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第1章 アストリア王国に転生

56 フランク王国の政略

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  およそ2年前に、フランク王国はマリエルを誘拐して、レオポルド辺境伯を寝返りさせようとしました。
 しかし逆に、サンクトガレン城とその周辺の領土を失ってしまったのでした。
 兎人族はアストリア王国に従い、犬人族はアストリア王国の戦争奴隷に成りました。

 領土を失い、国境線を大幅に後退させてしまったフランク王国のアランフォード辺境伯は責任を取らされて失脚しました。
 その変わりに新しくシュヴィーツ地方の辺境伯と成ったのは、闇属性魔法を得意とするレドロバート大佐でした。

 彼は『災厄の偶像』で魔物を増やして、サンクトガレン城に攻め込ませようとしましたが、魔物のコントロールを誤り(マリエル達の活躍による)シュヴィーツ地方にゾンビと魔物が蔓延してしまいます。
 レドロバート辺境伯は大量発生したゾンビに襲われてフランク王国本土に逃げ帰って、シュヴィーツ地方を失う事に成りました。

 シュヴィーツの民は、フランク王国が戦争をする度に先陣を任され消耗させられて。今又、ゾンビと魔物が溢れるシュヴィーツ地方に置き去りにされ、フランク王国本土へ逃げようとした民は国境の門で追い返されました。
 散々こき使われた挙句に見放されて追い返されたシュヴィーツの民は、フランク王国に愛想を付かしたのです。
 その結果として民は独立を強く望み、シュヴィーツ地方を救ったマリエルに全幅の信頼を寄せる様に成ったのでした。


 フランク王国は2度の失敗で大国の面子を失いましたが、このまま黙っている訳にはいきません。
 しかし、2度も続けて敗れたアストリア王国と再び戦争をして、力ずくでシュヴィーツ地方を取り返すのも難しそうですし、民心を失ったシュヴィーツを治めるのも苦労しそうでした。

 そこで、フランク王国は政略を用いる事にしたのです。
 アストリア王国の南に、アルプ山脈を隔てて接している神聖アリタリカ帝国は、女神エイルの名の元に、世界を1つの国と見なす宗教国家です。西北のフランク王国とも国境を接していました。

 この世界の殆どの国々は、毎年神聖アリタリカ帝国の神殿本部に寄付をしています。
 何故なら宗教上で破門されたり異端とされると、周辺国に異教徒国と見做みなされて、攻撃の口実を与えてしまう恐れが有るからです。
 しかも神の名の元に共闘されて、挟み撃ちにされる可能性も出てきてしまうのです。


 フランク王国は寄付金納入に応対してくれている担当神官を接待して、神殿本部に近づきます。
 さらに神殿長に心づけをして、聖女の頂上に奉られてるステラビィカ大聖女にフランク王国産の高級品の数々を贈りました。

 フランク王国はアストリア王国に食指しょくしが有り狙って来ましたが、逆に領土を失いつつあります。
 それも、本当の聖女ではないかと噂されてるマリエルの所為だと気付き始めているのです。
 そこでアリタリカ帝国を買収してアストリア王国とマリエル対策を画策したようでした。

 フランク王国は、アストリア王国とマリエルによるサンクトガレンとシュヴィーツへの進出を、神の名に拠り糾弾するつもりです。
 それによりシュヴィーツ地方とサンクトガレンを取り戻すつもりなのでした。
 ついでにマリエルにも、これ以上侵略の邪魔をされないように何らかの手を打つつもりです。


 神聖アリタリカ帝国の神殿長はフランク王国に買収されて、シュヴィーツ地方の独立に関して介入する事を帝国議会に議案上奏しました。

 各国が、アリタリカ帝都ロマリアに有る神殿本部に祭られてる女神エイルを崇めている為に、アリタリカ帝国は隣接国からの不可侵が保たれています。
 しかし近年、聖女の恩恵が現われ難く成っていて、帝国内で疫病や飢饉が発生している為に、国勢が徐々に衰えているのでした。
 アリタリカ帝国議会は今回の領土問題を国勢復活のチャンスと捉えたようで、各国への干渉や発言力を増やす良い機会であると捉えたのでした。


