上 下
35 / 100
第1章 アストリア王国に転生

35 従魔騎乗競争

しおりを挟む
 スタートの号砲で50人程の参加者が、広場から一斉にスタートしました。

「ママ~、がんばって~」
「「おねえちゃ~ん」」

 スズちゃんとエルクラインくんとルディくんが応援してくれてます。

「えへへへへ~、がんばるね~」
 私は手を振って応えました。


「ママッ! もうみんな行っちゃたよ~。早くハヤク~」

「あっ本当だ~。じゃあ、行ってきま~す」

「「「行ってらっしゃ~い」」」

 私がスタートすると、パパンとエリザが斜めうしろに付き従うようにスタートしました。
 私達は他の出場者から離されて、殿しんがりに成っていたのです。



 パパンは『ガリミムス』という名の小型恐竜の魔物に騎乗しています。

「騎乗できる魔物では最速と言われてるのだぞ。国内に数頭しか居らぬのだ、はーはっは~。フンスッ」

「さすがお父様ですわ」

「そうじゃろぅ、そうじゃろぅ」
 と、スタート前に言ってました。


 私達は徐々にレース集団に追いつきますが、依然として最後尾を進んでます。
 先頭までは、既に百メートルぐらい離れてしまいました。

「ケンちゃん、このまま走ってスタミナを温存しましょうか?」

「マリちゃんは、最後に追い込むスタイルが良いの?」

「う~ん、ピーちゃんが無事にゴールしてくれて、皆が楽しんでくれればいいかなぁ」

「ふ~ん、そうなんだぁ」


「キュルキュルキュル!」

「えっ、ピーちゃんは前が遅いから余裕なの? もっと飛ばしたいの?」


「キュルキュルー」

「でもぅ、先が長いから、あんまり早く走るとバテちゃうよ」


「キュルーキュルッキュル!」

「えっ、スタミナバッチシなの! もっと前の位置に着けないと優勝が狙えないの?」


「キュールキュルキュル!」

「ゴール前の狭い街道で大勢を抜くのは難しいから、広い草原で好位置を取りたいんだね!」


「キュルキュル!」

「オッケー……ピーちゃん、イッケエエエエエッ!」

 ギュゥウウウウウンンンッ!


 ピーちゃんはコースが広い草原で、後方から大外一気に前集団をゴボウ抜きにしていきます。

「わ~、早いハヤイ!」

「マリエル、待ちなさ~い!」

「お嬢様~、置いてかないでくださ~い!」

 お父様とエリザも追いつけないようです、アッと言う間に後方に離れてしまいました。


「カピバラって、ユニコーンやガリミムスより早かったんだねぇ!?」

「マリちゃん、それは無いと思うよ。ピーちゃんは普通のカピバラを遥かに超えてるよね!」


「ふ~ん、エイルちゃんなのかな? エイルちゃん、ありがとう」

『えっ、私は何もしてませんよ。そもそも、私の管轄内にカピバラは居ませんから』

「「……」」


「ピーちゃんって何者なんでしょう?」

「キュルキュル」

「ピーちゃんは私の家族だって……勿論家族で間違いないわ、おほほほほっ」



 2番手集団が見えて来ました。バイコーンに騎乗してる男子達が居ます。
 ピーちゃんはここでもグングンと大外一気に抜いて行きました。

「あっ、マリー!」

「レクシ王子、お先に失礼致しますわ。おほほほほぅ……」

 2番手集団の先頭を走っていたクラスメートの男子達も、アッと言う間にゴボウ抜きにしてしまいました。
 なんとか、令嬢としてのたしなみを維持しつつ……?


 草原の放牧場の柵沿いをぐるっと回って、城へ戻る復路に入ります。
 5人の先頭集団が前を走ってるのが見えてきました。

「ピーちゃん、疲れてない? 無理しないでね」

「キュルキュル!」


 お城へ向かう最後の直線は、古くからの街道の為にあまり広くありません。

 残り500メートルで、不意に1人がラストスパートを掛けました。
 先頭集団から2人が着いて行けずに脱落します。
 ピーちゃんは、その2人をかわして先頭の3人を追い駆けました。


「キュールキュルキュール!」

「分かったわ、ピーちゃん」

 私は終始何もせずに掴まっていただけですが、ピーちゃんの背中にしがみ付いて空気抵抗を減らします。

 ギュゥウウウウウンンンッ!


