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第一章 王国編第二部(中等部)
エピソード174 出店人気バトル それぞれのクラス
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「はぁ…………」
「クッ! 中々の強敵だったよ」
「アタシも二度とお化け屋敷なんかごめんだわ。ハァハァ聞こえたのが生理的に無理だわ」
オレ達怖いものが嫌いな三人組が嘆いている中、モーガン達は次の予定を立てているようだ。
「クライヴ、次はどこに行こうか?」
「クライヴ、次は一組とかどうじゃろう?」
「お化け屋敷以外ならどこでもいいよ……」
モーガンの提案で一組のマジックショーを観に行く事になったのだが、やはりこのクラスも一筋縄ではいかなかった……
一組の教室に入るとカーテンを閉めて薄暗くなっていた。正面にはお立ち台があり、そこには丸テーブルが一つある。
客席は薄暗いがソファーや椅子が並んでいて、お立ち台の場所だけスポットライトで照らされていた。
「レディース、エーーンド、ジェントルメーン! 私達のマジックショーにようこそ。ではでは紳士淑女の皆様そちらの席にどうぞ」
司会進行役と思われるシルクハットに蝶ネクタイの男子生徒がお立ち台にあがり、元気な声で挨拶をしていた。
その挨拶の後に女子生徒がオレ達をソファーに案内する。
ソファーはL字の形をして六人掛けの深く沈み込むタイプだ。
オレ達はお化け屋敷で歩き回った足の疲れを癒すためにも言われるがままソファーに腰をかけた。
(はぁ、やっと一休みできる)
「まずは最初にシルクハットを使ったマジックを紹介しまーす! そーれではどうぞ!」
(へぇーこの世界でマジックショーを観るなんて楽しみだなぁ。魔法とか使うのかなぁ)
お立ち台にはシルクハットを被ったメガネの男子生徒が深いお辞儀をした。
「先程紹介があったように私はこのシルクハットを使ったマジックをお見せします。少しの時間ですがお楽しみ下さい」
そう言って被っていたシルクハットに手を伸ばしてシルクハットの上部分が丸テーブルに着くように置いた。
だがしかし! 丸テーブルに置いたシルクハットから鶏らしき顔が、いや鶏の首から上の部分が見えている……
コケッ…………
その鶏は控えめな声量からは想像もつかない程のとても自信に満ち溢れた顔で周囲をゆっくりと見渡していた。
勿論マジックを披露するメガネの男子生徒は気づいていない。むしろクイっとメガネを持ち上げて何も始まっていないのにドヤ顔をしていた。
(ちょ、ちょっと待て! 今コケッって聞こえたよ! シルクハットからちょっぴり顔を覗かせてますけどアレ……しかもマジックなら鶏じゃなくて鳩だろ!)
まさかの魔法を使わない純粋なマジックショーだったが、客席にいる全ての生徒は、暗黙の了解で何事もなかった振りをしていた。何も無いシルクハットの中から鶏を出すという約三分間のマジックショーの予定だったらしいが、身体を温める為のウォーミングアップだと言わんばかりにマジック前の段階からアレがあまりにも頻繁に顔を覗かせていた。
マジックが始まっても終始グダグダで、最後の方は鉄の蓋をシルクハットに乗せてアレが出れないようにしていた。
だがマジックを披露する生徒は相変わらずメガネをクイッとしてドヤ顔を決めていた…………
(大失敗だろ…………)
続いてマジックを披露する生徒は二人組の男子だった。ガリガリな体型とソフトぽっちゃりな体型の凸凹コンビで、ガリガリな男子生徒がソフトぽっちゃりな生徒に指示をしていて、なにやら上下関係があるようだった。
「おいマシュー! 絶対安全なんだろうな!」
「ま、任せてくださいガリソン様! このマシューに失敗などありません」
どうやら続いては人体切断マジックをするらしく、それらしい箱が用意された。
確かこのマジックの種明かしは上半身側と下半身側の箱にそれぞれ別の人間が入るトリックのはずだ。
しかし事件はマジックの最中に起きる。
まずは観客を驚かせない為に、刃を潰した剣でゆっくりと箱の中央を押し進めていく。
「痛!」
「………………」
なにやらガリソンと呼ばれている生徒がマシューを睨んでいる。
(ん? さっきガリソン様と呼ばれた男の子が痛いと呟いたぞ……えっ? 種明かしとかなく本当にあの箱にガリソン君だけが入っているのか?)
