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第一章 王国編第二部(中等部)

エピソード185 中等部二年生

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 まだ眠気が残っているかのように草木の芽がゆっくりと目覚めつつある今日この頃、オレ達は中等部二年生になっていた。
 かと言っても特に変わりのないのだが、一年生の時から一緒のクラスメイト達の中でカーンは相変わらず態度の悪そうなグループに属しており、トンマージ君は昨年同様に1人で過ごしていた。
 大きな出来事などもないのだが、小さな出来事として担任のガン先生の弟のダン先生が結婚をしたらしい。
 ガン先生は朝の朝礼で、この世の終わりかと言うような表情で悔しそうにポツリポツリと話してくれた……

「お、弟だけは…………ず、ずっと一緒に独身だと思っていたのに………………みなさん、こ、このように……人はすぐ裏切るのですよ。ほ、本当に怖いのは、天災でも魔獣や魔物でもありません! 欲にまみれた人間です!」

(おいぃぃ! まだピュアな心を持つ子ども達になんて事を言っているんだよ! この先生は……)

 オレはそんなガン先生に呆れかえっていた。


 その後の始業式では挨拶をする予定の校長が諸事情により、代役でロレンヌ教頭が要点を押さえたスピーチをされていた。 
 そして教室に戻りホームルームが始まり、二年生になって最初のイベントの席替えをした。

「み、み、みんな、き、今日は午前中で授業は終わりだから……さ、最初に席替えをするよ」

 ガン先生は嫉妬に狂う状態異常からいつもの様子に戻っていて、オレ達に席の番号を書いたくじ引きの紙を渡していった。
 
 くじの結果、オレは後ろから二番めの窓側の席になって、隣の席にはオレの方をチラ見するフィーネとなった。
 オレの後ろには

「フィーネは今更何を恥ずかしがっているの?」

 と悪い笑みを浮かべるモーガン。

「モーガン君、フィーネさんとクライヴ君はやはりそんな関係だったのですか!」

 とモーガンの隣の席で何故か驚いているクラリネさんがいて、偶然にも仲良いメンバーが集まって、オレとしてはこの一年間は過ごしやすくなりそうだ。

 
 ……………………ように思えたのだが…………

「はぁ……こんなにも近くでクライヴ君とモーガン君のお顔を拝見できるなんて……動悸と眩暈がしてきましたわ。あぁ……息苦しいですわ……早くわたくしめにマウストゥゥゥゥゥウウマウスゥゥ!!」

「ハァハァハァ、ここからでもクライヴ君の良い匂いがするわ。早く夏になってくれないかしらハァハァ。チラリと見える鎖骨から良いエキスが出るはずだわハァハァ」

 そうあの女子六人衆理解不能の二人がオレ達の目の前の席となったのだが………………何故か二人は教壇に背を向けて、ガッツリとオレの方へ身体を向けて座っている………………その光景を見ているガン先生もあたふたしていた………………

(…………誰か注意をしようよ! 授業聞く気ないよこの態度は…… しかも一人闘牛のように荒ぶる鼻息が聞こえてくるよ……)

 その後ガン先生がやんわりと注意をしてくれて、女子達は前を向いてくれた……

 そんな出来事があったが、その後は平和な時間が続いた。何事もなかったかのように授業が始まり、授業内容も一年生の頃とさほど変化はなく、あっという間に午前中が終わり、もう昼食の時間がやってきた。

「みんな今日は午前中授業だから昼からどうする? どこかで昼ごはんを食べても、十五時からのハッピースマイルポテイトンに行くにはまだ少し時間があるんだけど」

 オレが口を開くと、珍しくクラリネさんが提案をした。

「わ、私は、その、お昼ご飯を食べた後に、ハッピースマイルポテイトンの衣装を選びにお店巡りなどいかがでしょうか?」

「いいじゃない。アタシもクラリネの意見に賛成だわ」
「そうだね。今日で解決する事では無いけど、服装に統一感を出すのも良いね」

 フィーネとモーガンもクラリネの意見に賛同して、オレ達はリアナとショーンに昼からの予定について話し合いをしに隣のクラスに移動した。

「おぉ! ワシらもそっちに行こうと思うとったんじゃ。アレじゃろ? 昼飯食ってから行くんじゃろ? 冒険者協会へ」
「やぁ、みんな。今日は午前で終わりだから、やはり昼からは依頼を受けに行くのかい? ぼくも久しぶりに身体を動かしたいと思っていたよ」

