上 下
21 / 54

21 盗賊もつらいよ!

しおりを挟む
 カタランヌとエルレイダは馬車で1日の距離だ。
 日に1度、乗合馬車が走っている。

 そしてカタランヌとエルレイダを繋ぐ街道にも、お約束通りの盗賊が出る。
 街道北側の山間やまあいの谷に、盗賊のアジトがあるらしい。


 そのアジトの場所は、出現したダンジョンの隣りの谷だった。
 険峻けんしゅんな山を挟んでるので、真っ直ぐアジトに魔物が来ることはまだ無かったが。

「おかしら、魔物が多くて盗賊家業がやり難くなってきやしたぜ」

「あ~ん、魔物が怖くて盗賊が出来るか!」


「しかし、お頭。馬車を襲ってる時に魔物が現れると仕事がやり難くって。下手すると馬車の護衛と魔物に挟まれちまうんですぜ」

「あぁぁ、それは難しいかもなぁ」


「護衛を倒した後でも、オーガ以上の魔物に襲われたら折角の獲物を取らずに逃げなきゃならねえし」

「う~ん、そのクラスの魔物だと、少人数で馬車を襲撃した時はちょっと厳しいなぁ」


「しかも、エルレイダの冒険者ギルドが『緊急事態宣言』を出して、積極的に冒険者を投入するらしいですぜ」

「なんだとっ! 馬車を襲ってる時に冒険者に加勢されたら、拙い事に成っちまうな!」

「そうなんですよ、お頭」


「よし、今のうちに最後の一仕事をして、食料等を手に入れてガルポート王国側にアジトを移そう」

「「「へい」」」



 そんな盗賊達が、最後の一仕事に乗合馬車を総出で襲撃する事になった。
 千代とローリーを乗せた馬車が、運悪く(どちらが?)そこへ通り掛かることに成ってしまう。

今日きょうはカタランヌ町1番の格闘家のローリーさんが一緒だから、安心して乗ってられますな。あはははは!」

 馬車に乗り合わせた行商のおじさんがそう言った。


「あたしはそんなに強くありませんよ。……でも、今日はもっと安心してても良いんですよ」

「ほう、そうなんですか?」

「えぇ、この子が居れば盗賊なんてチョチョイのチョイですから」


「ローリーさん。そう言う事、言わないでくださいよぅ」

「あら、ゴメン! つい余計な事言っちゃったわ。目立ちたくないチヨだったわね、ゴメンゴメン」


「こんな可愛いお嬢さんが、ローリーさんよりお強いのですか?」

「えぇ、そうなんだけど。この子は人見知りが強いから、他言無用でお願いね」


「ははは、分かりましたがローリーさんから言ったんですよ。噂を広げない様に、お互いに気を付けましょう」

「そうね、気を付けましょう」



 そんな話をしていると、

「出た! 盗賊だ! 沢山出て来やがったぞ」
 馭者ぎょしゃがそう叫んだ。

 専属護衛が身を乗り出して、あたりを見回して言う。

「相手の人数が多すぎる。大人しく盗賊にしたがった方がいいかもしれぬ!」

「冗談じゃないわ! 女がどういう扱いを受けるか分かってるの!」

 そう言って、ローリーが腰のロングナイフに手を掛けた。


「チヨは馬車の中から魔法で援護してね」

「はい、アダモも加勢させますね」

「うん」



「お頭ぁ、上玉が2人居ますぜ。次のアジトに連れてって可愛がってやりましょうや」

「丁度いい、新しいアジトで料理でもさせてやろう」


「ふんっ、ここで料理されるのはお前らの方だ!」

「ほほぅ、気の強い女は好きだぜ。泣き叫ばせてひざまづかせてやんよ!」


「チヨ、行くわよ!」

「はい。アダモちゃん、ゴーッ!」
『は~い』

 シュィイイインッ!

 なんとミルキーハムスのキグルミを着たアダモが、馬車の前面に飛び出した。


「はぁ、大鼠の魔物か!? テイマーがいるのかぁ?」

「へっ、大鼠なんか、この人数の盗賊の相手にゃなんねえよ!」

「その通りだ。野郎ども、やっちまえっ!」
「「「へ~い」」」

「ひゃっは~」
「オラオラオラァ!」


 ロングソードを振りかざして先頭で突っ込んできた男を、ハムス姿のアダモがうしろ回し蹴りで吹き飛ばす。

 ドッカァアアアアアンッ!

