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第3章 異世界で領地を経営します

55 ノルマンド公爵家

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 俺とユキが、アストリア王国のべックヒルド王妃を訪ねてから3日後に、宮殿の謁見の間で叙爵式が行われた。
 告示の後で、済し崩しなしくずしに執行されたのだ。

 王妃の愛からなのか王家の陰謀なのか、俺には判断出来なかったが、こういう事に無知な俺はどうする事も出来なかった。
 えっ、相変わらずですかっ! そうですか……しょぼん。


 俺は叙爵の返礼に、国王陛下に自作の杖を献上した。
 ミスリルの芯に金を被せ、宝石を散りばめた台座の上にクリスタルの玉を乗せている。
 現世ではクリスタルはそれほど高価では無いが、異世界では魔法の触媒となるので喜ばれる。散りばめられた宝石にも防御系と強化系の付与魔法を施しておいた。

 ヘイミル国王陛下は余程気に入ったらしく、公式の場に於ける王杓として、いつもかたわらに置く様になった。



 ノルマンドと言う家名は、かつてアストリア王国の公爵が、ノルン地方の一部を領主として治めていたからだと言う。
 現在はホクオー国の北部の地だが、神々が去った後は空白地帯が多く残っていた。
 妖精の森もトロルヘイムもノルン地方である。
 現在、ホクオー国はスカジ半島全域とデマルク地方を支配していて、その南がヘイミル王のアストリア国である。

 戦時中何度も激戦が行われてノルマンド公爵家は失われたそうだ。
 戦争が終わり神々が去ると、領主が居なくなった土地は、隣接国であるホクオー国に吸収される。
 ホクオー国は終戦の混乱に乗じてスカジ半島全域を手に入れたのだった。

 現在、アストリア王国の旧ノルマンド公爵領は、北隣のホクオー国の中の飛び地に成っている。
 アストリア王国にとっては実効支配をしていないが、ユウリが名目上のノルン地方の領主に成ったと言う事だ。



 俺達はアストリア王国の王都アンディーヌに屋敷を貰う、ノルマンド公爵の王都邸だそうだ。
 そしてユキは王妃の住む後宮を出て、公爵屋敷に住みながら出産する事になった。

「小さな屋敷ですまぬが我慢して住んでくれ」

 とヘイミル王に言われたが、四ツ谷の迎賓館の様な屋敷だった。
 周囲には王族達の屋敷が立ち並んでいる。


「日本だったら不動産税を払うのが大変だろうなぁ」

「領地が無いから貢納こうのうは有りませんけれど、宮廷貴族として給料が貰えるそうです」

「へぇ……なんか役立たずなのに申し訳ないね」


「いいえ、献上したあの王笏おうしゃくとネックレスに比べたら大した事ありません」

「俺の作った貴金属が、そんなに高価なの?」

「大きさもデザインも、世界に1つしかない希少な物だと言ってます」


「日本で買って来た美術雑誌の写真を見ながら、真似して作っただけなんだけどね」

「だから、ここでは希少なのです」

「ふ~ん、そうかもねぇ」


 俺達は、決して御茶等をこぼしてはいけないと思える高級ソファーに座りながら話をしていた。

「このソファーも高級すぎて、3時にクッキーを食べながらお茶をするには勿体無いね」

こぼさないように浅く座って、受け皿を使ってください」

「それがいいね」


「貴族は服も調度品も高価な物を使うのですから、それが普通なのです」

「うわぁ、貴族って疲れるね。お茶ぐらいリラックスして飲みたいよねぇ」

 絶対にこぼしてはいけない屋敷24時だっ!


「そうですね。妖精の森の家を懐かしく思います。 ブラウニーやニッセ達も寂しがってるかもしれませんね」

「うん。 あとで【転移】して、残ったお菓子を妖精の森の家に置いてくるよ」

「はい、お願いします」



 ある日、診断しに来ていた医者が告げる。

「奥様は今日か明日には出産するでしょう」

「はい」

 俺はユキの手を取り恋人繋ぎした。



 その日の夕方頃、双子の赤ちゃんが生まれた。
 有り難い事に安産だった。

 よくある異世界小説の様に、産みの親が逝ってしまう事は無かった。
 口には出さないが、俺は凄く心配していたのだ。
 ほっと胸をなでおろして、小説の読み過ぎだと思った。

