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2章 島の外の世界とフローラ牧場
45話
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始めは海近くを通っていた道も、牧場方向へ進むとだんだん海から遠ざかっていく。
なにもない道というのは退屈なもので、ただ歩いているだけの状態だった。
しかし、海から遠くなってしばらくすると、ここで初めてモンスターと遭遇することとなる。
カマキリを大きくしたようなモンスターと、その後ろにはいかにも毒の粉をまいてきそうな植物のモンスターだ。
ゲームの世界だったこともあり、モンスターはけっこうデフォルメされた感じの外見をしている。
いままではスライムとかそういったモンスターだったからだと思っていたが、全体的に丸っこいデザインなのかもしれない。
ただ島に出てきたようなものとは違い、明らかな敵意を感じる。
プルルたちのようにお友達になれそうな雰囲気はかけらもなかった。
明日香たちとの戦闘も本気ではあったが、言葉でコミュニケーションは取ることができた。
しかし今回は言葉も通じない相手。
レベルは高くないので苦戦はしないだろうが、みんなの間には少し緊張のようなものが漂っていた。
焔はレベルボーナスがあったので、率先して敵へとむかっていく。
カマキリの攻撃を受け止めて、さっと攻撃をしてひっくり返してしまう。
そこを舞依たちにまかせて、焔は厄介そうな植物型の方へ突撃する。
すると思っていた通り、つぼみを開いて粉を振りまき始める。
「夏海ちゃん、風魔法いけるかな」
「は、はい」
夏海の風魔法を使って毒粉を押し返すと、今度は焔が火魔法をぶつけてモンスターを倒す。
舞依と千歳はカマキリをちょうどしとめて戦闘終了。
このゲームはEXPが戦闘参加メンバー全員に均等振りされるシステムになっている。
今のところで言うと、焔だけが戦闘をして他のメンバーにレベルを上げることもできる。
ただステータスの強さと戦う技術は別のものなので、戦闘経験はやはり積んでおいた方がいい。
この後も何度か同じようなモンスターと遭遇し戦闘をこなす。
平和だと言われている地域でもこの頻度でモンスターが出るのは普通なのだろうか。
それともゲーム上の都合でそのあたりは無視されているのか。
もしこれが牧場襲撃と関係がある現象なら、これは少し危険があるのかもしれないと焔は思った。
確かに街を出たあたりはモンスターの気配はなかった。
それが牧場方向への道を進み始めたころからだんだんとモンスターが増えている。
無関係という方がおかしいという状況だろう。
増えてきたモンスターに対応するため、焔は遠距離での火魔法を多用するようになった。
RPGではMP温存というのは常識かもしれないが、この世界では時間が経つと少しずつ回復していく。
特に焔は隠されたギフトでもあるのか、周りのみんなよりもはるかに早くMPが回復していた。
そのため、これだけ魔法を連発しても焔のMPは街を出た時からほとんど減ってはいなかった。
牧場を目指して数時間、お昼も回った頃かというくらいの時、ついに牧場らしきものにたどり着く。
ただそこはボロボロに荒らされており、牧場どころかとても人が住むような場所には見えなかった。
焔は正直なところ絶望的だと思った。
「とりあえず人がいないか探してみよう」
「そうだね」
本当なら手分けした方が早いのだが、こんな場所では何が出てくるかわからないのでまとまって行動することになった。
奥の方へ進んでいくと、かつては牛や馬がいたであろう小屋が見える。
やはりもう牧場としては使われていない様子だ。
ただその奥の方へ行くと、畑の部分は完全に人の手が入った形跡があった。
焔たちに希望が湧いてきた。
プリンの言っていた人物は恐らくここで生活をしている。
会えばわかると言っていたのはこの状況もことなのだろう。
ただプリンは焔に何を求めているのか。
それはまだわからなかった。
会うだけでいいなんてことは恐らくないだろう。
直接口にはしていないが、この状況を救ってほしいのだろうか。
その時、近くにあった建物の扉が開き、中から一人の少女が姿を現した。
焔たちに気づいて出てきたわけではないようで、目が合った瞬間にその少女は驚いて家の中に戻っていってしまう。
思っていたよりも幼い少女の出現に焔は少し戸惑った。
まさかこんなところにひとりで住んでいるのだろうか。
見た目は舞依たちと変わらないか、さらに下のようにも見えた。
焔は扉へと近づき、ノックをしてから怖がらせないようにやさしく声をかける。
「驚かせてごめん。スライムのお姫様のこと覚えてるかな? 俺たちその子に頼まれて君に会いに来たんだ」
それだけ伝えると、少女はびっくりしたように中から飛び出てきた。
そして目を丸くしながら焔のことを見上げる。
「スライムさんの……?」
「ああ、あの子プリンちゃんていうんだけどね」
