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第一章 王国編第二部(中等部)

エピソード140 街道はトカゲの暴走族のようでした

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「よし! モーガン作戦はどうする? どれぐらいの数がいるかで変わってくるね」

「そうじゃ! 盾役はワシじゃ! オオトカゲを引き寄せたらええんじゃろ?」

「…………嫌だ……行きたくない………………何でよりによって大量発生の依頼を受けるんだよ! もっとこう一体ずつ討伐していく依頼の方が安全だろ!」

 オレの訴えも虚しく、リアナとショーンバトルジャンキーには届かない……むしろ目的地の街道に近づくにつれて活き活きしている…………

 今回の依頼は商人からの報告で森から複数のオオトカゲが街道にやってきたらしい。
 現在大きな被害は無いが、今後の被害が予想される為依頼があったらしい。しかも特例で冒険者の参加制限をかけずに早期解決して欲しい事案らしい。
 報酬は一匹につき銀貨五枚、偽ブタより銀貨一枚分多い程度だが、オオトカゲ討伐の難易度の低さと多数出現している為いくら稼げるかは未知数だ。
 噂では百匹近くいるとの事だった。
 その為なのか他の冒険者達もどこかソワソワと浮き足立っている。

「クライヴ諦めるしか無いよ。今回ボク達は他の冒険者達との争奪戦になると思うので、速攻で勝負を決めたい。クライヴには悪いけどショーンを前衛の真ん中で、両サイドにリアナとクライヴ、そしてその後方にフィーネでいこう。ボクは後方から指揮させてもらうね」

 何故かいつも冷静なモーガンも少しワクワクしている感じがした…………

「アンタしっかりしなさいよ! アタシが後方から助けてあげるから」

 フィーネの男前発言にオレは嬉しさで胸が熱くなり、半分自棄になってオレは自分自身を鼓舞した。

「よっしゃ! オレもやってやる!」


――約三十分後――

 オレ達は周囲を警戒しながら目的地となる王都周辺の街道沿いにやってきた。
 かなり遠くの方で四、五人の集団が動いているので、多分オオトカゲと交戦中なのだろう。
 
(やはり他の冒険者達も結構いるなぁ)

 ざっと見渡すだけで、五グループぐらいの冒険者達が遠くの方でオオトカゲと戦っていた。
 オレは他人事のように眺めていたが、モーガンの声により意識を引き戻された。

「みんな構えて! 正面に一匹出現。まだ後からオオトカゲが出てくるかもしれないから速攻で片付けよう!」

 以前戦ったオオトカゲよりひと回り小さい体長二メートル半程度の少し小振りなオオトカゲがオレ達の前に現れた。
 そのオオトカゲの身体も以前のヤツとは違い、まだ十分仕上がっていないようで、血管が浮き上がるほど絞り上げてはいなかった。
 だがしかし! 首や肩周りの僧帽筋や三角筋からの広背筋にかけての仕上がりはまさにヘビー級ボクサーのようで、これからの期待を感じさせてくれる逸材だった。
 少し残念なのが両脚の太さが上半身に比べて鍛え上げられておらず下半身のバランスの悪さが際立っていた…………

 そんなことはさておき、早速ショーンとリアナが動き出し、オレはワンテンポ遅れて飛び出した!
 オレ達の動きに合わせるようにオオトカゲは前足の爪でリアナを狙った!

「ワシが相手じゃ!」

 オオトカゲの爪はリアナに届く前にショーンの大盾に防がれた。
 このチームリトルホープの中で一番小柄なショーンだが、この一年間筋トレを重ねてオオトカゲの攻撃に耐えれるようになり盾役としてなくてはならない存在となるまで成長した。
 そしてショーンが攻撃を受け止め隙ができたオオトカゲの前足にリアナがジャンプした!
 オオトカゲは手を伸ばした前足にリアナの重さが加わった為かバランスを崩して頭が少し前方に動いた!

「隙だらけだよ」

 オオトカゲはリアナを目掛けて舌を伸ばすが、リアナは身体を駒のように回転してそれを避けた!
 そして素早く細剣を抜き、隙だらけのオオトカゲの口の中に突き刺した。

「ギイイイイイ………………」

 短い断末魔とともにオオトカゲはピクリとも動かなくなった。
 決して驕る事なく淡々とオオトカゲの動きを読む洞察力とその俊敏性、そして的確に相手の急所を突く技術、リアナもこの一年間で鍛錬により心技体を磨いてきた。

(やや小振りのオオトカゲと言えどもリアナとショーンで瞬殺とは…………二人は率先してザックやヒューゴに鍛えてもらっていたから成長著しいなぁ)

