76 / 101
新しい世界
73 七色の湖 ジュード
しおりを挟む71からのジュード視点
段々と空が明るくなって、部屋に光が入って来る。
俺の腕の中でぐっすり眠る慎翔の寝顔をじっくりと眺める。
いい夢を見ているのか口をムニュムニュしながらニンマリしている。どんな顔をしていても、慎翔は可愛い。見ているだけで癒やされる。
可愛い慎翔を、守ってやろうと思っていたが、自分をしっかり持った慎翔には驚かされるばかりだ。
マジックバッグもそうだが、あの時の市場の二人を、いつの間にか仕事仲間に引き入れてしまっていた。
俺に
「こうしたいけどどう思う?」
と相談はするが、
「いいんじゃないか?」
って答えると
「うん。ありがとう。」
と、自信を持って話を進めてしまう。
俺などいなくても大丈夫なんじゃないか?と、なんだかこちらの自信が無くなっていくようで、苦笑いしてしまう。
それでもそんな慎翔も愛おしい。
「んう。」
すっかり明るくなりきった頃に、慎翔の瞼がふるりと震え、ゆっくり開いた。金に近い茶色の瞳とバチッと目が合う。
俺はずっと言おうと決めていた台詞を言う。
「誕生日おめでとう。」
「あ、あ、ありがと。」
慎翔は目をぱちくりとしながら、ハッとして、どんどん顔を赤くしながらお礼を言う。
本当にどんな顔をしても可愛くて癒やされる。
俺は上半身を軽く起こし、横になったままの慎翔の顔をじっと見ながら、頬を優しくなでる。
慎翔はその手にそっと手を重ねてくれる。
お互いに瞳を閉じて、チュッと唇が触れた。
目を開くと、琥珀色の瞳とバチッと見つめ合う。勝手に言葉がこぼれ落ちる。
「おめでとう。」
「ふふ。ありがとう。恥ずかしいけど、嬉しいね。」
慎翔照れくさそうに笑いながら、もう一度お礼を言う。ふわっと満面の笑顔でおでこをこつんとぶつけて来る。そのままくっつけて笑う。
一瞬こめかみ辺りの瘤に触れたかと、ヒヤリとした。見た感じ大丈夫だったみたいだ。
朝食後に俺は、前々から決めていた、湖に慎翔を連れて行くことにした。
突然の誘いにも、目をキラキラさせて行きたいと言う。
以前は風魔法で飛んで行っていたが、慎翔の転移のおかげで、楽に行けるようになった。
俺が初めてこの島に来たのは十四歳の時、十二で孤児院を出てギルドに冒険者として登録した。ランクも順調に上がっていた。
基本的にソロで行動していたので、ふらりと一人で長期で出かけることもしばしばあった。
認識阻害を自分にかけて空高く翔べば、誰にも気付かれる事は無かった。空高く風魔法で舞い上がり、翼を広げてどこまでも飛んだ。
ギルドの部屋を借りていたので、いなくなると、ウルススやディネルースに心配された。
しかし、思春期だったのか、自分の感情や力のコントロールが上手くいかない時があった。
ウワーッと大声で叫び出したい気持ちになり、全て壊したいという、激しい破壊衝動にかられた。
そういう時は空を全速力で飛んで、力の発散をしていた。
こうして世界中を空から旅していたのだ。
そんな時に見つけたのが、この絶海の孤島だった。
何日も飛んでもずっと海しかない状態で、疲れてしまった俺は、ほぼ無意識に羽を動かして飛んでいた。
ふと白い物がふわっと通り過ぎたような気がして、意識がはっきりした。
進むのを止めて、ホバリングする。
ほんのりと赤だったり金だったり、色んな色の玉がふわふわと俺の周りを飛んでいた。
「なんだ?これ。」
すると光る玉は俺を導くように前を飛んで行く。時々近付いてきて、ちょいちょいとこっちだよと引っ張られた。
疲れ果てて、それでも導かれて見えたのが、あの島だ。
たどり着いて、あの七色に光る湖を見た時は言葉を失った。
湖からほわほわと光る玉が出てきてる。
暖かかったり、冷たかったり、ビリッとしたり、玉によって色も印象も違った。
「もしかして精霊?」
俺のつぶやきに、周りの玉が金色に光る。喜んでるみたいだ。
きっとここは世界の始まりの場所なんだろう。
命の生まれる場所。
俺は湖のほとりでごろりと寝転ぶと、そのまま泥のように眠った。
人の生きる世界からは拒絶され、正体を隠して生きて行かなければならない。
世話を焼いてくるウルススにディネ、俺を隠しながらも育ててくれた老神父。
大事にしてくれた人がいたから、異形でも生きていけた。
だからといって苦しくなかったわけでは無い。
