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4章 世界樹のダンジョンと失われし焔たちの記憶
84話
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平和な日々を過ごしていたある日のこと。
焔は優花を連れて街を歩いていた。
目的は優花の住む宿を探すことだ。
今のところ優花は、焔が残りの人生をもらい受けた形となっているので焔の部屋で寝泊まりをしている。
ふたりは別にそれでもかまわないようだが、周りから「焔は危険」だの「優花ちゃんだけずるい」だのの不満の声が。
なので今日は宿探しをするという名目でお出かけをしている。
「ねえ焔さん、住むところなんて簡単に見つかるのかな?」
「まあ宿くらいならすぐ見つかるだろうけどな、ずっと住むための場所となると難しいんだよな」
ずっと暮らしていく部屋なら気に入った場所じゃないとつらいだろう。
それに維持コストも気にしないといけない。
今の焔は連続でクエストをこなしているので結構な金額を持ってはいる。
ただ焔の目指す平穏な日常を手に入れるならクエストはあまり受けないことになるだろう。
そうなると、高い維持コストのかかる生活は長く続かない。
できることならば沙織の宿と同じように無料かそれに近い金額の場所を探しておきたいところだった。
「別に焔さんの部屋でいいのに」
「だよな」
当人たちがいいと言っているのになぜまわりから不満の声があがるのか、ふたりはいまいち理解していなかった。
そんな感じなので、ふたりは部屋を探しつつも、ただお出かけを楽しんでいた。
特に優花にとっては、教会の監視もない自由な日々は新鮮だ。
実際は焔の所有物に近い扱いなので自由などないはずなのだが、当の焔にはそんなつもりは全くないので優花は自由の身に等しい。
ただそんな自由な日々に優花は少しだけ不安も抱えていた。
今までは自分を必要としている者たちがいたが、今はそれがない。
自由であると同時に、優花に利用価値があると思う人物もいない。
優花は自由な日々を経験したことがほとんどないので、いつか見捨てられてしまうのではないかという不安が心の奥にくすぶってしまっていた。
そんな気持ちもあって、優花は焔のそばにいることを望んでいる。
焔の所有物という立場にあえて落ち着くことで自分に存在価値を見出していた。
しかしそんな気持ちなど焔には理解できるはずもなく、今は部屋探しを続けている。
そんな時、焔たちは泉のアイテムショップの前を通りかかった。
「優花ちゃん、ちょっとここに寄ってっていいか?」
「いいけど、……なにこのお店」
「俺の知り合いの店なんだよ、なにか欲しいものがあったら買ってやるぞ」
「やった~」
優花はそんなものこんな店であるのかなと思いつつ、焔の後についてお店に入っていった。
「店長~、起きてる~?」
「いらっしゃい焔君、いつも私が寝ているような言い方はしないで欲しいなぁ」
「ほとんど眠そうにしてるじゃないか」
「まあね、それよりそちらの子は?」
「この子は新道優花ちゃんと言って、新しい友達だよ」
「ふうん、友達ね……」
アイテムショップ店長の泉はじ~っと優花を見つめる。
「こんにちは」
優花はその視線が気にならないのか、普通に挨拶をしてぺこりとお辞儀をした。
「ふむ、かわいい子だね、それにまた違う女の子だね」
「おい店長、誤解を生みそうな発言をしないでくれ」
「私は事実を言ってるだけだよ、それよりも今日は何か用?」
「たまたま寄っただけだよ」
「そっか、その子との結婚指輪でも買いに来たのかと思ったよ」
「そんなはずないだろ。でもせっかくだし、優花には奴隷用の首輪でもプレゼントしてあげようかな」
「焔君……、それはちょっとさすがに……」
「いや、冗談だから突っ込んでくれないと困るんだが」
「冗談だったんだ……、全然わからなかったよ」
焔の冗談は、悲しいことに泉に本気だと誤解されてしまった。
「奴隷用の首輪……、えへ、えへへへ」
「彼女、喜んでいるようだけど」
「嘘だろ、嘘だと言ってくれ」
奴隷用の首輪のどこにそんな喜ぶ要素があるのか不明だが、優花はなぜかにやけた顔で別の世界に旅立っていた。
それを見た焔と泉はその気持ち悪さに引いていた。