 目の前にはキラキラと目を輝かせるリアナとショーンバトルジャンキーがいた……


 リアナとショーンを落ち着かせる事十五分……クラリネさんの提案したハッピースマイルポテイトンの制服選びに向かう事を説明して、一度みんなで食堂に移動した。
 食堂は相変わらず広過ぎな作りだ。
 多分今の時間で全校生徒の六割は居るはずだが、それでも席は四割程度しか埋まっていなかった。
オレ達はいつものように昼食を頼もうとメニューを
 みていると、クラリネさんは眉間に皺を寄せて悩んでいた。

「うーん…………どんな料理なのでしょうか…………」

「クラリネ、まだ慣れてないの? アタシはこのベーコンレタスサンドにするけど」
「じゃあ私もそれにするね」

 フィーネのアシストでクラリネさんは安堵した様子だった。
 ちなみにフィーネが頼んだメニューは【何だべ?こんベーコンな村に来て。まぁアレだな手紙? 都会ではレターっぺか?すレタスっごい嬉しかったど。せっかく来たんだべ。まぁあんたさん、土サンド鍋でもどうだけろ?】で、リアナとモーガンも同じ物を注文していた。
 オレとショーンは【何やってんだよブラザー! オレ達は勝つ! どんカツ丼な時でもな! 忘れるな! オレ達の友情を!】という名のカツ丼を注文した。
 相変わらず、カウンターの奥にみえる厨房で腕組みをしている料理長は鋭い眼光でこちらを睨んでいた……

(いつも思うけど、普通のメニュー名に直してくれよ…………)

 昼食後は大通りに向かい、センスの良さそうな服屋を探す事にした。

(せっかくの制服だから、インパクトに残る服にしたいなぁ)

「制服についてなんだけど、サラーズに行ってみないか?」
「えっ? あの奇抜さで有名なお店ですよね」
「アタシは可愛いと思うけどなぁ」
「ぼ、ぼくは少しあの店の衣装を身に纏う勇気が……」
「ええんじゃないか。目立つし良かろう」
「ボクはどちらでもいいよ。多数決ならクライヴの意見に決定だね」

 多数決の結果オレ達はサラーズに向かう事になったが、相変わらずショーウィンドウに飾られたマネキンはキャビンアテンダントやら某ハンバーガー店やら某コーヒーの店やらに似た衣装を着ていた……

(絶対ここの店って……転生者の店?)

「あらあら可愛らしいお客さん達ね。アタイはこの店の店長をしているエネメよ」

 目の前にはダークピンクの髪色をしたワンレングスのロングヘアーにオールバックが印象的なキリッとした目の長身でモデルのような体型の女性が声をかけてきた。

「あ、あのアタシ、このお店の服、可愛くて大好きです。エネメさんが作る服はこの世界に唯一無二です!」

(がめつい! がめついぞフィーネ! 店長という言葉に媚を売りはじめたぞ! そんな事しても安くはならんよ)

「ははは……ありがとね。でもねこの服のアイデアはアタイじゃないのよ。五年前にアタイが奇抜なファッションをしていたら、貴族の女の子が声をかけてきてさ。その子がアタイでは考えられないような個性的な服のアイデアを話してくれて、その通りに作ってみると少しずつ売れるようになったんだよ。またその子が小さな女の子なのに大人みたいな考え方をして驚きよ。まぁでもその子のおかげで今では大通り沿いに店を構える事が出来たから、感謝の気持ちでいっぱいよ」

(ん? エネメさんは転生者じゃなく、どこかの貴族令嬢が転生者? 王都にいるって事か? 五年前に小さい女の子という事はオレ達と歳が近いのでは? という事は学院の生徒か?)

 オレが迷探偵?並みの推理力を発揮して思考の海に潜っていると、他の客から物騒な話が聞こえてきた。

「ちょっと、この前平民通りの宿場のところの子どもが行方不明になったそうよ」
「私もカフェの若い店員さんが急に仕事に来なくなって、その後も行方がわからないらしいわよ」

 衣装を選んでいる女性陣をよそにオレはお客さんの話に耳を傾けていると、モーガンがオレに小声で話しかけた。

「最近、件数は多くないが行方不明になる事件があるらしいよ。事件性なのか、それとも家出なのかわからないけどね」
「…………そういえば、前にアーサー殿下達と夏休みを過ごした時に、テリー様から地方ではそんな噂が広がっていたような気が……」
「そうなんだねクライヴ。ボク達も注意しないといけないね」
「変な事言うなよモーガン。実際に起こったらどうするんだよ」
「ちょっと! クライヴとモーガン! 制服決まったわよ!」
 
 オレとモーガンが話をしている間にハッピースマイルポテイトンの制服案が決まったらしい。
 フィーネ達の所に行くと、某ハンバーガー店風の衣装に決定した。
 とりあえず、オレの提案で黒ベストの胸のロゴはハッピースマイルポテイトンのHにした…………

(まんまパクリじゃん……)

 そんな平穏な日々がいつまでも続くと思っていた。
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