小さい頃孤児院で、一度だけ姿を見られた事があった。
十五歳くらいの少年と連れ立った子どもたち。初めて会った孤児院の他の子どもたちは、黒く角の生えた俺の姿に、恐怖で泣き叫んだ。
「大変だ、バケモノ。バケモノが出た。早く誰か。」
石が飛んできて、俺は慌てて逃げ出した。老神父の部屋の隠し戸棚の中に隠れて、声も出さずじっとしていた。
俺は「外に出てはいけない。」と何度も言った老神父の言葉がやっと理解できた。
その時の出来事は老神父がみんなの記憶を消してくれたので、事なきを得たが、俺は変身魔法が使えるようになるまで、その部屋から決して一歩足りとも外に出なかった。
老神父は俺の頭を撫でて、
「ジュード。お前は良い子だ。今は辛くても、いつか幸せになれるよ。」
と、いつも言っていた。
隠居した大神官だったと知ったのは、老神父が天に召されてからだった。
俺はぐっすりと休んで目を覚ますと、島の上空に飛んだ。
ナイフで腕を深めに斬りつける。
ボタボタと血が落ちるのをそのままに、島の周りをゆっくりと飛んで、自分の血を落としていった。
俺はこの島を誰にも渡したく無かった。
もしかしたら魔力の高い人間が空を飛んでやってくるかもしれないし、泳ぎの得意な海の獣人が来るかもしれない。
一周したところで、両手をパンっと合わせて一気に魔法を流し、島全体を覆う結界を作った。
そして認識できないように隠したのだ。
完全に結界が完成し、俺はそこで変身魔法を解いて、生まれたままの姿になった。
この閉じた島の中なら、どれだけ魔力を放出しても、誰にも迷惑はかからない。目一杯魔力を放出して、肉体と精神のバランスをとることができた。
今まで何度も気分転換に来ていたが、慎翔と出会ってからは、誕生日に連れてくるための視察に一回来ただけだ。
慎翔のおかげで後ろ向きに落ち込むことも少なくなった。
そして、今、俺の隣に慎翔が座っている。小さな敷物に身を寄せ合いながら、湖面の七色を楽しんでいる。
慎翔はこの景色を気に入ってくれたようだ。
ここに誰かを連れてくることが初めてであることを伝えると、また、とろけるような笑顔で喜んだ。
色々な事が初めての慎翔は、それらを一緒にすると、とても喜ぶ。
俺も知らないことだったりするから、お互いに初めてを楽しんでいる。今まであまり人と触れ合うことのなかった俺が、街の人間と気安く話すようになった。
全て慎翔のおかげだ。
精霊たちも歓迎してくれているようで、慎翔の周りをふわふわと飛んでいるが、俺の時より断然に数が多い。
そのことにもふっと笑いが漏れる。
穏やかな時間が流れる。
俺はこの場所の、静かな時間がとても好きだ。
そして慎翔がいる。とても幸せを感じた。
誕生日プレゼントを渡すなら、今だ。と、慎翔に向かい指輪の入った箱をそっと渡した。
これはヒノトとミコトが教えてくれた、あちらの世界での習わしだと。
「結婚する相手に渡すのが基本なんだけど、そこにどれほどの想いを込めるのかは、その人次第だよ。」
そうして作ってもらったのは金のリング。
俺の込めた想いはさぞかし重かろうと自嘲した。
渡す手は震えていないだろうか?
慎翔のイメージするカッコイイ俺で居られているだろうか。
俺は余裕のあるフリをして、慎翔に箱を開けさせた。
34
お気に入りに追加
325
あなたにおすすめの小説
【完結】イケメン高身長オメガな悪役令息を溺愛します。※主人公攻め
りゅの
BL
BL大好き腐男子だった俺は、気がついたらやりこんでいた男しかいない世界のBLゲーム『イケ恋』の攻略対象である、第一王子に転生していた。
中でも特にビジュが好きであった悪役令息がまさかの婚約相手!?
ならそのビッグウェーブに乗るしかねえ!
ってことで婚約者のために尽くしすぎる激甘ストーリーです。
※悪役令息がかなりスパダリ設定ですが、主人公が攻めです。固定
※ゆるいオメガバース設定
⚠️後半にエロ、男性妊娠があります。
感想くださるとモチベに繋がりますし、チョロいんでいっぱい投稿します。
2023/08/11 HOT女性向け33位ありがとうございます。
【本編完結済】転生歌姫の舞台裏〜ゲームに酷似した異世界にTS憑依転生した俺/私は人気絶頂の歌姫冒険者となって歌声で世界を救う!
O.T.I
ファンタジー
★本編完結しました!
★150万字超の大長編!
