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3章 青の精霊と精霊教会
83話
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焔たちは教会のあったロストの街を去り、みんなの暮らす沙織の宿まで戻ってきていた。
長い旅の疲れもあり、今は四人とも自室でゆっくりとした時間を過ごしている。
優花に関しては沙織にいったん任せて、新しい部屋をどうするか考えていた。
(はあ~、この島ってやっぱり平和だよなぁ……、島の外に行くと危ない目にばっかり合ってる気がする)
焔はベッドの上でゴロゴロしながら平和な時間をかみしめていた。
(そういえば島の外に出て初めて知ったけど、この島ってシオン島って呼ばれてたんだな。汐音さんすごいなぁ)
シオン島というのは、間違いなく英雄である神ノ木汐音からきている名前だ。
島の名前や宗教になるほど汐音という存在はこの世界で大きい。
この島の平和も汐音がもたらしたものだ。
焔は汐音に感謝しながら、ベッドの上で目を閉じ、しばらくすると疲れていたせいか焔は眠りに落ちてしまう。
そして一時間ほどが過ぎたあたりで、焔は何か違和感のようなものに襲われて目を覚ました。
体を起こし、ふと目を横にやると、そこにはなぜかちょこんとベッドに顔を乗せて焔をじ~っと見つめる呉羽の姿があった。
「うおっ!?」
「どうも、やっと起きましたか」
「な、なんで呉羽ちゃんがこんなところに……」
この島には結界があるため、呉羽のような魔族の者は入ってこれないはずだった。
しかし、明日香や優希、霞も普通にこの島に入ってきていたことを考えると、高レベルの者には効果がないのかもしれない。
詳しい効果ははっきりしていない結界なのだ。
「教会の方はうまく処理をしてきましたよ。なので焔さんに会いに来ました」
「おお……、ありがとう、うれしいよ」
焔としても呉羽と再会できたことは素直にうれしい。
あの別れ方からしてしばらくは会えないだろうと思っていたのに、まさか帰ってきた当日に自分の部屋で再会するなんて焔は思ってもみなかった。
「私もこの島で暮らそうと思います。よろしくお願いします」
「ええ!?」
「ここならきっと私も穏やかに暮らせると思いますので」
「それはそうだと思うけど」
魔王の役目を放棄するということだろうか。
あの事件の時の会話からずいぶんと変化があったようだ。
「はふ……」
「えっと、なにしてるの?」
「休憩です」
呉羽は焔のベッドに上半身だけ投げ出した。
その姿は魔王らしさなど少しもなく、ただの幼い少女のように見える。
「焔さん、私頑張りましたよ」
「ああ……、そうだな、頑張ったな」
「もっとほめてくれてもいいんですよ」
「呉羽ちゃんすごいなぁ」
「頭なでてくれてもいいんですよ」
「……よしよし、呉羽ちゃんありがとうな」
「うにゅ~……」
呉羽は焔に頭をなでられながら、気持ちよさそうに目を閉じている。
焔は前にもこんなことあったなぁと思いながら呉羽の頭をなでていた。
なんとなくくすぐったい時間を過ごしていると、焔は不意に部屋の入り口から何者かの気配を感じた。
実は焔の部屋の扉は半分だけ空いている状態だったのだ。
「深見呉羽……?」
突然の声に焔が入り口の方を振りむくと、扉の隙間から明日香が恐怖で引きつった顔をして固まっていた。
「うおっ、明日香か、どうしたんだそんなところで」
焔が声を掛けると、明日香は金縛りがとけたように動き出し部屋の中に入ってくる。
「どうしたもこうしたもありませんよ! どうして呉羽さんがここにいるんですか!」
明日香は焦ったような表情で焔を呉羽から引きはがすと、焔をかばうように呉羽との間に入った。
「お久しぶりですね、志条明日香」
「ええ、会いたくはなかったですけどね」
「それはなぜですか? 同じ魔王をして敵対する意味はないと思いますけど」
「あなたと私たちは考えが違ってよく対立してたでしょう」
「そうでしたね、明日香さんたちは魔王らしくないとよく突っかかっていた気がします」
「気がするじゃなくて、実際に突っかかってたんですよ」
「……もしかすると私はあなたたちが羨ましかったのかもしれませんね。自由に生きようとするあなたたちが」
「呉羽さん……?」
「私はずっと、魔王に生まれたのだから魔王らしくしないといけない、そう思って生きていました」
「……」
「私は魔王としての日々に疲れていたんですね。だからあなたたちに嫉妬していた」
「……ふん、迷惑な話ですね」
「ごめんなさい」
「ええ!?」
いきなり頭を下げる呉羽に明日香は驚いて慌ててしまう。
「いやいや、別に呉羽さんは間違ってたわけじゃないですし、確かに魔王としての役目を果たしていなかったのは私たちの方で」
「私も変わろうと思います。もうこの世界はゲームではない、魔王としての役目を果たす必要はないのかもしれない」
「……そうですね、私もこの世界がどうなっているのか把握できているわけではないですけど、魔王を必要とする世界ではないと思います」
「はい、特にこの島はゲーム自体からも少し距離を置いてあるように思います。ここでなら私も自由になれるかもしれない」
「えっと、もしかして呉羽さんもこの島で暮らすつもりですか?」
「そのつもりですよ、迷惑をかけるつもりはありませんので」
そう言った呉羽は明日香の隣をするっと通りぬけ、焔の手を握る。
明日香は慌てて焔の隣で警戒をする。
「……あの、たまにでいいので会いに来てもいいですか? ひとりは寂しいので」
「いや、別にたまにじゃなくてもいいけどな」
「ありがとうございます」
そう言ってニコッと笑った呉羽の表情に、焔と明日香のハートが射貫かれてしまう。
(うおおおおお、かわいい、この場で抱きしめてしまいたいっ!)
