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ラブホテル in ヤーサン
商売の話をしようじゃないか④
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靴底に吸い付く様な濃灰色の上質なカーペットが敷かれた床に。
長細いブロックを凸凹するように並べてデザインされた薄炭色の壁。
柱は白で、同じく白の天井からは等間隔に配置されたダウンライトが昼光色の灯りを落とす。
U字の机を二つ向かい合わせに繋げた形のお洒落なオフィスに置かれがちな机と、高級な革張りのオフィスチェア。
縦長の部屋の正面奥には大型のテレビモニターが埋め込まれている。
客室とは違って厳かな雰囲気の応接室へと転移したネイトとタスケを待ち構えていたのは。
ひょっとこの面を付けたダンジョンマスターアイトであった。
もうふざけている。
完全にふざけている。
出オチで笑いを取りにいっている。
だって考えて欲しい。
正体を隠す為に顔を隠すとして、アイトの前世で言う和風なお面を選ぶとしよう。
例えば般若の面や鬼の面であれば相手に威圧感を与えるだろう。
キツネの面や能面であれば相手に不気味さを感じさせるだろう。
天狗の面であったなら相手に“ご立派ぁ!”を与えるだろう。
では件のひょっとこはどうだろうか?
完全に笑いを取りにいっているとしか思えない。
だって実際にネイトもタスケも袖に顔を押し付けて肩を震わせているし。
おたふくもそこそこ面白い面だが、おたふくでは狙えてもややウケだ。
しかしひょっとこは初見のインパクトが段違いだ。
加えてひょっとこは見れば見る程、噛めば噛む程にじわる面白さも孕んでいる。
あの見開かれた目。
アンバランスな眉。
波打つ額の皺。
赤らんだ頬の張り出し具合。
存在を強く主張する鼻毛に。
突き出してひん曲がった口。
言い方は悪いが安易なオモシロの全てを集約した最強の面。
それがひょっとこ面である。
ネイトとタスケからすれば、唐突に開始された笑ってはいけない応接室である。
顔を隠して肩を震わせる二人に気を良くしたアイトは。
「ア・イ・トで~~~~~す☆!」
きっちりスベって二人が真顔を取り戻すのに大きく貢献した。
改めてアイトに目を向けると。
人にも魔物にもあまり見ない漆黒に近い黒髪に謎の面白面。
背は一般的な成人男性よりもやや低く痩せ型。
見るからに上質な白のシャツと裾が窄まっている柔らかそうな濃紺ズボン。
足下は殆んど剥き出しで、草らしきもので編まれていると思われる底の薄い何かを履いている。
見た目だけで見れば然程の脅威を感じる事はない。
ネイトはアイトに対してそんな印象を抱いた。
問題なのは。
「オーナーの秘書を務めていますヒショです」
こちらの女の方だろう。
膝まである濃紺の長い髪を珍しい形で後ろに纏めていて。
見た事の無いデザインだが知的な眼鏡の奥には黄金の瞳。
頭には二本の角があり、作り物の様に整った小顔と病的なまでに白く青みがかった肌。
アイトよりも長身でスラリと細身の体躯。
白いシャツの上にシンプルなグレーのジャケットを羽織り。
下は同じ色の膝丈スカート。
脚は何やら薄い生地で素肌を隠しているらしく。
靴は高級そうな革靴を履いている。
このヒショと言う女は明らかに自分よりも強く。
どれだけ力の差が離れているのか計れない程に脅威を抱いた。
ギルドマスターのバルナバスも強いが、バルナバスとの実力差はまだ想像出来る。
しかしこの女との実力差は想像するのも烏滸がましいレベルである。
受付の女店員が本当にヤバいのはヒショと不穏な事を言っていたが、正しくその通りである。
教えといてくれて良かった。
教えといてくれなきゃ粗相をしていたかもしれない。
ネイトはやはりこのラブホテルがダンジョンである事を強く実感し。
恐らくはヒショの脅威を感じ取れないであろうタスケを羨ましく思った。
更に。
更にだ。
「うぉん!」
二人の間に控えるこの狼も明らかにヤバい。
「この子は我がラブホテルのアイドル犬ワンポだ。可愛がってやってくれ」
アイトがそう言うとゴロンと腹を見せて寝転がった超大型の黒狼。
純粋な黒ではなく、やや青みがかっているのがまた恐ろしい。
ネイトは以前ブラックウルフと言う魔物を討伐した事があるが、ワンポと言う狼は明らかにブラックウルフよりも大型で毛色を見ても得体が知れない。
それを犬だと言って可愛がっているのだから、アイトも充分にやばい奴なのだろう。
あまり脅威には感じないが。
ヒショやワンポと比べれば脅威には感じないが。