オレの思惑通り事態は悪い方に動き出す……
「痛い痛い! マシュー! 痛いって言っているだろ!」
「ひいぃ」
まさかのガリソンがブチ切れて箱から飛び出した。すると前腕が内出血を起こしており、それを見たマシューは怯え出す。
そしてその二人を止めようとする他の生徒達!
「おい! ガリソン様とマシューを落ち着かせるんだ! このままだと中立派と中央貴族派の対立に繋がりかねないぞ!」
「誰か! ガリソン様の腕の治療を! ガリソン様の件でトラベルト子爵へ謝罪の連絡を! それと同じ中立派のボールトン伯爵に話をしないと! はやくモースト様を呼んでこい! モースト様からボールトン伯爵に話を通していただき派閥抗争に発展しないように防いでいただかないと!」
「こっちもマシューの件でハインツェ男爵に連絡だ! 息子のマシューからではなくハインツェ男爵からの謝罪が必要だろ! それと中央貴族派のウィンゲート侯爵からボールトン伯爵に話をしていただいた方がトラベルト子爵家とハインツェ男爵家の両家に軋轢を生じないのでは? とりあえずウィンゲート侯爵にはアリア様から話をしていただこう! 誰かアリア様を!」
マジックショーをする雰囲気ではなくなり、そこには地獄絵図が広がっていた…………
「ちょっと、何か大変な事になってるわよ」
「な、なぁモーガンこれは…………」
「クライヴこれが学院……いや貴族社会の縮図だよ」
「まずいな……ぼくの家も中立派だがトラベルト子爵は中央貴族派をよく思っていないんだ。モーストとアリアに動いてもらい領主同士の話し合いの場が必要かもしれないな」
「なんかようわからんがぁ貴族は大変じゃのぉ」
(マジックショーは観る者を惹きつける……確かにスポットライトを浴びる生徒達に観客達の目は釘付けになっている状況だ。オレ達はマジックではなく王国を支える貴族間のパワーバランスというものを観せられて、違った意味で観客達の興味を惹きつけていた………………)
その後、モーストとアリア様も駆けつけて、アリア様の見事な手腕により事なきを得たが、オレ達は何とも後味の悪い感情が胸の中にドロリと残った。
「みんな、ぼく達のクラスはホールで演劇を行うから気分転換に鑑賞しようじゃないか」
「い、いいわね。アタシは賛成よ」
「おう! そうじゃろ!」
「ボクも賛成だよ。クライヴはどうする?」
「あぁ、色々あったからゆっくり出来るならどこでもいいよ」
そしてオレ達はホールを目指して階段を上がろうとした。
(そういえば、二階は高等部の教室があるはずだが、静まり返っているなぁ。それに学祭なのに誰もいないのか?)
オレは高等部の生徒がいない事をふと疑問に思ったので、モーガンに聞いてみた。
「モーガン、何で学祭なのに高等部の先輩達がいないんだ?」
「そうだね……ボクも不思議に思っ」
「クライヴ~! 昨日は大丈夫だったの? まだ痛むならお姉ちゃんが回復魔法で治してあげるよ」
モーガンの言葉を遮って階段下からルーシーお姉ちゃんが心配そうな顔をして駆けつけてくる。
「「「「ルーシー先輩」」」」
「ルーシー先輩、心配をおかけし」
「クライヴ、言葉遣いが違うわよ」
ルーシーお姉ちゃんから殺気を感じてオレはすぐに言葉を訂正する。
「心配かけてごめんなさい。ルーシーお姉ちゃん」
よく出来ましたと言いたそうな表情のルーシーお姉ちゃんだったが、ルーシーお姉ちゃんがオレに話しかける前にモーガンが話しかけた。
「ルーシー先輩、昨日の戦闘祭りはお疲れ様でした」
「あら、えっと確かクライヴの友達の……」
「モーガンです」
「思い出したわ! いつも仲良くしてくれているモーガン君ね!」
そこからはモーガンの巧みな話術が冴え渡る!
