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第三部

ごまかせた?

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「ちっちゃくたって、役目は果たせる。大きさは関係ないだろ?」

 ちっちゃいと言われたルフィは怒っている。
 私のほうは……確かに小さいから、反論はできないね。

「若くてもルフィは回復役ヒーラーとしての腕はいい」

 ヴィートがルフィの肩に手を置いた。

「そしてルチアはアイスプリズンの魔法が使える。地長竜ファフニールを倒せたのは彼女のおかげだ」
「上級魔法……だと?」

 ヴィヴィアーナはヴィートの言葉に大きく目を瞠った。
 彼女の驚いている様子なら、私の正体をばらさなくても、何とかごまかせるんじゃないかという気がしてきた。
 止めを刺すことこそできなかったが、地長竜ファフニールを倒したアイスプリズンは上級魔法に分類される。
 魔法使いの数は少ないという話だから、上級魔法を使える魔法使いはもっと少ないはずだ。アイスプリズンが、彼女を納得させる判断材料になればいいのだけれど。

「なるほど……」

 ヴィヴィアーナはあごに手を当てて、険しい顔で何事かを考え込んでいたが、ゆっくりとほぐれていった。
 どうやら納得してもらえたみたい。
 私はヴィートの影でほっと息をついた。

「熟練者ではないと、侮っていたことは私の落ち度だ。申し訳なかった。お詫びといってはなんだが、我がギルドで便宜を図れそうなことがあれば、遠慮なく言ってくれないか? もちろん、大発生を鎮めたクエストの報酬を支払う用意はできている」

 ヴィヴィアーナは私たちに向かって、再度深く頭を下げる。これまでの傲慢な態度は一変していた。

「別に私たちは特別扱いを求めているわけではない。クエストの報酬についても、正当な対価をもらえればそれでいい」

 ヴィートはクラウディオとルフィの顔を順番に見回した。

「ああ」
「俺もそれで十分だ」

 みんなもそれでいいらしい。

「ふ、ずいぶんと無欲なことだ」

 ヴィヴィアーナが口の端をゆがめて笑った。

「あ……!」

 私はふいに思い出したことがあり、思わず声を上げた。

「どうした?」

 みんなの視線が一気に私に集中する。

「一つだけお願いが」
「なんだ、言ってみろ?」

 ヴィヴィアーナに促されて、私はもじもじと口を開いた。

「いい杖を売っているお店を教えてもらえませんか? 私の杖は壊れてしまったので……」

 クラウディオと出会うまでは、杖なんてなくても魔法を使っていたけれど、今では杖なしで使うなんて想像ができない。
 たぶん使えるとは思うけれど、上級魔法を発動させるのは無理だろうし、あるとなしではかなり威力が違ってくる。今後のことを考えたら、ぜひとも新しい杖を手に入れておきたい。

「それはいい考えだな」

 ルフィが大きくうなずいていた。

「わかった。いい店を紹介しよう。それから、あずかった素材はギルドで買取らせてもらいたいが、かまわないな?」

 ヴィヴィアーナは苦笑しつつ、お店の紹介を請け負ってくれた。

「ああ、それでいい」

 どのみち魔石はギルドでしか買取してもらえないので、地長竜ファフニールの前足もあわせて買い取ってもらえるのなら、それがいいだろう。
 みんなにも異論はなかった。
 用事が済んだとばかりに、出口へ向かいかけたヴィヴィアーナがふと振り返った。

「このままこの天幕で休んでもいいし、コルシニへ戻るのならば送らせるが、どうする?」

 みんなの視線が再び私に集まった。
 そうだね。私が一番足を引っ張ってるよね。

「できたら街に戻りたいなぁ。ここだと落ち着いて眠れないよ……」

 天幕の外は戻ってきた冒険者たちや、ギルド職員が走り回る音がしていて、けっこう騒がしい。
 魔力が尽きてしまっているので、自分の身を守るのも難しい。
 だったら街の方が安全で、ぐっすり眠れる気がする。

「では、馬車を用意しよう。準備ができたら誰かを呼びに越させる。それまで、少しでも休んでいくといい」

 ヴィヴィアーナは片手を上げて挨拶をすると、天幕を出て行った。
 彼女の気配が十分に遠ざかったところで、誰からともなく安堵の声が漏れた。

「ふう……」

 ヴィートが冷や汗を拭うふりをして、かすかに残った緊張を和らげる。

「いきなりギルドマスターが出てくるとは思わなかったな」
「そりゃそうだ。普通に冒険してたら、出会わないだろう」
「俺も、ギルドマスターと、話をしたのは、初めてだ」

 ヴィヴィアーナがいなくなったことで、みんなはすっかりくつろいだ様子だ。
 ここで私はずっと疑問に思っていたことを聞いてみた。

「ギルドマスターってそんなに偉いの?」
「当たり前だ」

 間髪いれずに頭をぽふりとクラウディオにたたかれる。

「おまえ、本当になにも知らないんだな……」

 ルフィにあきれた顔をされてしまった。

「ギルドマスターともなれば、地方の領主に匹敵するほどの権力を持つ。場所によっては国境をまたいでいるギルドもある。そうなれば小さな国の王にも匹敵するぞ?」

 おおう。ヴィートにもちょっぴりあきれたような目で見られてしまった。
 そもそも、領主がどんな権限を持っているのか知らないのに、ギルドマスターがどれくらい偉いのかなんて、わかるわけがないじゃない?
 まあ、なんとなく偉い人なんだって覚えておけばいっか。

「んー、たぶんわかった、と、思う」

 歯切れの悪い私の答えに、みんなはそろってふきだした。

「まあ、仕方ないな。くくくっ、……ドラゴンなんだし」

 ルフィが笑いすぎて痛くなったおなかを押さえながら言った。

「そうだな。ルチアだしな」
「ああ」

 ヴィートに続いて、クラウディオもうなずく。

「みんな、ありがとね。黙っててくれて」

 私がそう言うと、ようやくみんなの笑いが治まった。

「だって仲間だろ?」
「うん。そうだね!」

 私は魔力切れの気分の悪さも忘れて、大声で笑った。
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