「お招き頂きありがとうございます。わたくし、ヤーサンを拠点に商売を営んでおりますタスケと申します。実はラブホテルには妻や娘と何度も訪れておりまして。前衛的で夢の様な素晴らしいサービスに感服しておりました」
やはりタスケは脅威に気付いていないのか。
それとも気付いた上で平静を装っているのか。
恐らく前者だろうが丁寧な口調で自己紹介をして深々と頭を下げた。
これにアイトは気を良くしたようで。
「わっはっは!タスケ君は良くわかってるじゃないか!君に決めた君に決めた」
アイトはポケットにモンスターを入れがちな男の子の台詞を雑に扱ってタスケとの取引を即決したのであった。
どんな交渉になるのかと気を張っていたタスケからすれば肩透かしを食らった気分ではあったのだが。
「うぉぉ。うぉぉぉおお!やったぁぁぁああ!これで家に帰れますぅぅぅうう!ありがとうございますぅぅぅうう!」
雄叫びを上げて尋常足らざる喜びを表現するタスケ。
ネイトはそんなタスケの行動がアイト達を不快にさせないかとヒヤヒヤだったが。
「わっはっは!よきかなよきかな!」
顔色は窺えないがアイトは上機嫌であるし。
ヒショはパチパチと拍手をしているので特に問題はなさそうだった。
一応ネイトもヒショに合わせて拍手をして。
「それじゃあ下世話な金の話をするとしようか」
アイトは二人を座らせて卸値の交渉を始めたのであった。
オーガズに農園で作っている作物を一つずつ運ばせて。
「ほう、これが年中採れるのですかな?」
「そうだよ。年中採れちゃうんだよ」
若干アイトがふざけているものの。
タスケは自らが蓄えて来た知識の全てを使って算盤を弾いた。
「冬の時期は希少価値が上がりますので卸値を変動させて取引しまましょう」
普通の商人ならば安定供給が確約されている作物に対してはまずやりたがらない市場価値の上下に伴う卸値の変動まで織り込んで価格を決定した。
アイト達は素人なので言われるがままだが、どんな商人が見ても適正価格かやや高めの卸値である。
タスケはそれでも確実に儲かると考えているし、ラブホテル側に損をさせて良い事など自分には無い。
失敗すれば妻が怒って家に入れて貰えなくなるかもしれないのだから必死だ。
取引額と取引可能な量の話を詰めて、年中安定供給するが供給量はある程度絞る事に決定した。
これはラブホテル産の作物にプレミア感を持たせる為であり、希少価値を上げて高値で売却する為である。
実際農園は際限なく広げられるが。
今現在のオーガ量では生産出来る作物に限界があるし、酒造りにも回さないとヒショが怒る。
アイトからすれば倉庫からだらしなく溢れ出ている作物を買い取って貰えればそれで良いのだ。
酒造りについては詳しい人間を紹介して貰える事になって。
「それでは、こちらの条件でよろしいでしょうか?」
「ああ、よろしく頼む」
タスケの提示した条件を書面に纏めた用紙を生み出して互いに署名をし。
契約が成立して二人は握手をした。
拍手をするヒショ。
遅れて拍手をするネイト。
机の上に寝転がるワンポ。
そしてお茶を飲みながらしばしの歓談。
「ネイト君は俺と名前が被るよな。ドッグかジェームスかスミスかルイスに改名しない?」
そんなアイトの提案に。
ヒショからの強烈なプレッシャーに負けたネイトは4つの選択肢の中からスミスを選んでサラッと改名が決定したのであった。
そしてスミスとタスケもワンポに慣れて軽く撫でたり出来る様になった頃。
「くぅん」
アイトの元へと戻って来たワンポが机の上にごろりと寝転がり。
「よーしよしよし!ここか?ここが良いのんか?」
わしわしと腹を撫でられて擽ったそうなワンポが身を捩って寝返りをうち。
机の上に置いてあった追い出しボタンを脇腹で押してスミスとタスケをダンジョンから追い出したのであった。
長細いブロックを凸凹するように並べてデザインされた薄炭色の壁。
柱は白で、同じく白の天井からは等間隔に配置されたダウンライトが昼光色の灯りを落とす。
U字の机を二つ向かい合わせに繋げた形のお洒落なオフィスに置かれがちな机と、高級な革張りのオフィスチェア。
縦長の部屋の正面奥には大型のテレビモニターが埋め込まれている。
客室とは違って厳かな雰囲気の応接室へと転移したネイトとタスケを待ち構えていたのは。
ひょっとこの面を付けたダンジョンマスターアイトであった。
もうふざけている。
完全にふざけている。
出オチで笑いを取りにいっている。
だって考えて欲しい。
正体を隠す為に顔を隠すとして、アイトの前世で言う和風なお面を選ぶとしよう。
例えば般若の面や鬼の面であれば相手に威圧感を与えるだろう。
キツネの面や能面であれば相手に不気味さを感じさせるだろう。
天狗の面であったなら相手に“ご立派ぁ!”を与えるだろう。
では件のひょっとこはどうだろうか?
