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第一章 王国編第二部(中等部)

エピソード? アリアサイド 開業?

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 学院も春休みを迎えつつある今日この頃、世間では来週から行われるマクウィリアズ王生誕祭の準備で街は騒がしさに包まれている。私も別の意味で忙しかった。
 毎年参加している王城でのパーティーに向けての衣装は準備万端で、今年は爽やかなターコイズカラーでAラインをベースに、ウエスト部分から重ねてあるアシンメトリーのドレープが特徴的なドレスを着る事になった。
 
 (お母様……張り切り過ぎよ!)

 そして今は我が家の応接室にて、違う事で忙しい事になっていた……
 
「アリア、この前の社交会では中央貴族派、地方貴族派、中立派の全ての派閥の貴族から美容薬をわけて欲しいと言われたのよ。お店は北通りの私のお店の隣に建てましょうか。うん! それがいいわよね」

 日々の美容薬による肌ケアによって年齢を感じさせない肌を手に入れてご満悦な様子で、お母様は私に話しかける。
 そう、お母様は私の美容薬【化粧水】と【乳液】をついに販売しようと計画している最中だった。
 
「お母様……北通りのお母様のドレスショップやジュエリーショップの近くだと上級貴族しか手に入れる事が出来ないです。私はもっと多くの方に手にとっていただきたいので大通りが良いのでは……」

 私の言葉にお母様はしょんぼりと肩を落とすが、こう見えてお母様は意外とやり手の経営者でもある。
 ジュエリーショップ【アイビス】は上級貴族のマダム達を惹きつける王都で人気のショップであり、ドレスショップ【シエル】は社交会では身に纏う事が上級貴族のステータスと言われるぐらい定番となっている。今回私のドレスも【シエル】の新作で、ここ数年何故か私は広告塔の役割を担う事となっているようだ…………

「そうね。そうしましょう! お店の名前はどうするアリア? アリアをイメージしてリトルプリンセスアリアはどうかしら?」

(私をイメージなんてやめて欲しいわ! 侯爵令嬢が目立つとろくな事にならないわよ)
 
「嫌です。お店の名前はもっと親しみやすい名前がいいですし、美容に関する商品を取り扱うので……ビューティーズとかダメですか?」

「そうね。化粧水と乳液はまさに美を追求する者達の必須品……そのネーミングで良いと思うわよ。後はサポートする人材ね。誰かすぐにルネッタを呼んでちょうだい!」

 お母様の一声で屋敷のみんなが慌ただしく動き出す。
 しばらくすると応接室の扉が開き、男性の平均身長ぐらいの背の高さのスーツ姿の女性が姿を現した。
 第一印象はブラウンのポニーテールにキリッと一重まぶたで、意志の強いやり手の秘書という感じがする。

「お初目にかかります。わたくしはメリッサ様の経営のサポートをしておりますルネッタと申します。今後お嬢様のサポートをさせていただく事となりますのでお見知りおき下さい」

「ご丁寧にありがとうございます。私はアリアと申します。よろしくお願いします。それとルネッタさん、そんなにかしこまらないで下さい。お嬢様は結構です」

「はっ! アリア様」
 
 私の言葉に何故か跪くひざまづくルネッタさんがいた……

 そしてお母様とルネッタさんと私の三人で開店に向けての詳細な打ち合わせが始まった。

「ルネッタ、大通りでおすすめの物件は?」
「はっ…………大通りのファッションエリアにあります。一つは冒険者エリアに近い場所にある正方形に近い平屋で、広さは百二十平方メートルあります。これだけ広いと建物の中を区切って、店舗スペースとアトリエスペースに分けるのも良いかもしれませんね。もう一軒は公園の近くにある縦長の二階建ての物件になります。一階部分は四十平方メートルしかありませんし、二階部分も二十平方メートル程度なのであまりお勧めではないかと思います……」
 
「その二軒しかないのね。アリアどちらにする?」

(化粧水と乳液を置くだけなので、そんなに広さは必要ないんですけど……作業スペースもこぢんまりした所で精製出来るし…………)

「公園側でいいです」
「はっ! それでは早速物件を押さえておきます」

 僅か十分足らずで物件が決まり、次は中身の話に入ったのだが…………私の前世の頭脳をフル回転させて、全ての打ち合わせを終えるのに要した時間は三十分程度だった。

 お店の外観は白壁に青い小瓶のマークを飾って、色のコントラストで視認しやすい工夫を一つ。更に店内の雰囲気が外からでも伺えるガラス張りにする事で興味を惹かれて気軽に入れる工夫をもう一つ。 
 そんなお店の警備は店内外にウィンゲート家の護衛を一名ずつ配置して、店内の内観は柔らかな印象を与える木目調の壁や床。そして広くはないが縦四メートルの横五メートルをお客様が入れるスペースを作り、壁側にずらりと商品の説明文と価格が書いた絵が飾っている。
 残りのスペースはカウンター側になっていて、盗難防止の為カウンターの後ろにある棚に商品を陳列する事にした。もちろん十代、二十代、三十代、四十代、五十代等、年齢に合わせた配合の商品を用意している。
 そして価格設定だが、化粧水と乳液ともに二十八日分でそれぞれ銀貨一枚に設定した。まぁ多くの人に手に取ってもらう為の価格設定で、銀貨一枚の商品を恥ずかしくて買えないとおっしゃる貴婦人に対してはゆくゆく製造予定の美容に効果のある様々なエキス入りの王室御用達の美容薬で満足していただければと考えている。
 そのため二階のスペースは私の作業部屋兼応接室にする事にした。

「ではアリア様、マクウィリアズ王生誕祭に間に合わせる為にも明後日には開店できるように腕の良い職人達を手配しておきます」

 ルネッタはそう言って一礼をしてから部屋から出ていった。

「明後日は土曜日だからアリアもお店の様子を見に行けるわね」

「あの……お母様、私もお店で従業員の皆さんと一緒に働きたいのですが……」

 私の言葉にお母様は表情を変えた。

「ダメよ! ウィンゲート家令嬢が働くなんて! そんな事したらあなただけでなく育ててきた私達の品格も疑われるわ! 二階のお部屋も製造工場が出来るまではアリアがその部屋で美容液作りに励んでも良いけど…………それ以上の事はやめて頂戴」

(ごもっともな意見だわ……)

「はい分かりましたお母様。ではたまに視察などは許していただけますか?」

 私の必殺技上目遣いを繰り出すとお母様は困ったような顔をしてゆっくり頷いた。

「しょうがないわね。護衛を連れて行くのよ」
「はい!」

 こうして【ビューティーズ】は開店する事になったのだが、ウインディー王女が愛用している事が社交会で知れ渡り貴族が買い占める事態が起きてしまった。

(もう! これじゃあ貴族しか手に入れる事ができないじゃない! もっと学生から大人まで王都で暮らす全ての人達に手に取ってもらいたいのに!)

 そしてマクウィリアズ王生誕祭にて【ビューティーズ】の知名度は一気に上がる事となった……
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