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第一章 王国編第二部(中等部)

エピソード180 春休みは生誕祭その二

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「食った食ったぁ。もうお腹一杯じゃ」

 ショーンはソファにもたれかかりお腹をさすってご満悦な様子だ。みんな食事を済ませてゆったりとしていたのだが、オレはふと疑問に思った事を口に出した。

「凄いなぁパンケーキやオムライスとか……こんな料理があるんだな」

 この世界のパンケーキは厚みこそ物足りないが味は前世と比べてもまぁまぁなクオリティだと思われる。もちろんオムライスもだ。
 
「アンタは王都育ちじゃないから分からないのよ!
 ここは王都なのよ! だから国内中の色んな食べ物が王都には集まるのよ。まぁアンタみたいな大量の油を無駄使いにする変な考え方で、食物を揚げるっていう調理法は無かったから本当にアンタって変人よね」

 フィーネがドヤッと言わんばかりに胸を張って、オレに不敵な笑みを浮かべていた。

(いやいや、フィーネは森育ちだからな! って何ドヤ顔でマクウィリアズ王国の食文化を語ってんだよ! 出身はフォレストリーフだろ!)

「ハハハ、そうだね。フィーネの言う通りあんなに油を大量消費して揚げるという調理方法は王都には存在しなかったからね。ボクもクライヴのジャガイモレシピには凄く驚いたよ」

「……イヤータマタマデスヨ…………」

 オレが考案したレシピではなく、むしろ前世で存在したレシピをパクったわけなので……何故かオレはモーガンに対して申し訳なく思い、ぎこちない返答となってしまった。


 そんなこんなで腹を満たしたオレ達はショーンとリアナの強い希望により午後から武器屋に向かったのだが、武器屋にはこの場にはそぐわない方々が来店していた。

「リアナ、フィーネ。みんなでどうしたの?」

「「エルザ」」

 入り口のドア付近の長剣が置いてある所で、エルザ様が緑色のショートボブを揺らしながら元気いっぱいに手を振っていた。
 オフホワイトのカートルと黄色のサーコートを身に纏い、町娘風のファッションをしていたのでどうやらお忍びの様子なのだろう。

「エルザどうしたの? あら? フィーネにクライヴ君?」

 そしてエルザ様の隣には同じくホワイトのカートルに青のサーコートを身に纏うアリア様が短剣を手に取ってそこに立っていた。
 素材が絹という事と、輝きを放つかのような美肌に人々の目を惹きつける美少女という存在から、明らかに貴族令嬢だろうとモロバレだと思われるのだが…………
 オレはそんなラフな服装のアリア様に目を奪われているとアリア様がジト目でオレを見ながら声をかけてきた。

「町娘と言うよりもどう見ても貴族でしょって言いたそうな顔をしていますわねクライヴ君は。 私だってこんなお遊戯のような変装は嫌でしたのよ。メイド達が子どもの頃に着ていた古着を着ようとしたらお母様が突然真っ青になって崩れ落ちてしまったのよ」

(それもあるんだけど、何故武器屋に町娘風の上級貴族のご令嬢二人がいらっしゃるのでしょうか? 謎です……)

 オレはこの状況下を理解するのに戸惑っていたが、リアナは満面の笑みでエルザ様達の元に向かった。

「フフッ流石だねエルザ。君もそれが気に入ったんだね。ぼくも最初はそれが気になっていたんだが……どうやらぼくは捻くれ者なのだろう…………ぼくはショーテルを選んだんだよ」

 そう言ってリアナはエルザの持つ剣に目を向けた。
 エルザの手には少し刃先が湾曲している刃の薄い細身の片刃刀、いわゆるシャムシールが握られていた。

「リアナ? 見た目は気に入ったんだけど……一般的な物よりも軽量に作られているのよ。そこがメリットでもありデメリットでもあるのよね…………この刃の薄さじゃ獣達は狩れないわ」