 飛ばされた男が更に後ろにいた男2人を巻き込んだ。

 アダモの後をローリーが追い駆けるように賊を攻撃する。


 千代はインベントリから賊の頭上に、石英を含む大きめの花崗岩を遠慮するように取り出していった。

「ごめんなさい、怪我しないようにそっと花崗岩を取り出し!」

 シュィイイイイインッ!


 急に頭上に出現した重さ50キロから100キロぐらいの花崗岩に、賊達が次々に押し潰されていく。

「グエェェッ」
「ムギュゥゥ、ヒデェェッ」
オメェェ、どけてくれぇぇぇ……」


 賊はうしろや横からも攻めてくるが、アダモが攻撃をはじきながら一撃でほふっていく。

 ローリーも2本のロングナイフで確実に賊を仕留めていった。


 千代は距離を取っている賊達に【石弾】ストーンバレットを打ち込んで倒していく。

 ドドドドドオオオオオンッ!


 無詠唱にクールタイム無しで、【石弾】が次々と賊の腹に的確に打ち込まれていった。

「ウギャ」
「ヒゲッ」
「グエッ」
「…………」



 数分後、総勢30名ほどの賊達が、馬車を囲むように地面に倒れ伏していた。

『終了で~す』

 ハムス姿のアダモが、全ての賊を殲滅せんめつしてそう言った。


「倒れてる盗賊さんの武器をインベントリに収納!」

 シュィイイインッ!

 千代は倒れてる賊から不意を撃たれないように武器を取り上げいく。


 ローリーは賊のかしらを見つけて、ブーツで顔を踏みつけた。

「おいっ! 誰が可愛がってくれるって? 私達に料理をさせるって言った口は、どの口だっけ?」

「ウグゥゥゥッ、クッソォッ!」


 ゴリッ! グリグリグリッ!

「イ、イッテエエエッ! ゆ、ゆるしてくれ……」

「ローリーさん、そのぐらいで、もう……」


「ふんっ、どうせこいつらは奴隷落ちさ!」

 そう言って、ローリーはかしらの顔からブーツをどかしてやった。


 馭者がローリーに話しかける。

「こいつらは大人数だから馬車で連れて行くことができない。下着1枚でしばり上げて置いて行きましょう。伝書バトを飛ばしてエルレイダから衛兵を派遣して貰いますが、それまで身動き出来ない状態にして、ここに放置します。首領だけは馬車で連れて行きましょう」

「それでいいわ」


 犯罪者を倒した者には報酬を受け取る権利があるので、賊の扱いにも意見を言う事が出来るらしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

選ばれたのはケモナーでした

竹端景
ファンタジー
 魔法やスキルが当たり前に使われる世界。その世界でも異質な才能は神と同格であった。  この世で一番目にするものはなんだろうか?文字?人?動物?いや、それらを構成している『円』と『線』に気づいている人はどのくらいいるだろうか。  円と線の神から、彼が管理する星へと転生することになった一つの魂。記憶はないが、知識と、神に匹敵する一つの号を掲げて、世界を一つの言葉に染め上げる。 『みんなまとめてフルモッフ』 これは、ケモナーな神(見た目棒人間)と知識とかなり天然な少年の物語。  神と同格なケモナーが色んな人と仲良く、やりたいことをやっていくお話。 ※ほぼ毎日、更新しています。ちらりとのぞいてみてください。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

薄幸召喚士令嬢もふもふの霊獣の未来予知で破滅フラグをへし折ります

盛平
ファンタジー
 レティシアは薄幸な少女だった。亡くなった母の再婚相手に辛く当たられ、使用人のように働かされていた。そんなレティシアにも幸せになれるかもしれないチャンスがおとずれた。亡くなった母の遺言で、十八歳になったら召喚の儀式をするようにといわれていたのだ。レティシアが召喚の儀式をすると、可愛いシマリスの霊獣があらわれた。これから幸せがおとずれると思っていた矢先、レティシアはハンサムな王子からプロポーズされた。だがこれは、レティシアの契約霊獣の力を手に入れるための結婚だった。レティシアは冷血王子の策略により、無惨に殺される運命にあった。レティシアは霊獣の力で、未来の夢を視ていたのだ。最悪の未来を変えるため、レティシアは剣を取り戦う道を選んだ。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

処理中です...