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新しい世界

35 メラーニ家 2

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 ジェレミアさん達が出て行ったあと、ベリタさんが両手をパンと合わせて明るく言った。

「何か食べましょう。食べて元気にならないと。食べたいものはある?」 

「えっと、今はあんまり…。」

 今はぐらぐらするから食べたら吐くかもと、断ろうと思ったら、こんこんこんと可愛いノックの音が響いて、扉が小さく、そっと開いた。

「おかあさま。ベスもおみまいしてもいい?」

 扉の影からピンクブラウンのくるくる巻き毛と小さな手が見える。
 さっきベッドにいた子かな?

 ベリタさんがおれのを見て、「いい?」って聞くので、「いいですよ。」と答えた。

「良いわよ。入ってらっしゃい。エリザベス。」

 と、ベリタさんが優しく声をかけると、さっきの控え目さが嘘のように、バーンと大きく扉が開いて、ピンクの天使が飛び込んできた。そのままベッドにぽふんと飛び乗る。

「こら。エリザベス。靴はお脱ぎなさい。」

 ベリタさんが白い靴を脱がせてあげてる。怒るとこ、そこ?

「はーい。ごめんなさい。」
 
 謝りながらもピンクの天使は、満面の笑みでおれを見てる。

「てんしさま。とってもすてきねー。かわいいしきれいねー。」

 天使に天使と呼ばれてしまった。つられて笑顔になる。
 ふと扉を見ると、まだ人影がある。

「にーさま。ねーさま。ベスといっしょにおみまいしましょうっておはなししてたの。いーい?」

 おれの横にちょこんと座った天使に不安げに聞かれて、うんと頷く。すると天使がぱぁっと目を輝かせて、

「にーさま。ねーさま。てんしさまがどうぞって。」

 と大きな声で扉に向かって呼びかけた。

 するとぞろぞろと少年少女が入ってくる。

 男の子が二人、女の子が二人。みんなおれよりも年下の子供達だ。
 最後におれよりも年上っぽい男の人が入ってくる。

「結局子どもたちがみんな来てしまったのね。」

 ベリタさんが呆れたように言う。

「すいません。お母様。エリザベスがあまりに綺麗な天使様と褒めるので、みんな行きたがってしまって。僕には止めることは無理でした。」

 一番年上の青年が言う。
 おれは驚いて固まったままだ。

 え?綺麗な天使っておれのこと?

