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新しい世界

27 ギルド

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 ジュードに抱きかかえられたまま、フードをかぶり直すとギルドの部屋から出ていく。
 ジュードの肩越しに残る三人に手を振る。
 ウルスさんは片手を上げて、ディネさんは片手を振って、アーノルドさんはきっちり直角に腰を折りお辞儀してくれた。
 ジュードも振り返り軽く一礼して扉を閉めた。ジュードと目が合うと二人共ぶふっと笑い合う。

「あー緊張した。」

「大丈夫か?」

 なんかよく分かんないけど、緊張すると笑いそうになる時あるよね?笑う気はなかったけど、ジュードの顔を見たら急に吹き出しちゃった。
 それにしても人と話すってなかなか慣れないなって思う。よくよく考えたらこの世界の人ってジュード以外話したこと無かったわ。

 おれをそっと降ろしてくれる。

「どうする?ギルド見てみるか?」

「うん。素材も売るんでしょ?」

「そうだな依頼でちょうどいいのがあれば、納品もしたらいいだろ。クエストの達成にもなるし、一石二鳥だ。」

 さらに気がついたんだけど、前世は寝たきりだったから、家族以外とコミュニケーション取れなかったんだよね。ちゃんと話せたの燈翔と心琴だけだし。
 そう考えると、段々不安になってきた。コミュ障じゃないとは思うけど、ちゃんと話せるかな?

「どうした?不安だったら、今日はやめとくか?」

 おれの不安に、なんですぐ気がついてくれるんだろう?

 ジュードはいつも顔を目線まで持ってきてくれる。しゃがんでくれたり、腰を曲げたり。
 今だって両手をきゅっと握って正面にしゃがんでくれてる。

「ううん。たぶん大丈夫。ちゃんと人と話せるかなって、不安になっただけ。」

 素直に言うと

「あのいかつい顔に、ちゃんと挨拶出来たんだ。他の奴らはもっと話しやすいと思うぞ。」

 そうして怒ったような変顔を見せてくる。

「はははは。なにそれ。もしかしてウルスさんの顔マネ?」

 ジュードに笑わされて、なんか緊張がほぐれた気がする。

「ありがと。ジュード。もう大丈夫。」

「そうか?」

 そう言いながら、おれの頭を撫でてぽんぽんしてくれる。このなでぽんはかなり効果のある精神安定剤だ。

「うん!」

 そう言って、立ち上がったジュードの腕に、腕を巻きつけた。

「じゃあ行くか。」

「うん!」

 早速大広間に戻った。
 受付で依頼を受けたり、結果報告したりする。素材の鑑定もここだ。あと食堂も併設してるから、朝の混み合う時間を過ぎたお昼前でも人が多くてザワザワしてる。
 しかもジュードは有名人みたいで、みんながジロジロとこちらを見てる。
 ジュードは全く気にしてないみたいで、受付前に立てられた掲示板に向かっていく。おれはその後ろを服の裾を握って付いていく。

「ランクごとに依頼が貼ってある。そこから条件に合う依頼を受けるんだ。」

 そう言われて、掲示板を見る。

 Fランクはダンジョンには入れないから、FランクとEランクは薬草の採取や日雇いの手伝いみたいなのが多いらしい。
 掲示板には紙が歯抜けみたいに貼ってある。受けたい依頼があればその紙を剥がして受付に持って行くから、歯抜けみたいになるんだって。

 ジュードが素材依頼で持っているもののが無いか探している。
 薬草の買い取りは常時受け付けてるから、紙は持って行かなくてもいいらしい。おれも採取した薬草を出すことにした。

 周りの視線はものすごいのに、誰も近付いては来ない。遠巻きに見られてるのは落ち着かないけど、ジュードも気にしてないみたいで、そのまま受付に向かった。

「こんにちは。お疲れ様です。ジュードさん。今日はどうしますか?」

 ジュードは紙とカードを渡す。

「ワイバーンの素材を持っている。それとこの子の依頼も頼む。」

 おれの肩を掴んで軽く前に押し出してくれる。たぶんおれは顔が引きつってたんだろう。受付のお兄さんはおれを見ると、にこりとしてくれた。ちょっとホッとする。

「あ、あ、あの薬草をいくつか持っているので買い取りお願いします。」

「はい。ではギルドカードかタグを出してください。」

「あ、はい。タグです。」

 そう言いながら、ネックレスを外そうとすると、受付のお兄さんが手を振ってそれを止めた。

「ああ、タグならこっちの受信機で確認できます。タグを軽く掲げてくれますか?」

 チェーンを引っ張りタグを前に出す。街の門番さんが持ってたのとよく似た、四角い板みたいなのを近づける。タグの人はこれで確認できるから、外さなくて良いのか。
 魔道具みたいだけど、便利だな。

