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ラブホテル in エライマン

ケモ耳がエライマンにやって来た!①

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「そう言う訳なので、一度我が国の国王と会談して貰えないかと思っているのだが」

「ふおぉぉぉおお!超大物キタァァァアア!何してやろうか!何をしてやろうかな!」

 ここはラブホテル内にある会議室。
 ランドソープ王都から戻ったフォルカーはその足でラブホテルを訪れていた。
 そしてフットワークの軽いアイトは特に面白いカップルもいなかったので即座に面談を決め、今へと至る。

 アイト、滅茶苦茶やる気である。

「先に謝っておきたいのだが。少しばかり失礼な事をするかもしれないので目を瞑ってやって欲しい」

 そう言ってフォルカーは頭を下げた。
 フォルカーは伯爵家の当主なので普段は爵位が上の者以外には頭を下げる事がない。
 貴族にとって立場が下の者に頭を下げるのは面子に関わるという理由なのだが。
 アイトに関しては少なくともダンジョン内において立場は上だろう。

 ならば敬称は様を付けるべきなのだが、外の世界の人間とダンジョンマスターという立場が上位下位の位置づけを非常に曖昧にしている。
 アイト自身が特に気にした様子も無いしヒショも受け入れているので、フォルカーは初めて会った時にした殿呼びを継続しているのだった。

 話は逸れたがアイトは頭を下げたフォルカーに対し。

「わっはっは!面白ければよかろうもん!」

 気にしないと言って笑い飛ばすが。

「、、、」

 ヒショは何も言わずに睨みを利かせる。
 フォルカーの顔からダラダラと汗が流れる。
 何分フォルカーにとって恐いのはアイトよりもヒショの方なのだ。

 フォルカーはイレタッテが馬鹿な事をしでかさない様に祈りつつ。

「訪問は数ヶ月先になるだろう。また詳細が決まり次第、使いの者を寄越す事にする」

 問題を先送りにしてさっさと屋敷に帰る事にしたのであった。
 ヒショのプレッシャーが恐ろしかったので。


 時間が午後の6時を回ったラブホテルのエントランス。
 休憩で客室を利用した客も既に殆んどがエライマンの街へと帰っていて、ここから先に訪れる客は宿泊客のみ。

 昼の賑わいは何処へやら。
 シンとしたフロントにワンポがやって来てエマに頭を擦り付ける。
 エマはワンポの頭を撫でてから、そのままわしわしと脇腹を撫でた。
 気持ち良さそうに目を細めたワンポはゴロンと転がって腹を見せ。
 エマもワンポに抱き着いて腹に顔を埋めながら撫でる。

 そんな二人の様子を指を咥えながら羨ましそうに見ているのは蒼剣の誓いの地味担当モルト。
 モルトは近頃ワンポの世話係に任命されて一緒に遊んでいるのだが、どうにもワンポとの距離が詰まらない。
 出来るならば自分もエマの様に腹に顔を埋めたいし、何なら吸いたい。
 滅茶苦茶吸引したい。

 しかしワンポの中でのモルトの序列は現在も変わらず最下位である。
 残念ながら、それが事実だ。

 もう客が来なさそうなのでエマとワンポが戯れていると入口のドアが開いて何者かが入って来た。
 すぐさまモルトに声を掛けた様子から客ではないと判断してお戯れの継続を決定したエマ。

 入って来たのは蒼剣の中では比較的外に出る事が多いルイスである。
 ルイスが何しをしていたのかは言うまでもないが。
 モルトと2言3言話をした後、部屋へ戻りかけた所で思い出した様に。

「あ、そう言えばエライマンの冒険者ギルドに獣人の女冒険者がいたぞ」

「マジで!?」

 ルイスから齎された情報にモルトは思わず大声を上げた。
 もふもふ狂いと言っても良いぐらいにもふもふ好きのモルトだが。
 実はもふもふと同じぐらい獣人の女が大好きなのである。

 モルトは明日のワンポとのお戯れを休みにして街に繰り出す事を決意したのであった。


 獣人。
 それは体に動物や魔物の特徴を持つ人種族の事。
 その多くは身体能力に優れていて。
 もしもアイトの前世の世界である日本に誕生したならば、オリンピックの速筋系の個人種目は全て獣人が表彰台のてっぺんに立つぐらいに凄まじい身体能力を持っている。
 まあ基本的に外の世界の人間は皆地球の人間よりも体力も身体能力も高いのだが。

