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第65話 ニンニクを食おう

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 家庭菜園で収穫された野菜の中に、ニンニクが混ざった。
 これはもう、調理して食えという天啓だろう。
 仏教徒が天啓って言葉を使うのは正しくない気もしないでもないが、気にしてはいけない。

「ニンニクって食い過ぎると腹が痛くなるのが難点だよな。
 折角旨い料理を作っても、腹を痛めたら元も子もない」

『我は幾らでも食えるから安心しろ』

 化け狐には腹痛って概念が無いからな。
 確か、ニンニクの摂取量の目安は一日四片だったか。
 その程度だと、あっという間に食っちまう。

「けどなぁ、手の込んだ料理はやりたくないからホイル焼きで良いな」

『焼き芋と似たようなものか?時間が掛かりそうだからさっさと作れ』

「はいはい」

 生ニンニクを使ったホイル焼きの作り方は、、、説明すら必要無いぐらいに簡単だ。
 アルミホイルで包んで囲炉裏の灰の中にぶち込む。
 囲炉裏でニンニクのホイル焼きなんてレシピは出てこないが、手順としてはこれで間違いないだろう。
 普段から料理をする奴ってのは、レシピに頼らずとも感覚で調理出来てしまうのだよ。

『そんな事を言って、昨日は鍋を焦がしていたな』

「おい」

『一昨日は火を通したのに、殆んど生野菜みたいな食感だったではないか』

「おい、言うな」

『三日前だったか。食えない様な濃い味付けにして、童どもに残飯処理をさせたのは』

「だまらっしゃい!」

 確かに、ここ最近は連敗が続いているけどな。
 流石にニンニクのホイル焼きで失敗する俺じゃない。
 だって焼き芋みたいなもんだろ?
 良い匂いがしてきたら取り出して、皮を剥いて食えば良いだけだ。

 そんな訳で、土を落として鱗茎の部分だけにしたら、アルミホイルに包んで灰の中にダイブさせた。
 これで勝利が確約されているのだから、気楽なもんだな。

 実はニンニクに関しては、作るのに結構な手間が掛かった。
 何せ俺はよく調べもせずに、あやかし任せで野菜を作っているので、未だ野菜の栽培に関しては素人以下だ。
 これだけは自信をもって言い切れる。

 そんな素人以下の俺と、水撒きや収穫をするだけの河童で管理をしているのだから、予期出来る問題を回避出来ないって事態が普通に起こる。
 ニンニクに関して言うと、一度見慣れない葉野菜が収穫された時があって、よく見て見たら葉ニンニクだった。
 まあ、葉ニンニクも炒めて食ったら普通に旨かったが、ニンニクの風味は薄く、甘みが強い味わいでニンニクらしくはなかったかな。

 この失敗を糧にして、俺はニンニクの栽培方法を初めて調べた。
 すると成長過程でわき芽を取ったり、花芽を摘み取ったり、しっかりとした手順を踏まないと旨いニンニクは作れない事が判明した。
 あやかし任せのゴリ押しでは駄目だったんだ。
 葡萄はゴリ押しの結果、謎の育ち方をして元気に実を付けているが。

 加えて河童が何も考えずに食えそうだからと引っこ抜いたのも失敗の原因だったので、ニンニクだけは様子を見つつ、俺から指示を出す事にして栽培をした。
 手は殆んど出していないけれども。

 収穫までの過程で取った花芽は、中華料理なんかで見るニンニクの芽なので、これも炒めて食ったら旨かった。

 そして苦労の末に、ようやく収穫に至ったニンニクが、今蒸し焼きにされて旨そうな匂いをさせている。
 あんまり苦労した記憶は無いけれども、一応いつもよりは頑張ったから、喜びもひとしおってもんだ。

「旨いな」

『うむ、旨い』

 アルミホイルから取り出して、つるんとした皮と薄皮を剥いて口に入れれば、ねっとりホクホクとしたニンニクの味と香りがダイレクトに広がる。
 市販された乾燥ニンニクとはまた違う甘みが感じられて、何も付けなくても十分に旨い。
 ごま油や塩、醤油なんかを掛けて食ったら、一瞬で四片を食い終えてしまった。

 化け狐を初めとしたあやかし達は、腹痛の心配なんてないので次々にパクついてニンニクが消費されていく。
 その様子を俺は眺めている事しか出来ないってのは、中々に辛いもんだ。

 次からは俺もしっかり満足出来る、少し手の込んだ料理を作るとしよう。
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