死神様の恋愛マニュアル

よもやま

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5.真実と選択④

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 佐丸の自宅から消えたアンブレラは、マンションの屋上で手鏡を覗き込んでいた。手鏡はレイヴンの姿を映している。監督官が担当の候補生を監視するための道具だ。レイヴンはアンブレラの忠告について考えているのか、佐丸をじっと見つめている。

 その姿にアンブレラは自身の過去を重ね、傘の柄をぎゅっと強く握り締めた。
 レイヴンにとっては過酷な試験だろう。一度は契約で結ばれ、互いに心を触れ合わせた相手の魂を回収しなければならないのだから。

 だが、死神とはそういうものなのだ。
 死神の大原則がある理由、因果関係が逆なのだ。


 一つ、回収前の魂に接触してはならない。
 なぜなら、人間と死神の間に契約が結ばれてしまうから。 
 一つ、魂に接触した場合は必ず回収しなければならない。
 なぜなら、死神は契約した相手の魂を回収することが困難だから。
 一つ、人間に恋をしてはならない。
 なぜなら、死神は契約した相手に恋をしてしまうから。


 死を司る死神は、生に溢れた人間に惹かれてしまう。人間の作り出す物に心を奪われてしまう。生と死の、相反するエネルギーを持つ者同士が惹かれ合うのは自然法則と同じくらいに当然のことなのだ。
 その自然法則を理性で抑え付けて、冷酷に魂を奪える者が死神として存在することを許される。この卒業試験は、それを見極めるためのものだ。

 かつてアンブレラも、人間と契約を結び、恋をして、その魂を回収した。
 死神になるというのなら、レイヴンもこの試験を乗り越える必要がある。けれど……

 マニュアルを基準として、死神としての模範的な行動を心がけてきたレイヴンがアンブレラに対して抵抗をした。きっとレイヴンは、魂を回収できずに終わる。
 その時はどうするべきか、あと一週間でアンブレラも答えを出さなければいけない。

「人間臭いんは、お前を思い出すから苦手や。――」

 アンブレラはかつて恋した人間の名前を口にして、寂しげに笑いながら手鏡をスーツのポケットにしまい込んだ。
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