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3.きらめく世界③
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入り口を入ってすぐ右側にある帽子屋を横目に、佐丸はレイヴンと一緒にアクセサリーショップや雑貨屋をひやかして回る。レイヴンは商品に触れないとわかっていながらも、手を伸ばさずにはいられないのか気になったものを掴もうとしていた。その度に指が物体を通り抜け、本当にこの男は人間ではなく死神なのだと実感する。
一通り中を見て、佐丸は外のイベント広場に向かった。
一号館と二号館を繋ぐ広場は開放感のあるオープンスペースになっていて、いつもは何かしらのイベントでごった返している。今日はちょうど次のイベントの準備期間中のようで、珍しく何も無いスペースが広がっていた。
青い空と白い地面、赤レンガのトリコロールが目に焼き付く。
海風が流れてきて、佐丸の髪を揺らす。
「佐丸?」
心地良い風と景色に意識を奪われていた佐丸は、レイヴンに声を掛けられて我に返った。数度瞬きを繰り返し、照れ隠しのように腕時計を確認した。
「そ、そろそろ腹減ったな……」
時刻は午後四時になろうとしていた。桜木町駅についたのは二時過ぎだったから、赤レンガ倉庫で一時間以上も時間を潰していたことになる。佐丸は中に戻って食事をしようかと迷い、そういえば中華街に連れて行ってやると言ったことを思いだした。
ここから元町・中華街までは少し距離はあるが、のんびりと散歩がてら向かうのも悪くないだろう。どうせ時間はたっぷりあるのだ。
「なぁ、もっとすごいの見せてやろうか」
佐丸は意地悪そうに笑い、レイヴンを見上げた。レイヴンは興奮した表情のまま目を丸くし、まさかこれ以上が? と言いたげな顔をしている。
そんなレイヴンが妙に可愛くて、佐丸は口元を緩ませた。
■
元町・中華街。朱色に染まる豪奢な門を前に、レイヴンは言葉を失っているようだった。派手さもさることながら、人混みにも驚いているのだろう。平日の夕方だから休日よりも少ないとはいえ、人にぶつからずに歩けるかと言うと難しい。
でもどうせ、レイヴンは他人には見えないしぶつかることもないのだ。気にしても仕方がないかと思い、佐丸は中華街の大通りに向かって歩いて行く。
豚まんや小籠包、甘栗の匂いが充満する通りは、雑多でごちゃごちゃしていてお世辞にも綺麗とは言い難い。熱を出したときに見る悪夢、そんな言葉が似合いそうな場所でもある。けれどその煩さが、孤独を感じていた佐丸の心にはちょうど良かった。誰も彼もが目の前のことに夢中で、佐丸のことなど気にしていない。その無関心さが心地良い。
「あれ、どこいった……?」
ふと、隣にレイヴンの姿がないことに気付き、佐丸は周囲を見回した。まさか勝手にどこかへ行ってしまったのかと思ったが、それらしき人影は無い。レイヴンは顔が良いだけで無く身長も高いのだ。人混みの中でも頭一つ分くらいは飛び出している。すぐにでも見つかりそうだと思ったが、しかしどこを探しても見つからない。
まさか消えたのか? と思ったが、「佐丸」と頭上から声が聞こえて佐丸は顔を上げた。
「げっ」
見上げた先にいたのは、建物の屋根の上から地上を見下ろすレイヴンの姿だった。思わず声を上げてしまい、佐丸は慌てて口を閉じる。
何してるんだ、降りてこい。屋根は歩くところじゃないんだぞ、と視線で訴えてみても、レイヴンはまるで気付いていない。
「人が多すぎで驚いたが、屋根の上を歩けば快適だろう」
まさに天才的発想、とでも言うようなドヤ顔でレイヴンが地上を見下ろしている。その目は、なぜ人間はこんな人混みの中を平気で歩いているのか理解できないと言いたげだ。
周囲に人がいる状況で叫ぶわけにもいかず、佐丸はひとまず店舗側に避難しつつ『あのなぁ、人間は屋根の上なんか歩けないの!』と心の中で叫んでみた。
「そうなのか? 人間ってのは不便なんだな。じゃあ俺が佐丸を抱きかかえれば解決か?」
どうせ通じないだろうと思っていたが、心の声に返事があった。どういうことだ? と視線で訴えると、レイヴンは「契約者特権、てやつだろうな」と暢気な顔をしている。どうやら言葉を出さなくとも、契約者である佐丸とレイヴンの意識は繋がっているらしい。最初から言って欲しかった……、と思ったが、直前に聞いたレイヴンの不穏な言葉に気付いて佐丸は頬を引き攣らせる。
いま、抱きかかえるって言った?