『女神エイル様の名の元に、アストリア王国の代表とマリエルはアリタリカ大聖堂に於いて、シュヴィーツ地方の主権について申し開きをする事を要請する』
 神聖アリタリカ帝国議会からアストリア王宮に、召喚要請の手紙が届きました。


 〇 ▼ 〇


 アストリア王宮からレオポルド邸に緊急の呼び出しが有りました。
 私は御父様と馬車で王宮に向かいます。

 王宮に到着するとスグに、私達は国王の執務室に通されました。
 アストリア王国国王陛下エドワード・アストリアが正面中央に座っていて、ロッテンシュタイン宰相とトーランド騎士団長とスネイブル将軍が居並んでいます。

「レオポルド侯爵、アリタリカ帝国議会からマリエルに召喚要請の手紙が来たのじゃ」

「はい、陛下。シュヴィーツ地方の件で御座いますね」

「その通りじゃ。議会でシュヴィーツ侵攻の申し開きをする様にとの事じゃ」

「私も御同行させて頂きたいのですが?」

「良かろう。しかし議会場に入れるかは分からぬぞ」

「はい、それでも結構です。御一緒させて頂きます」


「我々も御同行致します」

「宰相だけで良い。騎士団長と将軍が行けば、相手の心も穏やかでは有るまい」

「しかし、圧力を掛けなければシュヴィーツを取り返されてしまうかも知れません」

「シュヴィーツはアストリアの領土ではない。そうじゃろうマリエル」

「はい。寛大な国王の御心に感謝いたします」


「我々は侵略の為に軍を動かしたのでは無い。シュヴィーツの民を救う為に、国境線を越えて助けに行ったのじゃ」

「しかし、フランク王国は再びシュヴィーツを支配下に収めるつもりだと思いますが?」

「そうはさせん。その時はアリタリカ帝国を敵に回してもシュヴィーツの民を守るのじゃ。そうじゃろうマリエル」

「はい、有難う御座います国王陛下。私はシュヴィーツの独立を支持したいのです」


「うむ、わが国は疫病も飢饉も無く豊作続きで国力が充実してる。尻すぼみのフランクもアリタリカも簡単に我が国を攻める事は出来ぬであろう。
 しかしマリエルよ、勝手に突貫しては成らぬぞ。ワシやレオポルド侯爵に相談するのじゃ。緊急の時でも側近に話してから行動するのだぞ。ワシ達は最後迄お主を支持するからのぅ」

「はい。有り難き幸せで御座います」


「レオポルド侯爵。マリエルには騎士ばかりで文官が居らぬ様じゃのぅ。所帯が大きく成って来たのだから、信頼できる有能で経験のある側近が必要じゃ。ワシに心当たりが有るから面接してみてくれ」

「ははっ、畏まりました」


「強制はせぬぞ。お主にも家の事情が有るであろうからのぅ」

「はい、恐れ入ります」




 1週間後、私達はアリタリカ帝国へ旅立ちました。
 同行するのは、ロッテンシュタイン宰相と御父様です。

 国境には険しいアルプ山脈が有るので、ケンちゃんの出した【転移門】を馬車で潜りました。
【転移門】の事はアリタリカ側に知られたく無いので、国境の関所の手前の森の中へと転移したのです。

 ケンちゃんは毎日熱帯地方へ向かってジョギングしてるので、既にアリタリカ帝国にも到達していたのでした。


【後書】
話の中の地勢図はヨーロッパ地図を参考にしています。
アストリア王国はオーストリア、神聖アリタリカ帝国はイタリア、シュヴィーツ地方はスイス、フランク王国はフランス辺りです。
この小説はフィクションですので、実在の国家、団体、政治、宗教とは一切関係ありません。
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