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丸井秋斗
retry13:こんな風に笑うのか
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そして、この日もミカたちは共に下校する。その輪の中に当然のように丸井も加わっていた。初めは納得していなかった彼だが、渋々付き合っている。
「マルマルはホントいい子だよねー」
不意に望杏がしみじみと言う。それにリイとミカは頷いた。
「そうですね!丸井さんみたいな人がお兄ちゃんだったら良かったです」
「確かにね」
「えー、じゃあオレがマルマルの弟になる」
「素敵な兄弟になりますね!」
「おい、何勝手に盛り上がってんだ」
こんなやり取りにも無視をせず付き合うあたり、やはり人がいいのだろう。そういえば、望杏に対してもリイに対しても丸井は初めから偏見なく付き合っていたなとミカは思った。
「ねえ、ミカちゃんもマルマルの妹になりたいでしょー?いっぱいお菓子とか買ってもらえるかも」
「誰が買うかよ」
話を振られたミカは丸井を見つめる。彼を兄に?それよりも、ミカにはなりたい関係があった。それは、望杏やリイと共に過ごして育んだ感情。
「私は、友達になりたいかな」
柔らかい声で発言したミカを3人は見る。
「友達なら、丸井のピンチにいつでも駆けつけられる」
「はぁ?意味わかんねー」
丸井は心底理解できないという風に顔を顰める。前もここで突っぱねられた。でも、今は違う。ミカは確信していた。
「なら、オレも友達になるー。ね、マルマルいいよね?」
「え!てっきりもうお友達かとばかり……それでは改めて、私もお友達になりたいです」
今回は1人じゃない。望杏もリイもいる。3人から言われた丸井はぐっと悩むように歯を食いしばり、数秒して何かを諦めたかのように首を縦に振った。
「あー、わかった。わかったから。もう好きにしろよ」
「やったー。それじゃあ、オレたち友達だね」
「嬉しいです!よろしくお願いします、丸井さん!」
望杏とリイのはしゃぎようを見て、ミカも微笑む。それに気づいた丸井は顔を顰めた。しかしそんな表情をしていながら、内心喜んでいるのがミカにはわかった。
ーーよかったな、丸井。嬉しい時に素直になれないなんて、損だぞ?
ミカは以前とは違う展開に少し心を弾ませた。
丸井の曲作りは順調そうで、よく望杏がパソコンを覗き込む姿が増えた。リイは試作の音源を聴かせてもらい大興奮で「素敵!」を連呼していた。その度に丸井は悪態をつきながらも、満更でもない様子で、口の端を上げて笑っていた。その光景にミカは安心する。
まず、丸井自身が自分の夢に対して向き合わないとならない。その為に望杏やリイの存在は彼にとって力になる。
ーーこのまま、何も起きずにいけばいい。
そう思った翌日。あの夜と同じ光景がミカの目の前にひろがっていた。夜に公園のベンチで項垂れる丸井。何があったのかは知っている。ミカは今度こそと気合いを入れて、丸井の前に立った。
「ーーピンチに駆けつけられたかな?」
そんな風に少し揶揄うと、丸井がゆっくりと顔を上げた。
「……なんだよ、それ」
丸井のその顔にミカは息を呑む。なぜなら、彼の顔には諦観の念が見てとれたから。心の杭はヒビが入り始めていた。
「……親に、バレた」
「そうか」
「博打うちの最悪な息子になっちまった」
「そうなのか」
ミカはただ、肯定する。全て吐き出させて、それから丸井を救うために。あの言葉を言わせるために……。そう静かに待つと、前回と同じような丸井が彼自身を否定する言葉を呟く。
「もう……はじめからっ、夢なんてみなきゃ良かったんだ……」
「ーーそれは、君の本心じゃないだろう?」
ミカは凛とした声で遮った。ヒビがこれ以上入らないように、丸井が自分を否定しないように。
「……本心じゃなかったら、なんなんだ?それこそ全部手遅れだ」