オレとの出会い、ハッピースマイルポテイトンや冒険者稼業でのオレの活躍等の話でルーシーお姉ちゃんはご満悦だ。
そして学祭に高等部の先輩達がいない理由を聞いていた。
「そうなのよ! 毎年中等部と高等部で合同の学祭なのになんだけど、今年はどうやら国から王立学院に派遣要請があったのよ。内容は王都周囲の治安維持を行う騎士団の補助業務と災害にあった領地の行政事務の補助業務で、高等部全ての生徒が出払っているわ」
ルーシーお姉ちゃんの情報では現在マクウィリアズ王国の南側と隣接している蛮族と奴隷商人の国と呼ばれるシャドバレハト国が原因があるらしい。その国の治安が大変よろしくない状況らしく紛争が絶えないようだ。またマクウィリアズ王国との国境付近で不穏な動きがあるらしく、南地方では緊張を高めているとの事だった。
騎士団は南地方への遠征を余儀なくされ、王都周辺の治安を維持する人手が足り無い状況に陥り王立学院に派遣の要請がきたらしい。
(シャドバレハトか……噂では人身売買など悪どい商売で有名だが……帝国とは地理的に離れ過ぎていたからあんまり知らないんだよなぁ)
ちなみに行政事務の補助は、リアナとモーストの実家がある東中部地区より外側の子爵家や男爵領で近年稀に見る干ばつ被害が起こったそうだ。
よって被害状況の確認と復興支援とその費用、また税収の減少等課題が山積みで文官達は大忙しで、既に業務の許容量を超過している状況らしい。
領主は藁にも縋る想いで王立学院へ派遣要請をしたとの事だった。
勿論この二つの情報は高等部のみにしか知らされていないらしいが…………
(何故あなたは知っているのだ?)
この疑問を解決したい欲求もあるが、今のオレの優先度は学祭を楽しむ事だったので、ルーシーお姉ちゃんとは別れて三階のホールを目指した。
別れ際にルーシーお姉ちゃんから二年一組の喫茶店も来てよねと言われので後で立ち寄る約束をした。
そしてホールに到着すると、看板には一年三組と二年二組の二つのクラスが第一部と二部に分かれて演劇を行うそうだ。第一部は一年三組でタイトルは【偽りのクロニクル】、第二部は二年二組でタイトルは【鈍感、文官、優越感、贈与税に命を賭けよ。ハッスル全開! 君に届け人頭税!】…………
(ど、どうしよう……ショーン達のクラスよりも個人的には二年生の先輩の劇がみたい)
そんな事を考えながらホールに入ると、先程のウルトラ頭脳クイズの会場が撤去されていて、いつもの舞台に戻っていた。
オレ達はホールに並べられた椅子に座り、一年三組の劇を鑑賞した。
オレ達が鑑賞した劇の内容は、大陸を統一して百年のザイオン王国の話で、有能な宰相ミカエル侯爵の不可解な死から始まる。
その後ザイオン王は親交のあるスターリン伯爵を王都に呼び寄せて、ミカエル侯爵の後任になるようスターリン伯爵を説得する。
宰相となったスターリン伯爵は国の財政が危機的状況に陥っていることを知り、信頼のおける文官に独自調査を依頼した。
調査で判明したのは水面化でミカエル侯爵をよく思わない貴族達の思惑とミカエル侯爵暗殺計画書の存在であったが、ミカエル侯爵暗殺に関わった人物を調べていく内に財政に関わるサンタクレス伯爵と王妃の不倫を知る事となった。
またスターリン伯爵はザイオン王の唯一の息子が王妃と不倫しているサンタクレス伯爵の間に出来た子どもである事に気づき、ミカエル侯爵がその事を知ったため王妃によって暗殺されたのではと疑問を抱いた。
その証拠を集める為に秘密裏に王妃派以外の貴族を取り込んで調査をしていくと、財政難の状況は実は王妃と王妃派貴族の陰謀によるザイオン王の失脚を計画しており、その為に国政に関わる大多数の貴族達を買収する為に王妃とサンタクレス伯爵は共謀していた。
様々な事実を知る事となったスターリン伯爵は王妃派貴族から命を狙われながらも次々と悪事を暴いていきザイオン王の失脚計画を防ぎハッピーエンドで終わる物語となっていた。
オレが気になったのは、中等部一年生が考えた物語としては思ったよりもディープな内容だった事と、主要キャラの演者の華の無さだった。
物語の鍵を握る主要キャラ達は印象が薄く、クラスの中でもスポットライトを浴びない生徒達だろうか? どこか台詞にも覇気が感じられない…………
むしろ一番華がある演者は干ばつ被害による飢饉で苦しむ五名の村人役の内の一人。
