上 下
16 / 17

第10話 Fコードです!②

しおりを挟む
 翌日。

「むずい…Fは無理。音鳴らない…」

「1日で弱音吐いてるのは草なんだ」

 昼休み。いつものように前後の机をくっつけて友人の彩葉とお喋り中。
 昨日は家に帰ってからもFの練習に勤しんだんだけど、中々上達は出来なかった。

「多分、私にはFの才能が無いんだ。ギターの才能は申し分ないけど、Fの才能だけは絶望的に無いんだよ…」

「ギターからFだけを切り離しちゃってるじゃん。Fが鳴らないってことはギターの才能が無いんだよ」

「励ましてよ親友ー。力強く励ましてよー。いつも素敵な笑顔を見せてくれる筋肉芸人みたくポジティブに励ましてよー」

「あの人のポジティブを陰キャに模倣出来る訳ないだろ。根っからの陰キャ舐めんな」

 想像したら嗚咽が漏れるレベルで似合ってないな。
 確かに彩葉がどれだけ体を鍛えても、あの盛り上がった上腕二頭筋の頂きには立てない気がする。

「何か変な想像してない?」

「してない」

 さ、FだFだ。
 Fの難易度を爆上げしている原因は、人差し指のバレーコードと小指を使うところだと思う。
 6本の弦を全部押さえるバレーコードは言わずもがなだけど、普段あんまり使う機会のない小指が器用に動いてくれないのが厄介なんだよ。

「小指って小指繋ぎ専用の指だもんね?」

「唐突に何を言っているのか理解出来ないけど、その認識が正しくないことだけは理解出来るな」

 え?小指繋ぎ以外に小指の使い道なんてあったの?あの間を通られたら突き指確定じゃないの?って危うさしかないカップル繋ぎの変異種。

 FコードはVERY HARDどころか難易度HELLってぐらい難しい。
 それでも昨日御園先輩が愛の調整をしてくれた石ナンデスはかなり弾き易くなってて、ポコポコ言いながらも、うっすら音は鳴ってるんだけどね。
 左手めっちゃ痛いけど、どうにかしてFを超えなきゃ軽音楽部の人達に追い付けない。

 私は3日でFをマスターして、御園先輩に「よく頑張ったね」って頭をなでなでしてもらうのだ!
 そんな約束してないし、完全に私の妄想でしかないけれども!

 さらに翌日。

 ジャーン

「おお、鳴るようになったじゃん」

「ふふん。遂にFの才能が開花したみたいよ」

 私は昨日完徹したおかげで、どうにかFの音をポコポコ言わせずに鳴らせるようになった。
 左手の指は弦で擦れて痛いし、普段使わない筋肉使って筋肉痛的な痛みもあるけれど。
 私の左手、満身創痍だよ…。このままいったら“左手だけきんにさん”になっちゃうかもしれない…。

「よし、それじゃあウチが言うコードを弾いてくれよ」

「え?別に良いけど、普通に弾けちゃうから面白くないよ?」

 最難関のF士山を超えた私は、同じバレーコードを使うBだってB瑛岳ぐらい簡単に押さえられる。いや、美瑛岳も結構標高は高いんだけどさ。
 まあ、Fが押さえられる今の私は、はっきり言って死角は存在しない無敵モードに入っているのだ。
 だからニヤニヤしてる彩葉の思い通りには、きっとならないんだけどな。

「C」

 ジャーン

「G」

 ジャーン

「F」

 ポコポコポコポコポコポコ

「あっはっは!ひとつも鳴らないのは爆笑せざるを得ない!」

「唐突なFはズルいよ!そんなの、何の準備もしないで富士山登れって言ってるのと同じだからね!?」

「そんな大袈裟な話じゃないだろ!あー、お腹痛い。抱腹絶倒とは正にこのことか…」

「くっそー!覚えてなさい!私は唐突なFなんかに屈しない!」

 さらに翌日。

「見よ!この音を!C、D、からの必殺のF」

 ジャーン

「おおぉ!他のコードを鳴らしたあとでも一瞬で押さえられるようになってる!」

「ふふん。私の成長速度を舐めないでほしいね」

 昨日もずっと練習してたからね。
 今までゲームとかをやってた時間が、全部ギターの練習に変わってる。
 まだ何日もやってないけど、結構良い感じじゃない?って確信に近い自信がついてきた。