 とにもかくにも獣人である。
 獣人は動物や魔物の特徴を持つと説明したが、どれだけケモいかは種族差がある。

 アイトの前世で“人間”と呼ばれているのは外の世界では“人族”と分類される。
 この人族をベースにして説明をしていくと。

 ケモ度が低い獣人は人族の頭に動物や魔物の耳を生やして、尾骨から尻尾が生えている。
 逆にケモ度が高い獣人は最早殆んど人族の特徴が無い。
 殆んど動物や魔物の姿をしていて、それが二足歩行をして人の言葉を喋るといった感じである。

 身体能力に関しては総合的には大差が無いが、ケモ度が高い場合には種族によって個性が出る。
 例えば犬獣人であれば足が早くて持久力が高いとか。
 色んな意味で。
 色んな意味で持久力が高いとか。
 一晩中どころか一日中でも余裕なぐらい持久力が高いとか。
 出しても出しても元気になるとか。
 二徹ぐらいなら平気でイケるとか。
 それぐらい滅茶苦茶に持久力があるとか。

 例えば猫獣人であればすばしっこくて跳躍力があり。
 気分屋であまり他人の言う事を聞かないとか。
 本当に人の言う事を聞かないとか。
 すぐに家から出て行こうとするとか。
 そのくせ時々滅茶苦茶甘えて来るとか。
 そんな所がとても愛おしいとか。
 けれどやっぱり言う事は聞かないとか。

 例えばゴリ獣人であれば馬鹿みたいに握力があるとか。
 恋愛経験の薄い子とデートなんてして手を握ったら力加減を誤って確実に手の骨を粉砕されるとか。
 行為中に尻を手で掴んだらそのまま尻の骨を粉砕しちゃったりとか。
 結構そう言う事に普段から気を使うから滅茶苦茶ストレスが溜まるとか。
 意外と気遣い屋さんだったりとか。

 そんな様々な身体的特徴を持った獣人だが。
 実はランドソープ王国ではあまり見ない種族である。
 街の大通りに面する家に住む病気がちの娘が二階の窓から10年間外を眺めて5割の確立でしか見られないぐらいに少ない。

 ちょうど5割だ。
 5割1毛でもなければ4割9分9厘9毛でもなくちょうど5割だ。
 例え王都であろうがエライマンであろうがヤーサンであろうがちょうど5割だ。
 多分きっと5割だ。

 とにかくランドソープではあまり見掛ける事がない獣人が今、エライマンにいるのだと言う。

「何かやけに目立ってるわん。だからこの国は嫌なんだわん」

 語尾が少しばかり個性的なモカはランドソープ王国にあるエライマンの街を訪れていた。
 ベージュに近い茶系の髪の黒目。
 顔はどことなくポメラニアっているがバランスが良い整った顔立ち。
 身長は標準的だが半袖の服から覗く腕はしなやかな筋肉が付いている事が見受けられる。
 そして髪と同じ色の犬耳と犬尻尾。

 モカは獣人の中では人族寄りの姿をした犬獣人である。

 どうして彼女がエライマンを訪れる事になったかと言えば。
 それには深い深い、涙無しでは語れない深すぎると言わざるを得ない理由がある。

 依頼だ。
 護衛の依頼だ。
 単純に冒険者の仕事で報酬が良かったからだ。
 涙無しでも余裕で語れる理由だった。

「飯と酒は旨いけど獣人慣れしてないランドソープは良くないわん。何であんなキラキラした目で見て来るわん。別に人族と大して変わらないのに居心地悪くなるわん」

 外の世界には獣人差別のある国がある。
 例えば人族至上主義の聖王国では獣人やエルフ、ドワーフなどの種族が店や宿の入店を拒否されるなんて当たり前であり。
 道端を歩けば当たり前にう〇こを投げ付けられるぐらいに苛烈な差別を受ける。
 理由は定かではないが8割う〇こだ。
 2割残飯8割う〇こだ。

 そういった国には当然獣人は近付かないのだが。
 普段は見慣れない獣人にキラキラした眼差しを向けてくるランドソープ王国の様な国にも獣人は近付こうとしない。

 気まずいのだ。
 普段あまりチヤホヤされたりしないから何か気まずいのだ。
 二階建ての民家だったら一っ飛びで飛び越えられるぐらい物凄く高く飛ぶんでしょう?って目で見て来るからプレッシャーがとんでもないのだ。
 「そんなの無理に決まってるだろうアホか」と否定しても「またまたぁ。ご謙遜を」なんて言って全然話を聞いてくれないのだ。 
 本当に獣人の事となると話が通じないのだランドソープ王国は。

「さっさと護衛依頼受けて脱出するわん」

 モカはランドソープ王国からの早々の離脱を目指して冒険者ギルドを訪れた。
 そこにはエライマンでも一番チヤホヤしそうな奴が待ち受けているとは知らずに。
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