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第三部

激マズなお薬に耐えた結果

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「っまっずーい!」

 なにこれ、なんなの? この世のものとは思えないよ!
 涙目になりつつも、何とかのどの奥に流し込んだ薬の味はまずいの一言に尽きた。
 ツンとした刺激が鼻の奥を突き、舌の上にはなんとも言えないえぐみが残る。それでも、おなかのなかに落ちた薬はすぐにその効力を発揮し始めたのか、身体の奥から次々と魔力があふれ出す感覚があった。

「ルチア、これこれ!」

 ルフィが差し出したマグを飛びつくように受け取って、一気に喉の奥へ流し込む。
 これほどただの水がおいしいと思ったのは初めてだよ。
 どおりで、ルフィが回復薬を飲むのをためらうはずだ。いくら魔力が回復するとはいえ、このまずさは致命的だ。

「ん、ぷはぁ……」

 いくぶんか薬の刺激が治まって、ほっと一息つく。

「大丈夫か?」
「味は最悪だけど、魔力はかなりいい感じに回復してるっぽい」

 ふつふつと魔力が湧き出す感覚に、私の精神も高揚していく。
 すっごく気分がいい。
 今なら上級魔法だってぶっ放せる気がするよ。

「ルフィは飲まないの?」
「だって、くそまずだろ? それ……」
「そういうのは先に言ってほしかったよ」

 魔力が回復するのはいいけれど、かなり精神的にダメージを受けた気がするよ?

「何事も経験だ」

 ヴィートが慰めになるような、ならないようなことを言って、私の背をたたいた。

「ルフィも、飲め。あまり、時間を、かけたく、ない」
「……わーったよ」

 ルフィは本当にしぶしぶという体で、荷物から回復薬を取り出した。
 ちゃんとマグには口直し用の水も用意している。さすがに経験者は違うね。
 ルフィは大きなため息をついたあとで、一気に回復薬を飲み込む。
 私と同じように目を白黒させている。ルフィは続けざまに水を飲んだ。

「ふぁあああああ、くそまずい!」
「だろうね……」

 心中お察しします。

「ねえ、傷薬はまずいってことはないの?」
「ないな。なぜなら傷薬は飲む必要がないからな。まあ、腹の中が傷つくようなことがあれば飲むかもしれないが、基本は塗るだけで事足りる」
「わぁー、それってずるくない?」
「別に普通のことだろう」

 しれっとそう言うヴィートの表情に、若干の怒りがこみ上げる。
 だけど確かにまずくても薬の効き目は確かなので、街に戻ったらぜひ買っておこう。
 さて、今はそんなことよりも迷宮をいかにして脱出するかのほうが大事だ。

「魔力はほぼ回復したよ」
「俺もだ」
「じゃあ、行くか」
「ああ」

 魔力と気力は十分な状態で、私たちは下の層へと続く階段を慎重に進んだ。
 階段を下りきると、ものすごく大きな空間が広がっていた。
 まるで神殿のように大きな柱や装飾が施されていて、これまでの迷宮の様子とはかなり違っている。

「これは……、まずいぞ」

 先行するヴィートが突然足を止めてつぶやいた。

「え? ヴィートも魔力の回復薬飲んだの?」
「そうじゃない!」

 どうやら私の質問は場違いだったみたいで、怒られた。

「ここは、最下層かそれに順ずる層かもしれない」

 そう己の予想を告げたヴィートの表情は暗い。

「ええぇ! それって、かなりまずいんじゃない?」

 クラウディオも顔をしかめている。
 最下層って出現する魔物がかなり強いってことだよね。そんなとことで戦わなきゃいけないなんて、私は大丈夫なんだろうか?

「だからそう言っている」

 ヴィートは疲れた表情でため息をこぼした。

「つまり、どういうこと?」

 ルフィだけが状況をわかっていないらしく、怪訝な表情を浮かべている。

「こういう大きな空間には、たいてい迷宮の主がいる。その主を倒さなければ、地上へ戻る転送陣テレポーターは現れない」
「ええ、まじかよ?」
「そうなの?」

 私が心配していたのとヴィートの懸念はちょっと違っていたみたい。
 ルフィもようやく事態を理解した様子で、顔を青ざめさせていた。

「おそらくここは通常のルートではたどり着けない、いわば裏の層だ。もしかしたら表の主を倒せば出られるかもしれないが、それはいつになるかもわからないし、私たちがここから出られるという保証もない。だが逆を言えば、この層の主を倒せば外に出られるということだ」
「かなり、分の、悪い、賭けだな」

 クラウディオの渋面に、それがかなり難しいことだとわかる。

「他に転送陣テレポーターがないか探すっていうのは?」

 ルフィの提案にヴィートは首を横に振った。

「ここまで探して見つからなかったのだ。見つかる可能性のほうが低いだろうな」
「……だな」

 つまり、この迷宮の裏ボスだか主だかを倒さないと地上に戻れないって事だよね?

「だったら、やるしかないでしょ?」

 私の身体の奥からはいまだに魔力が生まれ続けている。
 こんなに魔力が身体中に満ちていたという記憶はこれまでない。自分の容量以上に生まれてしまっているのか、身体中の細胞がふつふつと沸きあがるような心地がする。私はひどく好戦的な気分になっていた。

「主を倒して、みんなで地上にもどろうよ」

 誰かがごくりとつばを飲みこむ音が聞こえた。
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