「焔君、これ奴隷用の首輪と鞭、プレゼントしておくよ」
「いや、いらないからな」
「必要になるかもしれないでしょ? あの子Mっぽいし」
「頼むから違っていてくれよ!?」
焔は優花が真の変態でないことを神に祈っていた。
結局焔は首輪と鞭を受け取り、何も買わずに店を後にした。
「焔さん何か買ったの?」
「いや、買ったんじゃなくてもらったんだよ」
「何もらったの?」
「……これ」
焔は恐る恐る優花に首輪と鞭を見せる。
「これってさっき話してた奴隷用の首輪?」
「あ、ああ……」
「それ私がもらってもいい?」
「な、何に使う気だ?」
「えへへ、秘密」
「……」
焔は恐ろしく不安になりながらも、もらった首輪を優花にプレゼントした。
「もしかしてこれも欲しかったりするか?」
さらに焔は一緒にもらった鞭も見せる。
「欲しい!」
「そうか……、ならこれもあげるよ。こっちの方がまだまともな使い道もあるだろうし」
「焔さんありがとう!」
「ああ、喜んでもらえて俺も嬉しいよ」
焔が鞭も渡すと、優花は頬を緩ませながらそれを受け取った。
なぜそんな表情をするのか謎過ぎて、焔は残念な気持ちになってしまう。
奴隷という言葉はよくないが、せっかく自分の自由にできる女の子を手に入れたというのに、ここに来てその女の子にまさかの変人疑惑が出てきた。
焔が優花に求めていたのは、明るくておとなしくて世間知らずなところだ。
決して首輪や鞭を見てうっとりするような女の子ではない。
(もうこうなったら、俺が優花をまっとうな人間に育てあげるしかない!)
新たな決意を胸に、焔は海沿いの道へとむかって歩いていた。
さきほどのアイテムショップの店長である泉によさげな宿の情報をもらって、今はそこにむかっている途中だ。
海沿いというのは沙織の宿と同じで、方向も同じなので案外近くにあったのかもしれない。
街を抜けて海沿いの通りまで出ると、不意に優花が焔の手を握った。
焔が驚いて振りむくと、優花は恥ずかしそうな表情をしながら視線をそらしている。
優花のかわいらしい姿に、焔は「これを求めたたんだよ!」と心の中でガッツポーズ。
その優花の首にはいつの間にかさっきの奴隷の首輪が装備されていたが、焔は気づかないふりをした。
焔は優花を連れて街を歩いていた。
目的は優花の住む宿を探すことだ。
今のところ優花は、焔が残りの人生をもらい受けた形となっているので焔の部屋で寝泊まりをしている。
ふたりは別にそれでもかまわないようだが、周りから「焔は危険」だの「優花ちゃんだけずるい」だのの不満の声が。
なので今日は宿探しをするという名目でお出かけをしている。
「ねえ焔さん、住むところなんて簡単に見つかるのかな?」
「まあ宿くらいならすぐ見つかるだろうけどな、ずっと住むための場所となると難しいんだよな」
ずっと暮らしていく部屋なら気に入った場所じゃないとつらいだろう。
それに維持コストも気にしないといけない。
今の焔は連続でクエストをこなしているので結構な金額を持ってはいる。
ただ焔の目指す平穏な日常を手に入れるならクエストはあまり受けないことになるだろう。
そうなると、高い維持コストのかかる生活は長く続かない。
できることならば沙織の宿と同じように無料かそれに近い金額の場所を探しておきたいところだった。
「別に焔さんの部屋でいいのに」
「だよな」
当人たちがいいと言っているのになぜまわりから不満の声があがるのか、ふたりはいまいち理解していなかった。
そんな感じなので、ふたりは部屋を探しつつも、ただお出かけを楽しんでいた。
特に優花にとっては、教会の監視もない自由な日々は新鮮だ。
実際は焔の所有物に近い扱いなので自由などないはずなのだが、当の焔にはそんなつもりは全くないので優花は自由の身に等しい。
ただそんな自由な日々に優花は少しだけ不安も抱えていた。
今までは自分を必要としている者たちがいたが、今はそれがない。
自由であると同時に、優花に利用価値があると思う人物もいない。
優花は自由な日々を経験したことがほとんどないので、いつか見捨てられてしまうのではないかという不安が心の奥にくすぶってしまっていた。
そんな気持ちもあって、優花は焔のそばにいることを望んでいる。
焔の所有物という立場にあえて落ち着くことで自分に存在価値を見出していた。
