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第3話 偉そうな○○

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 華麗なる半目からの復帰。
 店長さんはワタシが半目になっている間は黙って待っててくれるので、存外良い人なのかもしれないと思い始めた、イマこの頃。

 あやかしカフェは10時オープンの19時クローズでワタシは9時間勤務。
 休憩が昼休憩1時間と夕方に15分って、かなりしっかりした勤務形態だった。

 家が近いから昼休憩は帰って家で食べるのもありかもしれない。
 だって生首がいるんだよ?
 他にもいるに決まってるよね?
 バックヤードとか特にいそうじゃん!

 タブレット端末の契約書を見ながら説明を聞いて、特に問題はなさそうだったので。
 人外がいるってどうしようもない事柄以外には、問題がなさそうだったのでサインをして。

「血判にする?針、あるわよ。
 うふふふふふふふふふ」

「いえ、結構です」

 こっわ!
 タブレットに血判意味無いでしょうが!
 儀式か!?
 何かの儀式が行われているのか!?
 血判押したら一生ここから出れられない、みたいな呪いにでも掛かるのか!?

 ワタシがまだうら若い少女だったなら、血判を押してしまったかもしれないけれども。
 残念ながらワタシは酸いも甘いも知り尽くした大人の女だ。
 就職戦線で全敗した酸いを知り尽くしたワタシはノーと言える女なのだ!

「冗談よ。うふふふ」

 いや、絶対に冗談のトーンでは無かったけれども。

 何にせよ、これでワタシは時給1800円の仕事に。
 時給1800円も貰えるのに売り上げノルマがあって、そこのブランドにお金を落として服を買ったりしなくても良い、普通に稼げる職に就けた訳だ。
 楽々就職を決めてワタシを嘲笑った者達の初任給を超えていくのだ!
 放射線技師よりもよっぽどリスクは高そうだけれども!

「ふはははははは!」

「?」

 おっと、思わず高笑いが漏れてしまったぜ。

「しっかりと契約で縛れたって事で、うふふふ。
 お店の看板あやかしを紹介するわね」

 契約で縛る?
 どうしてそこで笑ったの?
 気になる部分はあったけれども、それより何より“看板あやかし”って謎のワードのが気になってそれどころではない。

 店長が例の招き猫みたいな動きをすると、しれっと壁をすり抜けて、でっかい猫が現れた。
 何あの太々しい化け猫。
 サバトラ猫を2回りぐらい大きくして、でっぷり太らせたみたいな感じで、顔は不愛想だし威圧感が凄いんだけど、それより何より。

 その頭に付けてる“オス です”って書かれた真っ赤な蝶々結びのリボンは何なんだよ!

 世界的人気を誇る日本のキャラクター猫ちゃんかよ!
 体重がリンゴ3個分のあの子かよ!
 いや、頭頂部にあるからどちらかと言うとプリンセス系のコスチュームプレイに近いけれども!

 ああ、ツッコミたい。
 怖いけどツッコミたいよぉ。

「うふふふ。この子は劇場に足を運ぶぐらいのお笑い好きだからツッコんでも大丈夫よ」

「だから、人の心を読むの止めて貰えます?」

 あやかしにお笑い好きっているのか。
 壁をすり抜けられるから確実に入場料は払ってないな。

 しかし、良い事を聞いた。
 店に入ってからツッコミ所しかないから、ワタシも鬱憤が溜まっていたんだ。
 ツッコんで良いならば、存分にツッコませて貰うとしよう。

『我は』

「偉そうな猫だな!」

 もう一人称の段階でツッコむ。
 大体猫って言ったら、吾輩って相場が決まっているだろう。
 吾輩も十分偉そうだけれど。

 化け猫はワタシの顔を見上げて一瞬思案顔をして。

『わては』

「落語家か!」

『拙者は』

「お侍さんかよ!」

『某は』

「だからお侍さんかよ!」

『拙僧は』

「僧侶じゃないだろ!」

『余は』

「お偉いさんにでもなったつもりか!」

『妾は』

「ぶはっ!雄妾とかいう新ジャンル!」

 ワタシと化け猫はしばしの間、一人称ラリーを続け。

『お前、中々やるな人間の娘』

「お前もな、化け猫」

 やり切ったとばかりにガッチリと握手を交わした。

 名前とかはまだ聞けていない。


 第3話 偉そうな化け猫
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