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新しい世界
47 仲良し
しおりを挟む「えっと、ジェレミア父さん。ベリタ母さん。」
「ふふふ。はい。マコちゃん。」
名前を呼ぶと、笑いながら返事してくれる。心がぽかぽかした。
ベリタ母さんは、にこにこしながらまたぽろりと涙を流した。
「お母様泣いてるの?」
少し離れたところでデザートを食べていたはずの、エリザベスがベリタさんの膝にくっついた。
「いいえ。悲しくて泣いたわけじゃないのよ。マコちゃんに呼ばれたら何故か涙が出ちゃったの。」
笑顔で答えるベリタ母さん。
ふと思ったけど、前は寝たきりで喋ることも出来なかったから、きちんと声に出して『母さん』と呼んだのは初めてなんじゃないかな?
もしかして記憶はなくても感じるところはあるのかもしれない。
「天使様のお父様とお母様はいないの?」
「いや。すごく遠いところにいるから、会うことは出来ないんだ。だからジェレミアさんとベリタさんに親代わりじゃないけど、呼ぶくらいは許してもらえるかな?って思ってお願いしたんだ。」
気付けばカミルとカレル、シーラとロリもベリタ母さんの周りに集まっていた。
「お父様、お母様って呼ばないの?」
シーラに聞かれる。
「そうだね。おれはただの庶民だから。お父さん、お母さんって呼びたいかな。」
そんなイイトコの子でもないから、気軽く呼びたい。
「じゃあ僕も同じ様に呼びたいです。駄目ですか?お父様、お母様。」
と、お願いしているのはカミルかな?
「それなら僕もよろしいですか?お父様、お母様。」
慌てて乗っかるのはカレルか。
この二人、肌は褐色で金髪、濃紺の瞳で、異国っぽい。
12歳って言ってたけど、もっと大人っぽく見える。
なんせおれより背が高い。別におれがちっちゃい訳じゃないはず、これから大きくなる予定。
ちょっと人見知りらしく最初は一歩離れて見ていた。
シーラとロリ、エリザベスの女子三人の勢いに押されているのかもしれない。
リオンさんは大人っぽいから保護者みたいな、先生みたいな感じ。
初めて会った時、リオンの隣でちょっと警戒しながら二人で立ってた。薄っすら黒い霧が見えた。
でも、あまりに女子三人とベリタ母さんが楽しそうに、おれと話すもんだから、段々とそわそわしだして、黒い霧は無くなってて。
「どうやって我が家に入ったんですか?」
ずっとこれが聞きたかったらしい。
まあでもおれに分かることなんてほとんど無いので
「えっと転移魔法?」
とだけ答えたら、二人とも目を輝かせて、結界を超える転移ってすごいですね!って、目をキラキラさせながら言われた。
ものすごく素直で良い子じゃないか。
この二人物腰柔らかいし、所作も丁寧で、かなりいいとこの坊っちゃんって感じがする。
メラーニ家に養子に入ったのがいつかは知らないけど、ここでの教育なのか、元々覚えてたのか。
エリザベスとロリを見る限り、躾にものすごくうるさいお家の子っていう訳ではなさそうなので、元々イイトコの子なんだろうと思う。
しゃべって気づいたのは、本当はかなり明るい子達なんじゃないかな?大人しくして目立たない様にしてる感じがする。
まあ見目が珍しいみたいだから、普通に目立ってるけど。他に褐色の肌の人見たことない。
まあ、その二人が珍しく庶民のくだけた呼び方が良いと言ってるわけか。育ちの良さを出したくない。ちょっとした反抗期みたいなものかな?