しかしそんな気持ちなど焔には理解できるはずもなく、今は部屋探しを続けている。
そんな時、焔たちは泉のアイテムショップの前を通りかかった。
「優花ちゃん、ちょっとここに寄ってっていいか?」
「いいけど、……なにこのお店」
「俺の知り合いの店なんだよ、なにか欲しいものがあったら買ってやるぞ」
「やった~」
優花はそんなものこんな店であるのかなと思いつつ、焔の後についてお店に入っていった。
「店長~、起きてる~?」
「いらっしゃい焔君、いつも私が寝ているような言い方はしないで欲しいなぁ」
「ほとんど眠そうにしてるじゃないか」
「まあね、それよりそちらの子は?」
「この子は新道優花ちゃんと言って、新しい友達だよ」
「ふうん、友達ね……」
アイテムショップ店長の泉はじ~っと優花を見つめる。
「こんにちは」
優花はその視線が気にならないのか、普通に挨拶をしてぺこりとお辞儀をした。
「ふむ、かわいい子だね、それにまた違う女の子だね」
「おい店長、誤解を生みそうな発言をしないでくれ」
「私は事実を言ってるだけだよ、それよりも今日は何か用?」
「たまたま寄っただけだよ」
「そっか、その子との結婚指輪でも買いに来たのかと思ったよ」
「そんなはずないだろ。でもせっかくだし、優花には奴隷用の首輪でもプレゼントしてあげようかな」
「焔君……、それはちょっとさすがに……」
「いや、冗談だから突っ込んでくれないと困るんだが」
「冗談だったんだ……、全然わからなかったよ」
焔の冗談は、悲しいことに泉に本気だと誤解されてしまった。
「奴隷用の首輪……、えへ、えへへへ」
「彼女、喜んでいるようだけど」
「嘘だろ、嘘だと言ってくれ」
奴隷用の首輪のどこにそんな喜ぶ要素があるのか不明だが、優花はなぜかにやけた顔で別の世界に旅立っていた。
それを見た焔と泉はその気持ち悪さに引いていた。
「焔君、これ奴隷用の首輪と鞭、プレゼントしておくよ」
「いや、いらないからな」
「必要になるかもしれないでしょ? あの子Mっぽいし」
「頼むから違っていてくれよ!?」
焔は優花が真の変態でないことを神に祈っていた。
結局焔は首輪と鞭を受け取り、何も買わずに店を後にした。
「焔さん何か買ったの?」
「いや、買ったんじゃなくてもらったんだよ」
「何もらったの?」
「……これ」
焔は恐る恐る優花に首輪と鞭を見せる。
「これってさっき話してた奴隷用の首輪?」
「あ、ああ……」
「それ私がもらってもいい?」
「な、何に使う気だ?」
「えへへ、秘密」
「……」
焔は恐ろしく不安になりながらも、もらった首輪を優花にプレゼントした。
「もしかしてこれも欲しかったりするか?」
さらに焔は一緒にもらった鞭も見せる。
「欲しい!」
「そうか……、ならこれもあげるよ。こっちの方がまだまともな使い道もあるだろうし」
「焔さんありがとう!」
「ああ、喜んでもらえて俺も嬉しいよ」
焔が鞭も渡すと、優花は頬を緩ませながらそれを受け取った。
なぜそんな表情をするのか謎過ぎて、焔は残念な気持ちになってしまう。
奴隷という言葉はよくないが、せっかく自分の自由にできる女の子を手に入れたというのに、ここに来てその女の子にまさかの変人疑惑が出てきた。
焔が優花に求めていたのは、明るくておとなしくて世間知らずなところだ。
決して首輪や鞭を見てうっとりするような女の子ではない。
(もうこうなったら、俺が優花をまっとうな人間に育てあげるしかない!)
新たな決意を胸に、焔は海沿いの道へとむかって歩いていた。
さきほどのアイテムショップの店長である泉によさげな宿の情報をもらって、今はそこにむかっている途中だ。
海沿いというのは沙織の宿と同じで、方向も同じなので案外近くにあったのかもしれない。
街を抜けて海沿いの通りまで出ると、不意に優花が焔の手を握った。
焔が驚いて振りむくと、優花は恥ずかしそうな表情をしながら視線をそらしている。
優花のかわいらしい姿に、焔は「これを求めたたんだよ!」と心の中でガッツポーズ。
その優花の首にはいつの間にかさっきの奴隷の首輪が装備されていたが、焔は気づかないふりをした。
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