「なるほどなぁ。なかなかやるみたいだな。B」

 ジャーン

「おー」

「ふっふっふ。ランダム攻撃を仕掛けてくるボスを使って、どんなに急なタイミングでも鳴らせるように練習したのだよ!」

「莉子、努力の方向性間違えてないか?」

 この攻撃はC、この攻撃はF、みたいに攻撃にコードを当てはめて、彩葉の意地悪攻撃に対応出来るように頑張ったのだ。

「F」

 ジャーン

「E」

 ジャーン

「Cm」

「!?」

 ポコポコポコポコポコポコ

「あっはっは!ポコポコくっそ笑える!」

「練習してないコードは反則だから!そんなの時間切れの即死攻撃だから!回避しようがないから!」

 F士山を登ったら、向こう側にまた新しい山が現れた。
 私が御園先輩みたいに格好良くギターを弾けるようになるのは、まだまだ先みたいだよ…。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

6年生になっても

ryo
大衆娯楽
おもらしが治らない女の子が集団生活に苦戦するお話です。

おむつ女子

rtokpr
青春
中学生高校生大学生の女の子がおむつをする話し

【R15】【第二作目連載】最強の妹・樹里の愛が僕に凄すぎる件

木村 サイダー
青春
中学時代のいじめをきっかけに非モテ・ボッチを決め込むようになった高校2年生・御堂雅樹。素人ながら地域や雑誌などを賑わすほどの美しさとスタイルを持ち、成績も優秀で運動神経も発達し、中でもケンカは負け知らずでめっぽう強く学内で男女問わずのモテモテの高校1年生の妹、御堂樹里。前回田中真理に自ら別れを告げたものの傷心中。そんな中樹里が「旅行に行くからナンパ除けについてきてくれ」と提案。友達のリゾートマンションで条件も良かったので快諾したが、現地で待ち受けていたのはちょっとおバカな?あやかしの存在。雅樹や樹里、結衣の前世から持ち来る縁を知る旅に‥‥‥ ■場所 関西のとある地方都市 ■登場人物 ●御堂雅樹 本作の主人公。身長約百八十センチ近くと高めの細マッチョ。ボサボサ頭の目隠れ男子。趣味は釣りとエロゲー。スポーツは特にしないが妹と筋トレには励んでいる。 ●御堂樹里 本作のヒロイン。身長百七十センチ以上にJカップのバストを持ち、腹筋はエイトパックに分かれる絶世の美少女。芸能界からのスカウト多数。天性の格闘センスと身体能力でケンカ最強。強烈な人間不信&兄妹コンプレックス。一度だけ兄以外の男性に恋をしかけたことがあり、この夏、偶然再会する。 ●堀之内結衣 本作の準ヒロイン。凛とした和装美人タイプだが、情熱的で突っ走る一面を持ち合わせている。父親の浮気現場で自分を浮気相手に揶揄していたことを知り、歪んだ対抗意識を持つようになった。その対抗意識のせいで付き合いだした彼氏に最近一方的に捨てられ、自分を喪失していた時に樹里と電撃的な出会いを果たしてしまった。以後、樹里や雅樹と形を変えながら仲良くするようになる。 ※本作には未成年の飲酒・喫煙のシーンがありますが、架空の世界の中での話であり、現実世界にそれを推奨するようなものではありません。むしろ絶対にダメです。 ※また宗教観や哲学的な部分がありますが、この物語はフィクションであり、登場人物や彼らが思う団体は実架空の存在であり、実在の団体を指すものではありません。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

お隣さん家にいる高2男子が家の中で熱唱してて、ウチまで聞こえてるのはヒミツにしておきます。

汐空綾葉
青春
 両親の仕事の都合で引っ越してきた伊里瀬佳奈です。お隣さん家には、同級生の男子が住んでるみたい。仲良くなれてきたけれど、気が向いたら歌い出すみたいでウチまで聞こえてきてるのはヒミツにしておきます。

タイは若いうちに行け

フロイライン
BL
修学旅行でタイを訪れた高校生の酒井翔太は、信じられないような災難に巻き込まれ、絶望の淵に叩き落とされる…

お隣に住む従姉妹のお姉さんが俺を放っておいてくれない

谷地雪@悪役令嬢アンソロ発売中
青春
大学合格を機に上京してきた主人公。 初めての一人暮らし……と思ったら、隣の部屋には従姉妹のお姉さんが住んでいた。 お姉さんは主人公の母親に頼まれて、主人公が大学を卒業するまで面倒をみてくれるらしい。 けどこのお姉さん、ちょっと執着が異常なような……。 ※念のため、フリー台本ではありません。無断利用は固く禁止します。 企業関係者で利用希望の場合はお問合せください。

カジュアルセックスチェンジ

フロイライン
恋愛
一流企業に勤める吉岡智は、ふとした事からニューハーフとして生きることとなり、順風満帆だった人生が大幅に狂い出す。

処理中です...