 ピーちゃんは更にギヤを上げて、一気に先頭集団に襲い掛かります。

 3番手のバイコーンを抜き、2番手のナイトメアを抜こうとした時、目の前で先頭のダイアウルフが転びました。

 ガックンッ、ゴロゴロゴロンッ、

「「「きゃあああぁぁぁっ!」」」

 ゴール前で見ていた観客から悲鳴が上がりました。
 ピーちゃんの背中にしがみ付いていた私は何が起きたか分かりません。


 ガッ、シュゥゥゥッ!

 ピーちゃんは、転んだ人馬ならぬ人魔を避けてジャンプしたようです。
 ハイスピードからのジャンプで、空中を翔けた状態でゴールをして、その勢いで転がってしまいました。

 ゴロゴロゴロゴロゴロッ!

「「「きゃあああぁぁぁっ!」」」

 ゴール前で見ていた観客から、再び悲鳴が上がりました。


 放り出された私に騎士達が駆け寄ってきて覗き込みます。

「御嬢様、大丈夫ですか?」

「誰が勝ったの……?」

「ほぼ同時にゴールしましたよ」

「御嬢様、喋らないで下さい、救急搬送します」

「ありがとう……」

 ガックン、
 私は意識を失くしました。


 〇 ▼ 〇 ;


「知らない天井ですわ……」

 私は小さな部屋の病院のようなベッドに、1人で横になっていました。
 ケンちゃんも居ません。

 壁も天井も白1色で、窓はありません。鉄製のドアだけが朱色です。
 小さなキャビネット以外に何も置いてありません。


 私は体のアチコチに包帯を巻かれてますが、大怪我では無いようです。
 魔法を使う為にベッドから起き上がる事にしました。

「自分を【洗浄】【消毒】【乾燥】【回復】!」

 シュワシュワシュワシュワッ、
 ピッキィイイイイインッ、
 シュゥウウウゥゥゥ、
 ホワワワワアアアン!

「はぁ、サッパリしましたわ」


 そのままドアに向かい、ドアノブに手を掛けましたが鍵が掛っていて開きませんでした。

「別荘に、こんな部屋は無かったと思うけどなぁ。一体、何処の誰の家でしょう?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔力吸収体質が厄介すぎて追放されたけど、創造スキルに進化したので、もふもふライフを送ることにしました

うみ
ファンタジー
魔力吸収能力を持つリヒトは、魔力が枯渇して「魔法が使えなくなる」という理由で街はずれでひっそりと暮らしていた。 そんな折、どす黒い魔力である魔素溢れる魔境が拡大してきていたため、領主から魔境へ向かえと追い出されてしまう。 魔境の入り口に差し掛かった時、全ての魔素が主人公に向けて流れ込み、魔力吸収能力がオーバーフローし覚醒する。 その結果、リヒトは有り余る魔力を使って妄想を形にする力「創造スキル」を手に入れたのだった。 魔素の無くなった魔境は元の大自然に戻り、街に戻れない彼はここでノンビリ生きていく決意をする。 手に入れた力で高さ333メートルもある建物を作りご満悦の彼の元へ、邪神と名乗る白猫にのった小動物や、獣人の少女が訪れ、更には豊富な食糧を嗅ぎつけたゴブリンの大軍が迫って来て……。 いつしかリヒトは魔物たちから魔王と呼ばるようになる。それに伴い、333メートルの建物は魔王城として畏怖されるようになっていく。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

糞ゲーと言われた乙女ゲームの悪役令嬢(末席)に生まれ変わったようですが、私は断罪されずに済みました。

メカ喜楽直人
ファンタジー
物心ついた時にはヴァリは前世の記憶を持っていることに気が付いていた。国の名前や自身の家名がちょっとダジャレっぽいなとは思っていたものの特に記憶にあるでなし、中央貴族とは縁もなく、のんきに田舎暮らしを満喫していた。 だが、領地を襲った大嵐により背負った借金のカタとして、准男爵家の嫡男と婚約することになる。 ──その時、ようやく気が付いたのだ。自分が神絵師の無駄遣いとして有名なキング・オブ・糞ゲー(乙女ゲーム部門)の世界に生まれ変わっていたことを。 しかも私、ヒロインがもの凄い物好きだったら悪役令嬢になっちゃうんですけど?!

処理中です...