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第一章 王国編第二部(中等部)

エピソード150 避暑地はサンダース辺境伯領?

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「……そうか、やはりただの噂だったか。クライヴありがとう」

 時間通りに戻ってきたオレ達の報告に、アーサー殿下は特に驚く事なくオレに労いの言葉をかけた。

「よし! それじゃ出発しようアーサー」

 テリー様もこの町での収穫がなかった事で本来の目的地に向かって馬車に乗った。
 今回オレとフィーネはカイエン様とエルザ様の馬車に乗って本日の宿泊予定のサンダース辺境伯領の町へ向かった。

「なぁクライヴだったよな。お前とルーシーって一体どんな関係なんだ?」

 いきなりこの前挨拶したばかりのカイエン様からの質問アンド少し不機嫌な様子にオレは戸惑った。

「は、はい! 一時期ですがランパード様にお世話になっていた事がありまして、その時にルーシー様は僕のことを弟のように可愛がってくれました!」

 オレは緊張しながらカイエン様の質問に答えたが、カイエン様はそのまま無言になってしまった。

(何考えてんのか全くわからないって……カイエン様の性格は父親似なのか?)

「ごめんね馬鹿兄貴で。クライヴ君の事を嫉妬してるんだよ。兄貴はルーシーの事好きだから」

「なっ! エルザ! 何言ってるんだ!」

 エルザ様は舌をペロッと出してオレに謝ってくれた。カイエン様はとてもとても怒っていました……
 
(いやいやエルザ様は悪くないですから! でもお兄さんのカイエン様に対しての口調と言い、裏表の無い性格でズバッと言いたい事を言うのですねエルザ様は……)

 アーサー殿下の馬車とは違う緊張感の中、オレ達を乗せた馬車は次の目的地の町へ進んでいった。

 そして約一時間後…………


「えっ! フィーネってクライヴ君と付き合ってないの? 仲良いからてっきりそうだと思って勘違いしてたわ」

「ち、ち、違うわよ! そ、その、く、クライヴは他に気になる人がいて……その人にあ、会ってからって…………言うから…………」

 真っ赤な顔で答えるフィーネの言葉の端々に友だち以上恋人未満なワードが散りばめられている。
 バレバレだが…………

 そうしてエルザ様とフィーネは盛り上がり、そんな話の内容からかカイエン様もオレがルーシー様へ恋愛感情が無いと分かりオレへの対応が優しくなった…………

(カイエン様も勘違いが解けてよかったよかった…………ってオイ! フィーネ! 表情と言葉でオレとフィーネに何があったのかモロバレしてるぞ! オレまで恥ずかしくなるから余計な事は言うな! 止めてくれ!)

 オレはこれ以上話すと赤裸々に語りそうなフィーネを止める為に肘で少しフィーネの肘を押した。
 これ以上はボロが出るから話題を変えろという意味で…………すると通じたのかフィーネはこちらを振り向くが…………より赤い顔になり、オレこれ以上顔を見られまいとフィーネは恥ずかしそうに反対側に身体を向けてしまった。

「あれ? フィーネ? さっきの話と違ってクライヴ君とラブラブだね」

「ひゃい! あの、これは、その、あの……」

 ニヤニヤとしながら言い放つエルザ様のストレートすぎる言葉に、フィーネはポンコツ化して茹でタコ状態のノックアウト寸前だった。

「エルザ! フィーネさんが困ってるぞ! すまんなクライヴも」

 流石にエルザ様のフィーネ弄りに、カイエン様はエルザ様を注意していた。
 
(これだけ言い合えるのは仲が良い兄妹なのかな? にしてもエルザ様のあまり淑女らしくないけど、この裏表のない性格がウィンディー王女やアリア様、ルーシー様と仲良くなれた一つの要因なんだろうなぁ)

 オレは一人この馬車内でのやり取りに少し緊張感が薄れて、心地の良い風が外から吹いてくるのに気づいた。

「あぁ、オレ様たちのサンダース辺境伯領へようこそ。風が変わっただろう? 夏なのに涼しい風に」

 カイエン様は他にもサンダース辺境伯の領について得意げな顔で説明してくれた。王族の避暑地が他の貴族の領土と比べて多い事や、涼しい気候が果物の栽培に適している事、北に進むと冬には雪が降っていてアクティビティーが豊富などなど。
 ちなみにここ数年はサンダース辺境伯領の北の方で行われる獣と害獣ハンティングが男達の間で大流行らしい。
 きっかけは魔獣が現れてサンダース辺境伯が退治した事から始まったらしい。
【男は強さで証明せよ! そして女に求愛せよ!】そんなキャッチフレーズが流行り、現在も人気が衰えていないイベントらしい。
 魔獣はそれ以来出現していないが、ハンティングでの成績優秀者は賞金こそ出ないが、その肩書きで女性からはモテモテになるらしく、よくカップルが成立しているそうだ。その後いつのまにか結婚する人達が続出するらしい。

 少し話が脱線したが夕方頃にサンダース辺境伯領の最南端に位置する本日の目的地の町に到着した。
 
「今日はここで宿泊だ。カイエン、エルザ、クライヴ達に簡単に町の紹介をしてくれ。私は少し先に休ませてもらうよ」

 そう言ってアーサー殿下は宿に入って行き、アラン様とアリア様もアーサー殿下の後をついて行った。
 
「クライヴ~お姉ちゃんが案内してあげるからこっちにおいで~」

 優しそうな笑顔を浮かべるルーシー様、そしてオレの近くには般若のような形相を浮かべるカイエン様…………

「大丈夫ですルーシーさ」

「クライヴ、お姉ちゃんよ」

 ルーシー様の表情が変化しようとしたその刹那!

「はい……お姉ちゃん……」

 オレは逆らわずにそう返事をした。

「ダメよ! ちゃんとお姉ちゃんと言わないと!」

(一瞬だけ見てはいけないモノを見てしまったと思ったが……気のせいだろう)

「ォィ……」

 そしてオレの近くにはカイエン様がとてつもなくオレを睨んでいらっしゃる…………

(鬼が出るか蛇が出るか……多分両方出るか…………)

 とてつもない究極の二択を迫られている中、テリー様の一言で呆気なくその雰囲気は壊された。

「あぁ、カイエン、ルーシー少しクライヴ達を借りるよ。ついでにぼくが案内しておくから二人とも大丈夫だよ」

「「「えっ」」」

 オレとカイエン様とルーシー様の三者三様の驚きが口から出てきた。
 そしてオレとフィーネはテリー様の案内の元、少しだけ町の中を観光する事になった。

「さっきはごめんよクライヴとフィーネさん」

「いえ、ア、アタシは大丈夫です。クライヴが悪いので」

(ん? 意味わからんぞフィーネさん オレのどこが悪かったんだ?)

「少し気になる事があるんだけど、二人とも少し僕に付き合ってくれないかい?」

 微笑むテリー様に一抹の不安を感じるがオレとフィーネは頷き、テリー様と一緒にとある場所へ向かった…………
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