そう言って自分の付けた名前を教えながら、焔は自分のフレンドリストを見せた。
そこにはステータス画面を表示することもできるので、プリンの画面を見てとりあえず信用はしてもらえたようだ。
「それでそのプリンちゃんはなんて……」
「俺たちは会ってほしい人がいるとしか聞いてないんだ」
もしかすると、連れて帰ってきてほしいのかもしれない。
こんなところに女の子がひとりで生活してたら、心配になって仕方ないだろう。
「ねえ、あなたはひとりで暮らしているの?」
千歳が聞くべきか迷ったような顔でたずねた。
「はい、みんなモンスターに……」
少女はそこまで言ってうつむく。
「ご、ごめんなさい」
「いえ、もう過ぎたことですから」
一緒に暮らしてきた人の死をこの歳で受け入れ、過ぎたことだと言えてしまえる少女の強さに焔は胸が苦しくなった。
この世界は幸せなものだけでできているんだと勘違いしていた。
ここでなら自由に楽しく楽に生きていけるんだと。
でもNPCの中にはこんなつらい目にあっている子がいる。
例え設定上のことだとしても悲しいことだった。
「そういえば、どこかへ出かけるところだった?」
「え? ああ、これからお昼ご飯を作ろうと思って、畑に行くところだったんです」
「そっか、もうそんな時間だったんだな」
この世界に来てからはあまりお腹が空いたりとかしなくなっていた。
少しずつマシにはなってきている気がするが、まだまだ時間がきたから食事しているような状態だ。
「みなさん、お昼ご飯がまだなら一緒に食べていきますか?」
「いいのか? その、食料とか調達するの大変だろ?」
いくら畑があると言っても収穫量には限界がある。
街に行くにしても気軽に行けるような距離ではないし、モンスターだって出る。
しかし焔の言葉を聞いた少女は「ふふふ」と笑ってから少し得意げに言う。
「ここの畑は特別な力が宿っていて、いくら収穫してもすぐに元通りになるんです」
「そんなバカな……」
驚く焔だったが、確かに島の畑でも育て方からしてかなり省略されている。
やはり元々がゲームの世界なので、簡単に収穫できるようにしてくれているようだ。
焔たちは少女と一緒に奥の畑に移動する。
少女が目の前でひとつ果物を収穫すると、採ったところにすぐさま新しい実ができていた。
確かにこれなら食料に困ることもなさそうだ。
この畑のおかげでこの少女はずっと一人で生きてこられたのだろう。
これが現実世界やただの異世界だったら、きっとこの幼い少女は命を落としていたに違いない。
決して幸せなだけの世界ではないようだが、ただ残酷すぎる世界というわけではないことに焔は少しほっとしていた。
なにもない道というのは退屈なもので、ただ歩いているだけの状態だった。
しかし、海から遠くなってしばらくすると、ここで初めてモンスターと遭遇することとなる。
カマキリを大きくしたようなモンスターと、その後ろにはいかにも毒の粉をまいてきそうな植物のモンスターだ。
ゲームの世界だったこともあり、モンスターはけっこうデフォルメされた感じの外見をしている。
いままではスライムとかそういったモンスターだったからだと思っていたが、全体的に丸っこいデザインなのかもしれない。
ただ島に出てきたようなものとは違い、明らかな敵意を感じる。
プルルたちのようにお友達になれそうな雰囲気はかけらもなかった。
明日香たちとの戦闘も本気ではあったが、言葉でコミュニケーションは取ることができた。
しかし今回は言葉も通じない相手。
レベルは高くないので苦戦はしないだろうが、みんなの間には少し緊張のようなものが漂っていた。
焔はレベルボーナスがあったので、率先して敵へとむかっていく。
カマキリの攻撃を受け止めて、さっと攻撃をしてひっくり返してしまう。
そこを舞依たちにまかせて、焔は厄介そうな植物型の方へ突撃する。
すると思っていた通り、つぼみを開いて粉を振りまき始める。
「夏海ちゃん、風魔法いけるかな」
「は、はい」
夏海の風魔法を使って毒粉を押し返すと、今度は焔が火魔法をぶつけてモンスターを倒す。
舞依と千歳はカマキリをちょうどしとめて戦闘終了。
このゲームはEXPが戦闘参加メンバー全員に均等振りされるシステムになっている。
今のところで言うと、焔だけが戦闘をして他のメンバーにレベルを上げることもできる。
ただステータスの強さと戦う技術は別のものなので、戦闘経験はやはり積んでおいた方がいい。
この後も何度か同じようなモンスターと遭遇し戦闘をこなす。
平和だと言われている地域でもこの頻度でモンスターが出るのは普通なのだろうか。
それともゲーム上の都合でそのあたりは無視されているのか。
もしこれが牧場襲撃と関係がある現象なら、これは少し危険があるのかもしれないと焔は思った。
確かに街を出たあたりはモンスターの気配はなかった。
それが牧場方向への道を進み始めたころからだんだんとモンスターが増えている。
無関係という方がおかしいという状況だろう。
増えてきたモンスターに対応するため、焔は遠距離での火魔法を多用するようになった。