目鼻立ちがハッキリした舞台映えするイケメンだった。
そのイケメンの台詞は【ひもじいだぁ】だけだ。しかしそのイケメンのわずかな台詞にホールは黄色い歓声に包まれていた……
(キャスティングミスだろコレ)
内容が良かっただけに、なんとも言えない感情のしこりが胸の中に残った……
「クッ! 中々の強敵だったよ」
「アタシも二度とお化け屋敷なんかごめんだわ。ハァハァ聞こえたのが生理的に無理だわ」
オレ達怖いものが嫌いな三人組が嘆いている中、モーガン達は次の予定を立てているようだ。
「クライヴ、次はどこに行こうか?」
「クライヴ、次は一組とかどうじゃろう?」
「お化け屋敷以外ならどこでもいいよ……」
モーガンの提案で一組のマジックショーを観に行く事になったのだが、やはりこのクラスも一筋縄ではいかなかった……
一組の教室に入るとカーテンを閉めて薄暗くなっていた。正面にはお立ち台があり、そこには丸テーブルが一つある。
客席は薄暗いがソファーや椅子が並んでいて、お立ち台の場所だけスポットライトで照らされていた。
「レディース、エーーンド、ジェントルメーン! 私達のマジックショーにようこそ。ではでは紳士淑女の皆様そちらの席にどうぞ」
司会進行役と思われるシルクハットに蝶ネクタイの男子生徒がお立ち台にあがり、元気な声で挨拶をしていた。
その挨拶の後に女子生徒がオレ達をソファーに案内する。
ソファーはL字の形をして六人掛けの深く沈み込むタイプだ。
オレ達はお化け屋敷で歩き回った足の疲れを癒すためにも言われるがままソファーに腰をかけた。
(はぁ、やっと一休みできる)
「まずは最初にシルクハットを使ったマジックを紹介しまーす! そーれではどうぞ!」
(へぇーこの世界でマジックショーを観るなんて楽しみだなぁ。魔法とか使うのかなぁ)
お立ち台にはシルクハットを被ったメガネの男子生徒が深いお辞儀をした。
「先程紹介があったように私はこのシルクハットを使ったマジックをお見せします。少しの時間ですがお楽しみ下さい」
そう言って被っていたシルクハットに手を伸ばしてシルクハットの上部分が丸テーブルに着くように置いた。
だがしかし! 丸テーブルに置いたシルクハットから鶏らしき顔が、いや鶏の首から上の部分が見えている……
コケッ…………
その鶏は控えめな声量からは想像もつかない程のとても自信に満ち溢れた顔で周囲をゆっくりと見渡していた。
勿論マジックを披露するメガネの男子生徒は気づいていない。むしろクイっとメガネを持ち上げて何も始まっていないのにドヤ顔をしていた。
(ちょ、ちょっと待て! 今コケッって聞こえたよ! シルクハットからちょっぴり顔を覗かせてますけどアレ……しかもマジックなら鶏じゃなくて鳩だろ!)
まさかの魔法を使わない純粋なマジックショーだったが、客席にいる全ての生徒は、暗黙の了解で何事もなかった振りをしていた。何も無いシルクハットの中から鶏を出すという約三分間のマジックショーの予定だったらしいが、身体を温める為のウォーミングアップだと言わんばかりにマジック前の段階からアレがあまりにも頻繁に顔を覗かせていた。
マジックが始まっても終始グダグダで、最後の方は鉄の蓋をシルクハットに乗せてアレが出れないようにしていた。
だがマジックを披露する生徒は相変わらずメガネをクイッとしてドヤ顔を決めていた…………
(大失敗だろ…………)
続いてマジックを披露する生徒は二人組の男子だった。ガリガリな体型とソフトぽっちゃりな体型の凸凹コンビで、ガリガリな男子生徒がソフトぽっちゃりな生徒に指示をしていて、なにやら上下関係があるようだった。
「おいマシュー! 絶対安全なんだろうな!」
「ま、任せてくださいガリソン様! このマシューに失敗などありません」
どうやら続いては人体切断マジックをするらしく、それらしい箱が用意された。
確かこのマジックの種明かしは上半身側と下半身側の箱にそれぞれ別の人間が入るトリックのはずだ。
しかし事件はマジックの最中に起きる。
まずは観客を驚かせない為に、刃を潰した剣でゆっくりと箱の中央を押し進めていく。
「痛!」
「………………」
なにやらガリソンと呼ばれている生徒がマシューを睨んでいる。
(ん? さっきガリソン様と呼ばれた男の子が痛いと呟いたぞ……えっ? 種明かしとかなく本当にあの箱にガリソン君だけが入っているのか?)
