上 下
30 / 75
第2章 異世界の研修所で働きます

30 災厄の偶像の探索

しおりを挟む
人物紹介です。
ユキ(ブリュンヒルデ) ルミナ(スクルド) ヤマちゃん(オーディン) ノブちゃん(上泉信綱) コンちゃん(所長) ラナちゃん(グラーニ)



 異世界に戻って2日目の朝、エリナはルミナと夏コミの稽古をしている。

「それってワザワザ異世界で、する事なの?」

「コスとポーズを決めてピッタリ息を合わせるの!」

「「ね~っ」」


 ナオちゃんは、犬人族最年少のユウナが子守兼遊び相手に成ってくれている。

 ユウナは小学校1年生ぐらいに見えるが、犬人族の生態は俺には分からない。
 彼女らはとても働き者で、命令にも兵士のごとく従う。
 ここは軍隊では無いので、こき使う様な事は無いのだが、自主的にテキパキと働いていくれて、『痒い所に手が届く』とは、正にこの事かと感心してしまう。

 ユウナはナオちゃんの子守を自分に与えられた仕事だと思ってる様だ。


 研修所、オゥログ邸、ユウリ邸の畑と家畜の世話や家事全般は犬人族侍従の仕事となった。

 勿論俺達も手伝いますよ。
 種まき、収穫、水遣り、虫取り、治療等は、スキルを活用すれば一瞬で終わり、労働を大幅に軽減出来る。

 侍従達には、家事に関しても積極的に魔道具や家事スキルを使って貰う。
 労働時間短縮と労力の削減にアイディアを惜しまない。

 定期的に会議を開いて、皆にも意見やアイディアを出して貰う。

 ヤマちゃんの提案により、電子機器の導入をする事にした。
 現地人に知られないように従業員棟に秘密の地下室を作り、日本で買った電子機器を設置する。
 創作兼印刷部屋も地下室に変更した。
 蓄電池モジュールも地下室に作った。

 ソーラーパネルは、普通の屋根に見える様に回りを加工した。
 水車に取り付けた発電機は木材でカバーして、壊さなければ見えない様にした。
 電線は塩ビ管に入れて、地中と屋根裏を通して壁に埋め込んだ。塩ビ管のサイズで壁財を堀削り、板材でカバーし壁紙を貼った。

 地下室に入るには【転移】でしか入れない。入口は何処にも無いのだから。
 【転移】は1度行った所にしか移動出来ないので、部外者は決して地下室に入れない。
 初めて地下室に行く者は、必ず誰かの【転移】で連れて行って貰うしかない。
 【転移】魔法を使える人族も少ない。【転移】スキルを持ってない侍従達も地下室には入れない。掃除は俺がインベントリーにゴミや埃を収納して【洗浄】【浄化】スキルで綺麗にする。


 研修生が来たら、なるべく現地冒険者と同じ条件で冒険を初めて貰う。
 最初から魔道具に頼ると、リアル冒険ゲームの始まりを楽しめないだろうから。
 勿論、陰日向かげひなたから十分な安全を確保する。
 研修生用の『始まりの装備』をセットで提供するつもりだ。
 内容は、旅人の服、革の胸当て、皮の手袋、短剣orこん棒、革の盾、水筒、松明、薬草、リュックサック。
 外出する時は、誰か1人必ずガイドする。





 金曜日の朝に、リリーメルの町に薪を売りに出かけた。

 同行するメンバーはオゥちゃん、俺、エリナ、ルミナ、菜穂子とユウナだ。
 ユキは妊娠中だから大事を取って、研修所で留守番してもらった。
 菜穂子とユウナは、グラーニがく荷馬車の上に座っている。



