63 / 81
第三部
激マズなお薬に耐えた結果
しおりを挟む
「っまっずーい!」
なにこれ、なんなの? この世のものとは思えないよ!
涙目になりつつも、何とかのどの奥に流し込んだ薬の味はまずいの一言に尽きた。
ツンとした刺激が鼻の奥を突き、舌の上にはなんとも言えないえぐみが残る。それでも、おなかのなかに落ちた薬はすぐにその効力を発揮し始めたのか、身体の奥から次々と魔力があふれ出す感覚があった。
「ルチア、これこれ!」
ルフィが差し出したマグを飛びつくように受け取って、一気に喉の奥へ流し込む。
これほどただの水がおいしいと思ったのは初めてだよ。
どおりで、ルフィが回復薬を飲むのをためらうはずだ。いくら魔力が回復するとはいえ、このまずさは致命的だ。
「ん、ぷはぁ……」
いくぶんか薬の刺激が治まって、ほっと一息つく。
「大丈夫か?」
「味は最悪だけど、魔力はかなりいい感じに回復してるっぽい」
ふつふつと魔力が湧き出す感覚に、私の精神も高揚していく。
すっごく気分がいい。
今なら上級魔法だってぶっ放せる気がするよ。
「ルフィは飲まないの?」
「だって、くそまずだろ? それ……」
「そういうのは先に言ってほしかったよ」
魔力が回復するのはいいけれど、かなり精神的にダメージを受けた気がするよ?
「何事も経験だ」
ヴィートが慰めになるような、ならないようなことを言って、私の背をたたいた。
「ルフィも、飲め。あまり、時間を、かけたく、ない」
「……わーったよ」
ルフィは本当にしぶしぶという体で、荷物から回復薬を取り出した。
ちゃんとマグには口直し用の水も用意している。さすがに経験者は違うね。
ルフィは大きなため息をついたあとで、一気に回復薬を飲み込む。
私と同じように目を白黒させている。ルフィは続けざまに水を飲んだ。
「ふぁあああああ、くそまずい!」
「だろうね……」
心中お察しします。
「ねえ、傷薬はまずいってことはないの?」
「ないな。なぜなら傷薬は飲む必要がないからな。まあ、腹の中が傷つくようなことがあれば飲むかもしれないが、基本は塗るだけで事足りる」
「わぁー、それってずるくない?」
「別に普通のことだろう」
しれっとそう言うヴィートの表情に、若干の怒りがこみ上げる。
だけど確かにまずくても薬の効き目は確かなので、街に戻ったらぜひ買っておこう。
さて、今はそんなことよりも迷宮をいかにして脱出するかのほうが大事だ。
「魔力はほぼ回復したよ」
「俺もだ」
「じゃあ、行くか」
「ああ」
魔力と気力は十分な状態で、私たちは下の層へと続く階段を慎重に進んだ。
階段を下りきると、ものすごく大きな空間が広がっていた。
まるで神殿のように大きな柱や装飾が施されていて、これまでの迷宮の様子とはかなり違っている。
「これは……、まずいぞ」
先行するヴィートが突然足を止めてつぶやいた。
「え? ヴィートも魔力の回復薬飲んだの?」
「そうじゃない!」
どうやら私の質問は場違いだったみたいで、怒られた。
「ここは、最下層かそれに順ずる層かもしれない」
そう己の予想を告げたヴィートの表情は暗い。
「ええぇ! それって、かなりまずいんじゃない?」
クラウディオも顔をしかめている。
最下層って出現する魔物がかなり強いってことだよね。そんなとことで戦わなきゃいけないなんて、私は大丈夫なんだろうか?
「だからそう言っている」
ヴィートは疲れた表情でため息をこぼした。
「つまり、どういうこと?」
ルフィだけが状況をわかっていないらしく、怪訝な表情を浮かべている。
「こういう大きな空間には、たいてい迷宮の主がいる。その主を倒さなければ、地上へ戻る転送陣は現れない」
「ええ、まじかよ?」
「そうなの?」
私が心配していたのとヴィートの懸念はちょっと違っていたみたい。
ルフィもようやく事態を理解した様子で、顔を青ざめさせていた。
「おそらくここは通常のルートではたどり着けない、いわば裏の層だ。もしかしたら表の主を倒せば出られるかもしれないが、それはいつになるかもわからないし、私たちがここから出られるという保証もない。だが逆を言えば、この層の主を倒せば外に出られるということだ」
「かなり、分の、悪い、賭けだな」
クラウディオの渋面に、それがかなり難しいことだとわかる。
「他に転送陣がないか探すっていうのは?」
ルフィの提案にヴィートは首を横に振った。
「ここまで探して見つからなかったのだ。見つかる可能性のほうが低いだろうな」
「……だな」
つまり、この迷宮の裏ボスだか主だかを倒さないと地上に戻れないって事だよね?
「だったら、やるしかないでしょ?」
私の身体の奥からはいまだに魔力が生まれ続けている。
こんなに魔力が身体中に満ちていたという記憶はこれまでない。自分の容量以上に生まれてしまっているのか、身体中の細胞がふつふつと沸きあがるような心地がする。私はひどく好戦的な気分になっていた。
「主を倒して、みんなで地上にもどろうよ」
誰かがごくりとつばを飲みこむ音が聞こえた。
なにこれ、なんなの? この世のものとは思えないよ!