オレの思惑通り事態は悪い方に動き出す……
「痛い痛い! マシュー! 痛いって言っているだろ!」
「ひいぃ」
まさかのガリソンがブチ切れて箱から飛び出した。すると前腕が内出血を起こしており、それを見たマシューは怯え出す。
そしてその二人を止めようとする他の生徒達!
「おい! ガリソン様とマシューを落ち着かせるんだ! このままだと中立派と中央貴族派の対立に繋がりかねないぞ!」
「誰か! ガリソン様の腕の治療を! ガリソン様の件でトラベルト子爵へ謝罪の連絡を! それと同じ中立派のボールトン伯爵に話をしないと! はやくモースト様を呼んでこい! モースト様からボールトン伯爵に話を通していただき派閥抗争に発展しないように防いでいただかないと!」
「こっちもマシューの件でハインツェ男爵に連絡だ! 息子のマシューからではなくハインツェ男爵からの謝罪が必要だろ! それと中央貴族派のウィンゲート侯爵からボールトン伯爵に話をしていただいた方がトラベルト子爵家とハインツェ男爵家の両家に軋轢を生じないのでは? とりあえずウィンゲート侯爵にはアリア様から話をしていただこう! 誰かアリア様を!」
マジックショーをする雰囲気ではなくなり、そこには地獄絵図が広がっていた…………
「ちょっと、何か大変な事になってるわよ」
「な、なぁモーガンこれは…………」
「クライヴこれが学院……いや貴族社会の縮図だよ」
「まずいな……ぼくの家も中立派だがトラベルト子爵は中央貴族派をよく思っていないんだ。モーストとアリアに動いてもらい領主同士の話し合いの場が必要かもしれないな」
「なんかようわからんがぁ貴族は大変じゃのぉ」
(マジックショーは観る者を惹きつける……確かにスポットライトを浴びる生徒達に観客達の目は釘付けになっている状況だ。オレ達はマジックではなく王国を支える貴族間のパワーバランスというものを観せられて、違った意味で観客達の興味を惹きつけていた………………)
その後、モーストとアリア様も駆けつけて、アリア様の見事な手腕により事なきを得たが、オレ達は何とも後味の悪い感情が胸の中にドロリと残った。
「みんな、ぼく達のクラスはホールで演劇を行うから気分転換に鑑賞しようじゃないか」
「い、いいわね。アタシは賛成よ」
「おう! そうじゃろ!」
「ボクも賛成だよ。クライヴはどうする?」
「あぁ、色々あったからゆっくり出来るならどこでもいいよ」
そしてオレ達はホールを目指して階段を上がろうとした。
(そういえば、二階は高等部の教室があるはずだが、静まり返っているなぁ。それに学祭なのに誰もいないのか?)
オレは高等部の生徒がいない事をふと疑問に思ったので、モーガンに聞いてみた。
「モーガン、何で学祭なのに高等部の先輩達がいないんだ?」
「そうだね……ボクも不思議に思っ」
「クライヴ~! 昨日は大丈夫だったの? まだ痛むならお姉ちゃんが回復魔法で治してあげるよ」
モーガンの言葉を遮って階段下からルーシーお姉ちゃんが心配そうな顔をして駆けつけてくる。
「「「「ルーシー先輩」」」」
「ルーシー先輩、心配をおかけし」
「クライヴ、言葉遣いが違うわよ」
ルーシーお姉ちゃんから殺気を感じてオレはすぐに言葉を訂正する。
「心配かけてごめんなさい。ルーシーお姉ちゃん」
よく出来ましたと言いたそうな表情のルーシーお姉ちゃんだったが、ルーシーお姉ちゃんがオレに話しかける前にモーガンが話しかけた。
「ルーシー先輩、昨日の戦闘祭りはお疲れ様でした」
「あら、えっと確かクライヴの友達の……」
「モーガンです」
「思い出したわ! いつも仲良くしてくれているモーガン君ね!」
そこからはモーガンの巧みな話術が冴え渡る!
