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第1章 アストリア王国に転生

59 アリタリカ帝国議会聴聞会

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 マリエル達は旅に出て4日目の夕方に、神聖アリタリカ帝国の帝都ロマリアに到着しました。
 高級ホテルのスィートに宿をとり、贅沢な夕食を食べてお風呂で疲れを取ります。ふかふかのベッドでグッスリ寝ました。



 翌日朝早くから、私達はさっそく議会に向かいます。
 議会場に到着して、案内されたのは本会議場ではなくて、委員会会議室でした。
 他の出席者は、議員から選出された委員長と委員会会員10名、フランク王国外相とシュヴィーツ地方の長老です。
 大聖女と神殿長が傍聴者オブザーバーとして臨席していました。
 大聖女は結構お歳を召しているようで、60歳は超えていると思われます。


 委員長が会議の開催を宣告しました。

「今回開かれるのは聴聞会です。帝国議会本会議でも弾劾裁判でも有りません。被告人や加害者、被害者を裁くものでは有りません。当事者の言い分を聞いて経過と現状に付いて把握して、女神様の意思を探り、民の安寧を図る事が目的です。
 まず、今回の聴聞会を開く事を要請したフランク王国の訴えからお聞き致します」


 フランク王国代表ジャイヴ・ロドリゲス外相が立ち上がり、最初に発言します。

「アストリア王国は3年前に、フランク王国領のサンクトガレン城を奪いました。そして今年はシュヴィーツ地方まで占領したのです。どちらも宣戦布告無しで、事前通告無しに越境侵入して侵略行為を行ったのです」


 アストリア王国のロッテンシュタイン宰相が挙手をして、許可を得て反論します。

「およそ3年前、マリエル嬢は夏祭りで昏倒してる所をサンクトガレン城に拉致されたのです。城の1室に監禁されていた所を脱出して、逆にサンクトガレン城を制圧しました。シュヴィーツ地方に関しても、ゾンビが大量発生して民を襲っていた所、フランク王国のレドロバート辺境伯が本国に逃げて住民を見捨てたので、マリエル嬢が側近達と共にゾンビを退治して、シュヴィーツの各街を救ったのです。因みにアストリア王国は直接関与していませんし、占領も制圧もしていません。今もシュヴィーツ地方は独立を維持している筈です」


 フランク王国代表のジャイヴ・ロドリゲス外相が再び発言します。

「フランク王国はマリエル嬢を拉致していませんし、シュヴィーツの民を見捨ててもいません。本国で万全の準備を整えてから対策を講じる予定でした。ゾンビを退治してくれた事には感謝していますが、駐留してる兵を速やかに引き上げて我が領土をお返し頂きたい」


 シュヴィーツ地方の代表者イグレツィオ・ベルカシス長老が挙手をして発言します。

「フランク王国は私達を見捨てました。本国国境門を硬く閉ざして、助けを求めている住民を冷酷にも追い返したのです。我々を助ける準備をしていたという事も信じられません。そして、ゾンビの氾濫が収束すると見て、戦争装備の1万の軍勢を差し向けて来たのです。元々シュヴィーツはフランク王国の領土では有りません。占領されて戦争に駆り出され、前線で消耗させられてきたのです。シュヴィーツの民はフランク王国を恨んでますし、本来の独立を主張致します」


 フランク王国代表のジャイヴ・ロドリゲス外相が発言します。

「ベルカシス長老の話は、全くの作り話です。数十年前にシュヴィーツからの庇護要請により、フランク王国はシュヴィーツ地方を領土に編入して、アストリア王国等の外敵の脅威から守って上げたのです。軍の戦争装備も『アストリア軍がシュヴィーツを占領してるから排除してくれ』と言うシュヴィーツの要請に応じたのです。それを罠を張って待ち構えていた敵軍により、悔しくも壊滅させられたのです」


 レオポルド侯爵が挙手をして発言します。

「アストリア軍は駐留していません。シュヴィーツ議会の要請で独立を維持する為にレオポルド侯爵軍を駐留させているのです。フランク王国のシュヴィーツに対する脅威が無くなれば、速やかに兵を引き上げ致します」


 マリエルも挙手をして発言します。

「マリエル騎士団はシュヴィーツ議会の要請により、対フランク王国の重要拠点である、ローザンヌ地方とグリュエーレ城を守っているのです。フランク王国が、シュヴィーツ地方の独立を認めて不可侵条約を結ぶなら、全てシュヴィーツにお返ししてアストリア王国に引き上げます」


 フランク王国代表のジャイヴ・ロドリゲス外相が発言します。

詭弁きべんです。そのままシュヴィーツを占領し続ける事は間違いありません。他人の弱みに付け込んで他国を侵略する卑怯下劣ひきょうげれつな行為に、後付で理由を付けているだけです。シュヴィーツとサンクトガレンの住民は、信頼出来る大国であるフランク王国の庇護下に入り、安寧に暮らす事を求めているのです。この様な虎狼ころうの如き占領者達の言い分に騙されては成りません」


 会議は双方の主張が食い違いながら、丸1日堂々巡りを繰り返しました。




 2日目からは、それぞれの用意した参考人や証人を交えて議論します。
 シュヴィーツの住人やフランク王国の捕虜、マリエル騎士団員エリザ等も発言しました。
 しかし、結局は1日目の議論と殆ど内容は変わらずに、それぞれの意見は又、堂々巡りを繰り返しました。

 この国の会議の慣例として、意見が纏まらない時は最低3日は議論を尽くすそうです。




 3日目の閉会前に、神殿長が委員長に発言の許可を求めて許されました。

「3日間の議論が尽くされたのですから、女神の御意思を計りましょう」

 書記達により会議室の中央に丸いテーブルが据えられて、その上に大理石の台が置かれます。
 そして、その台の上に女神エイルを模した天秤の様な神具が設置されました。
 シュヴィーツ地方の領有権の帰結を、神の意志を伺う占いで決めるのだそうです。


 委員長が説明します。

「アリタリカ帝国議会は、神具の天秤が東に傾けばシュヴィーツ地方の独立を認めます。西に傾けばフランク王国の領有権を認めます」

(えっ、それって、今までの委員会の議論が反映されないんじゃ……)
 マリエルは心の中で呟きました。


(ふふふっ、神殿側には十分賄賂が効いてるから必ず西に傾く筈だ。結局シュヴィーツはフランクの物よ。女神の名の下に議会の決定が下されれば、領土を返さざるを得まい)

 フランク王国代表のジャイヴ・ロドリゲス外相は、『3日間も十分に議論されたのだから』と、占いの結果に誰にも文句を言わせないつもりです。


「それではシュヴィーツの帰属を占います。一同結果に従うことを女神エイル様に誓って下さい」

「「「誓います」」」

 出席している委員全員が賛同したのでした。
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