「ごめんなさいね。驚いたでしょ?私の子どもたちよ。」

 え?全員?お兄さんとベリタさんは姉弟でもいけそうだけど?
 それにみんな顔面偏差値がものすごく高い。カッコイイし可愛い。

 驚いて固まっているとベリタさんが説明してくれた。

「うちはね、孤児を引き取って養子にしてるの。」

「そ、そうなんですか。」

 養子って実の親じゃ無いってことだよね。確かにみんな顔が似てないし、色が違う。男の子二人はそっくりだけど。

 するとベッドの上に陣取ったエリザベスがおもむろに立ち上がった。

「わたしエリザベス。よんさいになったの。ごあいさつもれんしゅうしたのよ。」

 ベッドの上に立ち上がったエリザベスはピンクのヒラヒラワンピースの裾をつまんで、可愛らしいお辞儀を披露してくれた。

「可愛いごあいさつ、すごいね。エリザベス。こっちこそよろしくね。」
 
 それから次々と自己紹介される。

「はじめまして。カミル・メラーニと申します。」
「双子の弟のカレル・メラーニと申します。」

 12歳の双子の兄弟、カミルとカレル。褐色の肌に黄色が濃い金髪なので目立つ。目は宵闇の紺色。双子なのでそっくりだ。

「私はシーラ・メラーニと申します。」
「ロリ・メラーニともうします。」

 黒に近い紺色の髪に、目も濃い青の9歳の女の子、シーラ。
 緑がかった髪色に濃い目の緑の目の6歳の女の子、ロリ。

「体調が悪いのにお騒がせしてすいません。リオン・メラーニです。よろしくね。」

 本当に申し訳無さそうに自己紹介をする青年は年長者のリオン。赤髪の薄い紫色の瞳で、歳は19歳だった。

「すいません。お邪魔してます。中瀬  慎翔です。よろしくお願いします。」

 おれは落ち着いてあいさつが出来た。何故なら、みんなに負の感情は全く見られないから。
 それどころか、なんかホカホカして頭が痛かったのが楽になった。
 エリザベスが頭をよしよししてくれたからだろうか。
 他の子も口々に大丈夫?と言いながら、お見舞いにと飴をくれた。

 市場でジュードと買ったのと同じ包み紙のやつだ!

「ありがとう!」

 ジュードの事を思い出して、嬉しくて、素直にニッコリお礼を言うと、みんなが目をまん丸にして固まってた。

 気がついたら周りがキラキラしてる。
 あっ、おれからキラキラ漏れてる!

 嬉しくなったりすると、キラキラが漏れだす事があって、なるべく出ないようにジュードと練習していたんだけど。
 軽い魅了の効果(好意を持つ程度らしいけど)があるからあんまりたくさんキラキラ出ると良くないって言われてたんだ。
 
 ついつい嬉しくて溢れちゃった。慌てて止めたから、もう出てないけどね。悪意を飛ばしてくる人にはこっちが嬉しくなったり、楽しくなったりしないから出せないけど。

「ベスの言うとおり、確かに天使だね。すごいよ。」

 リオンは目を見開いたままそう言った。
 
 こう言う風に、誰かと話したり、コミュニケーションをとるのは、ジュード以外にほとんどしたことない。
 今の自分の対応が、正しいのかもわからない。すごいドキドキする。嫌われてはいないみたいだけど。

 ドキドキしながらも、おれは何かお礼がしたいと思って、すっと集中してから手を開く。

 創造のスキルで作った、色とりどりの組紐とリボンだ。
 この世界の人たちは男女構わず髪が長い。髪の長い男の人はだいたい後ろでひとつに縛っている。女の人は色んな髪型を楽しんでいる。
 きっとリボンや組紐は需要があるだろうと思ったのだ。

「うわあ。すてきね。ピンクのリボンもあるわ。」

 思ったとおり、エリザベスをはじめ、子どもたちはみんな大喜びだ。
 カミルとカレルはやはり組紐が気に入っていた。
 シーラとロリは青のリボンと薄緑色のリボンを選んでいた。

 しかし、ベリタさんとメアリーさん、リアンさんは目を大きく見開いてる。

「…マコちゃん。スキル持ちだったの?」

 ぽそりと聞かれる。

 そこでおれは気がついた。
 
 あっ。ジュードと二人の時みたいに、気にせず出しちゃった。

 どうしよう。そういえばスキルのことは内緒だとジュードに言われたっけ。
 
 もう出しちゃったから、黙っとくわけにはいかないんだろうけど、この場合どっちのスキルを言えばいいんだろう。

 創造とアイテムボックス。

 さっきのリボンは創造で作ったものだけど、手から出したから、気付かれてない?
 ジュードも創造のスキルは聞いたことないからと、ギルドでも内緒にしたくらいだ。

 ということは、もしもバラすならアイテムボックスかな。

「えっと、あの、なんかアイテムボックスっていうの使えます。」

「!!!」

 三人の驚き方がすごいから、ものすごい不安になってきた。

「お母様。ちょっと急用ができたので、僕達はこれで失礼します。マコト君もゆっくり休んでね。
ほらほら。みんなも行くよ。」

 急にリアンさんは渋る兄弟たちを連れて部屋から出て行ってしまう。
 またベリタさんとメアリーさんとの三人になった。

 二人は黙っておれを見てる。


 もしかしなくても、おれ、やらかしたかも。
 
 どうしよう。
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