オレとの出会い、ハッピースマイルポテイトンや冒険者稼業でのオレの活躍等の話でルーシーお姉ちゃんはご満悦だ。
そして学祭に高等部の先輩達がいない理由を聞いていた。
「そうなのよ! 毎年中等部と高等部で合同の学祭なのになんだけど、今年はどうやら国から王立学院に派遣要請があったのよ。内容は王都周囲の治安維持を行う騎士団の補助業務と災害にあった領地の行政事務の補助業務で、高等部全ての生徒が出払っているわ」
ルーシーお姉ちゃんの情報では現在マクウィリアズ王国の南側と隣接している蛮族と奴隷商人の国と呼ばれるシャドバレハト国が原因があるらしい。その国の治安が大変よろしくない状況らしく紛争が絶えないようだ。またマクウィリアズ王国との国境付近で不穏な動きがあるらしく、南地方では緊張を高めているとの事だった。
騎士団は南地方への遠征を余儀なくされ、王都周辺の治安を維持する人手が足り無い状況に陥り王立学院に派遣の要請がきたらしい。
(シャドバレハトか……噂では人身売買など悪どい商売で有名だが……帝国とは地理的に離れ過ぎていたからあんまり知らないんだよなぁ)
ちなみに行政事務の補助は、リアナとモーストの実家がある東中部地区より外側の子爵家や男爵領で近年稀に見る干ばつ被害が起こったそうだ。
よって被害状況の確認と復興支援とその費用、また税収の減少等課題が山積みで文官達は大忙しで、既に業務の許容量を超過している状況らしい。
領主は藁にも縋る想いで王立学院へ派遣要請をしたとの事だった。
勿論この二つの情報は高等部のみにしか知らされていないらしいが…………
(何故あなたは知っているのだ?)
この疑問を解決したい欲求もあるが、今のオレの優先度は学祭を楽しむ事だったので、ルーシーお姉ちゃんとは別れて三階のホールを目指した。
別れ際にルーシーお姉ちゃんから二年一組の喫茶店も来てよねと言われので後で立ち寄る約束をした。
そしてホールに到着すると、看板には一年三組と二年二組の二つのクラスが第一部と二部に分かれて演劇を行うそうだ。第一部は一年三組でタイトルは【偽りのクロニクル】、第二部は二年二組でタイトルは【鈍感、文官、優越感、贈与税に命を賭けよ。ハッスル全開! 君に届け人頭税!】…………
(ど、どうしよう……ショーン達のクラスよりも個人的には二年生の先輩の劇がみたい)
そんな事を考えながらホールに入ると、先程のウルトラ頭脳クイズの会場が撤去されていて、いつもの舞台に戻っていた。
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オレ達が鑑賞した劇の内容は、大陸を統一して百年のザイオン王国の話で、有能な宰相ミカエル侯爵の不可解な死から始まる。
その後ザイオン王は親交のあるスターリン伯爵を王都に呼び寄せて、ミカエル侯爵の後任になるようスターリン伯爵を説得する。
宰相となったスターリン伯爵は国の財政が危機的状況に陥っていることを知り、信頼のおける文官に独自調査を依頼した。
調査で判明したのは水面化でミカエル侯爵をよく思わない貴族達の思惑とミカエル侯爵暗殺計画書の存在であったが、ミカエル侯爵暗殺に関わった人物を調べていく内に財政に関わるサンタクレス伯爵と王妃の不倫を知る事となった。
またスターリン伯爵はザイオン王の唯一の息子が王妃と不倫しているサンタクレス伯爵の間に出来た子どもである事に気づき、ミカエル侯爵がその事を知ったため王妃によって暗殺されたのではと疑問を抱いた。
その証拠を集める為に秘密裏に王妃派以外の貴族を取り込んで調査をしていくと、財政難の状況は実は王妃と王妃派貴族の陰謀によるザイオン王の失脚を計画しており、その為に国政に関わる大多数の貴族達を買収する為に王妃とサンタクレス伯爵は共謀していた。
様々な事実を知る事となったスターリン伯爵は王妃派貴族から命を狙われながらも次々と悪事を暴いていきザイオン王の失脚計画を防ぎハッピーエンドで終わる物語となっていた。
オレが気になったのは、中等部一年生が考えた物語としては思ったよりもディープな内容だった事と、主要キャラの演者の華の無さだった。
物語の鍵を握る主要キャラ達は印象が薄く、クラスの中でもスポットライトを浴びない生徒達だろうか? どこか台詞にも覇気が感じられない…………
むしろ一番華がある演者は干ばつ被害による飢饉で苦しむ五名の村人役の内の一人。
目鼻立ちがハッキリした舞台映えするイケメンだった。
そのイケメンの台詞は【ひもじいだぁ】だけだ。しかしそのイケメンのわずかな台詞にホールは黄色い歓声に包まれていた……
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