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第64話 うちの子は天才

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「パパー!」

「ん!?」

 ある日、五子が突然に俺の事をパパと呼んだ。
 じいじとかグランパではなくパパ?
 どうして俺の事をパパと呼び始めたのかと思ったら。

『以前お主が言ったのを覚えたのではないか?』

「俺がパパなんて言った時あったか?
 ああ、もしかして永空が来た日か?」

 はっきり言って、俺がパパなんて言葉を吐くとは思えない。
 しかし俺だったら、ボケの一環としてパパって言葉を使うかもしれないとは想像出来る。
 例えばそう。

「パパなる大地とか」

 絶対に言ってないな。
 このボケじゃなかったのだけは、確信が持てる。

 そもそも、パパなる大地から五子が俺の事をパパと呼んだのだとしたら、そんなのって悲し過ぎる。
 スベった印象が強烈過ぎて、今の今まで残ってるって事だからな。
 そんなクソスベリ坊主になった過去を、純真無垢な五子が抉りに来たとは思えないし、思いたくない。

「パパなるだいちぃ?」

「五子すまん、今のは忘れてくれ」

 何だろう。
 今まではこんな風にお喋りが出来る感じじゃなかったんだけどな。

 五子は他の四人の座敷童達と違って、言葉を話せる。
 但し話せる言葉は限定的で、「うん!」とか「おいしいね!」みたいに単純な意思表示が出来るだけだった。
 こんな風に、焚き上げして忘れてしまいたいボケを復唱するなんて事は、今まで出来なかった。

『また少し変化したのかもしれんな。
 今度はお主の願いではなく、自身の願望として』

「うん!」

 それはつまり、自分の意志で成長したって事か?
 あやかしに成長なんて概念が存在するのか、って話は今更か。
 俺がガキの頃もそうだったし、ここに来てからも不可思議な現象は起こり続けているんだから。

 それにしても、化け狐の言葉に五子が返事をしたのは偶然か?

「五子は化け狐の声が聞こえるのか?」

「うん!聞こえるよ!」

 化け狐の声ってのは、骨伝導で脳に直接響く感じで聞こえる。
 だから俺以外には聞こえないものだと思ってたんだがな。

『お主の側におる事で、我との繋がりも強くなったのかもしれんな。
 我とお主は契約関係で結ばれている。その隙間に入り込んだイメージか』

「そんな事が可能なのか?」

『我にもわからんが、可能なのだろう。不思議なものだな。』

 あやかしについては、化け狐であってもわからない事が多いんだよな。
 まぁ考えても仕方がないか。

「パパー!」

「どうした?」

「教えて!」

「何か新しい言葉を覚えたいのか?」

 胡坐をかいている俺の前で両手を上げた五子。
 何だろう、この可愛い生き物?は。
 息子の幼少期とは比べものにならない可愛さなんだが。

『あやつの事も可愛がっていたではないか』

「うるさいよ!」

 そういう事を他人から言われると恥ずかしいんだよ。
 しかし五子に覚えさせる言葉か。
 やはり使う頻度が高くて、便利な言葉が良いだろうな。
 だったらあれしかない。

「NAMZONだな」

「なむぞん?」

「おう、NAMZONだ」

「なむぞん!」

「もう覚えたのか。偉いぞ。
 五子は天才かもしれないな」

 頭を撫でてやると、五子は気持ち良さそうに目を細めた。
 正直言って軽くふざけたのだが、これが案外使う機会が多くなるのだから、何が起こるかわからんものだ。
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