 町に着くと、まずギルドに顔を出した。

「お早う御座います。北の港町オダルスネへの商隊護衛ご苦労様でした」
 入ってすぐに、ギルド職員に声を掛けられた。

「ユウリさんはDランクに昇格してますよ」

「はい、有難う御座います」


 受付に向かうと、うしろから男に声を掛けられる。

「おはよぅ! 共同依頼遂行ご苦労さまでした。毎週金曜日に来るって聞いてたから待ってたんだよ」

「ボアズさんユングさん、お疲れ様です。オダルスネから帰って来てたのですね」

 ユングも一緒に居て挨拶を交わした。

「町へのコボルトの襲来も無くて、『銀の翼』のメンバーで探索して炭鉱跡の巣を見つけたのだが、もぬけの殻だった。誰かが、すでに討伐した跡だった様だ……。
 まあ、それは良いのだが、問題は巣の奥に『災厄の偶像』が有った事だ。すでに破壊されていたのだが、
『災厄の偶像』は魔物を増やし、群れの支配者を出現させる【闇魔法】の魔道具で、恐らく魔族が設置したと思われる。ハーマルやイエビクを襲ったオークやオーガの群れも、魔族が『災厄の偶像』を、巣に設置したからではないだろうか? と思われるのだ」

「はい、そうなんですね……」


「ところが困った事に、オークとオーガの巣も『災厄の偶像』も見付からなくてね……、それをユウリ君に探して貰いたいと思って、待っていたんだよ。俺達が寝てる間に、コボルトの巣を討伐して偶像を破壊したユウリ君なら、見付けてくれるんじゃないかと思って……」

「はぁ、指名依頼という事なんですね?」

「そうだけど、……あまり気が乗らないよう様だね?」

「はい……、攻撃されれば迎え撃ちますけど、こちらから討伐するのは、好きでは有りません」

「そうなんだ。……では、巣と『災厄の偶像』を見付けるだけの依頼では、どうだろうか?」

「お兄ちゃん、受けて上げなよ~。又、町が襲われたら可哀想だよ~」

「そうだねエリナ、それではお願いします。ただし妻のユキは妊娠中なので参加しません」

「有難う御座います。それでは受付で契約をしましょう」


 俺は受付を済ませて参加メンバーの確認をする。
 参加パーティは、ボアズ、ユング、オゥちゃん、エリナ、スクルドと俺だ。

 ついでに、その場でパーティ登録をする。

「パーティーピーポー」
 と、オゥちゃんが照れながら、大きな声で言った。

「あれ、ナオちゃんとユウナもたまに触ってる。まぁいいかっ」

 パーティー登録用の大理石のような大きな珠が明るく光った。
 パーティは明日、馬車でハーマルの東エルバームに向かう。オークの大群に襲われた町だ。





 翌朝早くにオゥちゃん、スクルド、エリナと俺は、研修所からリリーメルへ幌馬車で向かう。
 幌馬車は、ダンジョンへ向かう研修生の送迎用に作った物で、10人ぐらい乗る事が出来る。
 普段は普通の馬に轢いて貰う事にしてるが、今日はグラーニに轢いて貰う。危険を伴うかも知れないからだ。

「グラーニよろしくね!」

『任して下さい』

「調教スキルがレベルアップしたから、神獣姿のグラーニの言葉が理解出来るようになったよ!」

「へ~、お兄ちゃんも分かるんだ~。良かったね~」

「うん。【転移門】のスキルも新しく覚えたから、練習も兼ねて使ってみるね。
 いくよぅ、……リリーメルへ、テレポゲート、オープン!」

 サッサッ、シュビィィィッ。

 俺は自作の詠唱と振り付けを披露した。

 ブゥウウウウウンッ!

「おっ、一発で成功した」

「あははははっ、やだぁぁ、お兄ちゃん。な~にそれ~」

「ユウリ、カッコわる~い」

「ユウちゃん、俺ぁがカッコいいポーズを教えてやるだぁ」


『……取り敢えず、ゲートを潜りますね』

 グラーニが歯茎を見せて笑いながらゲートを潜った。

「ショック! 俺ってセンス無いのかなぁ」



 幌馬車ごとゲートを潜り、町から見えない近くの街道に出た。
 広場へ向かうと既にボアズとユングが待っている。

「お早う御座います。お待たせ致しました」

「「「「「お早う御座います」」」」」

みなさん、朝からニコヤカで、楽しそうだね」

「はい……お2人も一緒に幌馬車に乗って下さい」


 リリーメルの街を出て、町から見えない所まで来てから、再び【転移門】を使う。

「ハーマルへ、テレポゲート、オープン!」
 今度は詠唱だけにした。

 ブゥウウウウウンッ!