涙目になりつつも、何とかのどの奥に流し込んだ薬の味はまずいの一言に尽きた。
ツンとした刺激が鼻の奥を突き、舌の上にはなんとも言えないえぐみが残る。それでも、おなかのなかに落ちた薬はすぐにその効力を発揮し始めたのか、身体の奥から次々と魔力があふれ出す感覚があった。
「ルチア、これこれ!」
ルフィが差し出したマグを飛びつくように受け取って、一気に喉の奥へ流し込む。
これほどただの水がおいしいと思ったのは初めてだよ。
どおりで、ルフィが回復薬を飲むのをためらうはずだ。いくら魔力が回復するとはいえ、このまずさは致命的だ。
「ん、ぷはぁ……」
いくぶんか薬の刺激が治まって、ほっと一息つく。
「大丈夫か?」
「味は最悪だけど、魔力はかなりいい感じに回復してるっぽい」
ふつふつと魔力が湧き出す感覚に、私の精神も高揚していく。
すっごく気分がいい。
今なら上級魔法だってぶっ放せる気がするよ。
「ルフィは飲まないの?」
「だって、くそまずだろ? それ……」
「そういうのは先に言ってほしかったよ」
魔力が回復するのはいいけれど、かなり精神的にダメージを受けた気がするよ?
「何事も経験だ」
ヴィートが慰めになるような、ならないようなことを言って、私の背をたたいた。
「ルフィも、飲め。あまり、時間を、かけたく、ない」
「……わーったよ」
ルフィは本当にしぶしぶという体で、荷物から回復薬を取り出した。
ちゃんとマグには口直し用の水も用意している。さすがに経験者は違うね。
ルフィは大きなため息をついたあとで、一気に回復薬を飲み込む。
私と同じように目を白黒させている。ルフィは続けざまに水を飲んだ。
「ふぁあああああ、くそまずい!」
「だろうね……」
心中お察しします。
「ねえ、傷薬はまずいってことはないの?」
「ないな。なぜなら傷薬は飲む必要がないからな。まあ、腹の中が傷つくようなことがあれば飲むかもしれないが、基本は塗るだけで事足りる」
「わぁー、それってずるくない?」
「別に普通のことだろう」
しれっとそう言うヴィートの表情に、若干の怒りがこみ上げる。
だけど確かにまずくても薬の効き目は確かなので、街に戻ったらぜひ買っておこう。
さて、今はそんなことよりも迷宮をいかにして脱出するかのほうが大事だ。
「魔力はほぼ回復したよ」
「俺もだ」
「じゃあ、行くか」
「ああ」
魔力と気力は十分な状態で、私たちは下の層へと続く階段を慎重に進んだ。
階段を下りきると、ものすごく大きな空間が広がっていた。
まるで神殿のように大きな柱や装飾が施されていて、これまでの迷宮の様子とはかなり違っている。
「これは……、まずいぞ」
先行するヴィートが突然足を止めてつぶやいた。
「え? ヴィートも魔力の回復薬飲んだの?」
「そうじゃない!」
どうやら私の質問は場違いだったみたいで、怒られた。
「ここは、最下層かそれに順ずる層かもしれない」
そう己の予想を告げたヴィートの表情は暗い。
「ええぇ! それって、かなりまずいんじゃない?」
クラウディオも顔をしかめている。
最下層って出現する魔物がかなり強いってことだよね。そんなとことで戦わなきゃいけないなんて、私は大丈夫なんだろうか?
「だからそう言っている」
ヴィートは疲れた表情でため息をこぼした。
「つまり、どういうこと?」
ルフィだけが状況をわかっていないらしく、怪訝な表情を浮かべている。
「こういう大きな空間には、たいてい迷宮の主がいる。その主を倒さなければ、地上へ戻る転送陣は現れない」
「ええ、まじかよ?」
「そうなの?」
私が心配していたのとヴィートの懸念はちょっと違っていたみたい。
ルフィもようやく事態を理解した様子で、顔を青ざめさせていた。
「おそらくここは通常のルートではたどり着けない、いわば裏の層だ。もしかしたら表の主を倒せば出られるかもしれないが、それはいつになるかもわからないし、私たちがここから出られるという保証もない。だが逆を言えば、この層の主を倒せば外に出られるということだ」
「かなり、分の、悪い、賭けだな」
クラウディオの渋面に、それがかなり難しいことだとわかる。
「他に転送陣がないか探すっていうのは?」
ルフィの提案にヴィートは首を横に振った。
「ここまで探して見つからなかったのだ。見つかる可能性のほうが低いだろうな」
「……だな」
つまり、この迷宮の裏ボスだか主だかを倒さないと地上に戻れないって事だよね?
「だったら、やるしかないでしょ?」
私の身体の奥からはいまだに魔力が生まれ続けている。
こんなに魔力が身体中に満ちていたという記憶はこれまでない。自分の容量以上に生まれてしまっているのか、身体中の細胞がふつふつと沸きあがるような心地がする。私はひどく好戦的な気分になっていた。
「主を倒して、みんなで地上にもどろうよ」
誰かがごくりとつばを飲みこむ音が聞こえた。
0
お気に入りに追加
577
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
楽しくなった日常で〈私はのんびり出来たらそれでいい!〉
ミューシャル
ファンタジー
退屈な日常が一変、車に轢かれたと思ったらゲームの世界に。
生産や、料理、戦い、いろいろ楽しいことをのんびりしたい女の子の話。
………の予定。
見切り発車故にどこに向かっているのかよく分からなくなります。
気まぐれ更新。(忘れてる訳じゃないんです)
気が向いた時に書きます。
語彙不足です。
たまに訳わかんないこと言い出すかもです。
こんなんでも許せる人向けです。
R15は保険です。
語彙力崩壊中です
お手柔らかにお願いします。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
伯爵夫人のお気に入り
つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。
数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。
喜ぶ伯爵夫人。
伯爵夫人を慕う少女。
静観する伯爵。
三者三様の想いが交差する。
歪な家族の形。
「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」
「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」
「家族?いいえ、貴方は他所の子です」
ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。
「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる