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新しい世界
41 お泊り
しおりを挟む向かい合わせに座り毛布に包まれてるおれを膝の上に乗せて、ジュードが教えてくれる。
「メラーニ様はこの国が王政だった時の王家の家系だ。世が世なら王様だな。」
え?ジェレミアさんって王様なの?
「そんなの過去の話だよ。何代前だと思ってるの。」
ジェレミアさんが苦笑いしている。
「まあ、色々と手広くやらせてもらってるから、権力は無いとは言わないけどね。」
「今はメラーニ商会の顧問をされてる方だ。メラーニ商会は国、いや世界一の商会かもしれない。」
そうなんだ。すごい人に助けてもらってたんだな。
「で、マコちゃんはどうしたい?」
ベリタさんに聞かれる。
ん?何が?あ、養子とか後見人とかの話?
「おれよくわかりません。でも、養子にはなれません。」
「なんで?兄弟になろうよ。」
と、カミルがいう。子供みんなでうんうんと頷きながら、こっちをじっと見る。
「え。だって、おれジュードと一緒にいたいし。」
思ったままに答える。腰に回された腕に力が入った。顔を見たら、嬉しいって書いてるみたいで、へへへって笑ってしまう。
「ふふふ。仲良しなのね。じゃあ後見人にしましょう。これはこの子を支援してますよ。って事だけど、マコちゃんは自分で色々出来そうだから、名前を利用してもらうって感じね。」
「そうそう。バックにうちがついてるって分かるだけで態度を変える人が結構いるよ。」
そうなんだ。と、ジュードを見る。
「どう思う?」
「いいんじゃないか?俺は権力は持ってないからな。頭を使うのも苦手だ。護るツテが多いのに越したことはないだろう。」
優しく微笑みながらそう言われると、そっかーって気になる。
おれも頭を使うのはたぶん苦手だ。もうちょっと勉強したら分かんないけど。
「じゃあ後見人でお願いします。」
って頭を下げる。
「でも何をしたらいいんですか?」
素朴な疑問。
「そうだね。うちの商会からの依頼を優先的に受けてもらうことと、戦利品の優先買い取りかな。ギルドの指定品は諦めるけど。」
「あと、マコちゃんのローブを売りたいわ。色が濃いのから薄くなっていくの珍しいもの。あと、このリボンと組紐もね。」
と、シーラとロリの髪をベリタさんが優しく撫でる。
「基本的に自由にしていいよ。犯罪者にさえならなければね。」
悪い事するつもりはないし、物を作るのもスキルがあるし、困る事はなさそう。
「分かりました。」
了承の返事をしたら、ジェレミアさんの後ろにいた執事さんが二枚の紙を持ってきた。
「この二枚は後見人の契約書だから、よく読んで両方にサインしてほしい。」
そう言われて見れば、二枚は同じ内容が書いてある。不思議そうに見てたら、ジュードが教えてくれた。
「お互いが一枚づつ持つんだ。」
「なるほど。」
理解出来たので、ペンを取ると中瀬慎翔と漢字で書いた。
「内容を確認しなくても良いのかい?」
ジェレミアさんに聞かれたけど、信用してるから読まなくても。
それよりも初めて契約書に名前を書いた事に、密かに感動していた。
慎翔ってお父さんとお母さんのつけてくれた名前。
前世では文字も書いたこと無かったから、ジュードと生活してる時にこの世界の文字を教えてもらって、名前書けるように練習したんだけど。
今、この契約書を見た時に、元の世界の名前を漢字で書いた。なんでかはわからない。
けど、今書かないとこの先書くことないかもって思った。
初めて書いたけど、ちゃんと漢字で書くことが出来たのが嬉しかった。
その文字を見ても誰も何も言わない。おかしいって思わないのかな?周りを見渡す。
みんなニコニコしてる。
「これでお兄ちゃん出て行かないよね?」
ロリに聞かれた。
「えっとジュードの家には帰るけど、…また遊びに来るよ。」
家に帰るって言ったら、みんなの顔が曇ったので、急いで付け加えた。
「そうね。いつでも来ていいのよ。」
話している間にジェレミアさんもサインしている。
「これで魔力を流せば完了なんだけど。本当に内容読まなくてもいいの?不利な条件とかついてるかもしれないよ。」
ジェレミアさんが心配そうに聞いてくる。
「いえ。ここまでしてもらって疑うなんてありえないです。信用してます。」
助けてもらって、ジュードも呼んでくれて。養子にしてもいいよなんて言ってくれて。
「そうかい。じゃあ契約だ。」
順番に魔力を流す。用紙がキラキラっと光って、元に戻った。
「じゃあこれが慎翔の契約書だよ。あとは後見人のマークだね。」
と、渡されたので、受け取るために手を出す。
すると手を掴まれる。左手の親指の爪に触れた。チリっと熱くなる。
熱さが収まったところで、爪を見るとメラーニ家の大きな鳥が羽を広げて、周りに蔦模様の入ったマークが爪の中にあった。
おお。すごい。
「すごい。紋章ですか?でもこれ爪が伸びたらなくなります?」
「そうだよ。うちの紋章だから、何かあったら見せればいい。爪じゃなくて、奥の皮膚に付けてるから、無くならないよ。普段は隠せるから、見せたくなったら魔力を通せばいい。」
なるほど、爪は伸びちゃうけど、その下に彫り込んでるらしい。これでおれの身元は保証されたわけだ。
「ありがとうございます。」
お礼を言うと
「じゃあ今日はお祝いね!泊まっていってくれるわよね。二人共。」
ベリタさんが嬉しそうに言った。
え?ジュードも?って驚いたけど、拒否できそうもない。ジュードを見ると、頷いてくれた。
もう一晩お世話になろう。
「じゃあ夕食までゆっくりしてて。ほら、みんなもまた後にしましょう。」
泣き疲れて寝てしまったエリザベスを抱いてベリタさんが、部屋から出るように促す。
子どもたちはみんなバイバイって手を振りながら出て行く。
子どもたちと一緒にリオンも頭を下げて出て行った。
「こちらマコト様のお荷物です。」
とメアリーさんが、おれの荷物や服の置かれた棚を指し示してくれた。
「あ、本当にありがとうございます。これからよろしくお願いします。」
「あ~。本当にマコちゃん。かわいい。よろしくね~。」
ベリタさんの抱っこしたエリザベスをジェレミアさんが受け取って、優しく抱き上げる。
「じゃあ、また夕食の時に。」
ジェレミアさんにベリタさんたちも部屋から出て行った。
「………。」
ジュードがおれの毛布を剥いでソファから床に立たせた。
寝間着にワンピースみたいなシャツを着てるだけのおれ。
めくれ上がって足が見えてるのが嫌なのか、毛布で絶対に見えないように巻きつけられてた。
「マコト。」
ソファに座ったままのジュードと目線の高さが同じくらいになる。いや、おれのがちょっと高い?
両手が伸びてきておれの頬を優しく包む。
泣きそうな顔してる。翠の目がキラキラしてる。
そっとジュードの顔が近づいてきて、チュッと唇が触れた。
ああ。ジュードにキスされてる。嬉しいな。
ポロッとまたおれの目から涙が零れた。おれって泣き虫だったのかな?こんなに泣くなんて思ってなかった。
自分からガバッとジュードに抱きつく。
「本当に無事で良かった。」
優しく頭を撫でながらそう言うジュードの頬に今度はおれが手を添える。
目の下に隈が出来てる。寝てなかった?
指でスリスリと下瞼を撫でる。
ジュードが静かに目を閉じる。
閉じた瞼に自分から唇を寄せる。ピクッと瞼が震える。
ゆっくりとジュードが立ち上がって、優しく抱きしめられる。
腕を背中に回して、胸に顔を埋めた。
二人共言葉もなく、動くことも出来ずに、お互いの体温を確かめるように、しばらくの間、抱きしめあってた。
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