話を聞いていた。
ダンは俯いて、何か考えこんでから、ゆっくりと顔を上げた。
「…そうか。あいつらハナからロビンや俺達の事狙ってたのか。」
ダンはジュードを真っ直ぐ見つめながらそう言うと、ジュードも小さくうなずいた。
「さっきまで国境にいたはずが、もうマサの街に戻っている。転移の魔石使ったのか。」
ジュードが聞くと、
「うん、なんかヤバイ感じしたから、取り敢えずギルマスにと思って。あいつらも置いて行けないし。で、あの、転移の魔石は…。」
キョロキョロと言い辛そうにしてるダンの横から、おれが声を出す。
「おれがロビンとダンにあげたんだよ。何かあったら使ってって。」
そう。前にガロの農園で会った時に、旅の無事を祈って、自分の創造で作ったエリクサーと一緒に二人に渡したのだ。
ロビンにもあげたのに、なんで使わなかったんだろう。
それに一番気になるのはこれだ。
「ねえ。本当にロビン死んじゃったの?」
想像しただけで指先から冷えていく感じがする。ジュードがその手をきゅっと握ってくれる。それだけで、ザワついた心が落ち着いてくる。落ち着けば、キチンと考えられる。
ジュードの伺うような視線に、笑顔を返したら、ジュードもホッとした目になった。
一瞬二人だけの空気が流れたけど、その空気をぶった切るように、片手で頭をガシガシとかいた、ウルススさんが、はあーっと大きく息を吐いた。
「マコト。ロビンの生死はわからん。それを知るすべも、今は難しい。大型魔物が暴れまわっているからな。落ち着いたら、捜索隊を出す。だから今は待て。いいな。」
はっきりとそう言われた。おれはジュードを見る。するとジュードも
「そうだな。今、国境に行くのは危険だ。とりあえず俺が行って、きちんと調べてくるから慎翔はここで待っててほしい。」
おれの顔を覗き込みながら、そう言われる。
そんなの納得出来ない。
「それなら、なおの事早く助けに行かないと。」
おれが言うと、
「こういう事になってしまったら、冒険者の自己責任ということになる。運が悪かったんだ。」
ウルススさんがそう言って、ディネさんとジュードも黙って見ている。
ダンも俯いたままだ。
「え、なにそれ?じゃあ冒険者って何かあっても、見殺しなの?」
「見殺しじゃねえ。自己責任だ。実力がありゃあ、何とかして帰ってこれる。誰か助けがあるのも運のうちだ。」
被せるようにウルススさんが大きめの声で言う。
おれはちょっと驚いて、固まる。
そうか自力で打開できなければ、それまでって事なんだ。
シビアっていうか、思った以上に残酷で厳しい世界なんだと、改めて知った。
「だからお前が広めたエリクサーや結界魔法の付与とか、すごく助かってる。これで無駄に命を落とす奴が減るはずだ。生存率が格段に上がる。」
ウルススさんはそう言うけど、実際身近の知り合いも助けられていない。
納得できたようで、出来なくて、だまっていると、今度はディネさんが、ダンに向かって言った。
「ダン。国境を離れたのは、丁度良かったのかもしれないわ。向こうは転移の魔石のことは知らないみたいだから、まさかここに居るとは思ってないでしょう。ギルドに部屋を用意するから、ほとぼりが冷めるまで、しばらく他のメンバーとそこで待機してて。」
そう言いながら、ダンに認識阻害をかける。
「他の子にはこれを使って。」
認識阻害の魔石を手渡すと、ダンは頷いて、下にいる仲間を迎えに行くと言って、部屋を出て行こうとする。
「マコト。一緒に行ってあげて、部屋はあなたの部屋の隣ね。」
ディネにそう言われて、おれはジュードを見る。
「そうだな。慎翔も部屋で待ってていてほしい。」
そう言いながら、おれの頭をぐりぐりとしてから、ぎゅっと抱きしめてくれた。これ以上ごねるのも話が停滞するだけだ。
「…うん。わかった。」
素直に返事して、おれからもぎゅっと抱きついてから、すぐに離れる。
「じゃあ、ジュードも気をつけてね。」
おれはギルマスの部屋を出た。
――――――――――
ジュード視点
「ちゃんと話してあげれば良かったんじゃないの?」
はあ。と溜息をついて、呆れた風に言うのは、副ギルマスのディネルースだ。
エルフは金髪の三つ編みを横に払いながら冷たく言う。
ギルマスのウルススは、その言葉を黙って聞いていたが
「しかしなあ、これまでの一連の騒動の原因を知ったら、ショックじゃねえか?自分のせいだと責任を感じるかもしれねえ。」
ウルススは慎翔の事を可愛がっているが、かなり子供扱いもしている。
俺は先ほど別れ際の慎翔の様子に、僅かながら不安も感じていた。
たぶん納得してない。それどころか、怒りの感情も少し見え隠れしていた。
きっと止めても無駄だろう。
イヤーカフに意識を向ける。お互いのそれは、何かあったら知らせてくれる。それまでに俺は、俺のできる事をしておこう。
「取り敢えず、その第五王子とかいうのを、どっかに引っ張りだす。そこで事情を聞く。」
「分かった。そん時には俺らも出る。」
ウルスス達も、今回の一連の出来事は一国の話では終わらないかもしれないと考えている。タメリア国ではかなりの被害者が出ていた。
うちの冒険者に手を出して、ただで済むと思うなって言うのがこちらの思いだ。
今回のスタンピードも不可解な事が多い。マクリク国の王族の評判の悪さも有名だ。
きちんと確認するために、俺は転移で国境に戻る事にした。
――――――――――
ダンと合流して、おれの部屋の隣へ案内する。ギルドで借りてる部屋は、ギルマスの部屋のある四階の一番奥にある。その隣の部屋に仲間と入ろうとするダンの腕を掴む。
「!ナカセ?」
ダンは驚いてこちらを見ている。おれはダンを掴む手に力を込めた。
おれはおれのやり方で何とかしようと決めたんだ。
81
お気に入りに追加
336
あなたにおすすめの小説
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います
たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか?
そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。
ほのぼのまったり進行です。
他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる