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第96話 どうするか、どうしたいか

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「今日は皆に話があるから、夜に集まる様に伝えといてくれるか?」

「うん!」

 十月に入ったある日、俺は五子にそう頼んで眠りに就いた。
 そして目を覚ますと、目で認識している限りのあやかしが全員集合して、俺の顔を覗いていた。
 これは、なかなかに画が煩いぞ。
 特に河童がグイグイ来てるのが煩いのだが、どこかへ行ってくれないだろうか。

「寝たままですまんな。今日、皆に集まって貰ったのは他でもない。
 このたび俺、後藤永海は参院選に立候補する事を決めた。
 ついては、皆にも手厚いサポートと応援をお願いしたい」

 パチパチパチと五子の拍手だけが響く。
 どうやら俺は今、盛大にスベリ散らかしてしまったらしい。
 これが魂の剥離の弊害か。
 体と心の繋がりが細くなると、面白さすらもどこかに無くしてしまうのか。

『アホか』

 シンプルに否定された。

「冗談はさておき、話ってのは皆の今後についてだな。
 気付いているだろうが、俺はもう、そんなに長くない。
 俺が居なくなった後に、皆がどうするのか。それを各自で決めといて欲しいんだ」

 座敷童の一子、二子、三子、四子 五子。
 家鳴に河童一号から九号に震々に狼のポチに加夫羅太伊のミミズ達。
 人魂に鬼火に毛玉に金の玉に大蝦蟇に蛇。
 葉っぱを着てる緑、黄緑、深緑に桜に垢なめ。
 他にも見えない奴らや、俺が認識してない奴らも、沢山集まっている事だろう。
 後はまあ、雪女もな。

 こいつらはきっと、俺がいるから集まってくれたあやかし達だ。
 だから、俺が遠くない将来に死んだ時、どうするのか、どうしたいかを、考えておいて貰いたい。
 もしもこのまま、皆でここに留まりたいと言えば、俺が逝った後も山を売らずに残してくれるよう、永空に頼んでみるつもりだ。
 そもそも話をした所で、どれだけのあやかしが理解をしているのかはわからないが、こいつらは俺の気持ちを汲んで動いてくれるぐらいなので、きっと伝わるだろうと信じている。

「私は帰るぞ。ここは暑くて住みやすい場所では無いからな。
 やはり、私のホームタウンは北極だと思うんだ」

 え?お前って北極から来たの?

 早速、意思表示をしてくれた雪女が、北極住みだった事が判明した衝撃。
 そもそも北極って陸地が無いから、ホームタウンって表現は当てはまらなくねぇか?
 と言うか、北極から来てたんだったら、冬以外ずっと暑い暑い言ってたのも納得出来るな。

 色々と腑に落ちたところはあるが、雪女は山から去るって事で決まりだな。
 きっと俺がいなくなるまでは居てくれるんだろうから、寂しい気持ちは無い。
 どうやって海を渡ったのか興味はあるが、多分海を凍らせて、スケートみたいにして滑ってきたって所だろう。

「雪女以外はどうする?」

 俺の問い掛けに、皆がふるふると首を横に振った。
 首とは言っても、首の無い奴らは体ごとだけどな。
 どうやら皆、決めかねてるって感じなのかもしれない。

「パパ!」

 五子は話の内容を理解出来ていないのか、掛け布団の上に寝ころんで、あははと笑う。
 体を動かすのは正直言って大変だが、どうにか右腕一本だけ動かして五子の頭を撫でた。

「皆、どうするか考えておいてくれ。
 その日がいつ来るかは、俺にもわからないからな」

 そう言って話を締めて、瞼を閉じる。
 俺を取り囲んだあやかし達の気配は、眠りに就く、その時まで消える事は無かった。
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