(嘘でしょおおおおお、呉羽さんってこんなにかわいかったの!? でもでも私には舞依さんという心に決めた人が……、いやでもこれは……)
心の中で悶絶しているふたりをよそに、犯人である呉羽は突然窓を開き、そこに片足をかけて振り返る。
「それではまた会いましょう、では」
さっとかわいらしく手を振って、呉羽は窓の外へと消えていった。
焔たちは挨拶を返すこともできずに呉羽を見送る羽目になった。
「ああ……、行っちゃったな」
「ええ」
「住むところとかちゃんと確保できてるのかな」
「まあ、呉羽さんなら宿なんかなくても生きていけますけどね」
「それはちょっとな、女の子が野宿とかやめて欲しいんだが」
「へえ~、私のことは結構雑に扱うのに、呉羽さんにはやさしいんですね」
「何言ってんだよ、俺は明日香にだってやさしくしてるつもりだぞ」
「ならいいんですけどね」
そういうと明日香はさっさと部屋を去っていった。
「そういえばあいつは何をしに来たんだ?」
明日香が焔の部屋を訪ねてきた理由はわからないままだった。
その時、焔の目の前に光の玉が現れて、その光はすぐにカード状のアイテムに変化する。
焔がそのカードを手にすると、『深見呉羽をフレンド登録しました』というメッセージが表示された。
その後に今度は『クエストクリア:魔王呉羽とフレンドになる』が表示される。
またも受けたことのないクエストがクリアされた。
「呉羽ちゃんとはフレンドになるのが正しい選択だったってわけか」
焔は自分のフレンドリストに入った深見呉羽の名前を見つめる。
「今度はこっちから会いに行ってみるかな」
焔は呉羽の去っていった窓から快晴の空を見上げ、穏やかな日常へ戻った幸せをかみしめていた。
長い旅の疲れもあり、今は四人とも自室でゆっくりとした時間を過ごしている。
優花に関しては沙織にいったん任せて、新しい部屋をどうするか考えていた。
(はあ~、この島ってやっぱり平和だよなぁ……、島の外に行くと危ない目にばっかり合ってる気がする)
焔はベッドの上でゴロゴロしながら平和な時間をかみしめていた。
(そういえば島の外に出て初めて知ったけど、この島ってシオン島って呼ばれてたんだな。汐音さんすごいなぁ)
シオン島というのは、間違いなく英雄である神ノ木汐音からきている名前だ。
島の名前や宗教になるほど汐音という存在はこの世界で大きい。
この島の平和も汐音がもたらしたものだ。
焔は汐音に感謝しながら、ベッドの上で目を閉じ、しばらくすると疲れていたせいか焔は眠りに落ちてしまう。
そして一時間ほどが過ぎたあたりで、焔は何か違和感のようなものに襲われて目を覚ました。
体を起こし、ふと目を横にやると、そこにはなぜかちょこんとベッドに顔を乗せて焔をじ~っと見つめる呉羽の姿があった。
「うおっ!?」
「どうも、やっと起きましたか」
「な、なんで呉羽ちゃんがこんなところに……」
この島には結界があるため、呉羽のような魔族の者は入ってこれないはずだった。
しかし、明日香や優希、霞も普通にこの島に入ってきていたことを考えると、高レベルの者には効果がないのかもしれない。
詳しい効果ははっきりしていない結界なのだ。
「教会の方はうまく処理をしてきましたよ。なので焔さんに会いに来ました」
「おお……、ありがとう、うれしいよ」
焔としても呉羽と再会できたことは素直にうれしい。
あの別れ方からしてしばらくは会えないだろうと思っていたのに、まさか帰ってきた当日に自分の部屋で再会するなんて焔は思ってもみなかった。
「私もこの島で暮らそうと思います。よろしくお願いします」
「ええ!?」
「ここならきっと私も穏やかに暮らせると思いますので」
「それはそうだと思うけど」
魔王の役目を放棄するということだろうか。
あの事件の時の会話からずいぶんと変化があったようだ。
「はふ……」
「えっと、なにしてるの?」
「休憩です」
呉羽は焔のベッドに上半身だけ投げ出した。
その姿は魔王らしさなど少しもなく、ただの幼い少女のように見える。
「焔さん、私頑張りましたよ」
「ああ……、そうだな、頑張ったな」
「もっとほめてくれてもいいんですよ」
「呉羽ちゃんすごいなぁ」
「頭なでてくれてもいいんですよ」
「……よしよし、呉羽ちゃんありがとうな」
「うにゅ~……」
呉羽は焔に頭をなでられながら、気持ちよさそうに目を閉じている。
焔は前にもこんなことあったなぁと思いながら呉羽の頭をなでていた。
なんとなくくすぐったい時間を過ごしていると、焔は不意に部屋の入り口から何者かの気配を感じた。