完全に笑いを取りにいっているとしか思えない。
だって実際にネイトもタスケも袖に顔を押し付けて肩を震わせているし。
おたふくもそこそこ面白い面だが、おたふくでは狙えてもややウケだ。
しかしひょっとこは初見のインパクトが段違いだ。
加えてひょっとこは見れば見る程、噛めば噛む程にじわる面白さも孕んでいる。
あの見開かれた目。
アンバランスな眉。
波打つ額の皺。
赤らんだ頬の張り出し具合。
存在を強く主張する鼻毛に。
突き出してひん曲がった口。
言い方は悪いが安易なオモシロの全てを集約した最強の面。
それがひょっとこ面である。
ネイトとタスケからすれば、唐突に開始された笑ってはいけない応接室である。
顔を隠して肩を震わせる二人に気を良くしたアイトは。
「ア・イ・トで~~~~~す☆!」
きっちりスベって二人が真顔を取り戻すのに大きく貢献した。
改めてアイトに目を向けると。
人にも魔物にもあまり見ない漆黒に近い黒髪に謎の面白面。
背は一般的な成人男性よりもやや低く痩せ型。
見るからに上質な白のシャツと裾が窄まっている柔らかそうな濃紺ズボン。
足下は殆んど剥き出しで、草らしきもので編まれていると思われる底の薄い何かを履いている。
見た目だけで見れば然程の脅威を感じる事はない。
ネイトはアイトに対してそんな印象を抱いた。
問題なのは。
「オーナーの秘書を務めていますヒショです」
こちらの女の方だろう。
膝まである濃紺の長い髪を珍しい形で後ろに纏めていて。
見た事の無いデザインだが知的な眼鏡の奥には黄金の瞳。
頭には二本の角があり、作り物の様に整った小顔と病的なまでに白く青みがかった肌。
アイトよりも長身でスラリと細身の体躯。
白いシャツの上にシンプルなグレーのジャケットを羽織り。
下は同じ色の膝丈スカート。
脚は何やら薄い生地で素肌を隠しているらしく。
靴は高級そうな革靴を履いている。
このヒショと言う女は明らかに自分よりも強く。
どれだけ力の差が離れているのか計れない程に脅威を抱いた。
ギルドマスターのバルナバスも強いが、バルナバスとの実力差はまだ想像出来る。
しかしこの女との実力差は想像するのも烏滸がましいレベルである。
受付の女店員が本当にヤバいのはヒショと不穏な事を言っていたが、正しくその通りである。
教えといてくれて良かった。
教えといてくれなきゃ粗相をしていたかもしれない。
ネイトはやはりこのラブホテルがダンジョンである事を強く実感し。
恐らくはヒショの脅威を感じ取れないであろうタスケを羨ましく思った。
更に。
更にだ。
「うぉん!」
二人の間に控えるこの狼も明らかにヤバい。
「この子は我がラブホテルのアイドル犬ワンポだ。可愛がってやってくれ」
アイトがそう言うとゴロンと腹を見せて寝転がった超大型の黒狼。
純粋な黒ではなく、やや青みがかっているのがまた恐ろしい。
ネイトは以前ブラックウルフと言う魔物を討伐した事があるが、ワンポと言う狼は明らかにブラックウルフよりも大型で毛色を見ても得体が知れない。
それを犬だと言って可愛がっているのだから、アイトも充分にやばい奴なのだろう。
あまり脅威には感じないが。
ヒショやワンポと比べれば脅威には感じないが。
「お招き頂きありがとうございます。わたくし、ヤーサンを拠点に商売を営んでおりますタスケと申します。実はラブホテルには妻や娘と何度も訪れておりまして。前衛的で夢の様な素晴らしいサービスに感服しておりました」
やはりタスケは脅威に気付いていないのか。
それとも気付いた上で平静を装っているのか。
