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3.きらめく世界⑥
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「死神に人間の食べ物ってあげていいのかな」
純粋な疑問だった。死神は当然ながら人間じゃ無い。人間じゃ無いものに人間の食べ物を与えるのは良くないのでは、と思ったのだがレイヴンはむすっと唇を尖らせて
「俺は動物じゃない。少しくらい大丈夫……のはずだ」
とやや不安げに答えた。
「なんだそれ。食べたいだけだろ」
欲望ダダ漏れの返事に突っ込むと、レイヴンは勢いよく叫んだ。
「当たり前だろ! だってめちゃくちゃ美味そうじゃないか!」
「わはは、人間になれたら良かったのになー」
「ふん、俺は死神であることに誇りを持ってるんだ。人間になれたらなんて……そんなことは……全然……これっぽっちも……」
「ふふ、見てる見てる。羨ましいか」
「羨ましくなんかない!」
なんて言いながらも、レイヴンの視線はしっかりと湯気を立てる豚まんをロックオンしている。くわっと大きく開いた口の中に、佐丸は思いきって豚まんを突っ込んだ。わふっと可愛いらしい擬音が聞こえ、レイヴンが口を閉じる。
「んう゛っ」
呻き声と同時に口が離れ、豚まんにレイヴンの歯形がついた。その歯形を見て、本当に実体化したのだと感じながら佐丸はレイヴンの様子を伺った。
「ど? 美味しい?」
初めて食べる人間の食べ物に何を感じているのか気になり、佐丸はレイヴンの顔を覗き込む。レイヴンは熱さに口をはふはふと動かしているが、それでも初めての体験に感動しているようだった。舌で味を確かめているのか、だんだんと頬が緩んでくる。
豚まんくらいで大袈裟だな、と思ったが未知のものに感動しているレイヴンを見ているのは気持ちがよかった。しかもそのきっかけが自分自身なのだと思うと、どこか誇らしい気持ちになる。
もっと食わせてくれ、と言うようにレイヴンが口を開ける。まるで餌を欲しがる雛鳥のようで、佐丸は喉を鳴らして笑う。
「……なんか、変な感じだ」
「どうした?」
ぽつりと呟いた声に、レイヴンが反応した。佐丸の顔を覗き込みながらも、口はもぐもぐと豚まんを頬張っている。どうやら気に入ったらしい。心配しているんだか食べたいんだか、どっちかにしろよと思うものの、美味しそうに豚まんを頬張るレイヴンを見ているとなんだか全てがどうでもいい気分になってきてしまった。
「これは独り言だから、黙って聞いててくれればいいんだけどさ」
自分が何を言おうとしているのか、佐丸は自分でもわからなかった。けれど、心に湧いてくるものを急に吐き出したくなったのだ。誰かに聞かせることで、相手の負担になってしまうかもしれない。そう思いずっと抑え付けてきた感情を、この身勝手で自由すぎる死神になら吐き出してしまえると思った。
レイヴンは契約で繋がっているだけの、打算込みの、人間じゃ無い存在で、それでも今は佐丸の恋人なのだ。こんな相手にしか気持ちを吐き出せない自分を情けなく思いながら、佐丸はゆっくりと息を吐く。
「僕、ゲイだって言ったでしょ。恋愛対象が男なんだよ。同じ嗜好の相手なんてそうそう見つからないからさ、マッチングアプリで知り合った相手とワンナイトばっか続けてて。エイシ……元彼の名前だけど、エイシとはそのマッチングアプリで知り合ったの」
マッチングアプリだのワンナイトだの、レイヴンにとっては初めて聞く単語ばかりだったのだろう。良くわからない、と佐丸の言葉に眉を寄せているが、今はこの鈍感さに助けられていた。
佐丸はレイヴンの反応を無視したまま言葉を続ける。
純粋な疑問だった。死神は当然ながら人間じゃ無い。人間じゃ無いものに人間の食べ物を与えるのは良くないのでは、と思ったのだがレイヴンはむすっと唇を尖らせて
「俺は動物じゃない。少しくらい大丈夫……のはずだ」
とやや不安げに答えた。
「なんだそれ。食べたいだけだろ」
欲望ダダ漏れの返事に突っ込むと、レイヴンは勢いよく叫んだ。
「当たり前だろ! だってめちゃくちゃ美味そうじゃないか!」
「わはは、人間になれたら良かったのになー」
「ふん、俺は死神であることに誇りを持ってるんだ。人間になれたらなんて……そんなことは……全然……これっぽっちも……」
「ふふ、見てる見てる。羨ましいか」
「羨ましくなんかない!」
なんて言いながらも、レイヴンの視線はしっかりと湯気を立てる豚まんをロックオンしている。くわっと大きく開いた口の中に、佐丸は思いきって豚まんを突っ込んだ。わふっと可愛いらしい擬音が聞こえ、レイヴンが口を閉じる。
「んう゛っ」
呻き声と同時に口が離れ、豚まんにレイヴンの歯形がついた。その歯形を見て、本当に実体化したのだと感じながら佐丸はレイヴンの様子を伺った。
「ど? 美味しい?」
初めて食べる人間の食べ物に何を感じているのか気になり、佐丸はレイヴンの顔を覗き込む。レイヴンは熱さに口をはふはふと動かしているが、それでも初めての体験に感動しているようだった。舌で味を確かめているのか、だんだんと頬が緩んでくる。
豚まんくらいで大袈裟だな、と思ったが未知のものに感動しているレイヴンを見ているのは気持ちがよかった。しかもそのきっかけが自分自身なのだと思うと、どこか誇らしい気持ちになる。
もっと食わせてくれ、と言うようにレイヴンが口を開ける。まるで餌を欲しがる雛鳥のようで、佐丸は喉を鳴らして笑う。
「……なんか、変な感じだ」
「どうした?」
ぽつりと呟いた声に、レイヴンが反応した。佐丸の顔を覗き込みながらも、口はもぐもぐと豚まんを頬張っている。どうやら気に入ったらしい。心配しているんだか食べたいんだか、どっちかにしろよと思うものの、美味しそうに豚まんを頬張るレイヴンを見ているとなんだか全てがどうでもいい気分になってきてしまった。
「これは独り言だから、黙って聞いててくれればいいんだけどさ」
自分が何を言おうとしているのか、佐丸は自分でもわからなかった。けれど、心に湧いてくるものを急に吐き出したくなったのだ。誰かに聞かせることで、相手の負担になってしまうかもしれない。そう思いずっと抑え付けてきた感情を、この身勝手で自由すぎる死神になら吐き出してしまえると思った。
レイヴンは契約で繋がっているだけの、打算込みの、人間じゃ無い存在で、それでも今は佐丸の恋人なのだ。こんな相手にしか気持ちを吐き出せない自分を情けなく思いながら、佐丸はゆっくりと息を吐く。
「僕、ゲイだって言ったでしょ。恋愛対象が男なんだよ。同じ嗜好の相手なんてそうそう見つからないからさ、マッチングアプリで知り合った相手とワンナイトばっか続けてて。エイシ……元彼の名前だけど、エイシとはそのマッチングアプリで知り合ったの」
マッチングアプリだのワンナイトだの、レイヴンにとっては初めて聞く単語ばかりだったのだろう。良くわからない、と佐丸の言葉に眉を寄せているが、今はこの鈍感さに助けられていた。
佐丸はレイヴンの反応を無視したまま言葉を続ける。
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