「はい。確認できました。名前はどうお呼びしますか?」

 そう聞かれて、おれは咄嗟に

「あ、ナカセでおねがいします。」

 と答えていた。

 マコトは仲の良い人、信用できる人だけにしよう思ったのだ。
 ジュードを見ると、頭をナデナデポンポンしてくれた。間違って無いらしい。

 腰のポーチから出すふりして、薬草を出す。ジュードにやり方を聞いて10本をひと束にしている。それを3つ出した。2つは自分で採取したもので、ひとつは創造のスキルで作ったものだ。偽物ってわけでは無いけど、見破れるのかドキドキしてしまう。

 受付のお兄さんはそれを手に取って見た目を確認して、机に戻した。

「はい。確かに薬草ですね。鑑定結果も間違いありません。状態もとても良いですね。助かります。」

 さっきの間に鑑定魔法まで使っていたらしい。実はかなり有能な人みたいだ。
 確かにカウンターには受付窓口がいくつも並んでいる。その中でジュードは迷いなくこのカウンターを選んでいた。ジュードと同じくらいの歳っぽい、蒼い髪に蒼目のお兄さんだ。きっとこの人は信用できる人なんだろう。
 
「報酬は手渡しにしますか?ギルドに預ける事も出来ますよ。出し入れは各地のギルドで、カードやタグがあればいつでも出来ます。」

 銀行的な役割もあるらしい。
 だけど初めての報酬なので現金でもらうことにする。

「手渡しでおねがいします。」

「はい。かしこまりました。」

 そう言うと銀貨6枚と銅貨4枚さらに小さな銅貨を10枚、机に並べた。使いやすいように両替してくれてる。有能だ。

 うわー、初めてお金に触ったー。
 自分の稼いだお金かと思うと、嬉しくてニマニマしてしまう。

 おれはそれを大事に小さな巾着袋に入れた。ぎゅって握りしめてからポーチの中にしまった。
 受付のお兄さんもその様子をにこやかに見ていた。

 そのままジュードの買取になる。なんか色々と話しているけど、専門的過ぎて、おれにはまだ理解できなかった。
 ただ、さっきまでにこやかだったお兄さんが青い顔になって、ヒュッと喉を鳴らした。机の上に何か道具を置いてばんっと叩いた。
 とたんに周りの声が聞こえなくなった。防音の魔道具らしい。

「なんですか、この討伐記録。エグい数になってますけど。」

 カタカタ震えてるけど、動揺してる?

「{真実の迷宮}での記録だな。宝箱から素材が出たんで、ワイバーンの素材を出したい。」

「えええ。そんな簡単に言うし。何?古龍って。そんなん出たの?おかしくない?一体何回ダンジョン入ったの?討伐数がおかしいって。」

「あの迷宮ならありえる話だろう。」

 顔は全く今まで通りで、でも動揺してるみたいで、口調が敬語じゃなくなってる。

「しかもこんだけ倒して、レベルは上がってないとか…。」

 レベルを上げたら強くなるんじゃなくて、戦ったり、熟練度や経験が増えて強くなることでレベルが上がるらしい。
 ジュードはバッタバッタと敵を倒しまくったらしい。めっちゃ経験積んでさらに強くなってるのに、レベルは上がってないんだって。

「ジュードすごいねー。」

「まあレベルなんて迷宮案内人の仕事するときの目安みたいなもんだからな。」

 そう言いながら、お兄さんに早くしろと急かしている。

「俺の昔からの知り合いだ。」

「せめて友達って言って。どうもアスターって言います。よろしく、ナカセ。」

 蒼い髪のお兄さんがニコリとおれに笑いかけた。








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