実は焔の部屋の扉は半分だけ空いている状態だったのだ。
「深見呉羽……?」
突然の声に焔が入り口の方を振りむくと、扉の隙間から明日香が恐怖で引きつった顔をして固まっていた。
「うおっ、明日香か、どうしたんだそんなところで」
焔が声を掛けると、明日香は金縛りがとけたように動き出し部屋の中に入ってくる。
「どうしたもこうしたもありませんよ! どうして呉羽さんがここにいるんですか!」
明日香は焦ったような表情で焔を呉羽から引きはがすと、焔をかばうように呉羽との間に入った。
「お久しぶりですね、志条明日香」
「ええ、会いたくはなかったですけどね」
「それはなぜですか? 同じ魔王をして敵対する意味はないと思いますけど」
「あなたと私たちは考えが違ってよく対立してたでしょう」
「そうでしたね、明日香さんたちは魔王らしくないとよく突っかかっていた気がします」
「気がするじゃなくて、実際に突っかかってたんですよ」
「……もしかすると私はあなたたちが羨ましかったのかもしれませんね。自由に生きようとするあなたたちが」
「呉羽さん……?」
「私はずっと、魔王に生まれたのだから魔王らしくしないといけない、そう思って生きていました」
「……」
「私は魔王としての日々に疲れていたんですね。だからあなたたちに嫉妬していた」
「……ふん、迷惑な話ですね」
「ごめんなさい」
「ええ!?」
いきなり頭を下げる呉羽に明日香は驚いて慌ててしまう。
「いやいや、別に呉羽さんは間違ってたわけじゃないですし、確かに魔王としての役目を果たしていなかったのは私たちの方で」
「私も変わろうと思います。もうこの世界はゲームではない、魔王としての役目を果たす必要はないのかもしれない」
「……そうですね、私もこの世界がどうなっているのか把握できているわけではないですけど、魔王を必要とする世界ではないと思います」
「はい、特にこの島はゲーム自体からも少し距離を置いてあるように思います。ここでなら私も自由になれるかもしれない」
「えっと、もしかして呉羽さんもこの島で暮らすつもりですか?」
「そのつもりですよ、迷惑をかけるつもりはありませんので」
そう言った呉羽は明日香の隣をするっと通りぬけ、焔の手を握る。
明日香は慌てて焔の隣で警戒をする。
「……あの、たまにでいいので会いに来てもいいですか? ひとりは寂しいので」
「いや、別にたまにじゃなくてもいいけどな」
「ありがとうございます」
そう言ってニコッと笑った呉羽の表情に、焔と明日香のハートが射貫かれてしまう。
(うおおおおお、かわいい、この場で抱きしめてしまいたいっ!)
(嘘でしょおおおおお、呉羽さんってこんなにかわいかったの!? でもでも私には舞依さんという心に決めた人が……、いやでもこれは……)
心の中で悶絶しているふたりをよそに、犯人である呉羽は突然窓を開き、そこに片足をかけて振り返る。
「それではまた会いましょう、では」
さっとかわいらしく手を振って、呉羽は窓の外へと消えていった。
焔たちは挨拶を返すこともできずに呉羽を見送る羽目になった。
「ああ……、行っちゃったな」
「ええ」
「住むところとかちゃんと確保できてるのかな」
「まあ、呉羽さんなら宿なんかなくても生きていけますけどね」
「それはちょっとな、女の子が野宿とかやめて欲しいんだが」
「へえ~、私のことは結構雑に扱うのに、呉羽さんにはやさしいんですね」
「何言ってんだよ、俺は明日香にだってやさしくしてるつもりだぞ」
「ならいいんですけどね」
そういうと明日香はさっさと部屋を去っていった。
「そういえばあいつは何をしに来たんだ?」
明日香が焔の部屋を訪ねてきた理由はわからないままだった。
その時、焔の目の前に光の玉が現れて、その光はすぐにカード状のアイテムに変化する。
焔がそのカードを手にすると、『深見呉羽をフレンド登録しました』というメッセージが表示された。
その後に今度は『クエストクリア:魔王呉羽とフレンドになる』が表示される。
またも受けたことのないクエストがクリアされた。
「呉羽ちゃんとはフレンドになるのが正しい選択だったってわけか」
焔は自分のフレンドリストに入った深見呉羽の名前を見つめる。
「今度はこっちから会いに行ってみるかな」
焔は呉羽の去っていった窓から快晴の空を見上げ、穏やかな日常へ戻った幸せをかみしめていた。
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