RPGではMP温存というのは常識かもしれないが、この世界では時間が経つと少しずつ回復していく。
特に焔は隠されたギフトでもあるのか、周りのみんなよりもはるかに早くMPが回復していた。
そのため、これだけ魔法を連発しても焔のMPは街を出た時からほとんど減ってはいなかった。
牧場を目指して数時間、お昼も回った頃かというくらいの時、ついに牧場らしきものにたどり着く。
ただそこはボロボロに荒らされており、牧場どころかとても人が住むような場所には見えなかった。
焔は正直なところ絶望的だと思った。
「とりあえず人がいないか探してみよう」
「そうだね」
本当なら手分けした方が早いのだが、こんな場所では何が出てくるかわからないのでまとまって行動することになった。
奥の方へ進んでいくと、かつては牛や馬がいたであろう小屋が見える。
やはりもう牧場としては使われていない様子だ。
ただその奥の方へ行くと、畑の部分は完全に人の手が入った形跡があった。
焔たちに希望が湧いてきた。
プリンの言っていた人物は恐らくここで生活をしている。
会えばわかると言っていたのはこの状況もことなのだろう。
ただプリンは焔に何を求めているのか。
それはまだわからなかった。
会うだけでいいなんてことは恐らくないだろう。
直接口にはしていないが、この状況を救ってほしいのだろうか。
その時、近くにあった建物の扉が開き、中から一人の少女が姿を現した。
焔たちに気づいて出てきたわけではないようで、目が合った瞬間にその少女は驚いて家の中に戻っていってしまう。
思っていたよりも幼い少女の出現に焔は少し戸惑った。
まさかこんなところにひとりで住んでいるのだろうか。
見た目は舞依たちと変わらないか、さらに下のようにも見えた。
焔は扉へと近づき、ノックをしてから怖がらせないようにやさしく声をかける。
「驚かせてごめん。スライムのお姫様のこと覚えてるかな? 俺たちその子に頼まれて君に会いに来たんだ」
それだけ伝えると、少女はびっくりしたように中から飛び出てきた。
そして目を丸くしながら焔のことを見上げる。
「スライムさんの……?」
「ああ、あの子プリンちゃんていうんだけどね」
そう言って自分の付けた名前を教えながら、焔は自分のフレンドリストを見せた。
そこにはステータス画面を表示することもできるので、プリンの画面を見てとりあえず信用はしてもらえたようだ。
「それでそのプリンちゃんはなんて……」
「俺たちは会ってほしい人がいるとしか聞いてないんだ」
もしかすると、連れて帰ってきてほしいのかもしれない。
こんなところに女の子がひとりで生活してたら、心配になって仕方ないだろう。
「ねえ、あなたはひとりで暮らしているの?」
千歳が聞くべきか迷ったような顔でたずねた。
「はい、みんなモンスターに……」
少女はそこまで言ってうつむく。
「ご、ごめんなさい」
「いえ、もう過ぎたことですから」
一緒に暮らしてきた人の死をこの歳で受け入れ、過ぎたことだと言えてしまえる少女の強さに焔は胸が苦しくなった。
この世界は幸せなものだけでできているんだと勘違いしていた。
ここでなら自由に楽しく楽に生きていけるんだと。
でもNPCの中にはこんなつらい目にあっている子がいる。
例え設定上のことだとしても悲しいことだった。
「そういえば、どこかへ出かけるところだった?」
「え? ああ、これからお昼ご飯を作ろうと思って、畑に行くところだったんです」
「そっか、もうそんな時間だったんだな」
この世界に来てからはあまりお腹が空いたりとかしなくなっていた。
少しずつマシにはなってきている気がするが、まだまだ時間がきたから食事しているような状態だ。
「みなさん、お昼ご飯がまだなら一緒に食べていきますか?」
「いいのか? その、食料とか調達するの大変だろ?」
いくら畑があると言っても収穫量には限界がある。
街に行くにしても気軽に行けるような距離ではないし、モンスターだって出る。
しかし焔の言葉を聞いた少女は「ふふふ」と笑ってから少し得意げに言う。
「ここの畑は特別な力が宿っていて、いくら収穫してもすぐに元通りになるんです」
「そんなバカな……」
驚く焔だったが、確かに島の畑でも育て方からしてかなり省略されている。
やはり元々がゲームの世界なので、簡単に収穫できるようにしてくれているようだ。
焔たちは少女と一緒に奥の畑に移動する。
少女が目の前でひとつ果物を収穫すると、採ったところにすぐさま新しい実ができていた。
確かにこれなら食料に困ることもなさそうだ。
この畑のおかげでこの少女はずっと一人で生きてこられたのだろう。
これが現実世界やただの異世界だったら、きっとこの幼い少女は命を落としていたに違いない。
決して幸せなだけの世界ではないようだが、ただ残酷すぎる世界というわけではないことに焔は少しほっとしていた。
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