「いいや、違う。君は自分の言葉で親の期待に応えられないのが悲しかったんだ。だから親に期待されそうな言葉を選んでいたんだろう?でも、それは君自身が本当にしたいことではなかったから、ずっと苦しかったんだ。だからずっと隠していた」
ミカの言葉に丸井は目を見開く。そしてすぐに顔を歪めた。その反応を見て、やはりそうだったかとミカは確信する。
「これからも、大切なそれを選びたいなら嘘をつくな」
ミカの言葉は真っ直ぐだった。丸井は鼻で笑いミカのことをバカにする。
「嘘つかなきゃ、親も悲しむ、誰も認めないんだ、堂々となんていえるか」
「ちがう!他の人にじゃない、自分自身に嘘をつくな!」
丸井は驚く。周りを気にして確かに堂々と好きだと公言できていなかった。自分のことなのに……。その姿を見透かされていたのだ。
「君のことを大切に思ってくれてる人たちなんだろう。そんな人に嘘をついて辛いのだろう。だからって、全部を否定するな。君が好きと認めなければ、君の心は救われない」
凛としたミカの声が丸井にスッと入り堕ちていく。丸井は今にも泣きそうな顔で呟いた。
「……好きでいて、いいのか?」
「当たり前だ。君の未来は君のものだ」
その言葉に丸井の中で、両親に嘘をつき続けていた心が救われた気がした。
「だから、選ぶんだ。自分のしたいことを」
ミカに諭されて丸井はああ、そうか。そうだったのか……。俺は、俺のために曲を作っていいんだと、初めて自分自身を肯定した。
両親からの期待、自分自身の責任感。そんなものを全て取っ払い彼は前を向く。
「そんなの、決まってる」
小さく、泣きそうな顔で笑う丸井はようやく自分の夢に向き合った。その途端、彼の心の杭が綺麗に消えていた。
ーーああ、彼はこんな風に笑うんだなぁ……。
ミカはその顔を見てたまらなくなり、微笑んだ。彼の夢にはまだまだ問題が多い。けれど、この瞬間ミカは“友達として”支える。そして声には出さないが、言ってのけた。
ほら、君を救えた……と。
「マルマルはホントいい子だよねー」
不意に望杏がしみじみと言う。それにリイとミカは頷いた。
「そうですね!丸井さんみたいな人がお兄ちゃんだったら良かったです」
「確かにね」
「えー、じゃあオレがマルマルの弟になる」
「素敵な兄弟になりますね!」
「おい、何勝手に盛り上がってんだ」
こんなやり取りにも無視をせず付き合うあたり、やはり人がいいのだろう。そういえば、望杏に対してもリイに対しても丸井は初めから偏見なく付き合っていたなとミカは思った。
「ねえ、ミカちゃんもマルマルの妹になりたいでしょー?いっぱいお菓子とか買ってもらえるかも」
「誰が買うかよ」
話を振られたミカは丸井を見つめる。彼を兄に?それよりも、ミカにはなりたい関係があった。それは、望杏やリイと共に過ごして育んだ感情。
「私は、友達になりたいかな」
柔らかい声で発言したミカを3人は見る。
「友達なら、丸井のピンチにいつでも駆けつけられる」
「はぁ?意味わかんねー」
丸井は心底理解できないという風に顔を顰める。前もここで突っぱねられた。でも、今は違う。ミカは確信していた。
「なら、オレも友達になるー。ね、マルマルいいよね?」
「え!てっきりもうお友達かとばかり……それでは改めて、私もお友達になりたいです」
今回は1人じゃない。望杏もリイもいる。3人から言われた丸井はぐっと悩むように歯を食いしばり、数秒して何かを諦めたかのように首を縦に振った。
「あー、わかった。わかったから。もう好きにしろよ」
「やったー。それじゃあ、オレたち友達だね」
「嬉しいです!よろしくお願いします、丸井さん!」
望杏とリイのはしゃぎようを見て、ミカも微笑む。それに気づいた丸井は顔を顰めた。しかしそんな表情をしていながら、内心喜んでいるのがミカにはわかった。
ーーよかったな、丸井。嬉しい時に素直になれないなんて、損だぞ?
ミカは以前とは違う展開に少し心を弾ませた。
丸井の曲作りは順調そうで、よく望杏がパソコンを覗き込む姿が増えた。リイは試作の音源を聴かせてもらい大興奮で「素敵!」を連呼していた。その度に丸井は悪態をつきながらも、満更でもない様子で、口の端を上げて笑っていた。その光景にミカは安心する。
まず、丸井自身が自分の夢に対して向き合わないとならない。その為に望杏やリイの存在は彼にとって力になる。
ーーこのまま、何も起きずにいけばいい。
そう思った翌日。あの夜と同じ光景がミカの目の前にひろがっていた。夜に公園のベンチで項垂れる丸井。何があったのかは知っている。ミカは今度こそと気合いを入れて、丸井の前に立った。
「ーーピンチに駆けつけられたかな?」
そんな風に少し揶揄うと、丸井がゆっくりと顔を上げた。
「……なんだよ、それ」
丸井のその顔にミカは息を呑む。なぜなら、彼の顔には諦観の念が見てとれたから。心の杭はヒビが入り始めていた。
「……親に、バレた」
「そうか」
「博打うちの最悪な息子になっちまった」
「そうなのか」
ミカはただ、肯定する。全て吐き出させて、それから丸井を救うために。あの言葉を言わせるために……。そう静かに待つと、前回と同じような丸井が彼自身を否定する言葉を呟く。
「もう……はじめからっ、夢なんてみなきゃ良かったんだ……」
「ーーそれは、君の本心じゃないだろう?」
ミカは凛とした声で遮った。ヒビがこれ以上入らないように、丸井が自分を否定しないように。
「……本心じゃなかったら、なんなんだ?それこそ全部手遅れだ」
「いいや、違う。君は自分の言葉で親の期待に応えられないのが悲しかったんだ。だから親に期待されそうな言葉を選んでいたんだろう?でも、それは君自身が本当にしたいことではなかったから、ずっと苦しかったんだ。だからずっと隠していた」
ミカの言葉に丸井は目を見開く。そしてすぐに顔を歪めた。その反応を見て、やはりそうだったかとミカは確信する。
「これからも、大切なそれを選びたいなら嘘をつくな」
ミカの言葉は真っ直ぐだった。丸井は鼻で笑いミカのことをバカにする。
「嘘つかなきゃ、親も悲しむ、誰も認めないんだ、堂々となんていえるか」
「ちがう!他の人にじゃない、自分自身に嘘をつくな!」
丸井は驚く。周りを気にして確かに堂々と好きだと公言できていなかった。自分のことなのに……。その姿を見透かされていたのだ。
「君のことを大切に思ってくれてる人たちなんだろう。そんな人に嘘をついて辛いのだろう。だからって、全部を否定するな。君が好きと認めなければ、君の心は救われない」
凛としたミカの声が丸井にスッと入り堕ちていく。丸井は今にも泣きそうな顔で呟いた。
「……好きでいて、いいのか?」
「当たり前だ。君の未来は君のものだ」
その言葉に丸井の中で、両親に嘘をつき続けていた心が救われた気がした。
「だから、選ぶんだ。自分のしたいことを」
ミカに諭されて丸井はああ、そうか。そうだったのか……。俺は、俺のために曲を作っていいんだと、初めて自分自身を肯定した。
両親からの期待、自分自身の責任感。そんなものを全て取っ払い彼は前を向く。
「そんなの、決まってる」
小さく、泣きそうな顔で笑う丸井はようやく自分の夢に向き合った。その途端、彼の心の杭が綺麗に消えていた。
ーーああ、彼はこんな風に笑うんだなぁ……。
ミカはその顔を見てたまらなくなり、微笑んだ。彼の夢にはまだまだ問題が多い。けれど、この瞬間ミカは“友達として”支える。そして声には出さないが、言ってのけた。
ほら、君を救えた……と。
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