「なるほど、サンダース領で行われるハンティングか……確かに強度が必要だね。その薄さで強度を求めるならドワーフの技術でないと難しいか…………」

 リアナとエルザがキャッキャと長剣トークをして盛り上がっている中で、長剣エリアの向こうではショーンがずらりと並んでいる盾を見て目を輝かせていた。

「うぉおおお! これじゃ! クライヴ、モーガン見てみぃコレ! 最高じゃろうが!」

「これは! もしかしてデンタルタウロスの素材で作られた大盾? 凄いねショーン!」

(ん? なんかモーガンも驚いているけど……何そのなんとかタウロスは?)

「なんだよ一体デンタルタウロスって……」

 オレはショーンとモーガンのなんたらタウロスについて熱く語っているのを見て、ポツリと雫のように呟いた。

「ふ~ん、期待の若手冒険者さんにも知らない事があるのね」

 背後から少しだけ意地悪な囁きが聞こえてきたので、オレは声のする方へ振り向いた。
 そこにはアリア様が人差し指を顎に触れて不敵な笑みを浮かべてたたずんでいた。

「アリアさんか……オレは討伐依頼嫌いな冒険者だからね」

「フフッ。アランお兄様を助けた英雄なのに?」

 そう言ってアリア様は小さく首を横に傾けた。
 その時アリア様の揺れる髪から、まるで冬の寒さの中に心が緩むような春の訪れ……そんな柔らかな甘い香りがオレの鼻腔をくすぐった。

(なにそのあざとさ! しかもめっちゃ良い匂いするし! ヘアフレグランスですか? そもそもこの世界に存在しているのか?)

「クゥラァァイヴゥゥ!」

 轟くような重低音ヴォイスとともに閃光の如く駆けていくスタンピングがオレの足の甲に強烈な一撃を放つ!

「い…………痛ぇぇええ!」

「この変態! いやらしい顔でアリアを見るんじゃないわよ! ほんとアンタって気持ち悪いわね!」

(うん。フィーネさん凄いよ。理不尽な暴力だね。流石のオレでも心が萎えるからね)

 オレは唇を噛み締めて、瞼の奥から零れ落ちそうな何かを我慢した。
 そしてフィーネはゴミ虫を見るような目でオレを見た後に、何事も無かったようにアリア様と短剣を手に取りながら二人仲良く話し合っていた。

「クライヴ君……まぁ……その…………色々と大変なんだね」

 エルザ様が同情してくれたのだが、その優しさが余計に悲しかった……

 ちなみに後でモーガンが教えてくれたのだが、デンタルタウロスとは大きなツノを持つ牛みたいな獣らしいのだが、見るべき所はその名前の由来となる歯がポイントらしい。
 咀嚼筋が異様に発達して、その顎周囲はマグマによって形成されたかと想像させられる程の荒削りでダイナミックな岩肌のような筋肉。
 さらに噛み合わせを見てみると上下の歯を結ぶ線が直線になっており、見事な歯並びと雪のような白い歯が芸術の域だと納得するぐらいとの事だった。
 素材はもちろん顔面が人気らしく、そのしなやかさと高い強度は様々な防具に加工されているらしい。

(まぁそんな話は置いといて……)

 色々な武具を見ながら滞在する事一時間、オレ達は特に武具を購入する事なく店を後にした。
 次に向かったのは街の中心部にある公園で、様々な屋台が立ち並ぶ中オレ達は池を目指して歩く。
 そして池の方では毎年お馴染みの飛び込み台やその周辺の観客席等の設営が始まっていて、今年はみんなで出場しようと言い出すショーンを説得して何とか難を逃れた。

(ショーンはいいかもしれないけど、真冬に池に飛び込むのは無理だって! 凍えるよ)

 その後は王都中を散策する日々とハッピースマイルポテイトンの仕事という充実? した日々が過ぎていたのだが、オレの元にアリア様からの招待状が届いた…………
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