恐らく前者だろうが丁寧な口調で自己紹介をして深々と頭を下げた。
これにアイトは気を良くしたようで。
「わっはっは!タスケ君は良くわかってるじゃないか!君に決めた君に決めた」
アイトはポケットにモンスターを入れがちな男の子の台詞を雑に扱ってタスケとの取引を即決したのであった。
どんな交渉になるのかと気を張っていたタスケからすれば肩透かしを食らった気分ではあったのだが。
「うぉぉ。うぉぉぉおお!やったぁぁぁああ!これで家に帰れますぅぅぅうう!ありがとうございますぅぅぅうう!」
雄叫びを上げて尋常足らざる喜びを表現するタスケ。
ネイトはそんなタスケの行動がアイト達を不快にさせないかとヒヤヒヤだったが。
「わっはっは!よきかなよきかな!」
顔色は窺えないがアイトは上機嫌であるし。
ヒショはパチパチと拍手をしているので特に問題はなさそうだった。
一応ネイトもヒショに合わせて拍手をして。
「それじゃあ下世話な金の話をするとしようか」
アイトは二人を座らせて卸値の交渉を始めたのであった。
オーガズに農園で作っている作物を一つずつ運ばせて。
「ほう、これが年中採れるのですかな?」
「そうだよ。年中採れちゃうんだよ」
若干アイトがふざけているものの。
タスケは自らが蓄えて来た知識の全てを使って算盤を弾いた。
「冬の時期は希少価値が上がりますので卸値を変動させて取引しまましょう」
普通の商人ならば安定供給が確約されている作物に対してはまずやりたがらない市場価値の上下に伴う卸値の変動まで織り込んで価格を決定した。
アイト達は素人なので言われるがままだが、どんな商人が見ても適正価格かやや高めの卸値である。
タスケはそれでも確実に儲かると考えているし、ラブホテル側に損をさせて良い事など自分には無い。
失敗すれば妻が怒って家に入れて貰えなくなるかもしれないのだから必死だ。
取引額と取引可能な量の話を詰めて、年中安定供給するが供給量はある程度絞る事に決定した。
これはラブホテル産の作物にプレミア感を持たせる為であり、希少価値を上げて高値で売却する為である。
実際農園は際限なく広げられるが。
今現在のオーガ量では生産出来る作物に限界があるし、酒造りにも回さないとヒショが怒る。
アイトからすれば倉庫からだらしなく溢れ出ている作物を買い取って貰えればそれで良いのだ。
酒造りについては詳しい人間を紹介して貰える事になって。
「それでは、こちらの条件でよろしいでしょうか?」
「ああ、よろしく頼む」
タスケの提示した条件を書面に纏めた用紙を生み出して互いに署名をし。
契約が成立して二人は握手をした。
拍手をするヒショ。
遅れて拍手をするネイト。
机の上に寝転がるワンポ。
そしてお茶を飲みながらしばしの歓談。
「ネイト君は俺と名前が被るよな。ドッグかジェームスかスミスかルイスに改名しない?」
そんなアイトの提案に。
ヒショからの強烈なプレッシャーに負けたネイトは4つの選択肢の中からスミスを選んでサラッと改名が決定したのであった。
そしてスミスとタスケもワンポに慣れて軽く撫でたり出来る様になった頃。
「くぅん」
アイトの元へと戻って来たワンポが机の上にごろりと寝転がり。
「よーしよしよし!ここか?ここが良いのんか?」
わしわしと腹を撫でられて擽ったそうなワンポが身を捩って寝返りをうち。
机の上に置いてあった追い出しボタンを脇腹で押してスミスとタスケをダンジョンから追い出したのであった。
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