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隣の国はどんな国?

3 不穏な隣国

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「ジュード!」

 ギルマスの部屋に現れたジュードに、おれは駆け寄った。

「慎翔。ちゃんと来てたんだな。」

 両手を広げてくれたジュードの胸に、ぽふっと飛び込む。
 さも当たり前のように、軽く受け止めてくれる。
 怪我も無いみたいだし、良かった。
 やっぱりジュードの安心感は半端ない。
 おれはぐりぐりとひっついていた。


「んで、どうした?お前、前線だったろう?」

 ウルススさんがジュードに聞いた。

 ジュードはダンを見て、

「ああ、ちょっとな。色々あって。ところで、ダン。お前何かやったのか?」

「は?俺がっすか?」

 ダンはさっき帰ってきて、おれと一緒にこの部屋に来たんだよね。と、ダンとジュードをキョロキョロ見る。ダンもびっくりした顔してる。

「お前とロビンは、マクリクから窃盗罪でお尋ね者になっている。駐屯地に来た騎士が逮捕状を持ってきた。」

「はあ?なんで?俺、今帰ってきたとこで、向こうの国のヤツから、ロビンの遺髪だってこれ渡されて…。って、ええ、どういうこと?」

 ジュードも驚いた顔をしている。

「ロビンの遺髪だと?
ロビンとダンが共謀してマクリクの王族から、色々と盗んだと大騒ぎになっている。どういうことか確認しようと帰ってきたんだ。」

 ええ?ロビンもダンもそんなことするわけ無いじゃん。っと大きな声で言いそうになるのを、ぐっとこらえる。
 ダンは慌てたように言う。

「俺はそんなことしてない。そもそもロビンたちとは別行動だったし、死んだ…かもって、今日聞いたところで…。なんで急に…?」

 目に見えて動揺したダンの顔色はとても悪い。

 腕組みしたジュードは少し考えると

「…ダン。お前マサのギルドの所属だと言ったか?」

 ダンはしばらく考えて、口元に手を当てて、ハッとする。

「…あっ…、言った。言ったわ。そしたら急にあいつら慌て出して…。それを無視して、隠れて帰ってきたんだけど、それが何か関係ある?」

「そうだな。多分よそのギルドなら、ロビン死亡で話が終わるんだろうが、うちのギルドは規模も大きいし、きっちりやってるからな。色々と突かれると都合が悪いんだろう。だから罪をお前たちになすりつけることにしたんだろうな。」

 なんでこの街のギルドだと都合が悪いのか、おれはキョロキョロと二人の会話を聞いていた。

 ダンは俯いて、何か考えこんでから、ゆっくりと顔を上げた。

「…そうか。あいつらハナからロビンや俺達の事狙ってたのか。」

 ダンはジュードを真っ直ぐ見つめながらそう言うと、ジュードも小さくうなずいた。

「さっきまで国境にいたはずが、もうマサの街に戻っている。転移の魔石使ったのか。」

 ジュードが聞くと、

「うん、なんかヤバイ感じしたから、取り敢えずギルマスにと思って。あいつらも置いて行けないし。で、あの、転移の魔石は…。」

 キョロキョロと言い辛そうにしてるダンの横から、おれが声を出す。

「おれがロビンとダンにあげたんだよ。何かあったら使ってって。」

 そう。前にガロの農園で会った時に、旅の無事を祈って、自分の創造で作ったエリクサーと一緒に二人に渡したのだ。
 ロビンにもあげたのに、なんで使わなかったんだろう。

 それに一番気になるのはこれだ。

「ねえ。本当にロビン死んじゃったの?」

 想像しただけで指先から冷えていく感じがする。ジュードがその手をきゅっと握ってくれる。それだけで、ザワついた心が落ち着いてくる。落ち着けば、キチンと考えられる。
 ジュードの伺うような視線に、笑顔を返したら、ジュードもホッとした目になった。

 一瞬二人だけの空気が流れたけど、その空気をぶった切るように、片手で頭をガシガシとかいた、ウルススさんが、はあーっと大きく息を吐いた。

「マコト。ロビンの生死はわからん。それを知るすべも、今は難しい。大型魔物が暴れまわっているからな。落ち着いたら、捜索隊を出す。だから今は待て。いいな。」

 はっきりとそう言われた。おれはジュードを見る。するとジュードも

「そうだな。今、国境に行くのは危険だ。とりあえず俺が行って、きちんと調べてくるから慎翔はここで待っててほしい。」

 おれの顔を覗き込みながら、そう言われる。
 そんなの納得出来ない。

「それなら、なおの事早く助けに行かないと。」

 おれが言うと、

「こういう事になってしまったら、冒険者の自己責任ということになる。運が悪かったんだ。」

 ウルススさんがそう言って、ディネさんとジュードも黙って見ている。
 ダンも俯いたままだ。

「え、なにそれ?じゃあ冒険者って何かあっても、見殺しなの?」

「見殺しじゃねえ。自己責任だ。実力がありゃあ、何とかして帰ってこれる。誰か助けがあるのも運のうちだ。」

 被せるようにウルススさんが大きめの声で言う。

 おれはちょっと驚いて、固まる。

 そうか自力で打開できなければ、それまでって事なんだ。
 シビアっていうか、思った以上に残酷で厳しい世界なんだと、改めて知った。
 
「だからお前が広めたエリクサーや結界魔法の付与とか、すごく助かってる。これで無駄に命を落とす奴が減るはずだ。生存率が格段に上がる。」

 ウルススさんはそう言うけど、実際身近の知り合いも助けられていない。
 納得できたようで、出来なくて、だまっていると、今度はディネさんが、ダンに向かって言った。

「ダン。国境を離れたのは、丁度良かったのかもしれないわ。向こうは転移の魔石のことは知らないみたいだから、まさかここに居るとは思ってないでしょう。ギルドに部屋を用意するから、ほとぼりが冷めるまで、しばらく他のメンバーとそこで待機してて。」

 そう言いながら、ダンに認識阻害をかける。

「他の子にはこれを使って。」

 認識阻害の魔石を手渡すと、ダンは頷いて、下にいる仲間を迎えに行くと言って、部屋を出て行こうとする。

「マコト。一緒に行ってあげて、部屋はあなたの部屋の隣ね。」

 ディネにそう言われて、おれはジュードを見る。

「そうだな。慎翔も部屋で待ってていてほしい。」

 そう言いながら、おれの頭をぐりぐりとしてから、ぎゅっと抱きしめてくれた。これ以上ごねるのも話が停滞するだけだ。

「…うん。わかった。」

 素直に返事して、おれからもぎゅっと抱きついてから、すぐに離れる。

「じゃあ、ジュードも気をつけてね。」

 おれはギルマスの部屋を出た。

 ――――――――――
ジュード視点


「ちゃんと話してあげれば良かったんじゃないの?」

 はあ。と溜息をついて、呆れた風に言うのは、副ギルマスのディネルースだ。
 エルフは金髪の三つ編みを横に払いながら冷たく言う。
 ギルマスのウルススは、その言葉を黙って聞いていたが

「しかしなあ、これまでの一連の騒動の原因を知ったら、ショックじゃねえか?自分のせいだと責任を感じるかもしれねえ。」

 ウルススは慎翔の事を可愛がっているが、かなり子供扱いもしている。

 俺は先ほど別れ際の慎翔の様子に、僅かながら不安も感じていた。

 たぶん納得してない。それどころか、怒りの感情も少し見え隠れしていた。
 きっと止めても無駄だろう。
 イヤーカフに意識を向ける。お互いのそれは、何かあったら知らせてくれる。それまでに俺は、俺のできる事をしておこう。

「取り敢えず、その第五王子とかいうのを、どっかに引っ張りだす。そこで事情を聞く。」

「分かった。そん時には俺らも出る。」

 ウルスス達も、今回の一連の出来事は一国の話では終わらないかもしれないと考えている。タメリア国ではかなりの被害者が出ていた。
 うちの冒険者に手を出して、ただで済むと思うなって言うのがこちらの思いだ。

 今回のスタンピードも不可解な事が多い。マクリク国の王族の評判の悪さも有名だ。
 きちんと確認するために、俺は転移で国境に戻る事にした。

 ――――――――――


 ダンと合流して、おれの部屋の隣へ案内する。ギルドで借りてる部屋は、ギルマスの部屋のある四階の一番奥にある。その隣の部屋に仲間と入ろうとするダンの腕を掴む。

「!ナカセ?」

 ダンは驚いてこちらを見ている。おれはダンを掴む手に力を込めた。

 おれはおれのやり方で何とかしようと決めたんだ。


 






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