 ヘイミル国王陛下が名付け親となり、子供達の名前はチャールズとシャルロッテに決まった。
 産まれてすぐに魔術師団長が訪れて、双子の魔力を鑑定していったのだが……。





 ユキの容態が安定した翌日、国王陛下に夕食会に招待される。
 国王陛下夫妻、宰相夫妻、魔術師団長夫妻、騎士団長夫妻、将軍夫妻が招待されていた。

「ユキ、凄い顔ぶれで緊張してしまうね」

「私は幼い頃に会った事がありますし、王宮にも慣れてますので大丈夫です。ユウリはすべて私に任せて、食事を楽しんでください」

「ありがとう」


 私達夫婦は末席に座った。無役の新米上級貴族にすぎないのだから当然だろう。

「今日は養女むすめ夫婦の出産を祝って一席設けた、堅苦しい事は考えずに楽しんでいってくれ」

 俺は閣僚達1人1人に挨拶をする。
 叙爵式で会っていたと思うのだが、直接挨拶をするのは初めてだった。


 しばらくして、魔術師団長が子供達の魔力鑑定の結果に触れた。

「先日出産後に、お子様達の魔力鑑定をさせて頂きましたが、私には4人とも鑑定する事が出来ませんでした」

「4人!?」

「はい。ノルマンド公爵夫婦とお生まれになった双子のお子達です」


「どういう事かね?」
 宰相が尋ねる。

「この国最高の魔導師である筈の私が、4人を鑑定出来なかったと言う事は、私以上の魔力を持ってると言う事です」

「「「「「……」」」」」


「そうなのかね? ブリュンヒルデ」

「国王陛下、私の名はユキ・ユリシーズ・ノルマンドです」

「おぅ、すまぬすまぬ……ノルマンド婦人、それで魔力に付いてはどうなんじゃ?」

「ご推察の通りだと思います」


「ユウリ殿も魔力が多いと言うことですな?」
 魔術師団長が念を押した。

「はい」


「生まれたばかりの子供達も、すでに魔術師団長より魔力が高いと言う事なのじゃな?」

「いいえ、陛下。パッシブスキルの為だと思います、子供達の魔力はそこまで高くありません」

「なんと、生まれつきのパッシブスキルが魔術師団長の鑑定を妨害したと言うのじゃな!?」

「はい」


「そのパッシブスキルは何でしょうか?」
 魔術師団長が聞く。

「申し訳ありません、言えません」


「どちらの遺伝なのかな?」
 宰相が聞く。

「私も夫もパッシブスキルを持っていますから、分かりません」

「「「おおおっ!」」」


「ユウリくんどうだろう、2人をワシの養子として預けてくれぬかのう?」

「いやです! 私の様な苦労をこの子達にさせたくありません」
 ユキが即答した。


「……そうだったのぅ。すまなかった、大いに反省しておる。ブリュンヒルデの為になると思って……間違いであった」

「国王陛下、私の名はユキ・ユリシーズ・ノルマンドです」

「あうっ、何度もすまぬ。……ユウリくん、養子の件は無かった事にしておくれ」

「はい」


「それでは、第1王子とシャルロッテとの婚約を……」

「国王陛下、子供達はまだ生まれたばかりです」
 ユキが再び即答した。

「えっ……それもダメなのか?」

「結婚は子供に決めさせます」

「なんだと! 子供の幸せは親の責任だと思うが……」

「いいえ、子供の自由にさせます」

「……」


「子供達が成人した後に、本人達に決めさせます」

「う~むっ、ブリュンヒルデは昔から言い出すと聞かなかったからのぅ」

「……ユキです」

 ユキがヒ○シみたいになってるっ!


「とても美味しい料理ですね。私の領地から珍しい果物を持って来て料理人に渡してますから、デザートにそちらもお楽しみ下さい」
 俺はデザートを理由に話を逸らした。


 南海の孤島エンファン島から持って来た果物が、1人分づつ小さなガラス皿に盛り付けられて出て来る。
 カットされたマンゴー・パパイヤ・パイナップル・バナナ等だ。

「ほぅ、これは新鮮で美味しいですなぁ」

瑞々みずみずしくて甘いですなぁ」

「さすが妖精の森ですな、北の国で果物が取れるとは」

「はい……ですがこれは南の島から【転移】で持って来た物なのです」

「ユウリくんも【転移】魔法を使えるのですかな?」
 魔術師団長が聞いた。

「はい」
「「「おおぅ!」」


「ユキ、皆さんが【転移】魔法で驚いてるけど?」

「【転移】魔法は空間属性魔法ですから……空間属性魔法は、ごく一部の者にしか使えません」

「そうだったんだ、俺の周りには結構居るのにね」

「ユウリとエリナの他は妖精族の上位種ですわっ!」

「そうだったね。友達の様に接してるので、忘れてしまってたね」

 子供達の未来を何とか守って、夕食会を乗り切った……かな!?
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