死神様の恋愛マニュアル

よもやま

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5.真実と選択⑦

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 深夜二時。こんな時間に誰かが来ることなんてないはずだ。それなのに、佐丸はパッと顔を上げて玄関に走り寄る。時間も考えられないほどに、佐丸は聞こえてきた物音に何かを期待している。
 レイヴンが戻ってきたとでも思ったのだろう。

「レイヴン、今までどこに……」

 詰るような、待ち望んでいたような、喜びを感じさせる声にレイヴンは眉を寄せた。
 俺はいま、ここにいる。
 それならあの音は、何の音だ……? 誰が戻ってきたというのだ。

「……ッ、あ!?」

 その疑問の答えはすぐにわかった。頬を打つ音と同時に、揉み合う音が聞こえてきた。抵抗する佐丸を押し退けるように、鹿瀬が土足で部屋に上がり込んでくる。

「よぉ~、良幸。まさか引っ越しもしてねぇとは思わなかったぜ。ちゃんと鍵閉めとかないと不用心だろ?」

 佐丸の腕を掴んでいた鹿瀬は、室内に入ると乱暴に佐丸の身体を投げ出した。佐丸は床に倒れ込む。殴られた時に鼻を打ったのか、鼻血が垂れて床に落ちた。

「っ、う……なんで」

 佐丸は鼻血を拭い、逃げるように身を起こす。しかし打ち付けた場所が痛むのか、それとも恐怖がフラッシュバックしたのか、身体が激しく震えていた。

「なんで? 俺のことコケにしといてなんではねぇだろ。なぁ、良幸」

 鹿瀬は震える佐丸に近付き、ゆっくりと身を屈めた。佐丸が逃げないように、震える手の上に膝を乗せる。鹿瀬は苦痛に悲鳴を上げる佐丸のことを、不気味なほどにこやかな笑顔で見つめていた。

「あのクソ野郎、呼び出せ」

 そして冷ややかに、佐丸の瞳を覗き込みながら口にした。
  レイヴンは二人の様子を眺めながら、奥歯を食いしばっていた。鹿瀬がクソ野郎と言っているのは、恐らくレイヴンのことだろう。鹿瀬の口ぶりから、あのカフェでの一件を根に持って佐丸の家に押しかけてきたのかもしれない。

 佐丸が玄関の鍵をかけずにいたのは、レイヴンのことを待っていたからだ。いつ帰ってきてもレイヴンが困らないように、鍵をかけようとして躊躇う佐丸の姿をレイヴンは知っていた。
 だがそのせいで、佐丸は鹿瀬の侵入を許してしまった。これは自分がきっかけを作ってしまったせいだ、とレイヴンは拳を握り締める。

「く、クソ野郎って……」
「早くしろ」

 佐丸の言葉を遮って、鹿瀬は佐丸の手を踏みつける膝に体重をかける。

「あ、ぐ……っ」

 ゴリ、と骨の軋む音がして佐丸は脂汗を滲ませて頭を振った。しかし鹿瀬は佐丸の髪を掴むと、力任せに引っ張り上げる。佐丸の白い喉が露わになり、喉仏が何度も動く。
 鹿瀬は佐丸の瞳を覗き込み、目線をしっかりと合わせながら

「お前が俺から乗り換えたあの男、いますぐここに呼び出せ」

 と言った。

 会話をするときは目を見て話せ、鹿瀬は佐丸にそう教え込んだ。躾と言ってもいいものかもしれない。佐丸は条件反射のように鹿瀬と視線を合わせ、唇を震わせている。

「良幸、返事は」

 鹿瀬に思考を支配され、佐丸は呼吸すら忘れているようだった。早く答えなければと焦っているのか、喉の奥からか細い息が漏れている。

「で、でき……ない……」

 それでも乾いた声で、佐丸は鹿瀬の要求を拒絶した。 

「はあ? なんでだよ」

 まさか拒絶されるとは思っていなかったのだろう。佐丸の言葉に鹿瀬は表情を曇らせる。佐丸は自ら口にした拒絶の言葉を確かめるようにもう一度、鹿瀬に向かって「出来ない」と告げた。だがその瞬間、躊躇いもなく鹿瀬の手が佐丸の頭を床に叩き付けた。

 その衝撃でテーブルが揺れ、ボトルシップのガラス瓶が落ちてガラス片が飛んだ。鹿瀬は落ちたボトルシップには目もくれず、脳しんとうを起こしている佐丸の胸倉を掴んで無理矢理身体を引き起こす。

「なんで、だよ! 呼べ! 早く、しろ!」

 ぐったりする佐丸の姿を見て、鹿瀬は歪んだ笑みを浮かべている。そして何度も佐丸の頬に手を打ち下ろす。

 佐丸はか細い声で「やめて」と呻いているが、その声すら鹿瀬にとっては興奮材料になるようだった。血と涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった佐丸の顔を笑いながら、鹿瀬は唐突にジーンズのファスナーを下げた。
 勃起した性器を佐丸の口に近付け、「呼べないなら、しゃぶれ。どっちか選べ」と言い放つ。
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