ベリタ母さんは笑いながら二人に言う。
「まあ、二人共。私達は別になんと呼ばれても大丈夫だけど、トーマスとダニエルは怒るかもしれないわね? 」
トーマスさんとダニエルさんってマサの店長と首都の副店長兼護衛だよね。
すると、二人は目に見えてもの凄く慌てだした。
「えっ!怒られますか?言葉遣いや礼儀作法に厳しいのですか?」
「そうねー。上下関係はきちんとしてないとね。言葉遣いは特に大事よね。」
どうもカミルとカレルはトーマスさんとダニエルさんに憧れているらしい。
「トーマ兄様はなんとお呼びしてますか?」
カレルはトーマスさんの事が
「エル兄様はお父様、お母様と呼んでますか?」
カミルはダニエルさんの事が好きってことか?
「うふふ。そうね、二人からはジェレミア様、ベリタ様って名前で呼ばれてるわね。」
歳近そうだもんね。父、母って呼びにくそう。
「ええー。それでは参考になりません。」
カミルが眉尻を下げる。
「戻ってきたら聞いてみればいいんじゃないかい?何と呼ぶのがいいか。」
ジェレミア父さんがにこやかに言う。
「お話できるお時間ありますか?お忙しくありませんか?」
カレルも眉を下げた。
「大丈夫よ。可愛い弟達に声を掛けられたら、きっと喜ぶわ。」
ベリタ母さんもにこやかに言う。
すると二人はモジモジしながらも
「じゃあ、お戻りになられて、お時間が出来たら、お声掛けしてみます!」
父さん、母さんって呼ぶって言ってたのに、呼ばないどころか、ものすごい丁寧な言葉遣いになってて、クスって笑っちゃった。
やっぱりこの二人めっちゃ高貴な身分の子なんじゃん?
「お母様、お姉様とはお話するお時間ありますか?」
横からもじもじと声をかけたのは、9歳のシーラだ。彼女からお姉様といえば、シントの店長のナタリーさんか。
なるほど、シーラの憧れはナタリーさんなんだね。大人の女性って感じだよね。スタイルも良いし。
子どもたちが次々と声を上げて、ベリタ母さんがにこやかに答える。
ときどきジェレミア父さんが入ってくる。
おれはみんなの話を黙って聞いてた。別に勢いに押されていたわけじゃない。
みんなの掛け合いは面白くってニコニコしながら見てただけだ。
カミルはダニエルさんみたいに戦えて、賢くなりたいらしい。
カレルはトーマスさんみたいに知力と魔法で強くなりたいらしい。
シーラはナタリーさんみたいに素敵な大人の女性になりたいって。
そしてロリはおれにこっそり教えてくれた。リオンのことをリオ兄様と呼んで、大好きなのって目にハートマークが出来てた。初恋だな。きっと。
本当にみんな仲が良くて、見てるこっちの心がぽかぽかする。
ふとジュードを見ると、ジュードも視線に気付いて、こちらを見てにこりと笑ってくれる。
「マコちゃんはジュードが好きなのね。」
そう面と言われてしまうと、なんだか恥ずかしい。
おれのそばにエリザベスが来た。
「エリザベスは誰か好きな人いる?」
みんなそれぞれに憧れてる人がいるから、なんとなく聞いてみる。
「ベス?ベスはみんなだいすき!あ、てんしさまはとくべつすきよ。」
おれのことを特別好いてくれるらしい。可愛らしい少女の告白にこっちも破顔する。
「あ、けど、とうさまとかあさまはもっとすきなの。」
そう言うと、ジェレミア父さんに飛びついた。四歳のエリザベスの体を難なく受け止めたジェレミア父さんは、エリザベスを抱き上げて
「そうだね。ベスも天使だよ。みんな私の宝物だよ。」
と、ぎゅっと抱きしめて頬ずりした。
そこにベリタ母さんもくっついて、両方からエリザベスのほっぺに頬ずりしている。
「私も大好きよー。エリザベス。」
エリザベスはものすごい興奮しながらキャハハハって喜んでいる。
周りのみんなもニコニコしながらそれを眺めた。それだけで幸せな気分になる。
メラーニさん家は本当に仲が良くて、愛が溢れてるな。とのほほんといつの間にか準備された、ゼリーを食べた。
大人組が別室で話し合っている間、食後のデザートタイムをのんびりと楽しんだのだった。
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