 全く出番が無かったオレが安堵していると、またオオトカゲがやってきた。
 三メートル程の大きさだが、もっと身体が大きく見えるのは目の錯覚ではない!
 二匹目のオオトカゲの首の太さは人間で言うまさにレスリング選手!
 そしてその首やパンプアップされた肩や胸周り、まさに大胸筋は我に打ち勝てるわけが無い! と言わんばかりの亀の甲羅のような盛り上がりを魅せていた。

「クッ! なんて仕上がりなんだ。どうやら先程のようにはいかないようだね」

「おう! リアナ気ぃ抜くんじゃねぇぞ!」

(う~ん何だろうこの疎外感は……オレって必要か? この二人の連携で何とかなりそうだろ)

 先程同様ショーンが盾役で前に出るが、オオトカゲの前足の爪を外から内側に向けて大胸筋をフル活用して振り抜いてきた。

 ガキン!

「ぬわぁ!」

 やはりこのオオトカゲの一撃は重く、ショーンも大盾を構えたまま大きくバランスを崩されていた。

「フィーネ! ショーンを助けて!」

 オオトカゲの次の攻撃が来る前にモーガンの的確の指示でフィーネが弓でオオトカゲの顔を狙い矢を放つ!

 カン! 

 甲高い音とともにオオトカゲは反対の前足で矢を弾いていた。
 その瞬間にショーンは体制を立て直したが、リアナは攻撃のタイミングを見計らっていた。

「クライヴ! ぼくが隙を作るから後は任せても、いいかい?」
「無理です!」
「…………」
 
 リアナはオレに提案するがオレは即答で断った……

「アンタ何言っているのよ! アタシが援護するから行きなさいよ! アンタならできるって、ア、アタシは、し、信じてるんだからね!」

 フィーネがオレに発破をかけるが、後半何故かゴニョっていた……

「ショーン! リアナ! 何とかしてヤツの両前足を外に開くように誘導してくれ!」

「あぁ」
「おう!」

 オレがそう言うと、リアナとショーンは左右に飛び出しオオトカゲと対峙した。

「シャャャャャ!」

 オオトカゲはリアナ達を威嚇しているが、ショーンとリアナはオオトカゲのギリギリの間合いまでジリジリとにじり寄っていく。

 先に動いたのはオオトカゲだった!
 先程同様ショーンに向けて攻撃を放ち、全く同じシーンのようにショーンはバランスを崩した。
 しかしオオトカゲの攻撃と同時にリアナが長剣を持ち、反対側から顔に突きを入れようと動き出した!
 
 ガキン!

 オオトカゲは広背筋をいかんなく発揮して爆発的な動きで反対の前足を外に振り払った!
 
「クッ!」

 何とかリアナは剣で防ぎ、大きく後方に飛ばされてしまったが上手に受身を取りダメージは無さそうだ!

「フィーネ!」

 フィーネはオレの声に反応してオオトカゲの頭部目掛けて矢を放つ! 
 が……オオトカゲの舌で矢は弾かれてしまった!

「ありがとうみんな! 後はいけるはず!」

 オオトカゲの意識は頭部に向いていて、わずかに腹部が空いていた。
 オレは【身体強化】をかけて走り出した。
 この歳になってから身体が成長した為か、オレの【身体強化】は約二倍の力を十秒間使えるようになった。
 オレは半曲刀のサーベルスネーフリンガーを鞘から抜き、その腹部目掛けてスピードを乗せた突きを放った!

「グギイイイイ!」

 手に伝わる感触はかなり奥深くまで刺さっている。
 オオトカゲは約一分ぐらいのたうち回ったが、その後はピクリとも動かなくなった。

(疲れたぁ~)

「ナイスだよクライヴ」
「さすがじゃ!」
「アタシの援護に感謝しなさいよ!」

 フィーネ達がオレに声をかける間、モーガンは何か考えているようだ。

「おかしい! 本来こんな多くオオトカゲは出現しないし、他の冒険者グループにも同じ数のオオトカゲが襲っているようだ…………統率が取れている……そんな知能はオオトカゲには無いはずだ」

「モーガン! 何か変なのが来るわよ!」

 フィーネの声とともに遥か遠くからこちらに何か二足歩行で向かってくる。

 それは………………

 
 六メートル近くある大きさで阿修羅のような身体を誇り高く魅せつける圧倒的存在。
 そして頭の一部分が飛びだし、まるでリーゼントヘアーのようなオオトカゲが現れた…………

(えっ? オオトカゲのヤンキーですか?)

 拍子抜けするオレだったが、モーガンはとても厳しい表情となり、余裕の無い声で呟いた。

「あれは……もしかしてリーゼントカゲなのか…………」

(そのまんまですやん)

 オレは口から出るのをグッと堪えて、心の中でツッコミをいれた…………
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