一通り中を見て、佐丸は外のイベント広場に向かった。
一号館と二号館を繋ぐ広場は開放感のあるオープンスペースになっていて、いつもは何かしらのイベントでごった返している。今日はちょうど次のイベントの準備期間中のようで、珍しく何も無いスペースが広がっていた。
青い空と白い地面、赤レンガのトリコロールが目に焼き付く。
海風が流れてきて、佐丸の髪を揺らす。
「佐丸?」
心地良い風と景色に意識を奪われていた佐丸は、レイヴンに声を掛けられて我に返った。数度瞬きを繰り返し、照れ隠しのように腕時計を確認した。
「そ、そろそろ腹減ったな……」
時刻は午後四時になろうとしていた。桜木町駅についたのは二時過ぎだったから、赤レンガ倉庫で一時間以上も時間を潰していたことになる。佐丸は中に戻って食事をしようかと迷い、そういえば中華街に連れて行ってやると言ったことを思いだした。
ここから元町・中華街までは少し距離はあるが、のんびりと散歩がてら向かうのも悪くないだろう。どうせ時間はたっぷりあるのだ。
「なぁ、もっとすごいの見せてやろうか」
佐丸は意地悪そうに笑い、レイヴンを見上げた。レイヴンは興奮した表情のまま目を丸くし、まさかこれ以上が? と言いたげな顔をしている。
そんなレイヴンが妙に可愛くて、佐丸は口元を緩ませた。
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元町・中華街。朱色に染まる豪奢な門を前に、レイヴンは言葉を失っているようだった。派手さもさることながら、人混みにも驚いているのだろう。平日の夕方だから休日よりも少ないとはいえ、人にぶつからずに歩けるかと言うと難しい。
でもどうせ、レイヴンは他人には見えないしぶつかることもないのだ。気にしても仕方がないかと思い、佐丸は中華街の大通りに向かって歩いて行く。
豚まんや小籠包、甘栗の匂いが充満する通りは、雑多でごちゃごちゃしていてお世辞にも綺麗とは言い難い。熱を出したときに見る悪夢、そんな言葉が似合いそうな場所でもある。けれどその煩さが、孤独を感じていた佐丸の心にはちょうど良かった。誰も彼もが目の前のことに夢中で、佐丸のことなど気にしていない。その無関心さが心地良い。
「あれ、どこいった……?」
ふと、隣にレイヴンの姿がないことに気付き、佐丸は周囲を見回した。まさか勝手にどこかへ行ってしまったのかと思ったが、それらしき人影は無い。レイヴンは顔が良いだけで無く身長も高いのだ。人混みの中でも頭一つ分くらいは飛び出している。すぐにでも見つかりそうだと思ったが、しかしどこを探しても見つからない。
まさか消えたのか? と思ったが、「佐丸」と頭上から声が聞こえて佐丸は顔を上げた。
「げっ」
見上げた先にいたのは、建物の屋根の上から地上を見下ろすレイヴンの姿だった。思わず声を上げてしまい、佐丸は慌てて口を閉じる。
何してるんだ、降りてこい。屋根は歩くところじゃないんだぞ、と視線で訴えてみても、レイヴンはまるで気付いていない。
「人が多すぎで驚いたが、屋根の上を歩けば快適だろう」
まさに天才的発想、とでも言うようなドヤ顔でレイヴンが地上を見下ろしている。その目は、なぜ人間はこんな人混みの中を平気で歩いているのか理解できないと言いたげだ。
周囲に人がいる状況で叫ぶわけにもいかず、佐丸はひとまず店舗側に避難しつつ『あのなぁ、人間は屋根の上なんか歩けないの!』と心の中で叫んでみた。
「そうなのか? 人間ってのは不便なんだな。じゃあ俺が佐丸を抱きかかえれば解決か?」
どうせ通じないだろうと思っていたが、心の声に返事があった。どういうことだ? と視線で訴えると、レイヴンは「契約者特権、てやつだろうな」と暢気な顔をしている。どうやら言葉を出さなくとも、契約者である佐丸とレイヴンの意識は繋がっているらしい。最初から言って欲しかった……、と思ったが、直前に聞いたレイヴンの不穏な言葉に気付いて佐丸は頬を引き攣らせる。
いま、抱きかかえるって言った?
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