上 下
24 / 54

24 注文品製作と怪我人治療

しおりを挟む
 千代はエルレイダから帰った翌日も、いつも通りに朝5時に起きた。

 そして、いつものルーチンワークをこなしていく。
 ただし冒険者達が沢山いるので、石英の採取には行かなかった。
 餌遣り、水遣り、洗濯、掃除等の雑用を終えてから、ガラス釜の前に付いた。


 千代は先日受けた『耐熱効果付きグラス』の注文依頼の為に、レベルアップした【耐熱+2】を魔法付与しながら注文品を作っていく。
 ガラス窯の前の作業は暑いし、息吹棒も女性には結構重い。


「魔法を使える世界なんだから、もっと効率よく作業が出来ないかなぁ?」

 脇に置いてある他の職人達の完成品を眺めていて、ふと思いついた。

「完成品を【鑑定】!」

 シュィイイインッ!

 それらには、当然だが何も効果が付与されていない。


 千代は両手を完成品に向けて【魔法付与】を発動してみる。

「完成品に【耐熱】付与!」

 ピッキィイイインッ!

 もう一度、改めて【鑑定】してみると【耐熱+2】が付与されていた。


 ピンポロリン!

 【魔法付与Ⅰ】が【魔法付与Ⅱ】に上がった。


「完成品にも【耐熱+2】が付いちゃった! ここの職人達は誰も【鑑定】スキルを持ってないから、魔法付与には気付かないだろうなぁ……」


 千代は注文のあったデザインと同じ、他の職人の完成品に【耐熱】を付与してみる。
 もう1回【鑑定】をして【耐熱+2】が付与されてる事を確認してからローリーを呼んだ。

「ローリーさん、ちょっと来てください!」

「な~に、チヨ?」

「これを見て下さい」

 千代はローリーに鑑定結果のウインドウの閲覧許可を与えた。


「まぁ、どういう事。他の職人の作った物まで【耐熱+2】が付いてるわ」

「後から【耐熱】効果を付けられる事が分かったんです」


「まぁ凄い。他の物にも付けられるの?」

「はい、工房の完成品全部に付けようと思うのですが?」

「うん、ガラスコップは【耐熱】でもいいけど、水差しは【保冷】で、ポットは【保温】がいいわね」

「そうですね。それじゃあローリーさんの指示通りしますので、効果ごとに仕分けしましょう」


「そうね。……あと作者が分かる様にも仕分けしましょう、売り上げを歩合で払わないといけないから」

「はい」

 鑑定できる上級貴族の間でローリー工房の名が徐々に広まっていき、やがて大陸全土に知れ渡る事になるのであった。



 △ ▼ △



 ザワザワザワザワ……

 昼過ぎになると、工房前の街道が何だか騒がしくなってきた。


あねさん、ダンジョンで魔物の氾濫が起きてるそうですよ」

 様子を見に行った職人がそう告げた。

 怪我をした冒険者達が、カタランヌの町に引き返して来てるそうだ。
 ローリーが救急箱を取り出した。

「大した事はできないけど、せめて出来るかぎりの治療をして上げましょう」

「はい」


 ローリーと千代は、救急箱とお湯とタオルを持って街道に出て行った。
 2人は手直なところから、すぐに治療を始める。
 とは言っても、ローリーは回復スキルを持ってないから、傷口を消毒して包帯を巻くだけだ。

 この世界の平民で回復スキルを持っている者は殆どいない。
 もし居たとしても、希少な癒し手は神殿や貴族や上級冒険者グループから引く手数多あまたなので、田舎町には残っていない。


「そういえば私、【回復】スキルを持っていたと思います。使ってみますね」

「そう、お願いね」


「怪我人を【回復】!」

 シュィイイイイインッ!

 目の前の冒険者は、腕に大きな怪我をして血を流していたが、傷ひとつない元の綺麗な腕に治った。


「おぉ! 痛みが消えたぞ、ありがとう」

 冒険者は千代の手を取り、押し頂いて感謝した。


「良かったですね」

 ピンポロリン!

 【回復Ⅰ】が【回復Ⅱ】に上がった。



 千代は怪我してる冒険者をドンドン【回復】していく。

「はぁ、あたしはする事が無くなっちまったなぁ」

「いいえ、ローリーさんは一緒に居て下さい。私1人では、沢山の見知らぬ男の人の前に居られませんから」

「そうだったわね、人見知りのチヨを補佐しないとね」

 ローリーは怪我を確認して洗ったり、服の汚れを拭ったり、出来る事を千代の隣で始めた。
 治療を続ける中で、千代の回復スキルは更に【回復Ⅲ】に上がった。



 怪我人が少なくなってきた時、最後尾にドニロとリフィップがカシオに肩を貸して戻って来た。
 カシオはガックリと項垂れて意識が無かった。

「ヤダッ! カシオ君、しっかりしてえええっ!」

 そう叫んだ途端に千代の体が光り、足元に魔法陣が展開する。

 シュィイイイイインッ!
 キラキラキラキラッ! ピッカアアアアアンッ!

 千代は意識せずに勝手にルミナに変身してしまった。


 ブゥウウウウウンッ!

 更に、魔法陣が虹色に光りながら回転して、大きく広がっていく。
 キラキラと眩しい光がドーム状に広がると、優しく温かい光が全ての怪我人たちを包んでいった。

 ピッキィイイイイイイイイイインッ!

 光るドームの中の全ての怪我人の傷が、完全に癒されて体力が回復した。


「ダンジョン前に【転移】!」

 シュィイイイイインッ!

「あっ、チヨ待ちなさい、1人で行かないでっ! ……はぁ」


 千代はたった1人で、ダンジョンに【転移】していってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。

なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。 そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。 そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。 彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。 それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。

処理中です...