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3章 青の精霊と精霊教会

69話

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 翌朝、焔たちは大陸行きの船の中にいた。
 一度大陸に渡った後、その港から出る別の船に乗り替える必要がある。
 ただ、船でしか行けないものの、距離自体はそこまで離れていないので遠すぎるというわけではない。

 それでも半日は船の中で過ごすことになる。
 空を飛んでいけたら早いのだが、残念ながら焔にはその手段がまだない。
 そこは明日香たちをうらやましく思うところだろう。

 焔たちの乗っていた船は大陸の港に到着し、別の大陸行きの船に乗り替える。
 その船は、島との船とは比べ物にならないほど大きかった。
 このゲームが始まった時に乗っていたあの船に匹敵するようなものだ。

 さっそく乗り込み、窓際の一角を陣取る。
 といっても、特に混んだりなどはしてないので、誰に迷惑がかかるわけでもない。
 焔たちはのんびりと大きな椅子に座って、快適な船旅をすることにした。

 船は時間になると西にむかって出港する。
 情報によれば、目的地まで3時間ほどかかるようだ。
 ただ距離を考えると、到底そんな時間でたどり着く場所ではないので、そこはゲームらしく途中で調整が入るのだろう。

 そう考えると3時間というのは少し長すぎる気がしないこともない。
 それは他の移動手段とのバランス調整が理由だった。
 焔たちはとりあえず船の上でのんびりと過ごし、少し早いお昼ご飯としてうどんを食べる。

 その後しばらくして船は新しい大陸の港へと到着した。
 港自体は前に行った大陸のものとそれほど規模は変わらない。

 ただその周辺がそれほど発展しているようには見えなかった。
 言ってみれば少し田舎のようでもある。
 焔たちの過ごしている島よりも建物が少ないのは少し意外なことだった。

 この世界にはこういった場所が多いのだろうか。
 始まりの場所が、この世界ではかなり安全で過ごしやすい場所になっていたのかもしれない。
 遠くの地に行けば行くほど、こういった場所になっていくのだとすると、ゲームらしいとも言えるだろう。

 焔たちは別に何かを攻略しなければいけないわけでもないので、必要がなければ島や周辺の大陸などの安全で快適な場所で暮らしていればいいだけだ。
 とにかく今回の焔は、クエストのため、かわいい女の子の救出のために、少しばかり危険なことを引き受けたに過ぎない。

 それに発展していないことと、モンスターの強さが関係あるのかはまだわからない。
 平和といわれている世界なのだから、一部を除いてモンスターのレベルがどこも低いということは考えられる。

 今の舞依たちのレベルで戦えるような相手じゃないと、レベルを上げることもできずに、ただ危険にさらすだけということになってしまう。

 優希の言葉を信じるならば、この地域のモンスターのレベルはそれほどではないらしいが、魔王目線からなのであてになるかはわからない。
 こっそりレベルを上げている焔がひとりで全員を守れる程度であることを祈るしかなかった。

 さっそく港を出て、街を歩いてみる。
 確かに大都市だとか、そういった場所に比べるとおとなしい印象を受ける場所だった。

 しかし、実際に歩いてみると、最初の印象よりは人が多くてにぎやかな街だ。
 この街は例の生贄関係の話とは無縁なのだろうか。

 実際、クエストに記されている場所は、この街から少し離れた位置を示している。
 あまりこの街に長居するよりは、急いでその場所に浮かうべきだと焔は考えた。

「ねえねえお兄ちゃん、ちょっと街を見ていくの? それともさっそく外に出てモンスターと戦う?」

 舞依はもうやる気満々な様子で、早くレベル上げがしたいといった感じだ。
 目的を持って移動していると、観光はどうしても後回しになってしまう。
 それでも生贄がいつ行われるかわからない以上、急いだ方がいいのは間違いない。

「目的地はここじゃないしモンスターの強さも見たいから、さっそくだけど街の外に出てみようか」
「うん、わかった」

 舞依はにこっと天使のような笑顔を見せ、焔はついつい昇天しそうになってしまう。

「ふたりもそれでいい?」
「うん」
「はい」

「プルル!」
「え?」

 焔は千歳と夏海にも確認をとって返事をもらうが、その中に妙な声が混ざっていた。
 それは連れてきた覚えのないプルルのものだった。

「プルル? どこにいるんだ?」

 声はしても姿は見えない。
 しばらくして、なんと千歳の胸元からぴょいっとプルルが飛び出してきた。
 そして焔の顔面に張り付く。

「ぶへっ」
「あ、プルルってば私の胸元に引っ付いてたの?」
「プルル!」

 プルルはご機嫌な様子で焔の顔にべたべたと張り付いている。
 それを焔は引きはがして抱きかかえる。

「なんだかほのかに千歳の香りがするぞ」

 焔はそう言って、一度引きはがしたプルルに顔をうずめた。

「ちょっとちょっと焔! 変なことしないでよ」
「はあ~、堪能したぜ……」
「うわぁ……」

 千歳は非難しながらもちょっぴり顔がにやけていたが、舞依と夏海は焔の気持ち悪さに軽く引いていた。

「そういえば千歳の胸が少し膨らんでるなって思ってたんだよ。でもまったく違和感がなくてさ」
「もう焔ったらそんなところ見てたの?」

「だって千歳がかわいすぎるからさ」
「まあ、焔にだったら別にいいけどね」

 突然いちゃつき始め、前よりも距離が近くなっている二人の様子に、舞依と夏海は何が起こっているんだという顔をしていた。

「もしかして、お兄ちゃんと千歳さん、お付き合いしてるの?」
「ええ!? してないよ、いきなりどうしたの舞依ちゃん」

「いや、なんか前と雰囲気が変わったから」
「別にそういうのじゃないよ、ちょっと話を聞いてもらっただけだから」

「まあ、私はお兄ちゃんと千歳さんはお似合いだと思うけど」
「そ、そうかな?」

「うん、なんかずっとイチャイチャしてそうな気がする」
「ええ……」

 千歳は舞依に抱かれていた印象に少し困惑した。
 しかし、認めてもらえている気もして、徐々にうれしさもわいてくる。
 そんな千歳と舞依のやり取りの間、焔はプルルを抱きながら考えていた。

 以前プリンと話した時に言っていたこと、レベルさえ上がればスライムは人の姿をとることができるということ。
 つまりプルルもレベルを上昇させれば美少女の姿になるかもしれないということだ。

 もちろん焔としては今のプルルもプルプルしていてかわいいとは思っている。
 しかしこんなに懐いてくれている子が、美少女の姿になったらどんなにうれしいことだろうか。

 そしてレベルを上げる手段はすでにわかっている。
 プリンも使っていたMPをEXPに変換する、あの危険なスキル。
 プルルのステータスを見る限り、このスキルをプルルも使うことができる。

 そして焔は、フローラ牧場でモンスターが行ったのと同じように、精霊の魔力を吸い上げることができた。
 もしプルルが自分の力で魔力を吸えなくても、焔が外部から魔力を吸い上げながらプルルに供給することはできるだろう。

 この方法ならプルルのレベルを一気に引き上げることは可能だ。
 もし外部から魔力を手に入れられなくても、時間さえかければ焔の魔力が自然回復するのを待っていればいい。

「くふふふ……」

 焔はプルル育成計画を練り上げ、ひとりでニヤニヤと笑みを浮かべている。
 それを夏海に目撃され、またも引かれていることに全く気付いてはいなかった。
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