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第3章 魔族王国の迷子令嬢

87 暴漢退治

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 私達は人気ひとけの少ない裏路地で、4人の暴漢と対峙しています。


「鋼鉄ジークン、やっちゃって!」

 私は、もう1体のゴーレム『鋼鉄ジークン』をインベントリから呼び出しました。

 ジークンは無表情で自然体のまま、その場に立ち尽くしています。
 暴漢との間に『ソヨ……』と風が吹き抜けていきました。

「……」


「なんだ、この爺は?」
「先にやっちまえっ!」

「コノヤロー」

 ドカッ!

 悪者の1人が鉄棒でジークンを殴りつけました。

 ビリビリビリビリッ……ジィイイイイインッ!


「ゥワッ、イッテッ、手がしびれちまったぁぁぁ!」

「……」

 鋼鉄ジークンはびくともしません、しれっとしています。



「オゥオゥオゥ、俺達に勝てるとでも思ってんのかぁ、ジジィの癖によお!」

 もう1人の男が与太よたりながら近づいて、ジークンの足に蹴りを入れます。

 ドカッ!

「ゥワッ、イッテェェェッ!?」

 ゴロゴロゴロゴロ……、

 逆に、蹴った男が倒れて、すねを抑えて苦しんでいます。


 ミレーヌが呪文を唱えて、鉄棒を持ってる男に【火炎弾】を撃ちました。

 ボッ、シュゥゥゥッ、ドォンッ!

「ウワァチチチチィィィッ!」


「アダモちゃんも、イッケェェェッ!」
『は~い!』

 私はアダモちゃんもインベントリから呼び出しました。


『はぁあああああっ!』
 ズッゴォオオオオオンッ!

 アダモの掌底拳しょうていけんが後方にいた男の腹に炸裂します。

「ぅげっぷぅ!」


『たぁあああああっ!』
 ドッゴォオオオオオンッ!

 アダモの掌底拳が続けて隣の男にも炸裂します。

「あがぁぁぁっ!」


 アダモは2人の男を軽くねじ伏せました。

『おちゃのこさいさいですぅ』


 アダモとジークンは、アッという間に4人の男を組み敷いて動けなくしました。
 私は火傷してる男を【治療】してあげます。

 ホワワワワァァァン!

「あっ、ありがてぇ……」



「あなた達は両替商から付けてきたのね?」
 ミレーヌが聞きました。

「……」


「アダモちゃん、踏んでちょうだい」

 むっぎゅぅぅぅぅぅっ!

「うぎゃあああっ! ……そうだ、そうだよっ、足をどけてくれぇぇぇっ」


「こういう事をよくやってるのね?」

「はっ、はじめてだぁ……」


「アダモちゃん……」

「まっ、待ってくれえええっ。やってるよ、やってますって、その為に雇われてるんだからよぅ」

「俺たちゃボディガードしながら荒稼ぎしてたんだ。でも1番悪いのは、あのババアだぜ、俺達が襲って奪った稼ぎも上前をはねやがるんだぜ」


「領主に訴えて罪を償わせましょう」

「ケッ、婆と領主は仲がいいんだ。つるんで色々と悪い事をしてるのさっ」


『ご老公様、そ奴らを懲らしめてやりましょう』

「アダモちゃん? あいたたたたたっ、頭がいた~い……」


「領主がグルとなるとやっかいだわね、帰って皆と相談しましょう」

「はい」


『御嬢様、ロープを出して下さい。この者達を拘束しますぅ』

「はい。アダモちゃんは私の持ち物を全て把握してるの?」

『インベントリの中で暇だから、アイテムを使って遊んでいましたぁ』


「中で遊べるんだね?」

『はい、無限の空間で時間経過もありませんから、永遠に遊んでいられますぅ』


「私も入ってみようかしら?」

『生きてる生命体は収納出来ませ~ん、死体なら入れますぅ』


「ふ~ん、アダモちゃんはインベントリの中で遊んでるんだぁ。お勉強はしないの?」

『しませんっ!勉強したら負けだと思ってますぅ。俺はまだ、本気出してないだけですからぁっ!』

「痛い痛い痛いっ、頭がいた~い。また記憶の底を刺激されましたぁぁぁっ!」


「はいはい。とりあえず、この男たちを連れて帰りましょうね」

「「は~い」」



 ◇ ◆ ◇



「そんな事になってたのかぁ……」

「どうしようか? 相手が領主とつるんでるなら厄介だなぁ」

「だけど、このまま放って置くのもくやしいしなぁ」


「とりあえず、この男達は強姦強盗未遂でギルドに引き渡しましょう。衛兵ではなく冒険者ギルドにっ」

「冒険者を襲ったのだから冒険者ギルドに引き渡す事はできるけど、結局衛兵に渡されて領主の所に連れて行かれて、うやむやにされてしまうのだろう?」

「あぁ、でもギルドの記録に残せるから、領主と両替商を何とかする時の証拠には成るかもしれないぞ」

「そうだなぁ……」


「それより向こうから襲わせて、正当防衛で返り討ちにするのが手っ取り早い方法だと思うんだが?」

「ふ~む、被害者が居なくなれば、事件を訴える者も居なくなる。ミレーヌとマリエルを始末しに来るかもしれないな……」


「私達は賊をおびき寄せる餌になるのね?」

「あぁ、そうだ。覚悟して準備しておいてくれ」

「分かったわ」


「領主と一戦交えるのかぁ……」

「まさか、白昼堂々と衛兵を使う事はしないだろうから、深夜に刺客を送ってくるんじゃないか?」

「そうだな……罠でも仕掛けとくか! 信頼できる他の冒険者パーティーにも協力して貰おう」


「深夜にこの拠点を襲わせるなら、確実に襲う様に誘ってやりましょうよ」

「そうだな『飛んで火に居る夏の虫』って状況にして待ってやんよ!」

「おぅ」


「それなら男性メンバーが出かけて、ここに居ない事にしたらどうかしら?」

「おっ、リーゼ。お主も悪よのう」

「じゃあ、用事で町の外へ出かけると噂を流そうぜ」

「そうだな、食堂で飯を食いながら言いふらそう」


「それにしても、お嬢ちゃんはゴーレムを同時に2体も動かせるとは魔力が多いんだなぁ」

「そうなんですか?」

「あぁ、ゴーレムを作るにも稼働するにも魔力を結構消費するって言うぞ」

「まったく意識してませんでした」

「用が無い時は止めといた方がいいわね」

「はい」


 私がアダモちゃんを見ると、イヤンイヤンと顔を横に振りました、ジークンは無表情です。
 私はそっとステータスウインドウを開いてMPを確認しましたが満タンの侭でした。でも今は言われた通りにしたいと思います。

「アダモちゃんとジークンをインベントリに収納!」

 シュィイイイイインッ!



「彼らはここを襲ってくるかしら?」

「俺達はこの辺境の町のトップクラスの冒険者パーティーで名も知られているから、奴らはスグにこの家を見つけるだろうな」

「それにミレーヌも有名人だしね」


「あぁやっぱり、ミレーヌさんは美人だから有名人なんですね?」

「まぁ、嬉しいわ。マリエルちゃんもとっても可愛いわよ」

「あぁ、はいはい。それもあるだろうけど、ミレーヌは雪豹人族のお姫様だからなんだ」


「今は一介の冒険者よ。それに成人女性をお姫様って呼ばないでよ」

「はい、王女様」

「はい、はい。滅亡した国の王族でしたぁ」
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