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第1章 アストリア王国に転生

50 ヤッホー、フレニ!

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 シュヴィーツ地方には沢山の美しい湖があります。
 フランク王国との国境線が有る山塊の麓にも、大きな湖が転々と存在しています。
 それぞれの湖はアーレ川とライン川で繋がっているのです。

 13歳の少女フレニはグリュエーレ湖畔の草原に腰を下ろして羊を眺めていました。
 3つ編みのお下げが高原に吹き降ろす風に揺れています。

「だいぶ日が傾いてきたから、そろそろ羊を追ってお家に帰ろうかしら」


 ギャッ、ギャッ、ギャッ、

「何処かでゴブリンの泣き声がするわ!」

 フレニは急いで羊を集めて、家へと追い始めました。


 メェー、メェー、メェー、

 羊を追うフレニは、当然ですが羊の群れの最後尾に成ってしまいます。
 子供用の短めの鞭をしならせて、『ヒュッ、ピシッ』と、うならせて羊をコントロールします。
 羊を叩く事はしません、地面を叩くのです。
 決して強く叩いてはいけないと、お兄様に教えられているのでした。


 ところが、家路を急ぐフレニをゴブリンが見つけてしまったのです。
 羊の鳴き声を探してた3匹のゴブリンが、獲物を見つけて歓喜して追い掛けてきました。

 ギャッ、ギャッ、ギャッ、

「早く柵の中に逃げ込むのよ。魔物避けの魔道具が柵に設置してあって、ゴブリンは入れないはずだから」


 しかし小柄で身軽なゴブリンがスグ後ろに迫ります。

「逃げられない、襲われる!」と、思ったその瞬間。

 シュッ、ズバッ! ザンッ! スパッ!

 騎士団長エリザの剣が3匹のゴブリンを瞬殺しました。
 エリシャナと2人の女性騎士団員が、倒したゴブリンの首を切り落します。

「ゾンビ化しないように首を斬り落とすのよ」

 エリザがフレニ向かってニコリと微笑みながら、独り言のようにそう言いました。


「大丈夫ですか? 怪我は有りませんか?」

「はい、ありがとう御座います。私はフレニと申します」

(素敵な騎士様だわ!)


「私はエリザ、マリエル騎士団の団長です。こちらはアストリア王国レオポルド侯爵令嬢のマリエル様です」

「こんにちは」

 騎士様の後ろから、お人形のように可愛い御令嬢が現われました。


「初めましてマリエル様」

 フレニは両手でスカートの裾をつまみ、軽くスカートを持ち上げカーテシーで挨拶をしました。


「初めましてフレニちゃん。貴方あなたのおうち何処どこですか?」

「私の家はシュヴィーツランドの綺麗な湖畔のほとりに有ります」


「フレニちゃん、貴方のお仕事は何ですか?」

「私の仕事は羊飼いです。……狼が来るのが怖いのです」


「お家までお送りしますね、一緒に行きましょう」

「はい、ありがとうございます」


 フレニは後ろを振り返り、腕を伸ばして指差して言います。

「あそこに見えるのが私の家です」

 木で作った柵と門の中に、赤い尖った屋根のログハウス風の家が見えました。


「まぁ、可愛いくて素敵なおうちです事!」

「柵の中に入れば、魔物避けの魔道具により魔物の脅威から守られるはずなんです」

「それでは早く柵の中に入りましょうね」

「はい」


 マリエルと騎士団員達は、フレニと羊を追って、皆で柵の中に入りました。

「お陰でゴブリンから逃げ切り、柵の中へ逃げ込むことが出来ました」

「良かったですね。早くご家族を安心させて上げましょう」


 ドアを開けて部屋に入ると、フレニの兄は腫れた腕を押さえて寝込んでました。

「う~ん……フレニお帰り。無事だったんだね」


「お兄ちゃん、その手はどうしたの?」

「ゾンビに噛まれてしまったんだ……」


「お兄ちゃん大丈夫なの? お父さんとお母さんは何処どこ?」

「隣の部屋だけど、ドアを開けてはダメだ!」

「何故?」

「お父さんとお母さんは、ゾンビに成ってしまったんだ!」

「まぁ、どうしましょう!」


 マリエルは天を仰ぎました。

「あぁ神様! この家族を哀れんでください。助けてください。エイルちゃん! どうしたら良いでしょう?」


 すると、空の方から声が響き聞こえてきました。

『フレニ、私はエイルと言います。貴方の心を開き、神に真摯に思いを告げるのです。どうして欲しいのですか?』

 フレニは跪き両手を組んで祈りました。

「神様、どうか私の家族を哀れんでください、助けてください。私達は真っ直ぐ貴方を見続けます。右にも左にもれません。どうか貴方の下部しもべを哀れんでください」


 キラキラキラキラッ!

 光の粒が集約して人の形をかたどって行きます。
 女神エイルが現われました。

「貴方の願いは神に聞き届けられました」


 女神エイルがフレニの兄の腕を癒すと、スグに手の傷が消えて綺麗な皮膚に戻りました。
 そしてスグに隣の部屋へと向かいます。
 ドアを開ける事無く通り抜けて入ると、ドアの隙間からまばゆい光が漏れてきました。


 ガチャリ!

 ドアが開いてフレニの両親が元気な姿で現われます。
 親子4人は抱き合って喜んで、エイルの前に跪いて感謝の言葉を述べました。

「エイル様、ありがとう御座います。ご恩を忘れず、神を尊び敬虔に生活いたします」

「神は、いと哀れみ深い。貴方達の神様に感謝してください」

「「「神様に感謝いたします」」」

 フレニの家族とマリエル達も神に感謝しました。


 エイルはマリエルに近づいてギュウゥゥッと、抱きしめました。

「マリエルちゃん、私のマブダチは良い子ですね。まだ試練は続くかもしれませんが、貴方なら大丈夫です。今迄通りで良いのです。楽しく自分のペースで過ごせば良いのですから」

「はい、エイルちゃん。フレニの家族を助けてくれてありがとう。ゾンビも治療できるのですね」

「エヘン! 一応女神と呼ばれてますからね。でも神様の許しがないと使えない力なのですよ」

「はい、私達の神様に感謝いたします」


「それでは私は帰ります。ごきげんよう」

 エイルは光の帯に包まれ空へと昇っていきました。


「ありがとうエイルちゃん」
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