「おおぅ、凄い。ユウリ君【転移門】の魔術が出来るんだね!」

「はい、有難う御座います。でも、センスが無くてポーズが残念なんです。ショボン」

「あはははっ。元気だして! 十分凄いんだから」



 幌馬車は領都ハーマルからエルバームを目指して街道を東へ進む。
 途中で昼食を取ってから午後3時頃に町に到着した。

 宿の前まで来ると、
「今日は、この宿に泊まりましょう。私は町長に話を聞きに行ってきます」

 そう言って、ボアズは一人で出かけた。


「それでは皆さん、宿でゆっくり寛いで下さい」

 ユングに促されて宿に入り、オゥちゃんと俺、ルミナとエリナが2人部屋に案内された。



 夕食時にボアズが聞き込みしてきた情報を説明する。

「町の中心を南北にグロンマ川が流れているが、川の東側にオークの被害は出ていない。南西の森の中から来たのではないかと言う事です」

 俺は【レーダーマップ】と【探索】で町の南西方向をチェックする。
 大きな山は無く、森と湖がある。
 赤い光点で表示される魔物の群れは、確認出来ない。

「スキルでは、何も確認出来ませんねぇ」

「やっぱりそうなんだ。エルバームの冒険者達が森を調べたのだが、何も発見出来なかったそうだ」

「う~ん……」

 ジィィッと、レーダーマップを見ていると、1部にモザイクの様な違和感が有るのを見つけた。

「ルミナ先生ここを見てください」

「どれどれっ! ほうほう……これは認識阻害の結界が貼って有るのかもしれないわ」

 俺は、テーブルの上に広げてある地図の1点を指差す。

「ボアズさん、この辺りに結界が貼って有るかも知れない、との事です」

「うむっ。それでは明日、そこへ行って見ましょう」

「「「はい」」」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

【前編完結】50のおっさん 精霊の使い魔になったけど 死んで自分の子供に生まれ変わる!?

眼鏡の似合う女性の眼鏡が好きなんです
ファンタジー
リストラされ、再就職先を見つけた帰りに、迷子の子供たちを見つけたので声をかけた。  これが全ての始まりだった。 声をかけた子供たち。実は、覚醒する前の精霊の王と女王。  なぜか真名を教えられ、知らない内に精霊王と精霊女王の加護を受けてしまう。 加護を受けたせいで、精霊の使い魔《エレメンタルファミリア》と為った50のおっさんこと芳乃《よしの》。  平凡な表の人間社会から、国から最重要危険人物に認定されてしまう。 果たして、芳乃の運命は如何に?

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

おっさんの異世界建国記

なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

ネタバレ異世界 ~最強チートスキル【心を読む】で第一話からオチを知ってしまった生ポ民の俺が仕方なくストーリーを消化して全世界を救う件について

蒼き流星ボトムズ
ファンタジー
伊勢海地人(いせかいちーと)は、異世界でチート無双する事を夢見る生活保護家庭の貧民。 ある日、念願の異世界行きを果たした彼が引き当てたスキルは、他者の心を読む能力だった! 【心を読む】能力が災いして異世界に飛ばされる前から世界観のネタバレを食らったチートは、やや興ざめしながらも異世界に挑む。 戦闘力ゼロ、ルックスゼロ、職歴ゼロの三重苦をものともせずに【心を読む】ことでのみ切り抜ける新天地での生活。 解体屋、ゴミ処理業者、ヤクザへの利益供与、賞金目当ての密告と社会の底辺を軽やかに這いずり回る。 底辺生活系異世界冒険譚。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

処理中です...