何らかの理由により死んでしまったらしい【俺】は、不思議な世界で出会った女神に請われ、生前やり込んでいたゲームに酷似した世界へと転生することになった。
転生先はゲームで使っていたキャラに似た人物との事だったが、しかしそれは【俺】が思い浮かべていた人物ではなく……
結果として転生・転性してしまった彼…改め彼女は、人気旅芸人一座の歌姫、兼冒険者として新たな人生を歩み始めた。
しかし、その暮らしは平穏ばかりではなく……
彼女は自身が転生する原因となった事件をきっかけに、やがて世界中を巻き込む大きな事件に関わることになる。
これは彼女が多くの仲間たちと出会い、共に力を合わせて事件を解決し……やがて英雄に至るまでの物語。
王道展開の異世界TS転生ファンタジー長編!ここに開幕!!
※TS(性転換)転生ものです。精神的なBL要素を含みますので、苦手な方はご注意ください。
ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?
望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。
ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。
転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを――
そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。
その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。
――そして、セイフィーラは見てしまった。
目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を――
※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。
※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)
よくある婚約破棄なので
おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。
その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。
言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。
「よくある婚約破棄なので」
・すれ違う二人をめぐる短い話
・前編は各自の証言になります
・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド
・全25話完結
お祭 ~エロが常識な世界の人気の祭~
そうな
BL
ある人気のお祭に行った「俺」がとことん「楽しみ」つくす。
備品/見世物扱いされる男性たちと、それを楽しむ客たちの話。
(乳首責め/異物挿入/失禁etc.)
※常識が通じないです
【完結】転生してどエロく嫁をカスタマイズした
そば太郎
BL
BL小説やゲームが大好物な俺が、仕事帰りに神様のミスで死んでしまった。神様からは、補償特典をつけて、異世界に転生させてくれるって。まじか?
俺は、、、俺が願うのは、、、エロい嫁が欲しい!お願い。神様、俺専用の嫁が欲しいです!
ガチムチ、男前、雄っぱいがむちむちな、すっごーいどエロい嫁が欲しいです!ちなみに、どエロい程度は俺基準です!
※主人公攻め 嫁一筋 浮気はしません!
※作者自身が、文章作成スキルを持ち合わせてないので、設定が甘かったり、文章がつたないのは、スルーしてください!すみません。
※キーワードが注意
※最初の方は、嫁不在のため、他CPのHがあります!両親のHもでてくるので。注意
※中盤以降マニアックプレイ気をつけてください!
※ムーンさんでも投稿してます!
運命のαを揶揄う人妻Ωをわからせセックスで種付け♡
山海 光
BL
※オメガバース
【独身α×βの夫を持つ人妻Ω】
βの夫を持つ人妻の亮(りょう)は生粋のΩ。フェロモン制御剤で本能を押えつけ、平凡なβの男と結婚した。
幸せな結婚生活の中、同じマンションに住むαの彰(しょう)を運命の番と知らずからかっていると、彰は我慢の限界に達してしまう。
※前戯なし無理やり性行為からの快楽堕ち
※最初受けが助けてって喘ぐので無理やり表現が苦手な方はオススメしない
【完結】二年間放置された妻がうっかり強力な媚薬を飲んだ堅物な夫からえっち漬けにされてしまう話
なかむ楽
恋愛
ほぼタイトルです。
結婚後二年も放置されていた公爵夫人のフェリス(20)。夫のメルヴィル(30)は、堅物で真面目な領主で仕事熱心。ずっと憧れていたメルヴィルとの結婚生活は触れ合いゼロ。夫婦別室で家庭内別居状態に。
ある日フェリスは養老院を訪問し、お婆さんから媚薬をもらう。
「十日間は欲望がすべて放たれるまでビンビンの媚薬だよ」
その小瓶(媚薬)の中身ををミニボトルウイスキーだと思ったメルヴィルが飲んでしまった!なんといううっかりだ!
それをきっかけに、堅物の夫は人が変わったように甘い言葉を囁き、フェリスと性行為を繰り返す。
「美しく成熟しようとするきみを摘み取るのを楽しみにしていた」
十日間、連続で子作り孕ませセックスで抱き潰されるフェリス。媚薬の効果が切れたら再び放置されてしまうのだろうか?
◆堅物眼鏡年上の夫が理性ぶっ壊れで→うぶで清楚系の年下妻にえっちを教えこみながら孕ませっくすするのが書きたかった作者の欲。
◇フェリス(20):14歳になった時に婚約者になった憧れのお兄さま・メルヴィルを一途に想い続けていた。推しを一生かけて愛する系。清楚で清純。
夫のえっちな命令に従順になってしまう。
金髪青眼(隠れ爆乳)
◇メルヴィル(30):カーク領公爵。24歳の時に14歳のフェリスの婚約者になる。それから結婚までとプラス2年間は右手が夜のお友達になった真面目な眼鏡男。媚薬で理性崩壊系絶倫になってしまう。
黒髪青眼+眼鏡(細マッチョ)
※作品がよかったら、ブクマや★で応援してくださると嬉しく思います!
※誤字報告ありがとうございます。誤字などは適宜修正します。
ムーンライトノベルズからの転載になります
アルファポリスで読みやすいように各話にしていますが、長かったり短かったりしていてすみません汗
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる